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輝きの宝石箱


 ミズキが目覚めて最初に出会ったのはシャドウだったらしい。そしてまたシャドウにはミズキの素性、彼女が異世界からやって来た人間でありこの世界を支配する“物語”のことを話したのだという。
 意外だったが、正直ホッとした部分はある。俺はミズキの愚痴を聞いたり一緒にいて見守ることしかできないが、シャドウならもっと深く考えて彼女の助けになる行動をしてくれそうだ。現に彼は、ミズキを終盤の主導者であるセリスのもとへ行かせて自分は別行動を取りながら仲間を集めてくれている。シャドウがミズキの話を信じてくれてよかった。
 彼とはジドールかオペラ座で合流できるはずだとミズキが言うので、ひとまず預けておいた荷物を引き取ってファルコンに移すべくオペラ座にやって来た。が、シャドウたちが来たかを尋ねる間もなく、俺たちがオペラ座に着くなりミズキを呼び出す人があった。
 劇場奥の控え室に通され、そこにいたのはファルコンで留守番をしてるはずの……。
「え……セリス? なんでここに?」
「マリアだよ。本物の方」
「初めまして、その節はありがとう」
 ミズキに言われ、えらく淑やかな笑顔を浮かべたセ……マリアに慌てて会釈をする。……本人に会うのは初めてだけど、本当にセリスとそっくりだったのか。よく見れば似てるなんてもんじゃないぞ、兄貴と“ニケアのジェフ”くらい、まったく同じ顔だ。まさかマリアは帝国出身で実はセリスとは生き別れの姉妹だなんて言わないだろうな。

 ミズキを呼び出したのはマリアだった。セリスと合流する前にシャドウとここへ立ち寄った時のことで話があるのだという。テーブルに置かれた大量の冊子に手を置いて、マリアは真剣な表情でミズキを見つめた。おいおい、なんか怒られるんじゃないだろうな。こいつ何やったんだ?
「あなたの置き土産を見せてもらったのだけれど……」
 妙な迫力を持ったマリアにミズキも少し逃げ腰だ。問題の冊子を見ると、なにやら芝居の脚本のようだった。これがミズキの置き土産なのか?
「な、なんかマズかった? お試し版だし、無難なのを選んだんだけど。問題あるなら書き直しますよ?」
「とんでもないわ。あなたのくれた芝居のネタ、どれも斬新で素晴らしい。地形の変動でマランダとも繋がったし、サウスフィガロからもお客が増えているの。これだけ新作があれば彼らを捕まえておけるわ。お陰でダンチョーも大忙しよ。今は出ているから代わりにお礼を言わせてもらうわね。本当にありがとう」
 驚いた。置き土産の脚本はミズキが書いたものだったようだ。小遣い稼ぎをしておくつもりだったのか、しかしマリアの言葉を信じるならオペラ座にとってもかなり利のあるものらしい。
「もっと具体的なお礼はジドールの銀行に振り込ませてもらったわ。それで、お願いがあるのだけれど」
「次のネタなら、また報酬がもらえるなら今いくつか書いていくけど」
「それよりもあなた、ここに残って専属の脚本家にならない?」
 って、そこまでの話なのか? そりゃあこんな御時世、芝居なんか見てる余裕はなくなってくるし、金持ちを捕まえておくのも確かに大変だろう。人の心を惹き付けるような面白い物語はいくらあっても足りない。……ミズキにそれほどの才能があったとは知らなかった。が、彼女はこの名誉な話をすっぱり断った。
「それは無理。私ができるのはネタ出しだけで脚本なんて書いたことがないし、それはプロにやってもらわないとね」
 ああ、なんだ。そういうことか。ミズキがやったのは物語の骨組みを作っただけ、肉付けは劇場付きの脚本家がやってくれたわけだ。それにしてもこんな大量のアイデアを咄嗟に出せる人材というのは貴重だ。そしてふと思ったが、ミズキは元の世界での“ゲーム”の物語を芝居のネタとして売り払ったのではないだろうか。

