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優しい夢を見たかった


 薄々そうなる気はしていたけれど人数が増えたので生活の維持が大変だ。近日中にケフカを倒さなければ自滅してしまうかもしれない。あと飛空艇の整備をするのがセッツァーしかいないので彼を戦闘メンバーに加えることができないでいる。早くダンさんを迎えにコーリンゲンへ戻りたいところだけれど……、とりあえず近隣から片づけていこう。
 まずはサマサから北上してモブリズでティナを拾って、獣ヶ原でガウを探して、ゴゴを加えて、マッシュをダンカンのところへ連れてって、モグとウーマロを回収しにナルシェへ。今のところそんな予定を立てている。
 細かいイベントについてはロックを仲間にしてからどうするか決めればいい。よく考えたら魔石と関係ないイベントはエンディング後にやってもいいような気がする。たとえば……起こすべきか迷っている、ガウの親父のイベントとかも。

 以前と同じくマッシュとセリスを連れてモブリズの近くへ降りる。飛空艇を見たのだろう、村に入る前に子供たちがこちらを見つけて駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん! カタリーナがいなくなっちゃった」
「ディーンがつめたくするから出ていっちゃったんだよ! カタリーナ、おなかが大きくなってたいへんなのに」
「ぼく知ってるよ。カタリーナは赤ちゃんができたんだ。ぼくの弟が生まれる前の時とおんなじだもん!」
「うん、落ち着け」
 やっぱり起きちゃったか。まだ十代半ばで親になる責任を持てと言われたって、そもそもお互い心に余裕がなく不安でいっぱいだからこそデキちゃったのだし、難しいところだよな。
 村に入るとディーンは途方に暮れたように立ち尽くしていた。私たちを見かけ、ばつが悪そうに俯いてしまう。
「俺……どうしたらいいか分からなくて……、カタリーナのお腹には、俺の子供がいるのに……」
「まあ、女は当事者だから腹据えたら強いけど男はそんなもんだから気にすんな。カタリーナのこと好きでしょ? 大事にしたいって気持ちを忘れなきゃなんとでもなる」
「……うん」
 妊婦の相手をするのだって結構、大変なことだ。子供に包容力を求めるのも無茶ってものだろう。とはいえ親になるのだから、嫌でもしっかりしなければいけないけどな。
「ところでジミーさんは?」
「あの薬屋さんか? まだ余裕があるうちに産婆さんを連れてくるって、一旦ニケアに戻ってるよ」
「そうか」
 さすがはジミーさん、それなら産婆さんを呼びに飛空艇を飛ばす必要はなくなる。じゃあさっさとカタリーナのところへ行くかと歩き出した。西の家の本棚の裏だっけな。
 この時、私はセリスが“なぜ居場所が分かるのか”という疑問を抱いていることに気づかず、マッシュが彼女に「ティナの匂いでもしたんじゃないか?」と答えたのにも気づかなかった。あとで子供たちに「ママの匂いってどんなの?」と聞かれるまで、気づいていなかった。気を抜くとすぐこれだもの、知らないふりって本当に難しい。

「ミズキ!」
 地下の隠し部屋に降りると、ベッドに腰かけたカタリーナと脇の椅子にはティナがいた。確かにカタリーナはちょっとお腹が大きくなってきているようだ。今、何ヵ月目なんだろう。生まれる前にはケフカを倒さないといけないよな。
「……ディーン」
「カタリーナ、ごめんな。俺もっとしっかりするから。だから、うちに帰ろう」
「ディーン……私こそ、ごめんね。あなただって辛いのに、気づけなくて」
 リア充爆発しろ。……と言いたいところだが、こんな世の中じゃ子供は本当に宝物だ。誰かを愛せること、すれ違って喧嘩して仲直りできる、大切な相手がいるという、それだけでも奇跡のようだ。だから祝ってやろう。末永く幸せであれ。
「お姉ちゃんー! フンババがきたー!」
 そして彼らを邪魔する僻みっぽい喪ンスターにはお仕置きが必要だ。
「あれだけ痛めつけてやったのに、懲りずに来るとはな」
 また私が前へ出るとでも思ったのか、マッシュが真っ先に飛び出していった。私もセリスと共に後を追う。ちらりと振り向き様に見たティナの表情は硬い。このままディーンとカタリーナのそばにいるのも、それはそれで彼女の心を育むだろう。どちらでもいいと思っている。本音を言えば、そばにいたいけどね。
「セリス、魔封剣を」
「ええ、分かっ、!?」
 前回マッシュにフルボッコされた記憶も新しいフンババは、マッシュとセリスが姿を見せるなり躊躇せず凄まじい風を起こしてきた。私には効かないのだけれどセリスが剣を構える間もなく二人とも遠くへ転がされていく。……このデカブツ、ちゃんと魔封剣の仕組みを理解して阻止したんだな。
「ミズキ!」
 巨体と向き合う私のもとへ懐かしい姿となったティナが降り立つ。マッシュとセリスでも頑張れば倒せるとは思ってたが……やっぱり、彼女が来てくれて嬉しい。秘めたる魔力量が感じられるのか、フンババは困惑しているようだ。
「ああいう体力馬鹿にはバイオが効く」
「分かったわ!」
 軽やかに跳躍し、フンババの頭上に飛んだティナがありったけの力を籠めて魔法を放つ。毒の渦に飲み込まれるようにして古の魔物は息絶えた。

