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泣いてアゲイン


 結局、俺の死亡イベントってのはツェンの町で起きたあれのことだったらしい。まだ一年経っていないから違うと思ってたぜ。だからものすごく焦ったし、セリスたちが現れた時には心の底から嬉しかった。
 なぜ予定が繰り上げられたのかはミズキにもよく分からないそうだ。セリスが目覚めるのを起点として勝手にシナリオが進行するようになっているのかもしれない。彼女は本来、まだ孤島で眠っている予定だった。ミズキが現段階では存在しないはずの魔石を持っていったことで目覚めたのだという。
 何にせよ、物語が動き出したんで俺はミズキについて行ってもいいそうだ。正直なところホッとした。ミズキが本当に生きているのかちょっと不安だったし、これから一年間この不安を抱えて待ってるのかと思うと憂鬱だったしな。
 あの親子を助けた礼にと町の人たちが食糧を少し分けてくれた。蛇の道を抜けるくらいの余裕はあるだろう。さて、ニケアかモブリズに行けるけど、どっちがいいんだろうな。ニケアにはジミーさんがいるはずだ。とはいえまだ飛空艇もないし、彼が喜ぶほどの金なんて持ってないけど。先にモブリズの方へ行ってみるべきだろうか。
「こっちへ来る前にティナと会って、彼女にモブリズの様子を見に行ってもらったんだ」
「え……」
「ティナも無事だったのね!」
 よかったと安堵の息を吐くセリスの横で、ミズキはなぜだか顔色を悪くしている。……ティナがモブリズにいるのは予定外なのか、それともまた何か起きるのか?
 ミズキが黙り込み、俺がそれを見つめていたら、セリスはそそくさと俺たちから距離をとった。声が聞こえない程度の場所であらぬ方を見ている。まあな、気を使ってもらえるのは正直ありがたいよ。でも、その気の使い方は間違ってる! と声を大にして言いたかった。俺たちそういうんじゃないから!

 ともかくティナのことが気になったので、声を潜めてミズキに尋ねてみる。
「なあ、ティナを行かせたのは、なんかまずかったのか?」
 べつにそういうわけじゃないとミズキは答えた。元々、こっからモブリズに向かえば彼女と再会するようになっていたんだ。なら何がいけないんだろう。
「あのさ……、ごめん。たぶん、あの怪我した兵士が気になってティナをモブリズに行かせたんだよね?」
「そうだけど……、彼は亡くなったのか」
 俺が聞いたらミズキは気まずそうに頷いた。そうか。もしかしたらその可能性もあるかもなって思ってたよ。ニケアにしろツェンにしろ、健康な若者だって生き抜くのが難しくなってきてるくらいだ。自分でろくに動けもしなかった彼はあの大破壊を乗り越えられなかったかもしれない……、それくらい、俺も考えていたさ。それでも無事を願ってたんだけどな。
 だが、彼が生きているか亡くなっているかなんて問題じゃなかったようだ。俺たちは早速ティナのいるモブリズに向かった。そして様変わりした村を目にした途端、ミズキが沈黙した理由を知った。……モブリズの村は、ケフカの裁きの光で既に滅びていた。
「こんな……酷い……!」
 セリスが悲痛な声をあげて拳を握り締める。俺も、そこらの岩でも殴って八つ当たりしたい気分だ。
 傷を負った兵士さんどころか、誰の姿も見当たらない。燃えて朽ちた建物が並び、村は虚ろな静寂に支配されていた。バレンの滝からやって来た俺たちに着替えと食事を提供してくれた家の人たちも、あの兵士を献身的に世話していた女性も、気前よくエリクサーをくれた郵便屋も、潜水服をくれたおっさんも。みんな……死んでしまったのか。
 俺が言わなくてもいずれティナはここに辿り着いたのだろう。だが、それでも後悔が胸を衝く。彼女を来させるんじゃなかった……、俺の言葉のせいで、ティナはきっと希望を持って訪れたのだろうに。ミズキが言ったのは、俺がそう考えてしまうことを踏まえての「ごめん」だったんだな。