 マリアが待ち構えていたのはうまく使えば金蔓になるミズキをオペラ座に引っ張り込むためだった。もし彼女が元の世界で見聞きした物語を差し出しているならそれこそ無限に近い芝居を作り出せる。なんせミズキは俺たちの台詞まで暗記しているほど記憶力がいいからな。
 ここで公演しきれない分は旅芸人に売ることだってできるだろう。使いようによって、オペラ座には莫大な金が入ってくることになる。真価を発揮するのは、もちろんケフカを倒したあとだが。マリアは諦め悪くミズキの手を握り、潤んだ上目遣いで縋った。
「……どうしてもダメ?」
「だ、ダメです」
 まずいな、揺らいでるぞコイツ。こんなセリスそっくりの美人を目の前にしちゃ無理もないけど。しかも相手は海千山千の大女優、素人を魅了するなんて赤子の手を捻るようなもんだ。
「私の目を見ながら言って、ミズキ」
 言われるがままにマリアの透き通る青い瞳を見てしまったミズキは、ぴしりと固まった。そして勢いよく立ち上がり、マリアの手を振り払う。
「うおおおおおおお! ダメと言ったらダメなんだ!! 私には妻と子とケフカを倒す使命がー!!」
 ワケの分からないことを叫びつつ俺の腕を掴んだミズキは、そのまま俺を引き摺るように控え室を飛び出してマリアのもとから逃走した。立ち去り際マリアの舌打ちが聞こえた気がするんだが……、ここの経営はもしかしたら彼女が握っているのかもしれない。ダンチョーは頼りなさそうだったし。それにしても、顔はそっくりだけど性格はセリスと全然違うみたいだな。
 関係者用の区画を出て客の目のあるエントランスに戻ってくると、ミズキは死神にでも追いかけられたような顔でため息を吐いた。
「でも断ってよかったのか? いい仕事じゃないか」
「……他人の書いた物語を売るのって気分のいいもんじゃないよ。そりゃ、こっちには著作権もないしギルはいくらあっても足りないから遠慮なく利用させてもらうけど、それだけじゃ私の記憶が尽きたら終わりだからね。私はアイデアだけ出して、実際に脚本を書くのはプロがやった方がいいんだよ」
 まあ、異世界の感性に触れるわけだから作家にとってはまたとない機会ではある。オペラってのはよく分からんが、もっと幅広くなれば俺にも面白いと思える芝居があるかもしれないし。なんにせよ、ミズキは自力で金を稼ぐ方法をしっかり見つけていたようだ。……こっちの世界に残っても安心だなと思うと、なんか妙な気分だった。

 マリアから解放され、やっとシャドウたちと会えた。彼は仲間を発見することに成功したらしく、ストラゴスとリルムを連れていた。
「ストラゴス! 見つかってよかった」
「そっちも無事でよかったゾイ!」
「ちょっとー、リルムもいるんですけど」
 祖父と孫という関係のストラゴスとリルムに、人見知りの激しいアサシンであるシャドウ……なんか意外な組み合わせだが、不思議と違和感なく馴染んでいる。リルムがインターセプターに懐いているせいか。それともシャドウが“物語”を知ったから、この二人に親近感でもわいたのか?
 うーん……いや、なんか違うんだよな。この三人と一匹が並んでるのはとても自然なんだ。シャドウがいつも放っている他人を寄せつけない空気が今は感じられない。旅の間に仲良くなったというよりはあるべき姿に戻ったって雰囲気だ。これを機に物騒な仕事はやめて、サマサの村で用心棒でもやる気になってくれたらいいんじゃないかと思うんだが。
 俺が余計なお世話でしかないことを考えていたら、ミズキはマリアに怯えているのか舞台の方を気にしつつシャドウに尋ねる。
「ところで、荷物は?」
「引き取ってある」
「おー、ありがと! さっすが手際いいね」
 嬉々としてシャドウから鞄を受け取ったミズキは、その中を探って取り出した武器を、なぜか俺に手渡してきた。
「はい、マッシュの最強武器。私が敵を倒して手に入れたものですよ。ありがたく使いたまえ」
「え、本当かよ!?」
「アンデッドにフェニックスの尾を投げただけだ」
「ちょっとそこは秘すれば花ってもんでしょ!」
 ああビックリした。それじゃ単に襲われたけど運良く助かったってだけじゃないか。
 半信半疑で受け取った武器を手に嵌めてみる。俺専用に誂えたかのごとくピッタリで不思議な感じだ。重さのわりに手の動きが制限されないし、爪の分だけリーチも伸びる。こいつは……かなり使いやすそうだな。これからの戦いで役に立つことは間違いない。何だろう。悔しいが、いろいろ吹っ切れたミズキはちょっと凄い……かもしれん。
 その他にも魔大陸突入前に預けていた予備のスカイアーマーやら何やら役立つ物をファルコンに持ち帰り、三人と一匹が加わったことで船内もかなり賑やかになった。まだ見つかっていない仲間のことも気になるが、まずはストラゴスとリルムの無事を知らせるため彼らの故郷であるサマサの村へ行くことになった。

