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壊れない世界を願う


 西の山には虫系モンスターがやたらと多かった。巨大芋虫ボナコンなんて間近で見るとかなりキツい。こちらに気づくと例の@みたいな威嚇ポーズをとって消化液を吐きかけてくるのがすこぶる気持ち悪い。とりあえず、見かけ次第ティナに焼き払ってもらうことにした。
 物陰から飛び出してくるランドグリヨンも恐怖だ。こいつは黒いコオロギのような外見をしている。つまるところ巨大ゴキブリだ。これも見かけ次第ティナに焼き払ってもらうことにした。
 物理防御の高いアダマンキャリーも含めて魔法大活躍、さすが三闘神の像が奉られた山だといえる。いやでも三闘神の像が魔力を蓄えてるならむしろ魔力と魔防に特化した生物こそが集まってきそうな気もするのだけれど。魔法が効くのは謎だな。
 しばらく進むと、いかにも毒持ってますって毒々しい色の羽根を広げた不気味な鳥を発見した。虫が多いと鳥も増えるのだ。
「お、プワゾンベンヌ」
「あいつは嘴に毒があるゾイ」
「癒しの魔法も持ってますよね」
「うむ、羽根に癒しの力がある。起こす風はホワイトウィンドと呼ばれておるな。あれをわしらも使えんものかと研究しとるが、なかなか見せてくれんのじゃ」
 ここでさくっとホワイトウィンドを覚えておく以外には特に注意して見たことがなかったけれど、そういえば奴らは単体になると別の技を使っていた気もするな。
「周りに仲間がいないと使わないみたいですよ」
「なるほど。確かに、仲間がいないのならわざわざ魔力を風に乗せる必要はないからのう」
 ホワイトウィンドは自分のHP分だけ味方全員を回復するという技だ。ゲームでそういう状況になることはまずないけれど、パーティメンバーがいないならケアルの方が早い。たぶんモンスター側も事情は似たようなものだろう。

 更に奥へと進む。この辺りは虫が少ないようでホッとしたのも束の間、草むらを指してストラゴスが警戒を促した。 
「あの草はちと厄介じゃゾイ。ツタの先端に触れると石化してしまうんじゃ」
「マンドレイクですね」
 早速ティナが魔法を使おうとするのを止めた。さっきから彼女の炎に頼りっぱなしだ。ちょっと疲れが見え始めているのでファイア一発で焼き払えるかどうか不安だった。といってロックの魔法もそこまで強力ではないから瀕死の敵を残してしまう可能性がある。
「倒しきれないようなら先にアスピルとラスピルで魔力を削っておかないと危ない」
「そうじゃな、あやつらは弱ると強力な魔法を使ってくる」
 MPの回復ついでにティナたち三人でアスピルを乱射してからファイアで一掃し、マンドレイクには対処できた。吸収は名前が違うだけで単なるドレインなので私には効かないはずだ。しかし石化は困る。効くかどうか分からないのに試してみる勇気はないので、虫系同様にマンドレイクともなるべく戦いを避けたい。
「……さっきから思っとったが、モンスターに詳しいんじゃな」
「え? ああ、図鑑を見るのが好きだったので」
 これは本当だ。雑魚でもボスでもモンスターは作品ごとに特徴が出るので見ていて楽しい。……楽しかった、な。

