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暴走特急


 あー退屈、退屈! どうして偉い人って忙しいのかな。偉いからやることがいっぱいあるのかー。私も偉くなりたいよ。
 ルビカンテとスカルミリョーネはしょっちゅうどこかに出かけてるし、カイナッツォもあんまり相手してくれないし、ゴルベーザも今はバロンのことで手一杯だ。
 バルバリシア様は気が向いた時しか構ってくれない。機嫌がいいと私の方が困るくらい構ってくれるんだけどね。
 今日だって珍しくみんな塔に集まってるのに、私の相手してくれるのはバルバリシア様だけだよ。一人でもそばにいてくれるんだから嬉しいけどさ。
 ここに来てからどれくらい経ったかな。私、ホントに何もすることがないみたいだ。
 ゼムスはともかくとして、ゴルベーザはどういうつもりで私なんか呼んだのかなぁ……。何もしなくても生きていけるなんて、楽だけどちょっと虚しい。
「はぁ〜〜〜」
「ため息なんて、つれないのねぇ、セリナ。私といるのは退屈?」
「そんなんじゃないんだけど。ねえバルバリシア様、一緒に買い物でも行かない?」
「買い物……人間の町に?」
 他の四天王やゴルベーザは問題あるだろうけど、バルバリシア様なら変装しなくても大丈夫だよね。……服さえ着れば。

 とりあえず、外に出たい。この塔から出たい。どこかに遊びに行ってゴルベーザにおみやげでも買ってきたい。
 出かけて帰ってくるだけでも部屋でじっとしてるよりは“何かをした”って気持ちになれるじゃん? あと、時間が経つのも多少は早く感じられるし。
「何か欲しいものでもあるの?」
「そうだなー、とりあえずステータス異常を防ぐアイテムが欲しいかな。毒と、できれば暗闇も無効化できるやつ」
「分からないわ。この塔でセリナが襲われる心配なんてないでしょう」
「襲われるっていうか、こないだスカルミリョーネのガスにあてられちゃったからさ〜」
 あれはすごかった。沈黙とかはともかく、毒がね。『これはやばいぞ放っといたら死んじゃう感』がひしひしと。
 私のステータスなんてきっと村人Aだもん、HP10もあったらすごい! って感じ。ビックリしすぎて混乱まで発生しちゃったよ、あの時は。
 というわけで、安心してスカルミリョーネに近づくためには何らかの防具が必要なのです。

 ただ、気づくとなぜかバルバリシア様の目が笑ってなかった。
「どういうことよ。まさかあの死にぞこないに襲われたというの?」
「し、死にぞこない? いやえっと、たまたま密着した時に毒ガスをくらっただけで、攻撃されたわけじゃないよ。万能薬くれたし。でもこれからのためには……」
「みっ!? あ……あの野郎……」
 えっ。バルバリシア様が消えた。テレポってあんな一瞬で発動できるんだ?
 っていうかダメだよ、あの野郎とか言っちゃ。品のいい唇からそんな言葉が出ると悲しくなる。
 それで結局、買い物は行けないのかなぁ。一緒に行くならついでに着替えも買いたかったのに。できればバルバリシア様の分も。あの格好、目のやり場に困るんだよね。
 同性の私でさえ気まずいくらいなのに、みんなどうして平気なのかな。モンスターとは美的感覚が違うのかもしれない。だとしてもゴルベーザはあれ見て何とも思わないなんておかしい。
 目の保養になるっていえばそうなんだけどさ。

 バルバリシア様のいなくなった部屋でうだうだ暇を持て余していた時だった。
――グ……パァー!
 なんか遠くで悲鳴が聞こえた。スカルミリョーネの声だったような気がする。悲鳴というか断末魔……じゃないよね? この塔で四天王が倒されるような緊急事態って……。
「セリナ……」
「ギヤ!」
 ビビりまくってる時にいきなり背後で囁かないでください! ってバルバリシア様、なんで戦闘後みたいに消耗してるんだ。さっきの声が関係あるの? いなくなってる間に何があったの!

