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浪費されていく思考


 サマサではぐれた幻獣たちはティナによるとどこかに隠れているらしい。魔力を感知できるので少数ながら生き延びたのは確かなようだ。ケフカに見つからなければそれでいいので彼らについてはとりあえず好きに行動してもらおう。
 ナルシェのモーグリ族は炭坑の更に奥、雪男の洞窟付近に移住した。それはそれで危険なのではとも思ったけれど優秀な戦士が揃っているので平気だとモグは言う。あとは崩壊の時に巣が持ちこたえてくれるのを祈るだけだ。バナンたちは長老の家にいる。町にモンスターが押し寄せてきたら住民と一緒に逃げるだろう。
 改めて各地の町を巡っている間に我らが船長はまた帝国兵から兵器をいろいろ巻き上げていた。軍の大半はベクタに集結して飛行兵器を駈り魔大陸に向かっているようだが、レオ将軍が行方不明なのを放置していることで皇帝に離反する者も増えている模様。サウスフィガロやニケアには脱走した兵の姿もちらほらと見受けられた。
 予備のスカイアーマーをはじめ崩壊後にも必要となりそうなものはオペラ座に保管させてもらった。ついでに前述の脱走兵の中から職を探していた元整備士さんをダンチョーに紹介した。スカイアーマーが劇場の清掃や整備に使えそうだということで無事に雇用契約を結んだようだ。
 ジドール銀行に貯えていた給料も使って待機予定のメンバー含む全員の装備を整える。武器は愛用のものでいいとして崩壊時に備えるため防具を万全にしておきたかった。
 しかし魔法防御力を高めるなんて代物は当然ながら普通の店には置いていなくて、アウザーさんの紹介で金持ち貴族から魔大戦時代の遺物を買うはめになった。とんでもない大散財……でもなんかギルを失ってもあまり「お金を使いすぎてしまった!」って気がしないんだよな。
 魔石の分配も終えた。やれるだけのことはやったと思う。けれどやり残していることは山ほどある。もっと時間があればもっとたくさんの人を助けられたはずだし、私の心構えだってまだ済んでいない。だけどいつまでも先延ばしにしてはいられなかった。もう行かなければならない。
 ブラックジャックは既に魔大陸を目指している。遂に……この時が来たのだ。

「というわけでメンバー選抜会議でーす」
「さすがに全員で行くわけにはいかないよなあ」
 魔大陸に挑む困難を思えば人手はいくらあっても足りないが、周辺にはインペリアル・エアフォースが巡回しているからブラックジャックに残る人も必要だと皆も頷く。
 これまでもパーティの人数はなんだかんだで四人以下に調整されてきたから、やはりここも三人で突入してシャドウを拾うことになるだろう。もちろんそれは私を除いた人数だが。
 物理も魔法もとなるとティナとセリスは必須だよね、なんて話をしている横から堪えきれなくなったリルムが首を突っ込んでくる。
「リルムも行きたい」
「ダメー」
 説得をストラゴスに任せると押しに負けてしまうのは目に見えているので私が阻止させていただいたら、リルムは一瞬だけ怯んだもののすぐに頬っぺた膨らませて怒った。そんな可愛らしい顔をしてもダメなものはダメ。
「なんでダメなの!?」
 セッツァーが帝国兵から仕入れた情報によれば魔大陸内部では三闘神のエネルギーの余波で古代のモンスターが甦っているらしい。魔法の対処に長けた精鋭メンバーでないといけない。その少数精鋭編成に私が加わるというのは我ながらツッコミどころ満載だけれど、魔法が効かない体質は魔大陸でそれなりに役立つ、と思う。
「あたしだって魔法たくさん覚えたもん。ちゃんと戦えるよ!」
「では問題です。魔力が尽きると死ぬモンスターへの有効な対処法は?」
「えっ? えっと……」
「はい時間切れー。セリス、答えを」
「アスピルで魔力を吸い取るか、ラスピルを唱える……かしら? 体力を奪うより早いはず」
「正解ー。魔大陸にはそんなモンスターが多いと予測される。なので即答できないリルムは留守番けってーい」
「うぐぐぐ」
 それでも納得いかないリルムに私も表向きだけの譲歩をする。頭ごなしに否定するよりは連れていくことを視野に入れたうえで考えたけれどやっぱり駄目でした、と言った方が心証もいいだろう。
「仕方ないな。じゃあ三闘神の特徴をひとつでも言えたら同行を許可する」
「ええっ、そんなの分かるわけないじゃん」
「ストラゴスは分かる?」
「うーむ、伝説としてもほとんど残っておらんからのう。三柱の戦いでは鬼神と女神の魔法攻撃を魔神がバリアを張って凌いだ、というのは聞いたことがあるゾイ」
「おー、さすが。魔神はフォースフィルドを使って属性攻撃を無効化できるんだよね」
 それでも全属性を無効にするには八回使わなければならないし、無属性のアルテマやなんやで攻めればさほどの苦戦はしないが。でもラスダンで戦う三闘神はケフカに力を吸われた残り滓だから復活直後だったらもっと凄まじい強さなのだろう。
 そんなやつらと戦うはめにならないよう、魔大陸では無理せず速やかに逃げることを念頭に置いておかなければ。
「……逆にあいつはなんでそんなこと知ってるんだよ」
「ミズキは魔物マニアだからなぁ」
「魔法マニアでもあるんじゃねえのか」
 なんか後ろでセッツァーとロックがぼそぼそ言ってるけど無視である。

