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崩壊カウントダウン


 泣いても笑っても物語は終わり。ここまで来たら禁じ手もあったものじゃないので、惜しみなく、気前よく、持てる知識のすべてを使ってしまおうと思う。私にできるだけの準備はすっかり整えた。あとは瓦礫の塔に乗り込み、世界に毒をばら蒔き続けているケフカを殺すだけだ。
 ファルコンが塔の中腹に近づいていく。かつてのベクタを照らしていたようなサーチライトがその威容を浮かび上がらせる。すぐそこで三闘神が塔の一部と化したように瓦礫の中に埋もれているのが見えた。舵をきりながらセッツァーが胡散臭そうに呟く。
「迎撃されるかと思ったんだが、なんにもねえな」
「魔大陸でのガストラには身を守る気があったけどケフカにはないってことですかね」
 その余裕、すぐにもブッ壊してやるわ。ああでも確かケフカさんったらお好きでしたよねえ、破壊。だったら奴の望むハカイなんぞ与えてやらない方がいいだろうか。
 とりあえず荷物を改めて、必要物資が全員分ちゃんと揃っているのを確認してからセッツァーに向き直る。
「この塔は三闘神およびケフカの魔力で保たれてます。なのであいつらを全部倒したら崩れ落ちるはず」
「なら、俺は船に残るか」
「そうしてもらえるとありがたいです」
 巨大な塔が崩れ落ちる中ファルコンを動かして迎えに来られるのは船長だけだろう。ゲームではウーマロを置いていくこともあったけど現実的に見て人外の運動能力を持つ彼は相当な強キャラだから是非とも連れて行かねば。
「あ、それと戦いが終わったあとだけど、中のモンスターが這い出してくる可能性があるので退治する心積もりをしておいた方がいいかも」
「そうだな。お前たちが行ったらアルブルグに伝書鳥を飛ばしておく」
「よろしく!」
 念のため、バハムートの魔石だけはセッツァーに預けておくことにした。本当ならケフカ戦に全力投球したいところだけれど、待っている間こっちでも何があるか分からないので安全対策を怠ってはならない。

 甲板に全員が集まると、まずはパーティ編成だ。といっても都合により私が勝手に組んでしまうことにする。
「まず魔神に繋がるルートにティナ、ストラゴス、ゴゴの三人」
「分かったわ」
 ここは大したボス敵もいないので雑魚を避けつつさくさく進んで行けるはずだ。魔導士二人にゴゴがいれば攻撃・逃走手段に欠けることもない。
「次、女神に繋がるルートにエドガー、カイエン、ガウ、リルム」
「こっちは四人なのか? すると……」
 このパーティは悪くするとアルテマバスターや八竜と遭遇する可能性がある。できれば避けて通過してもらおうと思っているし、仮に戦闘になってもこのメンバーなら問題ない。
「最後、鬼神に繋がるルートにセリスとロックとマッシュとモグとウーマロね」
「ちょっと待て、なんか俺たちのところに偏ってないか?」
「うん。そこが一番キツいと思う。理由は……とりあえず全員これを見て」
 皆もいろいろツッコミたいだろうが無視して手描きの地図とトランシーバーを配る。そう、優しい私は夜なべして攻略法を記した地図を三枚描いておいたのだ。いちいち指示を出しながらちんたら進むのがめんどくさかったわけでは決してない。塔にある仕掛けとスイッチ、各エリアに出現する敵とその倒し方をリストアップしてある。これがあれば連携を取りながら各自最短ルートでケフカのもとまで行ける。
「その赤いバツ印はスルーできる強敵なので避けていってね。特にエドガーのルートにいるアルテマバスターは絶対に無視で」
「あ、ああ。……またフェニックスの洞窟みたいな仕組みなのか」
「セリスのところ、ガーディアンにはスロウ、鬼神にはストップが効くので有効活用して。前半のボス二体にはサンダガが有効。ラムウも預けとく」
「あ、ありがとう……だけどミズキ……あの、」
 セリスにエドガー、ロックは揃ってなにやらモゴモゴしている。言いたいことはよく分かりますとも。こんな情報をどこから仕入れたんだ? って聞きたいんでしょう。瓦礫の塔はできたてホヤホヤの新生ダンジョンだし、三闘神の倒し方なんてこの世界に生きてる誰も知ってるはずないのにね。
「ちっちゃいことは気にするな。さあ、ケフカのとこまで突っ走りましょう」
 これ以上突っ込まれる前にと皆に背を向け、有無を言わさずシャドウを連れ込みスカイアーマーに乗った。他の皆が慌てて他のスカイアーマーに分乗していくのを尻目に瓦礫の塔へと飛び立つ。
 ぶっちゃけて言うとね、帰ることを諦めた私はもう円滑にゲームクリアしようなんて考えは捨てた。あそこで暴れてるやつらをこの世界から速やかに排除できればそれでいいんだ。私の素性を隠してまで正々堂々と戦闘する気はないのである。タイムアタックを始めるには遅すぎるけれど、ここからブッ飛ばしていくよ。