「セリナ。野良犬にでも噛まれたと思って忘れなさい、いいわね。あの不埒者には私が制裁を下しておいたから。ああ、それにしてもあの男! カイナッツォではあるまいしそういう警戒は不要だと思っていたのに!」
 そういう警戒ってどういう警戒だろう? なんとなくカイナッツォがとばっちりで責められてる気がする。
「女なんか興味ないみたいな根暗な態度をとっておきながらよりによって私のセリナに! いいえ、油断していた私が悪かったのね。竜巻の真上から竜騎士が落ちてきたような気分だわ」
 それってたぶんバルバリシア様にしか理解できない気分だね。まあスカルミリョーネは確かに女の人に興味なさそうだけど。えっ、そもそも何に怒ってるの?
「ええい、まったく忌ま忌ましい! いっそのことカイナッツォとルビカンテも先に始末しておこうか!」
 な、なんの話なんだー! どういう思考回路を辿ってそうなったの!?
 なんか聞き流しちゃいけない言葉がいっぱいあったような。ああバルバリシア様、歯をギリギリしないで! 美人はそんなことしちゃダメだから!

「ちょっと落ち着いて。スカルミリョーネはどうなっちゃったの?」
「心配しないで、二度と起き上がってくることはないわ」
 やさしい笑顔でなんてこと言うんだ。ど、どうしよう。このままじゃスカルミリョーネが生ける屍になっちゃうよ。いや、もともとアンデッドだけど。
「でも、そうね。念のために粉々に砕いて燃やして埋めておこうかしら」
 屍すら残さない気だ……!
「待って待って、冷静になろう! なんでそんなことになってんの?」
「私は冷静よ。セリナのことをちゃんと考えて、悪い芽を早い内に摘むためにはゴルベーザ様だって消す気でいるわ」
「一ミリも冷静じゃない」
 それ思いっきりバーサク&混乱かかってるよ。普段だったらスカルミリョーネやカイナッツォはともかく、ゴルベーザに害をなすなんて許さないでしょ、バルバリシア様。
 ほんとに怒ると嵐みたいな人だなぁ、さすが風のバルバリシア。って感心してる場合じゃないんだ。

「ま、まず、スカルミリョーネを助けてよ。話はそれからで」
 せっかくこれから仲良くなろうって、そのために対策(リボンとか)のことも考えてたのに、こんなお別れの仕方はあんまりだよ。
「セリナ……なぜなの。まさか合意の上だったとでも言うの……そんな……」
 でえええ!? なんで涙目になってんの? 私のせい? 泣きたいのはこっちだよ、もうワケ分かんないよ。
 とりあえずバルバリシア様の涙はものすごく破壊力が高いってことが分かった。バブイルの巨人なんか敵じゃないね、この一滴で世界征服できちゃうよ。
「ってそうじゃなくて、合意というか何の話かよく分かんないけど、まず! スカルミリョーネの救助を! それから落ち着いてゆっくり話し合おう、ね?」
「分かった。メーガスに指示を出しておくわ(あれを消し炭にしておくようにと)」
「今ちょっと本音が透けて見えたよ」
「セリナ〜〜」
「甘えてもダメです!」
「……助ければいいんでしょう! でも私、認めたわけじゃないわ。あなた男を見る目がなさすぎよ。私にしろとは言わないけど、ゴルベーザ様とかルビカンテとかバルナバとか、少しはマシなのがいるでしょう! なんでアレ!!」
 バルバリシア様は男の例に入れないでしょとか、カイナッツォは入らないんだとか、仮にも上司を『マシなの』扱いってどうなのとか、なぜそこにバルナバが入るのかとか、もはやスカルミリョーネはアレ扱いとか。
 あ、だめだ。ツッコミどころが多すぎて疲れちゃった。

 うーん、バルバリシア様も初めて会った時は比較的まともな人だったのに、実はこんな暴走特急だったんだね。
「そもそも私、べつにスカルミリョーネに惚れてないんだけど」
「じゃあ誰に惚れてるのよ!」
 ええっ、誰かに惚れてなきゃいけないの? というかなんでそんな話になったんだっけ? スカルミリョーネの毒を受けないために防具が欲しい、って言っただけなのに。
 もしかしてスカルミリョーネに触ったから、ってそれだけ? いやいや単なるスキンシップでしょ。飛躍しすぎだよ! 竜騎士のジャンプ並みに飛んでっちゃってるよ。
「よし、じゃあスカルミリョーネを助けて連れてきたら、私の好きな人を教えてあげる」
 いないけど。
「いいわ、約束よ!」
「うん」
 いないけどね、好きな人。
 鼻息も荒くスカルミリョーネのもとにテレポしていったバルバリシア様を見送りつつ。
「どこにも出かけてないのに疲れた……」
 のんびり買い物するだけの予定がこの有り様。こんなことなら最初っから静かにお茶でも飲んで過ごしてればよかった。
 なんかごめんねスカルミリョーネ、とんだ災難に巻き込んじゃって。今どこで死んでるか知らないけど合掌しておくね。




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