 溜まった洗濯物を処理しなければならないというのでミズキはファルコンに残ることになった。カイエンは未だに洗濯機が使えないし、男女で分けると兄貴は男物の洗濯を面倒臭がるので実質的にミズキとセリスと俺とばかりが洗濯している。それに、セッツァーのコートはミズキが手で洗うしかないしな……。気の毒だが頑張ってもらおう。
 というわけで、俺とシャドウたちでサマサの村に降りてきた。村までの護衛なら俺だけでもいいかと思ったんだが、ミズキの強い勧めでシャドウも付き合わされている。
「わ〜い、かえってきたよ〜! リルムおうちにいってるね」
「元気じゃのお……。わしが老いただけかの?」
「あれくらいの歳って体力が有り余ってるからなぁ」
 俺は寝込んでばっかりだったけど。せっかくの弟が一緒に遊べず寝てばっかりで、ガキの頃の兄貴もきっとつまんなかっただろうな。……あー、ガウは獣ヶ原で修行してるんだったか。リルムを見てるとどうもあいつの姿がちらつく。早く迎えに行ってやらないと。
 ストラゴスが村長に挨拶している間、リルムは村中を訪ねて自分と祖父の無事を触れ回っている。彼女が足を運ぶたびにそこから村の淀んだ空気が澄んでいく気がした。大三角島が移動してしまったのでサマサの村は他の大陸から孤立している。魔導士の血筋を隠すにはありがたいかもしれないが、人として生きていくには不安な状況だ。彼女の明るさは村人の希望になるだろう。
 どっかの家に行った際に知り合いと話し込んでいたようで、しばらく出てこなかったリルムが慌てて飛び出してきてストラゴスを呼ぶ。
「おじーちゃーん! 大変よ! ガンホーさんが!」
「ガ、ガンホーがどうしたんじゃ?」
「いいから早く来いよじじー!」
 口が悪いなあ。しかし妙に焦っているのが気にかかる。村長に促されて孫のもとへ向かうストラゴスの後を追い、俺とシャドウもリルムのいる家へ向かった。リルムに両親はいないって聞いてたし、友達の名前でもなさそうだが……。
「ガンホーって誰だろう」
「ストラゴスの昔の仲間だ」
 なるほど。ってシャドウ、よく知ってるな。帝国だけじゃなくこんな村の事情にまで通じているのか。それともミズキに聞いたのかな。