 ちなみにシャドウはオーディンとケーツハリーの魔石を持っている。遊軍としてあれこれやってもらうにはシャドウが適任だったのだ。マッシュだと絶対、私が無茶してたら怒るもの。
 えーと鬼神の真下だから……合流地点はあそこだな。さすがに瓦礫を積み上げただけあって外壁は着地するのが困難だ。安全な着地点を確認しながらトランシーバーでもう一つの指示を出しておくことにする。三つのパーティは無事スタート地点に立ったようだ。
「魔神と女神はシャドウが一人で殺っちゃうからティナとエドガーのパーティは先へ進むことだけ考えて」
『や、やっちゃうって、大丈夫なのかい?』
「オーディン様の斬鉄剣があれば塔を支えて動けない三闘神の搾り滓なんぞ敵ではありません」
『ミズキ、あの古代の城で見た技を使うつもりなのね』
「そそ。だからこっちのことは心配ご無用」
 斬鉄剣は命中率の低さが難点だ。しかしバニシュデスやバニシュデジョン同様、透明状態の敵には必中攻撃になる。今まで効果が不確かなので怖くて試していなかったけれど、古代城で思いがけずブルードラゴンを倒せたのは幸いだった。あの瞬間にバニシュが効かない鬼神以外の三闘神は雑魚と化したんだ。
 もちろん道中の雑魚モンスターも、アスピルしつつバニデスでさくさく片づけるよう地図に指示を書いてあるので、皆も難なく進めるだろう。
 たぶんケフカにも効くと思う。しかしプレイヤーの存在に気づいているであろうケフカが素直にバニシュさせてくれるとも思えない。決戦ではあいつの注意を引きつける囮が必要だ。その作戦についても配った地図に書いておいたのだが、マッシュ辺り気づいたら絶対に怒るのでさっさと逃げてきたというわけ。
 まあ、そこら辺は皆と合流してから考える。とりあえず魔神を瞬殺してしまおう。女神はバニデスするにしてもちょっと危ないからな。

 スカイアーマーから降りてまっすぐに進む。塔の内部は雑魚がうじゃうじゃいたが、シャドウのバニシュとオーディンの斬鉄剣で薙ぎ払って駆け抜ける。三つのパーティが合流する部屋に着いた。
「この重りでスイッチを……重っ!」
 4トンに振り回される私を見兼ねてシャドウが蹴落としてくれた。仕掛けが作動し、まだどのパーティも到着していないのに扉が開く。それを見ていたシャドウは呆れ果てたように呟いた。
「これは……確かに、ゲームだな」
「あいつが私にムカつく気持ちも分からないではないよね」
 ラストダンジョンは攻略できるようになっている。ラストボスは倒せるようになっている。ゲームはクリアできるようになっている。ケフカにどんな思いがあろうと、奴が何を望んでいようと、プレイヤーが勝てるようになっているのだから分の悪い勝負だ。いや、勝負になってさえいない。ケフカは殺されるために生きているようなものなのだ。
 だってこれはゲームの世界だから。正規のシナリオという強固な運命を握っている。それが私の強味。

