堕ちた空
ティナたちが大三角島のどこにいるかはすぐに分かった。家々が崩れ落ちて煙をあげる小さな村が飛空艇からも見えたからだ。幻獣の説得に失敗したのか、それとも帝国が先に手を打っていたのか。こちらに同行したレオ将軍が和平の破棄に賛同したとは考えにくいから、最悪の事態には陥っていないと思いたいが。
着陸して大急ぎで村へと向かう。ベクタほどではないがやはり幻獣の襲撃を受けたと思われる、惨憺たる有り様の村でミズキが待っていた。
「ミズキ、無事でよかった」
「そっちもね」
村人たちは我々に警戒することなく瓦礫の除去作業を続けている。どうやらブラックジャックの姿を見てミズキが話しておいてくれたようだ。
「ティナたちは？」
「男どもはもう起きてる。ティナとセリスとリルムもそろそろ目が覚めると思うけど」
そうか、セリスが合流していたのか。帝都にいなかったから心配していたがレオ将軍と同行していたのかもしれない。しかしそろそろ目覚めるということは気を失っていたのか？ うーん、立ち話を続けるには聞きたいことが多すぎるな。
「とりあえず、リルムって誰だい？」
「この村の子供。あとストラゴスって爺ちゃんが幻獣探しに協力してくれて、ケフカの襲撃に巻き込まれてさっきまで寝込んでた。まあ大事はないから」
ではベクタで事を起こす以前にケフカはこちらへ到着していたというのか。牢は見張っていたはずなのに、なぜこんなことになったのだろう。
「村長の家に行こっか。説明はいっぺんに済ませたいし」
「ああ、分かった」
大所帯で押しかけるのだから村長に挨拶をしておこうと思ったら、「人見知りだから」とミズキに止められてしまった。いつものことだが馴染むのが早いな。
魔法によって多くの家が倒壊した村の中にあって村長の家はほとんど無傷だった。そのベッドでティナは今まさに目を覚ましたらしく、寝ぼけ眼でロックに髪を結ってもらっている。セリスは一足先に起きて顔を洗っているそうだ。
お前は母親かと言おうか迷っていたらミズキが代わりに言ってくれた。ともかく、ロックとセリスの間にできた蟠りは解消されているようで一安心だ。
「よう、ブラックジャックが直ったのか。ちょうどそっちの心配をしてたんだ」
「帝国が裏切るギリギリで間に合ったぜ」
答えたのはセッツァーだ。軽く言っているが相当な無理をして飛空艇を飛ばしてくれた。ベクタを脱出したものの飛空艇がなければ追手に全滅させられていただろう。男に感謝するのは癪だが、しばらく船長には頭が上がらない。
「和平を餌に反乱分子を集めて一網打尽にするのが目的だったようだな」
「ちなみにバナンとかはどうなったの？」
「ひとまずリターナーの兵士たちと共に隠れ家へ逃げたよ。合流すると目立つのでしばらく連絡は取れないが」
……ミズキ、今もしかして舌打ちしなかったか？ レディがそんなことをしてはいけない……ではなくて、いくらバナン様が嫌いでも彼が助かったことくらいは喜んでやってくれよ。ガストラの目を盗んでベクタから逃がすのは結構苦労したんだぞ。
「それにしてもよく察知できたな」
「エドガー殿が事前に情報を仕入れてくれたおかげでござるよ」
「ほ〜〜、さすが一国の王」
ロックに誉められてもあまり嬉しくはない。というか半ば馬鹿にしているだろうお前。ミズキはといえばセリスと一緒にティナの身支度を手伝っていてすでに話を聞いてなかった。もう一人、金髪の可愛らしいお嬢さんが部屋の奥から起き出してきたが彼女が“リルム”だろうか。
ちょっと待て、するとロックはこの三人と行動を共にしていたのか？ 俺が男連中と一緒にベクタで居残りさせられていたっていうのになんて羨ましい。
「……なんか俺、八つ当たりされてる気がするんだけど」
「気のせいだ。帝都でお茶を運んで来てくれたレディにご挨拶したら丁寧に教えてくれたんだよ。皇帝陛下の御予定をね」
「兄貴……どっから知ったのかと思ってたけど。便利な特技だな」
「女性がいるのに口説かないなんて失礼なことができると思うかね？ 礼儀だよ。れ・い・ぎ」