 戦闘が終わったと察して子供たちが家から飛び出してくる。ディーンも来ていた。トランスティナを目にしてまた新たなモンスターかとあわてふためくが、一人の女の子が吸い寄せられるようにティナのもとへと歩み出る。ああ、フェンリルの魔石を拾ってくれた子だ。
「ママ……ママでしょ……? あたし、わかるよ……」
 素直で無垢な子供たちは、すぐにその事実を受け入れることができる。
「え? ママ?」
「ティナなの……?」
「ママ!」
 そしてティナだと分かった途端に安心して、トランス状態のままの彼女に駆け寄ってきた。……人と幻獣が愛し合えるのか。それを試してみたいのならティナはここに残るべきではないのか。少なくともモブリズの子供たちは、彼女の求めるものをくれる。人間でも幻獣でも変わらぬ彼女への愛を。
「ティナ、皆のそばに残ってもいいんだよ。私はティナがどんな選択をしても賛成する」
 でも、ティナは首を振った。
「……いいの。今ある命だけじゃなく、これから生まれてくる命もたくさんある。それを守るためにも、私は戦うわ」
 もしかしたら、敢えて求めるまでもなく彼女はもう答えを知っているのかもしれない。人間と幻獣が相容れぬものかどうか……それよりも重要なのは、マディンとマドリーヌが互いを求めたからティナがここにいるのだということを。
「ディーン……、カタリーナとお腹の子はあなたが守るのよ。みんな、ママはみんなの未来を守りに行く。そして、必ず帰ってくるわ!」
「ティナ……」
「ママ……わたしがんばる!」
「ぼくも、泣いたりなんかしないよ」
「ティナママが帰ってくるまで、ぼくたちで村を守るんだ!」
 ちょっと涙ぐんでしまいそうな私を見やり、ディーンが力強く頷いた。
「俺たちの子供……そいつが生まれてきてよかったと思える世界を、作らなきゃいけないんだよな。俺、頑張るよ。……ティナを頼む」
「うん。任せとけ」

 飛空艇があると本当に楽だなと思う。移動時間が極端に短くなるのだもの。セッツァー様々だ。感謝の気持ちを籠めてそのうちブラックジャックの模型を手に入れるとしよう。そのうちね。
 というわけで、今度はモブリズから更に北上して獣ヶ原にやってきた。シャドウと来た時はまだマランダ方面にいたのか見つからなかったけれど今度こそは。
 せっかくなので船長以外の全員がファルコンから降りて未習得の魔法を覚えていく。私はチャクラ持ちのマッシュについて行って短剣片手に付け焼き刃の剣技を特訓中だ。はっきり言って経験以前の問題として才能がない。でもまあ、うっかり敵に肉薄された時に剣があるのとないのでは安心感も違うことだし、これからはエドガーにもらった小型ブラストボイスと短剣でなるべく自分の身くらいは守ろうと思う。
 ガウが現れたのは一週間ほど経ってからだった。やっぱり広いぜ、獣ヶ原! 皆でバラけているとはいえちゃんと再会できたのは奇跡かもしれない。
「ござる!」
「俺はござるじゃないっての!」
 船に戻るぞの合図としてマッシュがユニコーンを召喚し、獣ヶ原の上空を駆け回ってもらう。遠くで「了解」を示すファイアが人数分、打ち上げられた。これで皆ぞろぞろファルコンに帰るはずだ。
「よし、ガウ。飛空艇に戻ったら肉料理を食わせてあげよう」
「おれ、にく、すきだ!」
「知ってるよ。仲間だからね」
「ガウー! おれ、みんなのなかま! なかま! またいっしょに、たびをするー!」
 ろくなものを食べてなかったのであろう、やや痩せたガウが喜色満面でマッシュに飛びついた。マッシュも久々にガウと会えて嬉しいのか、文句を垂れつつそのままおんぶしてやり飛空艇まで歩いていく。なんていうか、兄弟ってよりむしろ親子だな。マッシュはきっといい父親になると思う。だから是非とも女性への苦手意識を克服し、可愛い奥さんをもらって家庭を築いてほしいものだ。