 さて、まずは魔神だ。魔導研究所に似た通路を抜けて、床から天井までぶち抜いているその巨体が視界に入るなりシャドウがバニシュを唱え、オーディンを召喚する。小気味のいい音が響いて巨体は両断された。
「いっちょあがり。楽すぎて腹立たない?」
 最終決戦に神を倒すというのにこんな具合では今までの苦しみを理不尽に感じるのではないか。ふとそんなことを考えて尋ねてみたが、シャドウは無頓着に首を振った。
「無報酬で働いてるんだ。誰だって楽な方がいいに決まっている」
「なるほどね。それもそっか」
 ケーツハリーに乗って魔神部屋を出るとガーディアンの上を飛び越えて反対側に渡り、女神も同様に排除する。よく考えたら、危なくなる前に一旦逃走したりもできる分、ゲームより現実の方が楽かもしれない。それも攻略法を知っていればこそではあるけれど。
 あとはセリスたちが鬼神を倒すだけだ。おそらく今頃インフェルノを倒した辺りだろうか?
「……思ったんだけどさ」
「部屋に隠れたままあのガーディアンを倒すか?」
「おお、すごい以心伝心」
 早速シャドウは扉から顔を出してサンダガを放っては部屋に引っ込むというまったくFFらしからぬ戦法でガーディアンを追いつめていく。向こうも遠距離攻撃で反撃してくるが、私たちの隠れているのは女神の攻撃にも耐え得る頑丈な部屋だ。いわゆる安置。アサシンらしく狙撃で安全にガーディアンを機能停止させることに成功した。

「あー、あー、こちらミズキ。魔神と女神とガーディアンは撃破完了しました。そっちの進捗はいかがですか?」
 最初にエドガーから返事があったけど凄まじい爆発音が聞こえて何を言っているかよく分からなかった。どうもアレクサンダーで無理やり道を切り開いてショートカットしている予感。大丈夫かな……塔が崩れやしないか心配だ。
 そしてティナとセリスのパーティからはしばらく返事がなくてちょっと焦った。無線を睨むようにじっと待っているとようやくロックの声が聞こえてくる。
『悪い、鬼神と戦ってた。こっちも終わったぜ』
「えっ?」
 ガーディアンが健在だったのだからここを通ってはいないはずだが。と思ったら心なしか得意気なロックの声が更に語る。
『お前の地図を見て、鬼神のところへ直接行ける道を探したのさ』
『あれは道じゃなかったクポ!』
『ウーマロがいなきゃ進めなかったわよね』
『まさか崖に向かって投げ飛ばされるとは思わなかったけどな』
『ウガー!!』
 なんだか口々に文句が聞こえるけれどロックのトレジャーハンタースキルとウーマロの雪男パワーが活躍したようだ。フェニックスの洞窟でも帰り道に凄まじいショートカットを披露してくれたものね。壁を伝うとか天井を進むとか。でも何もラスダンでそんな危ないことしなくてもいいのに……。

 もしかしてガーディアンは無理に倒さなくてもよかったかもしれない。……まあいいか。稼いだ時間で雑魚敵を探してシャドウの魔力を回復してもらう。そんなことをしてる間に背後から猛スピードで近づいてくる人影があった。
「ミズキ!」
 トランスしたティナがゴゴとストラゴスをぶら下げて飛んできたのだ。その二人、目が回ってるみたいだけど大丈夫か?
「返事ができなくてごめんね。両手が塞がっていたから」
「うん……」
 襟首を掴んで提げているせいかゴゴは動かないしストラゴスも締まってるような気がする。本当に大丈夫か。とりあえずこっから先は徒歩でいいのでティナには変身を解いてもらった。すかさずシャドウが二人にレイズを唱えている。やはり……!
 意識を取り戻してふらふらしている二人を見ないようにしつつ、ティナに向き直って鞄を漁る。
「ちょうどよかった。ティナに預かってほしいものがあってね」
「これ、ナルシェで見つけた……」
 そうだよティナが炭坑で見つけてくれたうちの鍵だよ。なくさないようファルコンに置いておくことも考えたのだがやはりティナに持っていてほしかったんだ。自分の懐に入れておくと、ケフカを倒してエンディングを迎えた瞬間……“うち”に帰ってしまいそうで怖いから。
「それは、私が帰るべき場所に帰るために必要なんだよ。ま、一緒に帰るための御守りかな」
 無事に彼女のもとへ、この世界へ帰れるように。ティナは受け取った鍵をじっと見つめると、私に向かって微笑み自分のペンダントにそれをくくりつけた。その笑顔はどういう意味かな。プロポーズしてもいいってこと?
 危うく道を踏み外しかけた私を制するようにエドガーたちも合流してきた。結局、女神ルートに二つのパーティが揃ってしまうという異常事態。地図を描いた甲斐があるような、ないような、どのパーティも最初から目的地が見えているのでかなり強引に押し進んできたようだ。
「そんじゃまあ、ラスボス戦といきますか」