 いつもなら戦闘に口出しするのも神経を使うのだけれど今はモンスター愛好家のストラゴスが一緒にいるので気兼ねなく話ができる。それは向こうも同じだったようで、周囲が安全になったのを見計らって「好きなモンスターは?」と聞いてきた。
「ナラカミーチェ、ドゥドゥフェドゥ、アンテサンサン……デボアハーン、リトワールビッヘも好きだな」
「名前だけで選んどるのー」
「見た目ならヴァージニティやココ、チャーミーライドですね。モンスターじゃなく幻獣だけどシヴァやセイレーン、ラクシュミも素敵」
 チャダルヌークを加えたいところだけれどあれの本体は悪魔のおっさんで肝心な部分はラクシュミの絵だものね。あと女神や神々の像で磔にされてる女性についてはさすがにここで言うのは控える。まりあ? あれは胸像だからなぁ。
 別作品を含めるならいくらでも挙げられるのにFF6は女性モンスターが減ったような印象がある。実際にはそんなこともないのだが。たぶん前作の三大露出女神ゼファーゾーンとカロフィステリとメリュジーヌのインパクトが強すぎたせいだろう。
 下半身丸出しで獣に馬乗りして鞭を振るう女性などというレベルの高いチャーミーライドも出ているので、この作品も充分変態ではある。出現場所がカイエンの夢だというのがまたなんとも泣けるよね。
 そう、出現場所が……あれ? カイエンの夢にしか登場しないってことはあれらはこの世界に実在しないのか? 名前を出したのはまずかったか。いやでも獣ヶ原にも出現するのだからカイエンの妄想が作り出したモンスターというわけではないはず。現にストラゴスは然して疑問を抱くでもなく感心したように頷いている。
「お前さん、マニアックじゃのー。挙げたモンスターのほとんどは古い神話にチラッと出てくるだけじゃゾイ。しかも見た目まで知っとる口ぶりじゃな」
 なるほど、神話や伝説上の生物とされているのかな。崩壊後に出没するカオスなモンスターたちも魔大戦時代には普通に生息していたのかもしれない。チャーミーライドもカイエンの妄想の産物ではなさそうだ。よかったねカイエン! よかったのかな。まあいいや。
「ガストラが幻獣の研究をするのに古代のモンスターまで調べ尽くしたらしくて、帝国の魔物図鑑は微に入り細に亘っているんですよ」
「それを読み放題とは羨ましい限りじゃ」
 私も今では向こうの世界が羨ましい。こっちじゃ自分の記憶以外に頼るものがなくて、見たい時にアルティマニアをめくることさえできないのだ。いっそ細かいことを覚えてるうちに図鑑を作るか。そしてリルムに絵を描いてもらっ……いやそれは危険だな。

 ストラゴスとモンスター談義に花を咲かせ、「機械オタクで魔物マニア……」とドン引きのロックが私からティナを離そうとしたり、なにやら暢気な雰囲気のまま歩き続ける。嵐の前のなんとやらって感じだろうか。
 辿り着いたのは洞窟の奥深くでありながら天井に空いた穴から日が射し込み、神々しい雰囲気を醸し出している広場。正三角形を作るように三体の石像が向かい合っている。
「こ、これは……三闘神の像!?」
 魔導の力を持つティナとストラゴスはその偉容を前に立ち竦むが、ロックは気にせず近くに寄って石像に彫られた文字を眺めていた。長い年月を経てほとんど消えかけているため解読はできそうにない。でもどうやら日本語ではないようでよかった。耳なし芳一みたいになってしまうものね。
「すごい魔力を感じるわ」
「三闘神は魔法の神……幻獣の創造主じゃ。幻獣たちは神の像を作って聖地に奉ったという伝説がある。ここがその場所なのじゃろう」
 女神像は実物よりも布が多めに作られていた。制作者である幻獣の規制が入ったようだ。個人的にあの姿態はエロチックさよりも神々しい美しさがあらわれていると思うので、布を増やす必要性などまったく感じないが。
「金じゃないみたいだが、何で作られてるんだろう。高く売れそうだ」
「さすが泥棒、そっちに目がいくのか」
「魔力なんて俺には分からないからな。そういうミズキは?」
「安易に胸や尻を大きくせず腰から太股にかけて曲線の美しさで見事に母性を表現していますね」
「……」
 なんだその忌まわしいものを見る目は、失礼なやつだな。
 魔神と鬼神は正直いまひとつ覚えていなかったので「あー、こんな見た目だっけ」と新鮮な気持ちで眺めることができた。いやだって、女神の方が記憶に残ってるのは仕方ないでしょう。

 幻獣たちは三闘神の像に宿る魔力に引っぱられて大三角島にやって来たようだ。封魔壁には本物の三闘神像があるというのになぜこちらへ来たのだろう。どうにかしてゲートを越えたいという願いも無意識下に残っていたのかな? それでとにかく封魔壁から離れつつ、でも像の魔力に惹かれてここへ来たとか。
 一番でかい魔神像を眺めていたロックがふと私を振り返る。
「魔導工場でケフカが『三闘神の復活』とか言ってなかったか?」
「あー、うん。言ってたね」
「三闘神は幻獣を生んだあと、どうなったんだ?」
 薄々ながらケフカの思惑が分かってきたのか、今度は不安そうな顔でストラゴスに尋ねた。
「終わらぬ戦いに疲れた三闘神は互いの体を石化させて封じ、眠りについたという。その場所が封魔壁の奥であると伝説は伝えとる」
「封魔壁が幻獣界と繋がっているのも、その三闘神の魔力によるものなのかしら?」
「ってより三闘神の魔力で結界を張って幻獣界を切り離してるのかもね」
 幻獣は元々こちらの世界の住民で、幻獣界ができたのは三闘神が石化したのよりもずっと後だ。そもそも封魔壁は三闘神の像を隠しておくためにできたのではないだろうか。
「とにかく、幻獣たちはこの奥にいるはずだ。行ってみよう」

