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爆炎


 ほんの少し前まで他国との交流もしていたミシディアに比べると、完全に世間から隠れて暮らしているミストの村人たちは余所者の気配に敏感だ。
 さっきもちょっと村の様子を窺おうと近づいただけで、見張り役らしい召喚士が威力偵察に幻獣を差し向けてきたくらいに警戒心が強い。
 カイナッツォさんの危惧は正しかった。この村は叩いておかなければ後々に必ずや脅威となるだろう。召喚士たちが揃って立ちはだかってきたら、セシルをゼムスの元まで導くどころか志半ばで私たちが殺され得る。
 それにしても村に近づけないのは厄介だった。ミシディアの時のように近くに潜んでこっそり支援するということはできそうにない。
 ……いや、ミストの人の警戒心以外にも問題はあるのだけれど。
「ルビカンテさんにも変身魔法を覚えてもらいたいんですけど」
「自分を偽るのは好きじゃない」
「ですよねぇ……」
 ミシディアに同行したベイガンさんとドグさんは人間形態があるけれどルビカンテさんは違う。見るからにモンスター、気配もモンスター、遠目に見ても明らかにモンスター。
 燃え盛るその姿は、とても目立つのだ。村の近くに潜むどころじゃなかった。

 とりあえず私たちはミストを見下ろす崖の上に待機してセシルたちが来るのを待っている。こうなったらもう、指輪が発動した瞬間に急いでテレポで乗り込んで火の手を弱めるしかないだろう。
 なるべく死者を減らせるように村人の被害状況を調整して、なんて言ってる余裕はない。リディアを死なせないことだけを考えるんだ。
 数時間前、一人の女性召喚士が村の広場を訪れて何やら長い呪文を唱え始めた。ルビカンテさんによるとあれは命を賭した召喚魔法ではないかとのこと。
 魔力の代わりに生命そのものを捧げて強力な幻獣を呼び出す禁呪。きっと彼女がリディアの母親で、今ミストドラゴンを召喚している状態なのだろう。
「よく考えたらバロンの動向が筒抜けってことですよね」
「そのようだ。セシルの来訪を察知していなければ、ここまで迅速に対応できまい」
 たぶん、今頃ようやく洞窟に足を踏み入れたところ。セシルはまだ村に近づいてもいないのに召喚士たちは彼が来ることを知っていたんだ。
 他者から邪魔者扱いされるだけの力を持っている、その自覚がある証拠だな。

 なんにせよ、あと数時間ほどでセシルたちが到着すると思われる。ちょっと緊張してきた。ぶっつけ本番でリディアをボムから守りきれるだろうか?
「ルビカンテさん、先走って見つかってもいいんであそこの女の子だけは絶対に守ってあげてくださいね」
「あの緑髪の少女だな。重要人物なのか?」
「ゼムス戦で活躍してくれる主人公の仲間です」
 ちゃんと強い幻獣を揃えられるようにその辺りも気をつけて見張っておこう。ああそうだ、幻獣といえばバロン城の地下にいるもののことをカイナッツォさんにも警告しておかないと。
 本格的にシナリオが動き出して、考えなきゃいけないことが一気に増えすぎてうっかり思考停止しそうだ。
 ひとつひとつ、ゆっくり対応していく。今はリディアを助けるのが最優先事項。セシルが来たらすぐに駆けつけること。……村の近くに隠れていられるなら、こんなに気が急くこともないのに。

 最初の予定では私が猫にでも変身してリディアの近くに潜み、指輪が発動する直前にルビカンテさんを召喚するつもりだったのだ。でもミストの連中はあり得ないほどの魔力を持つ猫を見逃してはくれなかった。
 姿形を変えるだけではなく、このゴルベーザさんの膨大な魔力を隠す魔法の開発も急がなくては。
「やっぱり隠密行動用の魔法が欲しいですね」
「透明化の魔法なら作れそうだと聞いた」
「ええ。ルゲイエさんが頑張ってくれてるんですけど」
 強化魔法の応用で、プロテスやシェルの効果を限界まで高めて中にあるものを隠すという方法。でもこれはコスパがすごいことになりそうで実用化は難しい。
 白魔法が得意なマグさんからのアイデアで新たに開発しようとしているのは“リフレクを内側に向けて張る”という方法だ。
 強化魔法は普通、体の表面をバリアで覆うようにしてかける。これで外からの干渉を弾き返すのだ。逆にそのバリアを内側に向けて張れば、肉体から漏れ出ている魔力や生命力、自分の気配ごと外界から遮断できるのではないかと。
 同じファイナルファンタジーでも他の作品には透明化=無敵の魔法があったと思う。きっとどうにかすれば作れるはず。
 今後また同じような状況に陥っても安心して対処できるようにしておきたいものだ。