どこかの誰かさんと違ってまわりにたくさんの女性を侍らせてはいなかったんでね。心休まるよう世話をしてくれた美しいレディにささやかなりともお礼をするのは当然のことだろう。
ようやくはっきりと目を覚ましたセリスとティナ、それから驚いたことに魔導士の生き残りでもあるという村の老人ストラゴスと、その孫のリルムも話し合いに加わった。
「それで、幻獣たちはどうなったんだ？」
「ベクタを襲って飛び去った幻獣は見つけたわ。帝国の申し出も受けてくれて、この村でレオ将軍と和解の会合を開いたのだけれど、そこへケフカが現れたの」
「幻獣たちの半数くらいが魔石化されてしまったが、もう半分は逃げたはずだ。そのあとレオ将軍がケフカに攻撃をしかけたんだけど、魔力の霧みたいなものに襲われて気を失って……ミズキ、どうなったんだ？」
問われたミズキは心なしか目が据わっていた。無警戒に目を合わせてしまったロックが怯えると「眠いだけだから大丈夫」と瞼を擦る。
「あれは幻獣対策の霧だったんだろうね。ティナとか魔力の高い人ほど眠りが深かったし、ロックが最初に起きたし」
戦闘の最中に全員が眠り込んでしまい、その後は魔法の効かないミズキが一人で対処をしたのだとか。かなり疲れているのだろう。そういうことはもっと早く言ってほしかった。……だからといって休ませてあげられないのが心苦しいのだが。
「レオはケフカの幻影に惑わされて負けた。それでも殺す寸前までは追いつめたんだけど、ユラたちを助けに封魔壁から飛び出してきた幻獣軍団と乱戦になったんで殺せなかったんだ。その幻獣たちも大多数が魔石化されて帝国軍がお持ち帰りってところ」
今も逃げている幻獣たちのことはそっとしておくべきだとミズキは言う。確かに、なすすべもなく魔石化されてしまうとなると幻獣たちをこの戦いの前面に出すわけにはいかない。
新たな幻獣がそうも容易く出てきたというならば封魔壁の魔法は切れていると見ていい。帝国はこれから魔石を簡単に得られてしまうわけだ。むしろ幻獣界の外に出て、集まらずに逃げ続けてくれた方が我々としてもありがたいだろうな。
本当なら幻獣と手を取り合って生きてゆけるはずだった。平和はすぐそこに見えていたのにまたしてもガストラが打ち砕く。二つの種族の共存を夢見ていたティナは痛ましいほどに消沈していた。
「……それじゃあ、レオ将軍はどこに？」
「重傷で気絶してたのを、あの火事の家に隠しといたんだけどね。あとで村長たちと探しても見つからなかった。ケフカたちが連れ去ったか、意識を取り戻してケフカを追ったか、ユラの仲間が運んで逃げてくれたか、魔法合戦に巻き込まれて消し炭になったか。なんとも言えない」
「そう……」
なんとも言えないが過度な期待をするな、彼は死んだものと考えた方がいいと念を押されてティナは頷いた。残念だがミズキの言う通り、その状況で将軍が生きている可能性は限りなく低かった。
仮に命拾いしていたとしてもガストラの意向に逆らったのなら無事では済むまい。下級兵士にも人望があったらしい彼を味方につけられれば多少なりとも帝国から戦力を削り取れただろうに、惜しい人を亡くしたものだ。
ではこれからのことを話し合おうかというタイミングで家の扉が叩かれた。ロックが出るとそこにいたのは村長とおぼしき老人で、傍らには傷だらけの犬が寝そべっている。
「インターセプターじゃないか！ その怪我はどうした！？」
「村の入り口に倒れておったんじゃ。部屋に入れてやってくれんか」
「あ、ああ。でも……」
犬は抱き上げようとしたロックを睨みつけて牙を剥き、落ち着かせようと手を近づけただけでも噛みつこうとする。かなり警戒心が強いらしい。一体どこの犬かと思えばあの“殺し屋シャドウ”の飼い犬だとマッシュが教えてくれた。
知らぬ間に顔見知りとなっていたらしい。というか、マッシュもミズキもカイエンもロックもセリスも知らないところで世話になっていたようだ。今回の幻獣捜索でも帝国に雇われていたシャドウと途中まで一緒に行動していたという。