 怒濤のごとくやって来たのは三角島。ここで魔法修得値を稼ぐのは危険なのでマッシュと私だけで降り立った。なんかマッシュを酷使していて申し訳ない。万が一の時に私を回復できるのが彼だけなんだもの。
 さて、地下への入り口を探してさまようこと数十分。なにやら地面に不思議な窪みを見つけて覗き込んでみる。すると蟻地獄のようになっていた窪みがグワッと口を広げ、ゾーンイーターが姿を現した。想像以上にでかい! そりゃそうか、マッシュどころかウーマロだって飲み込めるサイズなんだ。
「な、何だ!? また巨大ミミズかよ!」
 ちょっとやめてよ、フィガロ城の惨劇を思い出しちゃうじゃないか。ミミズとかヒルとかああいう生々しい系はダメなんだよ私。でもゾーンイーターは大丈夫だ。表皮が硬そうだからだろうか。まるで某グラボイズみたいで実物を見たことに感動すら覚える。ただ、食われたいかと言うとそんな気持ちはまったく芽生えないのだけれど。
「えっとね、これに、吸い込まれないといけないんだけど」
「冗談だろ……?」
「マジです」
 奴の口腔内は青白い光が満ちている。咀嚼される恐れはなさそうだ。前作のアトモスにも似た、異空間という感じのする……その口の中に、吸い込まれる。
「ミズキ!」
 咄嗟に私の襟首をマッシュが捕まえる。って、首しまってるしまってる! 踏ん張らないでと必死に訴え、なんとか無事に二人とも吸い込まれることができた。いやこれ無事って言うんだろうか。

 正直、あの天井が落ちてくる仕掛けは実在しないのではないかと期待していた。ダリルの墓だってダンジョンじゃなかったしさ。天井がどったんばったん落ちたり戻ったりするなんておかしいではないか。しかし、残念ながら、それは現実に起こったのだ。
「どうするんだよ、これ。テレポじゃミズキは脱出できないし……」
「うん。それに、この先に仲間がいるんですよ」
 聞きたくなかったと呟き、マッシュは私を小脇に抱えて魔石を取り出した。ゴーレムか、なるほど。
「その仲間ってやつを抱えて同じことができるかは分からないぜ」
 召喚されたゴーレムが落ちてくる天井を支えている隙に、マッシュは私を抱えたまま危なっかしい足場を飛び越えて洞窟の奥へと駆け抜けた。帰り道は……まあ、ゴゴにマッシュのものまねをさせれば大丈夫だろう。
 ゲーム随一の難所を抜けて、ゴゴのいる場所に辿り着いた。
「久しぶりの来客だ」
 ゴゴの声は確かに男女の判断がつかない不思議な音だった。魔列車っぽくもある。あのぐるぐる巻きのターバンを剥がしたら中身は人間じゃない、と言われても信じてしまいそうだ。
「何だ、お前は?」
「俺はゴゴ。ずっとものまねをして生きてきた」
「こんな誰も来ないところで何の真似をするんだよ」
 マッシュのご尤もなツッコミに、ゴゴはきょとんとしている。……あのトラップに気づいていないのか。ものまね対象をずっと待ってたんだとしたらアホすぎるぞ。
「一緒に来るか、ゴゴ?」
「ではお前たちの真似をしてやろう。お前たちは今、何をしているんだ?」
「何って……、ケフカを倒して、世界を救おうとしてる……んだよな」
 そこで自信をなくさないでほしい。まあ確かに言葉にしてしまうと恥ずかしくなるのは分かるけれど。私は世界を救うために戦っています! ってな。
「では、俺も世界を救うというものまねをしてみるとしよう」
 最も不可解かつなんとなく格好よく聞こえる台詞と共にゴゴが仲間になった。そして、ゴゴのいたところの後ろに出口があったのだ。私とマッシュは小躍りして喜んだ。……しかし、ここがもし“小三角島の洞窟”ではなく“ゾーンイーターの中”だとしたら位置的にここって肛門だよなと思うとなんとも言えない気分だ。