 魔大陸が見えてくるとすぐさまスピットファイアが飛んできた。護衛のスカイアーマーも含めて十体以上いるだろうか……数が多いな。あいつらはデスが効くんだっけ。装甲を無視してパイロットの魂を抜き取ってしまえば容易く撃墜できるというわけか。考えてみるとエグい。
「後ろにまわった! 迎え撃つぞ!」
「待て、前方からも変なやつが……」
 間を置かずオルトロスたちもやってくる。最初からテュポーン先生が同行している。そりゃ出し惜しみする必要はないんだけどさ、顔見知りの誼でちょっとは手加減してくれてもいいじゃないか。この帝国の犬(タコ)め!
 ひとまずスピットファイア側にはロックとエドガーとセリスとカイエンが向かって、オルちゃん側にはティナとマッシュとガウとストラゴスとリルムとモグが対峙する。魔大陸を目前に余計な横槍を入れられ苛立っているマッシュを見たオルトロスは若干涙目だ。
 片づけてから突入なんて悠長なことを言ってたら次々に増援が来そうだな、これは。
「相手してられねえ。ミズキ、三人ほど連れて魔大陸に乗り込め」
「りょーかいです船長」
 この状況で自動操縦に切り替えるのは無理だからセッツァーは操舵輪から離れられない。誰を連れて行くべきか。シャドウが途中で抜けることを考えると後で必ず合流してくるセリスは置いていきたいところだが、一人で追って来させるのも心配だし……三人パーティになってもいいか。
「ティナ、セリス、ストラゴス!」
 あまり考えている時間はなかった。突入用に準備していたスカイアーマーで二手に別れて飛び立つ。私たちの上陸を阻止しようとしていた敵機はブラックジャックに残ったメンバーの牽制サンダーに邪魔されて追って来られずにいる。
 見下ろせば魔大陸は封魔壁の洞窟から天井だけ引っぺがしたような構造になっていて、降りてしまえば上空の敵からは攻撃されずに済みそうだった。……えっ、でもこれどうやって着陸すればいいんだ?
 と思ったが、何を言うまでもなく地面が近づいてきたところでティナが私を軽々と抱き上げて飛び降りた。トランスしてないのになんて馬鹿力だ。というか18歳の女の子にお姫さま抱っこされてしまった私の心境、察してほしい。続いて同じくセリスに抱っこされたストラゴスが隣に降り立った。
「……」
「……」
 二人して神妙な顔で頷き合い、変な空気のまま魔大陸攻略が始まった。

