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変心


 ミスト大爆発のあと一旦ゾットの塔へ帰ってきた。ルビカンテさんは怒りを無理やり圧し殺した不気味な笑みを浮かべて「ルゲイエを締め上げてくる」と言って去っていく。
 止めてあげたい気持ちもあるけれど、ルゲイエさんはついつい暴走しがちだからああやって適度に怒られた方がいいのかもしれない。
 これに反省したらもう少し制御しやすい道具作りを心がけてほしいものです。
 そして私は思うところありスカルミリョーネさんを連れて再びミストに戻ることにした。
 アンデッドモンスターを統率しているスカルミリョーネさんは以前、「人間が大量に死んだら配下に加えたいので知らせろ」と言っていたのだ。
 多くが死体も残さず消し飛んでしまったので大量というわけではないけれど、召喚士の生き残り……いや死に残り……とにかく形を留めて死んだ者たちは、せっかくなのでスカルミリョーネさんの手で甦らせてもらおうと思う。

 スカルミリョーネさんと連れ立ってミストに戻ってくると、村の周辺に去った時にはなかった大きな地割れが走っていた。よく見ればカイポへ抜ける道も崖崩れで通れなくなっている。
「どうして、さっきより酷い有り様に?」
 ボムの被害は村の中だけでおさまっていたはずなのだけれど。
 まさかセシルが落ちてはいないかと恐る恐る地割れを覗き込んだりしている私をよそに、スカルミリョーネさんは至極冷静だった。
「幻獣の仕業だな。タイタンでも暴れさせたのだろう」
 ということは、リディアがこれをやったのかな。あんな幼い少女一人でこの破壊力とは、おそるべし召喚士。
 私がせっかく守った建物もちょっと崩れていてショックだ。
 その辺に転がっている死体を集めながらスカルミリョーネさんは早速お得意の死霊術を開始した。
「私はこやつらを配下に作り変えておく」
「分かりました。他にきれいな死体があったら持ってきますね」
「……ああ」
 表現が悪かったのか、微妙な顔をされてしまった。

 セシルを迎え撃つため入り口付近に集まっていたようで、村の中を探索しても死体はあまり見つからなかった。
 代わりと言ってはなんだけれど一際大きな地割れのそばに倒れ伏している空色の鎧を発見。
「カイン?」
 へんじはない。ただのしかばねではないけれど、思ったより死にかけているようだ。タイタンの攻撃がクリティカルヒットしたのだろうか。ルビカンテさんがいる間に見つけてあげればよかった、申し訳ない。
 ひとまず応急措置のケアルを唱えてから、傷口が塞がると程なくしてカインの瞼が開かれる。バロンの人って、みんな青い瞳なんだろうか。
「おはようございます」
「……あ、……ああ」
 起きがけに混乱している様子のカインは辺りを見回し、ミストの焼け跡と地割れを見て何が起きたかを思い出したようだ。
「……セシル! あいつはどこに……あんた、銀髪の暗黒騎士を見かけなかったか?」
「彼は召喚士の少女を連れて北に向かいましたよ。たぶん砂漠の町に立ち寄ると思います」
「カイポか……」
 痛みに顔をしかめながら立ち上がり、カインは私に向かって丁寧な礼をする。
「助けてくれて恩に着る。今は何もできないが、バロンに来たらハイウインド家を訪ねてくれ。この恩は必ず返そう」
 騎士らしく誓いを立てると彼はそのまま足を引きずるように北へと歩き出した。

 崖が崩れて通れないし、その体で砂漠を抜けられるはずもない。バロンに引き返すのだって無理だろう。洞窟の半ばでモンスターにやられてしまいそうだ。
「歩いてセシルを追ったら熱射病になっちゃいますよ、ローザみたいに」
 その言葉でカインはようやく疑わしげな視線を寄越した。
「……何だと?」
「あなたの想い人のローザさんは今頃、大好きなセシルを心配するあまり単身バロンを発っているはず。彼を追って北の崖を越えて砂漠をさまよい、熱にやられてカイポの町に保護されることになる」
 ゴルベーザさんの優れた精神感応能力が荒れ狂うカインの心の内を読み取っていた。自分がローザの眼中にないことは充分すぎるほど知っている。それでもローザのためにセシルを守ろうとしている。
 そうか、咄嗟にセシルを庇ったからここまでボロボロになっているのか。
 でも放っておいても彼と彼女は自力で巡り会えるようになってるんだよね。お気の毒なことだけれども。
「どっちにしろ傷を治さないと、どこへも行けないし何もできませんよ。ついて来てください」
 とは言っても歩くのも大変そうだ。肩を貸したいけれどゴルベーザさんの背が高すぎるのでちょっと難しい。いっそ抱っこしてあげようか。
 ……まあいいや。頑張って歩いてもらおう。