 瓦礫の塔の天辺は、魔大陸にあった玉座がそのまま使われているようだ。本当に瓦礫の寄せ集めなのだ。そのゴミ山の上で道化がふんぞり返っている。とてもとても滑稽だ。
「ようこそ諸君。必ずいらっしゃると思って相応しい言葉を一生懸命に考えていましたよ」
 ケフカのもとへ行けそうな足場は見当たらない。神々の像がどんな風に出現するかも分からないし、ほぼフルパーティとはいえ油断できないな。
「年貢の納め時だ、ケフカ!」
「あなたを倒して世界に平和を……!」
「私は最高の力を手に入れた。お前らなど問題にならない!」
 放たれるミッシング。岩壁が崩れ落ち、散り散りになった仲間たちはそれぞれ幻獣を呼び出して耐えた。
「みんな壊れてしまえ。すべてはいずれ壊れるんだ!」
「何度、壊されても……人はまた新しいものを作り出すことができる」
「それさえもいずれは滅びる! なぜ滅ぶと分かっているのにまた作る? 死ぬと分かっていてなぜ生きようとする? 死ねば全て無になってしまうのに」
 んなもん、作りたいから作り、生きたいから生きるのだろうよ。そこに疑問を感じるのなら一人で勝手に死んでみりゃいいじゃないか。私が今ここにいるように、その先にもまだ世界が続いているかもしれないがな。
 足場が更に崩壊し、転がり落ちてきた岩からマッシュとエドガーが私を庇ってくれた。
「死んだあとのことなんて知るか。俺たちには今を生きる理由がある!」
「生きて、守らなければならないものがある」
 愛する人のために、守りたいもののために、忘れ得ぬ思い出のために。生きる理由なんてわりとそこら辺に転がっているものだ。死にたくないから生きるだけ。死なせたくないなら守るだけ。心の壊れたやつには分かるまい。べつに分かってもらわなくても結構だ。
「うきゃーー! ならばそれも私が消し去ってしまいましょう。お前らの生きる糧を!」

 地面が不気味に揺れ始め、競り上がってくるのは神々の像……ケフカが取り込んだ三闘神の力そのものだ。3D化を阻む第一の要因であろう、アレ。
 実際に見るとさすがに圧巻だな。こんなもの人間に倒せるわけがないと絶望してしまいそうになる。まあ向こうの世界では数えきれないほど何度も倒してきたのだけれどね。
「この世で一番の力を私は取り込んだ。それ以外の者などカスだ! カス以下だ! カス以下の以下だ! ゼ〜ンブ破壊して死の世界を作るのだ!」
「命は……夢は、生まれ続ける!」
「それもこれもゼ〜ンブ、ハカイ! ハカイ! ハカイ! 命も夢も、希望も、運命も! ゼ〜ンブ、ハカイだ!!」
 トランスしてケフカに斬りかかったティナが弾き飛ばされる。ああ、てめえ、この野郎。怪我をさせやがったな。