俺だけ仲間外れかとぼやいたらミズキが「ガウとモグもまだ面識ないから」とフォローしてくれた。……何の慰めにもなっていない。
「でも、シャドウは帝国の依頼で仕事をしていたのよ。それなのにどうして……」
「レオ将軍が雇ったんじゃないか？ それで一緒に見限られたのかもしれない」
「でなきゃレオが逆らった時のためにガストラが雇ってたか、だね」
「そして用が済んだら始末されたか。何にせよ許し難いな」
飼い主以外に警戒を解かないというインターセプターだが、ミズキがリルムを連れてくると彼女には触れられるのを許して大人しく部屋の中についてきた。おそらくだが、あの犬は雄だな。
リルムに撫でられて落ち着いているところへロックがケアルをかけてやり、ハンカチで傷口を包む。それを愛しげに見つめるセリスの視線に微笑ましいやら苛立たしいやら妙な気分だ。世間は春だというのに俺の隣はまったく寒々しい。
とにかく、帝国との和平が白紙に戻ったからには作戦の立て直しが必要だ。しかもこれから先は幻獣との協力体制も築けない。
「フィガロとナルシェとリターナーだけで、力を増した帝国に立ち向かわなければならないわけか」
「絶望的ね」
セリスの呟きになぜかミズキが強く反応を示した。横を向いて俯き……笑いを堪えてるのか？ まさしく絶望的な今の話のどこに笑う要素があったのだろう、謎なヤツだ。
「あー、ぜつぼうてきなのは置いといて、バナンってまだ南大陸にいるの？」
「さすがに船で脱出する余裕はなかった。帝国領内にもリターナーの協力者はいるからね。ジュンたちと一緒に身を潜めているよ」
「じゃあとりあえず飛空艇で迎えに行ってナルシェにでも引きこもっててもらおうか」
このミズキの言葉には全員が疑問符を浮かべた。今はむしろナルシェに残っている兵力も呼び寄せ、総力を結集してガストラ帝国に立ち向かうべき時だろう。なぜこのタイミングでバナン様たちを退かせるんだ？
「リターナーの出る幕は終わった。もう人間の戦争じゃないから。この戦いに必要なのは特別な勇者だ」
「勇者？」
「邪なる者が三闘神の封印を解かんとしている。世界の破滅を阻むために、光ある者が幻獣の力を借りて戦うんだ」
「それは……ラムウが言ってたことだな」
幻獣に伝わる予言というやつか。ロックの問いにミズキは軽く頷いた。内容のわりに彼女の表情からはまったく深刻な雰囲気が感じられなくて戸惑ってしまう。
「うん。だから、ここにいる皆さんが勇者って感じで」
「なんでそんなノリが軽いんだよ」
「重々しく言った方がよかった？」
「いや……うん、その感じでいいや」
帝国への反抗勢力をすべて掻き集めても不安要素しかない戦いに、そのうえここにいる者だけで世界の命運を懸けて戦えなどと重々しく語られると腰が引けそうな気もするからミズキはわざとざっくばらんな言い方をするのだろう。それでも事態の深刻さに変わりはないが。
……皆の希望になってくれなんて、一人の女の子に言うべきことではなかったな、本当に。
しかし現実問題、ガストラが多くの魔石を持ち帰ったであろうベクタに攻め込もうと思えば相当な戦力を必要とする。なぜリターナーを再結集する必要がないのかという問いにまだ答えを得ていない。
「ガストラとケフカは封魔壁に向かったんじゃない？」
そのミズキの問いに答えたのはセッツァーだ。帝都から逃げ出すだけで精一杯だった俺たちと違ってブラックジャックで駆けつけた船長は上空から帝国軍の動きをしっかり見ていた。
「ケフカは知らんが、ガストラはベクタで俺たちを襲ったあと魔導士を何人か連れて監視所の方へ向かった」
「うん。魔石はもう充分だと言ってたから目的は幻獣じゃない。もう次の段階に入るつもりなんだ。封魔壁の三闘神を復活させ、魔大陸を浮上させる」
不穏な響きだがどちらも聞き慣れない言葉だ。すぐさま反応したのはストラゴスだった。苦々しげに「ガストラはそこまで魔導の歴史を暴いておったのか」と吐き捨てる。