 ティナの姿を探して俺たちは村の奥へと足を進める。伝書鳥を飼っていた小屋の近くに墓が建てられていた。彼女がこれを一人で作ったんだろうか。何とも痛ましい気持ちになっていたところで、背後に気配を感じて振り返った。
「……誰だ?」
 郵便屋の陰から覗いている奴がいる。すぐに駆け寄って捕まえると、その正体は生意気そうな顔をした子供が二人。生き残りがいたのか?
「見つかっちゃった!」
「こ、こっから先には行かせないぞ! 僕たちだって戦えるんだ!」
 子供たちは精一杯虚勢を張って、小さな腕を広げて建物の扉を守ろうとしている。どうやらここにティナがいるようだ。というか、襲いに来たわけじゃないってのに悪者扱いは勘弁してほしいな。ミズキとセリスが慌てて寄ってくる。俺が困惑したまま立ち尽くしていたら、そっと扉が開かれた。
「みんな、待って」
「ティナ……」
「ママ! この人たち、ママの友達?」
 ……ママぁ?
「そう、私たちはティナの友達だよ。悪いやつじゃないから安心して。ただの歳の離れた友達だよ」
「ミズキ……」
 歳の離れたは言う必要ないと思うんだが、ミズキの呑気そうな雰囲気に安心したのか子供たちは少し警戒を解いた。
 例の郵便屋だった館がティナたちの隠れ家になっているようだ。地下に案内されると、そこには何人かの子供がいて俺たちに疑わしげな視線を向けてきた。……本当に子供ばかりだ。大人は一人もいない。
「ティナママを……連れてっちゃうの……?」
「パパもママも、僕たちをかばって死んじゃった」
「ティナがいてくれるなら、僕たちがんばれるんだ!」
 口々にママを連れていかないでと訴えながら、子供たちはティナを庇うように俺たちの前に立つ。思わずセリスと顔を見合わせ、互いの困惑を確認しあってから助けを求めるようにミズキを見つめた。
「なあ、ミズキ……あのさ」
「それはティナが決めることだから」
「……まだ何も言ってないだろ」
 ここの奴らは明らかにティナを拠り所としている。もし俺たちがティナを連れ去ってしまったら、こいつらはどうやって生きていくんだ?

 不安そうな顔をした子供たちがティナの足にしがみついている。そしてティナは、驚くべき事実を告げた。
「私、戦う力が消えてしまったの」
「魔導の力が? しかし……」
 人造魔導士ならまだしもティナの能力は父親からもらった生粋の魔法だ。消えたって、一体どうして……。ついミズキの方を見てしまったが、彼女はじっとティナを見つめて話を聞いていた。
「この村の大人は、ケフカの裁きの光からみんなを庇って死んでしまった。ここは子供達だけの村……、そしてみんな、私を必要としている……」
 魔導の力が消えたというなら尚更、無理やり連れて行くわけにもいかない。しかしここに置き去りにしていいものかとも思う。戸惑い何も言えないでいると、騒ぎを聞きつけたのか少し年嵩の男女が駆け込んできてティナと俺たちの間に立ちはだかった。
「お前たち……いきなり現れて、ティナをとるなよ! ティナはここにいるんだ!」
「ごめんなさい。でもティナがいなくなったら私たち、支えを失ってしまうの」
「ディーン、カタリーナ……」
 気の強いことを言ってはいるが、ディーンと呼ばれた少年も手が震えている。この絶望的な状況下に現れたティナは確かに救世主にも思えたはずだ。しかし……彼女だってまだ18歳の、感情さえ乏しい子供のような存在だ。支えになるほどの強さがあるのかと思うと不安になる。
「みんながなぜ私を必要とするのかは分からない。私が守らなくてはいけない理由なんてない。でも……変なの。胸の奥が痛んで“感情”が沸いてくる……」
 戦う力があるとかないとか、そういうことじゃないんだろう。きっとこいつらにとってはティナがいてくれるという事実そのものが救いで……ああくそ、一体どうするのが一番いいんだ?
「この感情が芽生えた時から、魔導の力が使えなくなった。何かを掴みかけている気がするのに、答えを見つけようとするほど、私の中から戦う力がなくなっていく」
「ティナ……」