 神々の像を相手に奮戦する皆を横目に、ケーツハリーに乗ってケフカの頭上へ向かう。高いところが大好きな馬鹿野郎よりも更なる高みへ昇りつめ、奴を見下ろしてやる。
「馬鹿の一つ覚えみたいに破壊破壊って、結局あんたもシナリオ通りに動かされてんじゃん。運命をぶち壊したいなら一緒に世界を救ってみればよかったのに」
「死のない破壊など面白くもなんともないわ! お前たちみんなみんなみんな、壊し尽くしてやる!」
「どうせ殺されるのを知ってるくせに、ご苦労なこってすね〜〜」
「お前に何ができる? 世界を守れなかった虫ケラ以下のクズが!!」
 本当にプレイヤーが見えているのなら。本当に“私”を知っていたのなら。こいつの心が壊れてしまうのも無理はない。自分の人生に意味を見失うのも。
 だが同情なんぞするものか。仮に“ケフカ”がどれほど哀れな人間であれ今ここにいる“こいつ”は破壊を楽しむただのクズなのだ。運命を知っていながら、こいつは悪役の座を降りなかった。たとえ決められたシナリオだとて、その道を歩んできたのは己自身の意思だ。死すべき敵役となることを受け入れたのなら、ここで勇者様に殺されるのも本望だろう。

「あんたの嫌いな命も夢も希望も未だここに残されている。神の力を手にしても世界を壊すことさえできないクズ以下のミジンコに言われたくないね。あれ、ミジンコは“前々作”だっけ? なんて言っても分かんないよなぁ、この世界から逃れられないあんたには」
 ケフカの形相が憤怒に歪む。サマサでは幻獣たちに、魔大陸では三闘神に負けたが今ばかりは譲らない。私を見ろ、ケフカ。私を憎め。私だけを。
「命……夢……希望……どこから来て、どこへ行く? そんなものは……この私が破壊する!!」
「運命は私の手中にある。あんたを倒せば残された命は救われる。まだ夢は蘇る。この世界に残された、たった一つの希望だね、ケフカ。おめでとう!」
 裁きの光が瞬き、ケーツハリーを焼き払おうと追ってくるが、私はそれを握り潰した。
「あれぇ〜? 怒っちゃいました〜? べつにいいんだよ、気にしなくてさぁ。あんたはいろいろ悪いことしたけどそれもこれも“運命”が定めた通り! 世界を完全に破壊できなくたって責任なんかないよ! だってここで死ぬのは決まってたんだもんね! ケフカ君にはどうしようもないことだ!」
 絶望と悲しみに満ちた世界でも、やっぱり私は、この世界が愛しい。これを創ったの、お前だからな。ケフカという絶対的な悪がいることで、誰も打ちひしがれずに済んでいる。まさしく我々の導き手よ! しかし、もう幕引きだ。
「この世に君臨し、私たちに目標と希望を与えてくれてありがとう、救世主様! アッハッハッ、うおっと!」
 調子に乗っていたら時間切れでケーツハリーが消えた。神々の像を相手に仲間たちが戦う空間を落下していく。高みに立ったまま私を見下ろす男に叫んだ。
「来いよケフカ! 私を殺して運命を変えてみろ、できるもんならなァ!」

 地面に叩きつけられる直前、私の体をユラが受け止めた。遥か頭上では奇跡のごとく美しい光が空から降り注いでいる。心ない天使と化したケフカが私を殺すために天上から降りてきたのだ。
 まりあ、ねむり、まほう、きかい、とら、神々の像が崩れ去り、空は黄昏。ケフカは私の姿しか見えていない。猛スピードで突っ込んで、私を瞬殺することしか考えていない。バニシュの恰好の的だ。
ーー曰く、幻獣よ、もし邪なる者来たりて我らが封を解かんとせば、光ある者どもにその力を貸し与え、世の滅するを阻むべし、と……。
 ラグナロックとジハード、そしてセッツァーの持つバハムートを除きユラを加えた二十四体の幻獣たちがここにいる。神々の争いに巻き込まれた者はそれこそ無数にいただろうに、残されたのはたったこれだけ。せめて彼らの苦痛は解放してやらなければ。
「ケフカ!!」
 私の視界を破壊の翼が覆うと同時、皆が一斉に魔石を掲げ、世界を包み込むかのごとき光がケフカを焼いた。
「壊してなんかやるもんか。あんたは跡形もなく消え去るのがお似合いだ」
 神と共に、魔法と共に、魔列車ですら運んでくれない虚無の彼方へ消えるがいい。もし破壊するばかりではなく何かを残せたなら、ティナのように、あるいは他の死んでしまった者たちのように、誰かの心で生きてゆけたのにな。
 破壊への愉悦と運命への憎悪を浮かべたまま、私の眼前でケフカは消滅した。




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