 続いてはティナとマッシュを連れてナルシェ近くに降りてきた。そしてマッシュには修練の小屋へ向かわせる。私たちがモグとウーマロを回収してる間に夢幻闘舞を会得してもらおうとの魂胆だ。
 ……ところで、ゲームの話だけれど戦闘で敵を倒した時、消滅の演出には二種類ある。普通はボスであっても道中の雑魚と同じ消え方なのだが、後に再登場する者はイベント戦用の演出で消えるのだ。そうして一時的な退場なのか本当に殺害したのかを区別している。
 バルガスは、シナリオのうえでは二度と登場しないけれど爆裂拳で倒すとイベント用の演出で消える。ちなみにマッシュが爆裂拳を使うとクリアになるあのバトル、敢えて必殺技を使わずHPを削って倒すこともできる。その場合、普通のボスと同じ殺害演出で消えるのだ。つまり“殺したか否か”の区別が存在するということ。
 そんなシステム上の都合は現実のバルガスの生死に関わりないかもしれない。でも……、生きてたらいい、と思う。生きていればまたリベンジできる。憎むことも許すこともできる。自分の選択が正しかったのか、答えを得るまで考え続けられる。実父を殺してでも叶えたい思いがあるのならそれを生き延びる力に変えていてほしい。
 そんな私の思惑も知らないまま、マッシュは不承不承ダンカンのもとへ向かった。そして私とティナは無人のナルシェに足を踏み入れる。とりあえずラグナロックの回収から。
「もしもーし、お客さまですよ。元リターナーに協力していたティナさんとその子分です!」
「ミズキ……?」
 厳重な施錠が対モンスターのためならば抉じ開けなくても人を相手には開けてくれるはず。そう願いつつ駄目元で連続ノックを叩き込むと、静かにドアが開かれた。
「魔導の力を持つ娘……お前さんを待っていたよ」
 戸惑うティナに向かって武器屋のおっさんは魔石を手渡した。ラムウたちとは違う輝きを感じる。なんとなく無機質なのは本体が剣だからか。
「これを渡そうと思ってな。武器屋をやって70年、こんな不思議な力を感じる石は初めて見た。この石で剣を作れば、素晴らしい名剣となるだろう。……選択はお前さん方に任せよう」
「剣にするか、魔石のままか……?」
 ひとまず魔石を受け取ったもののティナが悩ましげに眉を寄せる。幻獣の命の名残と思うと剣に加工するのは気が引けるが、これは元々が剣だしな。
「……ユラ、ラグナロックって無機物由来の幻獣? それとも生物が三闘神の影響で剣になった?」
 手元の魔石に話しかけるが、もう力が弱まっているのか返事はない。しかし幻獣の血を引くティナには聞こえたようだ。
「相争う三闘神に挑んだ勇者が持っていた剣、だって。それ自体に意思はないそうよ」
「ありがとう。それなら剣にしてもらおう」
 持ち主の意思が宿ったインテリジェンスソードとかなら魔石のままにしておきたいけれど、無機物なら元の姿に戻すのもいいだろう。おっさんが剣を作っている間に私たちは炭坑へと向かう。

 トンネルを抜けるとそこは、モーグリパラダイスでした。ティナの歓喜っぷりも微笑ましいが私も泣きそうなほど喜んでいる。
「ティナ、ミズキ! 生きてたクポー! よかったクポ!」
「皆も無事だったんだね」
 群れは生きていた。巣となっている小さな洞窟を埋め尽くす勢いでクポクポ言っている。あの時、オープニングでティナを助けてくれた皆。個体は識別不可能だが高名なるモグタン将軍も無事のようだ。
「ミズキのおかげクポ。町の南に三闘神の光が来て……前にいた巣は崩れちゃったクポ……」
「そうか。移住してもらってよかった」
 ラムウに言葉を教わったモグ以外は人間語を話せないものの、ティナを取り囲んでクポクポ言ってる様子を見れば彼女の無事を喜んでくれているのが分かる。ふかふかに囲まれたティナも顔が緩みまくっていて眼福である。
「モグも戦うクポ!」
 群れを守るのだとはりきるモグに一匹のモーグリが近づいて、何かを手渡し彼を抱き締めた。見分けがつかないけど、たぶんモルルだな。本当に皆ちゃんと生きているんだ。モグが一人で立っている、胸が抉られるような光景を見なくて済んだのだ。
「この平和を守るためにも、早くケフカを倒さないとな……」
「きっと雪男もいっしょに戦うクポ!」
「雪男って?」
 首を傾げるティナに、モグはエッヘンと胸を張って答える。
「ちょっと乱暴だけど、あいつは頼りになるクポ」
 確かに、コマンド入力できないってハンデがないのだからウーマロは相当な強キャラとなるだろう。