 ガンホーさんとやらの家につくと、ストラゴスと同じくらいの爺さんがベッドでうんうん唸っていた。
「しっかりせんかい。誰にやられたんじゃ?」
「う、うう、実は、わしらが追い求めていた伝説のモンスター、ヒドゥンにやられてしもうたのじゃ。あと一歩のところまで追いつめたんじゃが」
「何、ヒドゥンじゃと!?」
 起き上がることもできないほどの大怪我を負っているにしては流暢にしゃべるなあ、と思って見ていたら、そんな俺の視線を察したのかガンホーさんはこれ見よがしに苦しそうな咳をしてみせる。
「う〜、ゴホッゴホンッ」
「ガ、ガンホー! 大丈夫か!」
 いや、これ……仮病だよな。ストラゴスはすっかり信じ込んでるみたいだが。
「ストラゴスよ、わしの仇をとってくれい……、う〜、ゴホッゴホッ、オッホン!」
「ガンホー……し、しかし……」
 昔の仲間ってモンスター退治でもやってたんだろうか。それにしても、この茶番の意図は何なんだ。単にストラゴスを騙そうってわけじゃないだろうし。と、おろおろしているストラゴスに苛立ったのかリルムが眉を吊り上げて地団駄を踏む。口だけじゃなく行儀も悪いなあ。
「おいこら、ジジイ。何をためらってるんだよー!」
 ……そうか。ここに呼んだのはリルムだもんな。さしずめ、昔は倒せなかったその“ヒドゥン”とやらをストラゴスに倒させてやりたいってところか。口は悪いけど祖父想いのいい子だな。孫に詰め寄られてストラゴスも覚悟が決まったようだ。
「そうじゃの……。この歳になって、若い頃なくした夢を追うことになろうとは思いもせんかったが……、ガンホー、わしは行くゾイ!」
 お前さんの仇はわしが討つ、と宣言して家から駆け出していく。……って、一人で行く気か!
 我に返って俺たちもストラゴスの後を追う。しかしリルムが一緒に行くと告げると彼は渋い顔を見せた。
「……わしは昔、ヒドゥンから逃げ出したんじゃ。臆病風に吹かれた過去と向かい合い、克服せねばならん。これは、わしの意地なのだゾイ」
「でもリルムだっておじいちゃんのマゴだもん。おじいちゃんがこまってるのを、だまって見てられないよ」
「意地なら意地でいいじゃないか。仲間なんだ、俺たちも一緒にその意地を張り通すぜ」
 昔だって仲間と共に戦ったんだろう。ならば、今回もそうすればいい。あのガンホーさんが“仲間”であるストラゴスのためを想ってやってるなら、俺たちもそうするまでだ。
「すまんの。ありがたく受けさせてもらうゾイ。ヒドゥンは『隠れる者』……そう簡単には見つからん。じゃが、必ず成し遂げるゾイ!」
 さっきまで怖じ気づいていたストラゴスもすっかりやる気になり、リルムが密かに安堵の息を吐いていた。

 エボシ岩の洞窟は50年も前に海中に没し、半ば封印されたような形になっていたらしい。お目当てのヒドゥンも死んでいるんじゃないかと思ったが、ストラゴスは確かにそいつの気配を感じると言う。
「アンデッドになっとるのかもしれんゾイ」
「厄介だなぁ……」
 苦しみ抜いて溺死したモンスターの怨念が50年も経って復活したんじゃ、今回倒しただけでは終わらないかもしれない。ガンホーさんがヒドゥンに襲われたってのは嘘っぽいが、結果的には退治しに来てよかったな。
 俺とシャドウでモンスターを蹴散らしながら薄暗い洞窟を進む。敵の姿どころか道もよく見えないんでリルムのスケッチがかなり役に立っていた。ボムなんかの炎を纏ったモンスターを描いて明かりの代わりになるんだ。いろんな使い方があるもんだな。
 ストラゴスが集中して気配を探り、ヒドゥンまであと一歩のところまで来ると、俺たちの眼前に巨大な宝箱が立ち塞がった。
「何だこりゃ?」
 ストラゴスとリルムなら壁との隙間を無理やり抜けられそうだが、こんな得体の知れないものに近寄らせるわけには……、と迷っていたら、どっからか子供みたいな声が響いてくる。
「お前たち、俺の好物を持ってないか?」
「な、なに? 箱がしゃべってんの!?」
「リルム、下がれ」
 刀を構え、シャドウがリルムを背後に隠す。
「これは……モンスターか?」
「ミミックというやつかの。宝箱に何者かの思念が宿ったのかもしれんゾイ」
 襲ってくる様子こそないが、まさか人間が好物だなんて言わないだろうな、この宝箱。
「お前の好物ってのは何なんだ?」
「決まってるだろ〜。つるつるぴかぴかのサンゴのかけらだよ!」
「へ?」
 そう言われてつい、警戒を解いてしまった。サンゴなんてここまでの道中で腐るほど見かけたぞ。
「そんなもん、そこら中に生えてるじゃないか」
「お前〜、俺を何だと思ってるんだよ!? 自分では取れないんだ!」
「……」
 そりゃそうか。手がないもんな。