 やはり連れて行くのは無理だろう。不安は残るがモブリズのことはティナに託すしかない。そう、結論しかけたところで、さっき俺たちを見張っていた子供が大慌てで走ってきた。
「たいへんママ! フンババが来たよ!」
 その言葉を聞くなりティナとミズキが階段を駆け上がり、外へ飛び出していく。
「おい、フンババって何だ」
「すっごく強いモンスターだよ! 僕らのおうちをこわしちゃったの!」
 あの大穴は裁きの光だけの被害じゃなかったのかよ!
「ティナ、戦う力がないって……」
「行くぞセリス!」
 急いで二人の後を追うと、フンババとやらの放ったサンダガが荒れ狂っている。魔法を食らわないようにミズキが庇っているが、ティナは変身できず魔法を唱えることもできないようで踞っていた。苛立ちもあらわに頭を振ったフンババが二人に突進する。くそ、こっからじゃ間に合わねえーー
「危ない!」
 一番弱いと判断したのかフンババは真っ直ぐティナに向かっていった。鳩尾めがけて繰り出された拳の前にミズキが割り込み、殴るのに合わせて蹴りを放つ。……って、
「いっ、てえええええええ!!」
「ミズキ!」
「ば、馬鹿お前、なにやってんだ!」
 カウンターなんて、力で負けるに決まってるだろうが! 運よくフンババの指の方が折れたようだが、ミズキの足が砕けててもおかしくなかったぞ。
「いてええマッシュ私の足の裏の仇をうって痛い!」
 そんなもんの仇討ちなんて嫌だよ。あいつは倒すけどさ……。

 結局、セリスにサンダガを封じてもらってフンババは俺が追い払った。かなり痛めつけてしつこく追い回してやったんでしばらくはここにちょっかい出すこともないだろう。
「私やっぱり、村に残る。一緒に行ってもきっと足手まといになるわ」
 魔法が使えなかったこと、自分を庇ってミズキが怪我をしたことがよほどショックなのか、ティナは唇を噛んで俯いてしまった。その彼女の肩に手を置き、ミズキは優しく微笑んだ。
「いいんだよティナ。君はまだシンデレラさ」
「え?」
「大人の階段をのぼってるところなんだよ」
「う、うん」
 なにそれどう意味って顔でセリスがこっちを見てくる。知るかよ、俺に聞かんでくれ。分かるのはミズキがティナを慰めるふりしてさりげなく右足を庇ってるということくらいだ。まったく、ティナを助けたい気持ちは分かるが物理攻撃でミズキが盾になるなんて無茶すぎるだろ。
 ともかくティナは村に残るということで話が決まり、子供たちも安堵の表情を浮かべていた。しかしミズキにはまだ話が残っているらしい。
「ティナ、カタリーナと一緒にちょっとおいで。内緒話をしよう」
「え?」
 堂々と内緒話なんて言うなよ。あからさまに不審そうな目を向けてカタリーナの手を握ったディーンに向かい、ミズキは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「あ、マッシュとディーンは来ないでね」
「何でだよ」
「女の子だけのヒミツなの」
「女の子〜〜?」
「うるせえすりつぶすぞ」
 ……怖っ。そんなに怒ることないだろ……。