 ロックとストラゴスは先へ向かい、ティナは動こうとしない私を不思議がってこちらに戻ってきた。そろそろ来るはずだ。どっから現れるのだろうと辺りを見回したタイミングでちょうど天井からタコが落ちてきた。
「へっへっへ、このキンピカの像はオレ様のものだ〜。これでジークフリードの兄貴に顔向けできるよ〜ん」
 それって偽者の方だよね? とは思うのだけれどオルトロスの場合は崩壊後のコロシアムで本物と御対面しているはずなので、誤解が正されないということは本当に本物の舎弟なのだろうか。
 本物のジークフリードもお宝を集めている? だったら一匹狼くんの言う兄貴も本物のことなのか? テュポーン先生はそれら全員の先生なのだろうか? ああ、謎が深まる。
「お〜、光ってる光ってる。すんっ、ばらしい〜!」
「てめえ、オルトロス! また出やがったのか!」
 像に頬擦りして悦に入っている紫のタコに気づいてロックたちが駆け戻ってきた。ティナは呆気にとられている。彼女にとってはレテ川以来の再会だ。べつに嬉しくはないだろうけれど。
「しつこい? しつこい? だってタコだもん!」
 とりあえずオートボウガンをぶっ放す。即座に反応したオルトロスは八本足で華麗に矢を叩き落としてくれやがった。続いて唱えられたティナのファイアも余裕を持ってかわして行く。陸上なのに身軽なタコだな。
 こちらの攻撃をひょいひょい避けながら少しずつ近づいてくる姿はわりと不気味だ。アクアブレスなら私が無効化できるけれど足場が悪いのでマグニチュード8は使われたくない。さっさと片をつけるべく四人で総攻撃をかけると、さすがに焦ったのかヘイストとプロテスを自分にかけ始めた。もう一息じゃ。
「今、ムカつくタコ野郎と思わなかった? ごめんね、ごめんね」
「悪いと思うなら死ねばいいのに」
「そこまで!?」
 ティナがデスペルをかけオルトロスが強化を張りなおすタイミングに合わせて私とロックとストラゴスが攻撃を仕掛ける。だんだんダメージが蓄積してきてムキーッとゆでダコになった頃合いに、何かが私の腰に抱きついてきた。

「おじいちゃん、ミズキ! 来ちゃった……!」
「り、リルムか。ビックリした」
「こりゃ、家にいろと言ったじゃろ!」
 闖入者が現れたので戦闘が一旦止まり、ぜえはあと息を荒げながらオルトロスは休憩している。今ボウガンを打つのは鬼畜すぎるかな。
「お絵描きならなんでもこいのリルムさま、登場〜! ねえねえ、あんただあれ?」
「だあれとは失礼な! このオルトロス様に向かって!」
「リルム様にオルトロス様……わけが分らなくなってきたな」
 緊張感を削がれてロックが戦闘体勢を解いてしまう。ティナが困惑の目を向けてきたので私もオートボウガンを降ろして「一旦休止」と告げた。殺し合いをするわけではないのだし、のんびりいくとしよう。
「ねえねえ、オルちゃんの似顔絵、描いてあげようか?」
「オ、オルちゃん!? 失礼な、このオルトロス様に向かって! 似顔絵なんぞいらんわい」
 ガビーンといった感じのオーバーリアクションを見せるリルムの後ろで密かにストラゴスが慌てている。それだけでこれまでにサマサで起きたであろう似顔絵騒動が目に浮かぶようだ。
 でも、趣味であり特技でもあるお絵描きが魔法の才能のせいで禁じられるのは可哀想なことだよな。
「えーん、えーん! あげないんだもん……描いてあげないんだもん。いいんだもん……リルムここから飛び降りてやるんだもん」
「そんなことしちゃダメ!」
 本気で慌てて駆け寄るティナに反してこの後の展開が見えているであろうストラゴスはオルトロスに合掌しつつさりげなく距離をとっている。泣き落としもリルムの特技であるようだ。
 こそこそと内緒話をするティナとリルムをニヤニヤしながら見守っていたら、ロックに咎められた。だからその変態を見るような目をやめてください。