 遠くゾットの塔でサボらず研究に励んでいると思われるルゲイエさんに声なきエールを送っていたら、ルビカンテさんが表情を険しくして崖下の村を睨む。
「……マコト、村に動きがあるようだ」
 言われて覗き込めば、なにやら一部の人間だけが集まって村から移動し始めている。
「魔力を感じない。あれらは召喚士ではなさそうだな」
「行商人とか、外部の人間を逃がしてるのかもしれません。それとも召喚士ではない住民がいるのかな」
「幻獣を呼び出しての戦いは大規模な破壊が起こる。力のない者を予め遠ざけておくつもりだろう」
 おそらくはミストドラゴンが倒されたんだ。すぐに村へやってくる“バロンの暗黒騎士”と戦うために召喚士だけが集まっているということか。
 力のない人間まで殺し尽くす必要はないので、彼らが避難してくれるなら私にとっても都合がいい。
「ルビカンテさん、リディアをお願いします」
「任せておけ」
「……来た! セシルだ」
 禍々しい鎧と空色の鎧が並んで歩いてくる。ルビカンテさんは既にいつでもテレポを発動できるよう身構えている。

 彼らがミストの入り口に立つと、村に残った召喚士たちが一斉に呪文を唱え始めた。しかし幻獣が現れる前に、困惑したセシルの手中で指輪が光を放つ。
 私の隣からルビカンテさんの姿が掻き消えると同時、無数のボムが次々と発生しては自爆してゆく。突然の出来事に茫然自失のセシルたちの前で、爆発に巻き込まれた召喚士たちは呆気なく散っていった。
 轟音が鳴り止まない。指輪ひとつにどれだけのボムが封じられていたのか、ミストの村は瞬く間に炎で埋め尽くされた。人も木も大地も家も爆発四散し、残骸まで焼け焦げていく。
「カイナッツォさん……」
 マジすぎます。本当に村ごと消滅させてしまうつもりだったんですね。
 急いでリディアの姿を探す。小さな影は炎にまかれているかのように見えた。でも……違う、ルビカンテさんがちゃんと守ってくれている。
 遅れ馳せながら私も村の中へテレポして、まだ爆発に巻き込まれていない建物にシェルをかけまくった。さっき避難した人たちが戻ってきた時にある程度は家が残っていないと復興もままならないだろう。
 無機物に強化魔法をかけるのはすごく難しい。必死で呪文を紡ぐ私の目の前で、爆発して吹っ飛んできた瓦礫がシェルを突き破り建物を破壊した。……プロテスもかけておくことにする。

 連鎖爆発は数分間で終わった。いくつかの建物は守り通せたので村の存続は可能だろう。しかしほとんどの建物が崩れ落ち、召喚士はリディア以外の全員が死亡している。
 凄まじいエネルギーの爆発から一転して耳が痛いほどの静けさ。こう言うと不謹慎だけれど、花火大会後のような虚脱感に見舞われた。
 あとはセシルたちに見つからない内に立ち去るだけだ。リディアが母親の亡骸の元へ駆けていくのを見届け、ルビカンテさんも戻ってきた。
「お疲れさまです、ありがとうございました」
「マコト。一つだけ言っておく」
 さすがに疲労困憊の様子を見せつつ、ルビカンテさんは真顔で告げる。
「二度とカイナッツォとルゲイエに共同任務を与えるな」
「……それはもう、はい」
 加減を知らないルゲイエさんと加減をしないカイナッツォさんの組み合わせは破壊力が凄まじくなりすぎる。今回で懲りたので二度と繰り返すまいと思う。




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