 槍とお守りを手に巣から旅立ったモグに案内され、ウーマロの縄張りである洞窟までやって来た。群れのリーダー格であるモグがウーマロを受け入れているので、他のモーグリたちも彼との共存を認めているらしい。何気にモグって男前だよね。
 しばらく進むと骨の彫刻で飾られた小部屋に出た。ちゃんと蓙も敷いてあってそこそこ人間的な生活をしているようだ。その中心にでっかい雪男が座り込んでこっちを見ている。
「……ニンゲン……、親分!」
 モグの姿を見留めて立ち上がると、棍棒を握ってこちらへ歩いてきた。戦闘にはならない……といいな。
「お前も仲間になるクポ!」
「ウー……、ウーマロだウー。親分の命令……。おれ、あんたたちの仲間。よ・ろ・し・く!」
「私はティナ、よろしくね」
「あ、ミズキです。よろしくお願いします」
「ウーマロ、一緒にがんばるクポ」
 ……すげえあっさり仲間になってしまった。聞いても分からないからかもしれないが、何の仲間? とさえ疑問に思わない辺りがすごいぜウーマロ。

 久々にパーティのお荷物係をやることになった。ウーマロが住処に溜め込んでいた大量のイエローチェリーを持って行きたがったのだ。まあね、戦闘なしで力作の彫刻を壊してミドガルズオルムの魔石を譲ってくれたお礼です。
 しかしイエローチェリーは生物。冷蔵庫並の洞窟内はともかくナルシェを出たらすぐに腐ってしまいそうだ。ジャムとか酒とかにしても怒らないだろうか。
 サクランボを使ったスイーツに思いを馳せつつ炭坑を出て、ヴァリガルマンダのところに到着。
「ティナ、ファイガで氷を溶かしてやって」
「分かった」
 中身を焼かないように注意しつつ幻獣を封じている氷を溶かしていく。モグとウーマロはなぜか私の背後にぴたりと張りついて立っている。火が怖いのかとも思ったけど、もしかして私を盾にしてませんか。
 氷が薄膜ほどになると、ヴァリガルマンダは自力で氷を振り払って動き始めた。
「私の封印を解いたのはお前か。お前たちは一体……?」
「私は、マディンとマドリーヌの娘、ティナ……幻獣の血を引くものです」
「幻獣と人間が結ばれたというのか。だが……」
 ふわりとヴァリガルマンダの体が浮き上がり、モグとウーマロが完全に私の背中に隠れようとしている。いろいろツッコミたいがとりあえずウーマロ、お前はサイズ的に無理だ! 凸凹コンビを気に留めることもなく、ヴァリガルマンダさんは空を覆う暗雲と遠く瓦礫の塔がある方角を眺めて声を低くした。
「世界に満ちるこの殺気は何だ? 1000年経った今も魔大戦は続いているというのか?」
「いいえ。魔大戦は終わり、幻獣たちは封魔壁の向こうに隠れ住んでいました。その封印を破り、三闘神を復活させた者がいるんです」
「愚かな……永久に争わねば気が済まぬのか」
「私たちは、それを終わらせるために戦っているの。あなたの力を貸してほしい」
 ティナを見つめ、おそらくはマディンの魔石と、私の持つユラの魔石を見つめてヴァリガルマンダは黙する。やがてその身体から魔石化の光が溢れ始めた。
「三闘神に与えられた、殺戮の力……。このまま争いに果てるなど耐えられぬ。お前たちの心、信じてみよう」
 ……たとえば、三闘神をスルーしてケフカを殺せないかと考える。そうすれば幻獣たちは、魔石となりこそすれ滅びはしない。けれど彼らは、三闘神の呪縛から逃れることを望んでいるようだ。魔石を解放し、新しく生まれ変わることを。そのままで生きていてほしいというのは、叶えてはいけない私の自己満足なのだろう。
「……さ、武器屋に戻ろうか」
 ラグナロクをもらってマッシュと合流して、出発だ。そして最後の仲間を迎えに行くんだ。




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