 本当に内緒の話らしく、耳をすましても会話の内容は聞こえない。ミズキが何事か囁くとカタリーナが青褪め、それを見ていたディーンの表情が険しくなる。ミズキはメモみたいなものをティナに手渡しているようだ。あれこれと指示を出してはティナとカタリーナが何度も頷いた。
 ミズキに呼ばれなかったからか、それとも俺に気を遣っているのか、セリスは会話に加わらず俺の隣で三人の様子を眺めている。
「何を話してるのかしら」
「さあな。どうせ大したことじゃないさ。ミズキだからな」
「拗ねてるの、マッシュ?」
 ……べつにそんなんじゃないって。
 謎の話し合いはそう長くかからず、最後には目に涙を滲ませたカタリーナが礼を言いながらミズキに抱きついて、俺とディーンの目を丸くさせた。やっぱりあいつって、女版兄貴だ。
「打ち明けるタイミングは任せるけど、相手も自分も責めないで。ハッピーなことなんだから、気を楽にしなよ」
「は、はい……」
「また様子を見に来るから」
「ミズキ、……私……」
「ティナなら大丈夫。マディンもついてるんだし」
 この短時間でいたいけな女の子を二人も誑かしたミズキは、ティナとカタリーナの肩をぽんと叩いて強く頷いた。
「まあ、思い詰めずに頑張りたまえ。君たちはモブリズの希望の星だ!」
「ありがとう、ミズキ」
 何のノリなんだよそれ。もう呆れと疲れでさっきまでの悲壮感もなくなっていたんだが、そんな俺の横をすり抜けて小さな女の子が二人ミズキに駆け寄った。
「おねえちゃん、ママを守ってくれてありがとう!」
「この石ね、フンババが落としていったの。あげる」
「ありがとう、嬉しいよ。皆、ティナとカタリーナを守ってあげてね」
「うん!」
 ……プリシラとどっちが幼いだろう。兄貴の永遠のライバルはミズキで決まりだな。

 ティナを残したまま俺たちはモブリズを後にする。次の目的地はニケアだ。
「……で?」
 さっきの内緒話ってのは何だったんだと目で問いかけると、今度はミズキも隠さずに話してくれた。
「カタリーナが妊娠しているので注意事項をいろいろね」
「ええっ!?」
「そ、そうだったの? 全然気づかなかったわ」
「ちょっと具合悪そうだったから聞いてみたらビンゴだったよ」
 そういえばあいつらって、前に俺とカイエンがここへ来た時にも二人の世界に浸ってた恋人たち、か。あの時は村の子供だったのに、いきなり最年長の保護者役になっちまったんだ。まだ子供だし、あいつら自身だって不安でいっぱいなのに、ガキどもを守らなくちゃいけなくて……そうなるのも、無理はないかもしれない。
 こんな時に妊娠なんて大変だと思うが、こんな時だからこそ希望も感じる。セリスも同じように感じたらしく、感慨深げに息を吐いた。
「希望の星……か。まだ生まれて来ようとしている命がある。なんとしても、私たちで世界を守らないとね」
「そうだな……」
 しかし尚更、ティナが大変だ。ただ生きてくだけならまだしも赤ん坊が生まれるとなると。
「そうだ、ニケアにジミーさんがいるはずなんだよ」
「……会ったの?」
「ああ。セッツァーと、それ以上にお前によろしく言っといてくれってさ」
 身を案じていた人の無事を確認してミズキは満面の笑みを浮かべた。いつもそう素直な顔してくれたらいいんだけどなぁ。
「ナイスだ。ニケアならベテランの産婆さんもいる。でもお年寄りにモブリズまで歩かせるのはキツいか……」
「飛空艇があったらいいんだけどな」
 とりあえず定期的にモブリズへ顔を出してもらえるようジミーさんに頼もう、ということになった。カタリーナのお腹はまだ大きくなかったし、俺たちが飛空艇を手に入れたら産婆さんに来てもらえばいい。きっと何だってうまくいく。そう信じる強さがあればな。




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