「この先にガストラとケフカ……そして三闘神がいる」
「気を引き締めて行きましょう」
 敵の気配に敏感なティナを先頭にして進み、まずはシャドウを探す。確か突入地点のすぐ近くに倒れていたはずだ。ゲーム画面だと地面に溶け込んでて見つけにくかったが……。お?
「シャドウ!」
 徘徊しているモンスターを避けるためなのか、崩れかけた壁の上に踞っていたので危うく見過ごしそうになった。私たちの姿を確認してよろめきながらも降りてくる。魔大陸が浮上したので逃げることもできず立ち往生していたけれど、傷はさほど深くなかったようで幸いだ。それもティナがケアルで癒してくれた。
「生きていてよかったわ」
「でもなんでここに?」
「幻獣の手がかりを見つけたとレオに報告した時にケフカの部下が紛れ込んでいるのに気づいた。それで港に戻ったんだが、そこで囲まれた」
 どうやらロックの予想が当たっていたようだ。シャドウを雇ったのはレオ将軍の独断だった。彼の仲間だと思われたせいで襲われた彼は、インターセプターを逃がすとサマサに追っ手を差し向けさせないために自分だけ港に残って戦った。そしてケフカが戻ってくるのを待ち、船に忍び込んで封魔壁の洞窟まで尾行したのだ。大三角島で別れたのに魔大陸浮上に巻き込まれたのはそういうわけか。
 本人は語らないけれど、サマサの村に情報を送っていたのはやっぱりシャドウだと思う。でなければガストラの真意を調べるためにそこまで追いかける理由はない。ストラゴスもその可能性に感づいたらしく覆面に隠れた顔をまじまじと見つめていた。
「インターセプターはどうした?」
「安心せい、サマサの村で預かっておる」
「そうか……」
 無愛想にケアルの礼を言って立ち去ろうとするシャドウをティナが引き留めた。
「一緒に行きましょう」
「俺に構うな」
「でも放ってはおけないわ」
「帰る手段もないでしょう? 私たちの飛空艇で一緒に地上へ戻ればいい」
 可愛い女の子二人から口々に言われてシャドウも返事に詰まる。この時点ではまだ死ぬつもりなんてないはずだ。生きて帰る意志がある。
「あんたが仲間になってくれれば心強いゾイ」
「……」
 結局、ストラゴスの言葉で折れたようだ。アルテマウェポン戦のあとも離脱しないでくれればいいのになと思う。シャドウにとっては“仲間”という言葉が重すぎるのだろうか。
 私が投げるために買っておいた手裏剣をシャドウと分け合う。手裏剣、難易度が高そうと思って避けてたけれど意外と私に向いていた。あと百万回くらい投げればもうちょっと当たると思います。
 とりあえず次の戦いのためにストラゴスに渡していたゾーナ・シーカーを一旦シャドウに預けた。今日はラスピルだけでも覚えていってください。

 しばらく進むと先頭を歩いていたティナがなぜか道をスルーしてゆくので「こっち行かないの?」と聞いたら全員に首を傾げられた。私も首を傾げつつ進むとセリスが「あっ」と声をあげる。
「道ができた……?」
「あー、壁の幻影でもあったのかな、私には見えなかったんだけど」
「ミズキが魔法を消したのね」
 そういえば近づいたら消える壁があったな。でもそれはトラップだから私が魔法を消したのではなくて誰が近づいても同じ結果になると思う。まあとにかく行き止まりに引っかからなくて済むのはありがたい。いきなり私が役に立っちゃったぜ。
 飛来するドラゴンやニンジャや生首に戦々恐々としつつ三闘神の広場を目指して歩き続ける。言葉で表現し難い姿形のモンスターはアポクリファとミスフィトだろうか。かなり気持ち悪い。特に酷いのがコジャ。個人的には前々作のフェイズの方がマシだった。あっちは機械的だもの。この薄ら笑いを浮かべた宦官の生首は生々しくて本当に無理だ。
 それでも大体の敵はラスピルやブレイク、カトブレパスの召喚で一気に片がつくのでギリギリ耐えている。
 シャドウもかつてのロックのように魔力を使う感覚が掴めず修得に難儀していたけれど、雑魚戦をこなすうちになんとかラスピルだけは覚えてくれたので助かった。セラフィムの魔石と交換しておく。こっちは回収せずそのままシャドウに持って行ってもらうつもりだ。
 そんなところで通路に立ち塞がるでっかい魔獣の姿が見えてくる。
『我が名はアルテマ……太古に作られし最高の力なり……』
「あれは!? 魔大戦時代の魔導兵器じゃゾイ!」
「兵器なのか。魔獣じゃないんだ」
『我は力であり、生命にあらず……』
 はからずもアルテマウェポンの口上が私の問いかけに答える形となった。なんだか間抜けだ。生命じゃないとは言うけどバニシュデス効いたよねあなた。魂はあるということか、よく分からない。しかし裏技染みたあの技が絶対に発動するのかも不明なのでここは堅実に戦わせていただく。
『弱き生命体よ、消え去れ!』
 老若男女の判別がつかない、妙に機械的な音声が響く。ちょっぴり緊張感をなくしてしまったのはアルテマウェポンの声が「ワレワレハウチュウジンダ」っぽかったせいである。この感覚が分かるのは私だけなので他の皆にはちゃんと(?)恐怖を煽る不気味な声に聞こえたみたいだ。