 かけらをたらふく食わせてくれれば退いてやる、と宝箱が言うので仕方なく手分けしてサンゴを削り取る。そこら中にあるのはあるんだが、この巨大な宝箱をいっぱいにするのはなかなか難儀だった。
「ん〜、食った、食った。余は満足じゃ。うい〜っ、げっぷ! お、そうだった。ここを通してほしいのだったな。んじゃっ!」
 立派な宝石箱のように中身を煌めかせて、宝箱はどっかへ転移していった。何気にテレポなんか使えるんだな、あいつ。どこへでも行けるが何もできないってちょっと辛い暮らしだ。物も食えずに一体どうやって生きてるんだろう。
 ともかく宝箱が塞いでいた先へと進む。辺りに寒気がするほど邪悪な気配が満ち始めた。やはりアンデッドだ。シャドウは手裏剣に聖水を塗り、ストラゴスとリルムが補助魔法をかけて備える。
「ヒドゥンじゃゾイ!」
 現れたのは……なんとも不気味なモンスターだった。腐り崩れて元の姿は分からなくなっている。引き連れてきたお供の幼体が毒霧を吐き、噛みついてきた。
「回復は任せた!」
 毒を食らいつつも俺とシャドウで炎をぶつけて周りを片づけていく。雑魚がいなくなると、ヒドゥンはエネルギーを溜め始めた。ストラゴスが警戒を呼びかける。
「あれは! まずい、避けるんじゃ!」
 リルムを引っ掴んで避けた途端に目も眩むような閃光が弾けて、洞窟の岩壁をぶち壊しながら衝撃波が炸裂した。
「な、なんだ今の……魔法?」
 気軽に戦ってたが、もしかして結構ヤバイ相手じゃないのか。そのうえ今のエネルギー波の影響なのか、焼き払ったはずの雑魚どもまで復活してやがる。ストラゴスに倒させてやりたかったが、危険ならフェニックスの尾で片づけちまうかと鞄を探ろうとしたら、リルムに制される。
「まって、おじいちゃんが……」
「見切ったゾイ! 伝説の青魔法グランドトライン!」
 ストラゴスが呪文を唱えると先程ヒドゥンが放った衝撃波が更に威力を高めて放たれた。真っ白な光が洞窟を染め上げ、ヒドゥンとそのお供も含めてまるごと光の中に飲み込んだ。生粋の魔導士ってやつは凄まじいな、見ただけでモンスターの魔法を真似ちまうのか。
「つ、ついに……ヒドゥンを倒したゾイ!」
「じじい、やったじゃん!」
「うむ! 仇をとったこと、ガンホーに教えてやらんとな!」
 あ、そういや怪我したガンホーさんの仇をとるって話だったっけな。でもあれは……本当のこと言わなくていいんだろうか。

 サマサに戻って、夜。結局ストラゴスはガンホーさんが怪我なんてしてないことには気づかず、かなり脚色を加えたヒドゥン退治の様子を語り倒して、やがては話し疲れて眠ってしまった。付き合わされてうんざり顔だったガンホーさんも苦笑しつつ微笑ましげに見守っている。
「しかし……本当のことを言わなくていいのか?」
「いいのよ、そんなの。ああでもしてやる気を出させなきゃ、一生口だけのじじいになっちゃうもん。それに、伝説のモンスターを倒したのはホントだしね」
 どうやら仲間が傷ついたことでストラゴスを奮起させ、昔の元気と勇気を取り戻させるのがリルムの狙いだったようだ。ヒドゥンを倒す必要はなかったんだろうが、もし本当に遭遇しても彼なら倒せるという信頼があったんだろうな。
「まったく、できた孫娘を持ったもんだ。やつにはもったいないわい」
「でもあんた、大根役者だね。あんなお芝居じゃストラゴスしか騙せないよ」
「なんじゃと〜! まったく、この口の悪さは誰に似たんじゃ」
 ……本当にな。そういやストラゴスはリルムの実の祖父じゃないって聞いたけど、両親はいないんだろうか。どういう事情があるのかは知らないが、ストラゴスが引き取ってくれてよかったよな。もし見捨てられていたら……リルムもガウみたいになってたのかもしれない。あいつにリルムの口の悪さが加わったらと想像すると、ゾッとしないぜ。
「ミズキならリルムの両親のこと、知ってんのかな」
「……」
「シャドウ?」
 ふとした呟きにシャドウが反応したような気がする。返事はないが、青い瞳が探るように俺を見つめていた。彼は“物語”の内容をどの程度聞かされたんだろう。リルムのことも、もしかして知ってるんだろうか。




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