「幻獣探しも人造魔導士の実験もこのための布石だよ。神の力を利用すればちんたら戦争する必要はないもんね」
数多の国々を征服したのさえガストラにとっては前哨戦に過ぎなかったというのか。三闘神とは幻獣の生みの親であり魔法の神だそうだ。帝国が幻獣から魔導の力を得ただけでこの有り様なのだ、神の復活などという戯言が実現してしまえばベクタとの戦力差がどうのなんて話では済まなくなる。
「じゃあ、早く封魔壁へ行ってヤツらを阻止しようぜ」
立ち上がったロックにミズキは曖昧な返事をする。俺たちが帝都を出た時にガストラはもう封魔壁へ向かいつつあったんだ。今から追っても、おそらく間に合わない。それでも諦めるわけにはいかなかった。
村長に礼を言って村を出ようとすると、僅かな荷物を持ってストラゴスが後を追ってきた。
「わしも行ってもいいかの？ 魔導士の一人として、力の使い方を誤った帝国を放っておくわけにはいかんゾイ」
「もちろんだ。歓迎するぜ、爺さん」
「爺さんって歳ではないと言っとるじゃろーが！」
相変わらず年寄りが好きなロックは短期間でこの御老体とかなり仲良くなったようだ。まあ、生粋の魔導士となれば同行してくれるのは非常にありがたい。
そういえばミズキは以前、ティナの素性を隠していた頃に「大戦時代の魔導士が生き残っているかもしれないし、生まれながらに魔法を使えるのはそれほど異常じゃない」というようなことを言っていた。もしかすると彼らの存在も関知していたのだろうか。彼女ならあり得ると思えてしまう。
ストラゴスが加わり、再びブラックジャックに向けて歩き出そうとしたのをマッシュが制した。なにやら建物の陰に走っていって、そこに隠れていた少女の襟を掴んで戻ってくる。……マッシュよ、猫じゃないんだからレディをそんな風に扱うのはどうかと思うぞ。
「離せよー！」
「このおチビさん、さっきからこそこそ追ってきてたぜ」
「誰がチビだと、リルム様に向かって！」
尾行されていることに誰も気づかなかったのかと互いの顔を見合わせていたら、ミズキが「あっ」と声をあげてリルムに近寄る。
「ファントムの魔石、忘れてた」
なるほど、バニシュをかけてついてきていたのか。むっと頬を膨らませつつもリルムは素直に魔石を返した。
詳しい事情は分からないが両親らしき人が見当たらなかったのでリルムはストラゴスに育てられていたのだろう。大人しく祖父を見送って一人で村に居残るつもりはないようだ。
「絶対に絶対に絶対にリルムも行くの！」
「絶対に絶対に絶対にダメじゃ！ 今回ばかりは本当に連れては行けん」
ゼッタイゼッタイと連呼し合う祖父と孫に誰も口を挟めない。幻獣捜索中この二人と行動を共にしていた仲間に意見を求めれば、ティナは連れて行ってもいいと思うと言い、ロックは危ないからやめた方がいいと言う。そしてマッシュが火に油を注いだ。
「子供は足手まといだろ。大人しく留守番してな」
「なにをー！ このキンニク男！」
「はっ！ 口だけは達者だな、お嬢ちゃん」
「ぐぬぬ……似顔絵かくぞ！」
「うわっ、やめやめ！」
すかさずストラゴスとロックが止めに入るがマッシュは不思議そうに眺めていた。似顔絵を描くぞって、変な脅しだな。
終わりの見えない論争に溜め息をついてミズキがマッシュをねめつける。
「子供っつーけどリルムと3歳しか変わらないガウを連れてきたのはどなた様でしたっけ」
「うっ……それは俺じゃなくて、カイエンが連れてくって言うから仕方なく、だなぁ」
「せ、拙者のせいでござるか？ 連帯責任ですぞ、マッシュ殿！」
「ええ〜？」
……そうか、リルムはガウと3歳しか変わらないのか。てっきりティナと同じくらいかと思っていたが、言われてみると確かに言動はかなり幼げな気もするな。しかしそもそもガウは何歳なんだ？
結局ストラゴスはミズキの「一人で置き去りにするよりそばにいた方がいいんじゃない」との一言で渋々リルムの同行を認めた。やはり彼女は人を動かすツボを心得ている。