 ま、まあ、気を取り直していきましょう。とりあえずボス戦なので私は後ろにさがっておく。
「クエイクを使うからレビテトかけて、あとスロウが効く」
 セリスとストラゴスが補助魔法で味方を強化してティナが弱体を入れる。魔法を唱えている間、突進してきたアルテマウェポンの動きをシャドウが煙玉で逸らした。戦闘体制が整ったらセリスの出番だ。
「魔封剣をお願い。トルネドに注意。回復はホワイトウィンドで、あとは隙見てひたすらラスピルを」
 特技版メテオは狙いが雑なので注意深く見ていれば私でも避けられる。ただし爆風もすごいので距離を取っておいた方がいい。
 魔封剣の効かない魔法ってどんな基準なんだろう。私がメテオ着弾による爆風を食らうのと同じ原理か。魔法は消したとしても飛んでくる隕石そのものは消せない、だから物理的にダメージを受けてしまう。トルネドも同様に、魔法は消せても魔力によって“巻き起こった風そのもの”は封じられないから、魔封剣を使ってもダメージは受けることになる。
 ファイアなどはそれ自体が召喚された“魔法の火”であり自然現象としての炎とは違うから消してしまえるのだ。しかしメテオは隕石、トルネドは風、クエイクは地面、デジョンとテレポは空間、クイックは時間、魔法によって生み出されたのではなく始めから世界に存在しているものに干渉しているので消せない、と。
 ……でも、それなら召喚した幻獣の魔法や青魔法はなぜ封じられないのだろう。人外の技だから魔封剣の限度を超えて強いという見方もできるが。もっと謎なのはカッパーだ。なぜ魔封剣が効かないのか。おそろしい。
 と、地面が揺れ始めてそんなことを考えてる場合ではないのを思い出した。
 クエイクが来たらシャドウがレビテトの効かない私を抱えて地面から離してくれる。トルネドは壁に隠れてやり過ごした。その他にも多彩な魔法を放つアルテマウェポンだがセリスの魔封剣がここぞとばかりに猛威を振るっているので安心、その合間を縫って皆でラスピル。うっかり攻撃を食らわなければ問題なく倒せそうだ。
 ちなみに私は手裏剣を投げてる暇とかまったくなかったのでずっと逃げ惑いながら皆が放ったラスピルをカウントしていた。あとはごり押しでいけるだろうというところまで削ったのでティナに合図を送り、彼女がトランスする。はね上がった魔力で追い討ちのラスピル連打、任務完了!
「な、なんとか勝てたわね……」
「ミズキの指示があると戦いやすいのー」
「シャドウ、ミズキの面倒を見てくれてありがとう」
「……いや」
 ストラゴスがナイスフォローをしてくれたのにティナのお陰で台無しだぜ。事実だから仕方ないけどさ! どうも彼女は私を頼りにしてくれないな。頼り甲斐がないからと言われればおしまいだけれど、なんとなく「ミズキを守ってあげなきゃ」と思われている気がする。……まあ、悪い気はしないからいいか。
 それにしてもどうしてケフカたちはこいつに襲われなかったのかと不思議だったが、三闘神と共に眠りについていたものをガストラが目覚めさせたのかもしれないと不意に思う。破壊のために作ったのなら三闘神を守っていたわけではなさそうだ。
 さて、この先にはいよいよケフカたちがいる。自分がどうすべきかは、敢えて決めないことにした。きっと物事を思い通りに動かす余裕なんてないだろう。




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