 スカルミリョーネさんのところに戻ってくると辺り一帯がお化け屋敷になっていた。無事にアンデッドたちを増やせたようだ。
 私の背後からヨロヨロとついてくるカインさんを見てスカルミリョーネさんがふと目を細める。
「……バロンの竜騎士か」
「はい。そこで拾いました」
 一度ゾットの塔へ連れ帰って完全回復してもらう予定だと告げると、スカルミリョーネさんは「そうか」と頷いて彼への興味を失った。
 一方でカインさんは、つい先ほど自分たちの前でボムに焼かれて死んだ召喚士たちの成れの果てを目にして愕然としている。
「なんだこれは……ミストの住民? お前たち、一体なにを……」
「見ての通り、死んでしまった人をアンデッドとして甦らせてるんですよ」
 よくよく見ればゾンビー系ばかりでなくいかにも“幽霊”って感じのスピリット系モンスターになった者もいる。べつに死体がきれいである必要はなかったみたいだ。
 これならダムシアンを思い切り爆撃しても大丈夫そうだな。

 死んだ敵を味方に引き込めるのだから死霊術ってすごい。さすがスカルミリョーネさん、腐っても四天王だ。文字通りに。
 ただアンデッドに作り変えるのに時間を要するのだけは難点だった。
 死の先にもまだ生きる道があるということで私なんかはこれを奇跡のような秘術だと思ったのだけれど、どうやらカインさんは違ったらしくとても怒っている。
「こんな……こんなことが許されるとでも思うのか!? 死者を冒涜するような真似を!」
 悔恨の念を抱くことも許されず消える運命だったところを、再び命の器を与えられて甦ることができたのだ。むしろスカルミリョーネさんに感謝すべきじゃないだろうか。
 でもまあ、安らかに眠っている人を無理に起こすのは確かに悪いかもしれないと思ってスカルミリョーネさんに聞いてみる。
「彼らはそっと眠っていたいんでしょうか?」
「消えたくないという思念が残っているからこそアンデッドと化す。魔物になることを拒む魂までは支配できん」
「じゃあ生きてる人を勧誘して仲間になってもらうのと同じですね」
 バロンで仲間にした人たちだってそう、魔物として新たな生を獲得することを、自ら望んだのだから。

 元を正せばここにいるアンデッドたちが死んだのは私のせいだ。でも死んで甦る時にそういった感情はリセットされるらしく、自分を殺した相手への恨みというものはないらしい。
 ただ生への執着、まだ存在していたいという想いを汲み上げて、スカルミリョーネさんは配下を増やしていく。
 現にアンデッドとして甦ることなく地に倒れたままの死体もいくつかある。彼らは魔物になって力を行使することを望まず、人間として生命を閉じるのを選んだ。
 それもまたその人の自由だろう。
「まだ生きていたいって思う人に違う形の命をあげてるだけですよ」
「し、しかし……」
「魔物は魔物でわりと楽しく生きてるんです。人間よりモンスターがいいという人だっているくらいですから」
 同じ人間、そして現代に生きる一般的な日本人としては確かに死者を弄るのに思うところがなくもないけれど、今の私は“ゴルベーザ”だもの。
 せっかくならモンスターとして新しい人生を謳歌すればいい。前向きにいきましょう。

 知り合いもいるだろうし、塔に戻ったら元バロンの兵士たちにも会わせよう。ベイガンさんに話をしてもらうのもいいかもしれない。
 本当はセシルへの嫉妬心やローザへの恋心をつつき回して痛めつけて心を弱らせて洗脳すべきなのだろうと思う。カイナッツォさんもそれが一番効率的だと言っていた。
 でも、それは最終手段にするつもりだ。吹っ切って親友を憎み、感情を露にして、自分の思うまま自分のために生きる。そういう道もあると知ればいい。
「とりあえず傷を癒しに帰りましょう。それからセシルとローザの様子を見せてあげます。そのうえでまだ合流したいと思うならカイポまで送りますから」
 セシルを想うローザの姿を見るのが辛く、バロンに帰ると言うならそっちに送ってもいいだろう。どうせ私もそろそろ城に入らないといけない。

「あんたは……何者なんだ」
 困惑しきりのカインさんに私もどう返事をしたものか悩む。そういえばまだ名乗ってなかった。でも、どっちを名乗ろう?
「ゴル……いや、えっと……じゃあ、マコトと申します」
「……じゃあって何なんだ」
「いろいろ事情があるんです」
 あからさまに偽名を疑うカインさんの鋭い視線と、スカルミリョーネさんの物言いたげな視線が突き刺さる。
「今後は黒い甲冑を身につけることになるので、あれを着てる時は“ゴルベーザ”、そうじゃない時は私の名前で統一します」
 あの甲冑はとても印象的だから、悪行を為す時だけ着ていれば私の素顔はあまり広まらないと思うんだ。
 スカルミリョーネさんが呆れたようにため息を吐く。
「面倒なことをするのだな」
「ゴルベーザさんのためですよ」
 彼が帰ってきた時のため。そう、カインさんはゴルベーザさんと立場を同じくする人だから、できればあまり無体なことはしたくない。




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