更にリルムが加わった一行は改めてブラックジャックを目指し歩き出す。その個性派揃いの背中をしばし後ろから眺めていたら、振り向いたリルムが不思議そうな顔をしながらこちらに戻ってきた。
「どうしたの？ 色男」
「君、いくつだい？」
「10歳よ」
……それはまた、思った以上に……。ちょうどマッシュが城を出た頃に生まれたのだな、リルムは。そう考えると時の差があまりにも重たく感じる。
「変なの。置いてかれちゃうよ？」
呆然とする俺を残してリルムは軽やかに駆けて行った。10歳……ね。外見も性格も大人びてはいるのだが。
「さすがに犯罪か……。やめとこう」
「ダメなの？」
べつに疚しいことはないのだが急に声をかけられて驚いてしまった。見ればさっきまで前を歩いていたはずのミズキが隣にいる。いつの間に気配を消せるようになったんだ。
「レディなら誰でもいいのかと」
「レディなら、ね。私は幼児愛好家ではない。せめてあと六年は待ちたいところだ」
俺が結婚しろとせっつかれるのは要するに世継ぎを求めてのことなのだから。仮に口説き落としたとしてもあと数年を待たなければならないとなれば、子供を連れ帰ってもばあやたちの小言は増えるだけだろう。……本当はこんな風に女性を選ぶのも気が引けるのだが。
「でもさ、六年後でも33歳と16歳が犯罪なのには変わりないと思うけど」
「……」
結婚したいが結婚したくない私の苦悩を知ってか知らずか、ミズキは心に刺さる一言を投げて再び歩き始めた。
飛空艇に乗り込んで南を目指す。遠くに監視所が見えてきた辺りでティナが胸を押さえて踞った。
「どうしたの？」
セリスが彼女を支えて背中をさする。ティナは船の行く先を見つめて顔を蒼白にしていた。……この様子はまるでベクタを襲った幻獣が飛来した時のようだな。嫌な予感がする。
「大地が……叫び声をあげてる……」
その瞬間、空の上にあるというのに辺りから地響きに似た轟音が鳴り響いた。
「なんだありゃ！？」
「し、島が飛んでる……？」
甲板に出ていた一同で唖然として口を開けて見つめるばかりだった。監視所の東、封魔壁のあった洞窟を有する大山脈の島が、海から浮かび上がってきたのだ。崩れ落ちた大地と押し寄せてくる波で監視所は壊滅した。
「あれが“魔大陸”なのか？」
「そのようで」
事前にガストラの目論見を知っていたというミズキも実際にあの光景を目の当たりにするとさすがに動揺していた。
「魔導の始まり……ガストラは見つけてしまったのか」
「あそこに三闘神が？」
封魔壁の奥に封じられていた古の神々。島を空に浮かべるほどの途方もない力を好きにさせては本当に世界が滅びかねない。なんとしてでもガストラの手から剥ぎ取らねば。
しかしブラックジャックの船首を魔大陸に向けたセッツァーをミズキが制した。
「慌てて突っ込んで爆死したら困る。入念に準備しよう。すぐには向かわずに町へ行って物資の調達を」
「呑気に準備してる間に手遅れにならないか？」
「大丈夫だよ。いくらガストラでも三闘神の力を操れるようになるまでには時間がかかるはず」
「いやに自信があるんだな」
進路を変えるべきかと迷いつつ大陸を睨むセッツァーの肩を叩き、とりなすようにマッシュが続けた。
「ガストラと一緒に封魔壁へ向かったのは少数なんだろ？ 地上に残ってる軍の動きも気になるし、行く前にあちこち確認しておくのはいい案だと思うぜ」
「……そうだな。こうなると占領下にあった町から本当に兵を撤退していたのかも怪しい」
「バナン様たちも南大陸から出てもらった方がいいだろう」
このまま迎えに行ってナルシェにでも退いてもらうか。こうなってはリターナーを結集しても意味がない。魔法を使えるわけでもない兵士たちを魔大陸へ送り込んだところでいたずらに死者を増やすばかりだろう。本当に、我々が勇者にならなければいけなくなったわけだ。
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