 嘘泣きしていたリルム団長の即興演技指導を受けたティナはちょっと深呼吸してオルトロスに向き直り、いつにない口調で怒ってみせる。
「どーすんの? こんな小さい子いじめちゃって! 何かあったら許さないわよ!」
「そ、そんなあ……じゃあ、どーすりゃいいのよ?」
 かわいい女の子に怒られてしまったオルちゃんはといえばなぜか私に助けを求めてきた。とりあえず「描いてもらっちゃえば?」と返事をしたらストラゴスとロックも乗ってくる。
「そ、そうじゃの。リルムは絵がすごーくうまいゾイ」
「カッコよく描いてもらえるかもしれないぜ。この、この、にくいねえ」
 実際この不気味なタコを、可愛くはともかくとしてカッコよく描ける人はいるのだろうか。天野喜孝大先生にさえ無理なことを。しかしとうのタコは触手を躍らせて乗り気になったようだ。
「……オルちゃん、似顔絵、描いてもらっちゃうもんねー!」
「えへへー。あたしの得意技に任せてよ!」
 セクシーポーズをとっているオルトロスもなかなかの見物だけれどせっかくなので生で見るスケッチを興味深く眺めた。
 紙も絵具も使わず鞄から取り出した魔法の筆一本をリルムが宙に滑らせると、筆の軌跡に色がついて残り、本物そのままの質感を伴って立体的な絵が浮かび上がった。写真のような……いや、3Dホログラムでも見ているような気分だ。
 変な話だが、この魔法としか言い様のない出来事が科学の力によって実現されている、あちらの世界の技術力に感動してしまった。
「はい、完成!」
 できあがったオルトロスは触手を波打たせてタコ踊りを披露している。リアルな絵どころでなくオルちゃんがもう一匹爆誕したとしか思えない実在感を放っており、ロックとティナはちょっと引いていた。そしてオルトロス当人もまた別の意味で衝撃を受けていた。
「そんな……それじゃまるで……まるっきりタコじゃん!」
 いや、タコだし。何だと思っていたんだ。己の肉体になんらかの自信を持っていたらしいオルトロスはおまぬけぶりまで余すところなく再現された緻密な肖像画にショックを受けて固まり、追い討ちをかけるかのごとく自分の似顔絵にぶん殴られて崖から落下していった。
 ……えっ、あれ実体があるの? てっきり魔法効果でダメージを与えるのだと思っていたのだが。

「ね、リルムも立派に戦えるよ。ジジイより役立つんじゃない?」
「じ、ジジイ!?」
 ところでこのリルムの達者な口は誰の影響なのだろう。ストラゴスではないと思うのだけれど。やはり近所のガキどもか? のびのび育ってるのはいいことだとしてもせっかくの美貌を口調で損なうのは如何なものか。でもギャップが萌えるという意見もありそうで悩むところだ。
 考え込んでしまった私を誤解したらしく、ティナはそっと私の手を引いて上目遣いに見つめてきた。
「追い返すわけにはいかないわ。連れて行ってもいいでしょう?」
「あー、まあ、保護者の意見次第かな。どうせそんな危険もないし、私は構わないと思うよ」
 リルムにティナと純真無垢な二人の視線を受けてストラゴスはうぐぐと言葉に詰まった。
「む〜〜……。はあ、分かったわい。まったくしょうがないヤツじゃ」
「やったー!」
 飛び跳ねて全身で喜びを示すリルムにつられて、ティナもばんざいして喜んでいる。「あんなの見せられちゃ反対できないよな」と呟くロックにこっそりと同意する。
 愛情を知る手がかりが弱き者への保護欲から掴めるのはマドリーヌを拾ったマディンの記憶が根底にあるせいだろうか。助けたい、守りたい、失いたくない……それは彼女が始めて抱いた欲求で、その想いをより強固な意思に変えてくれるのは紛れもなく世界崩壊だった。
 失ってみなければ得られないものもある。手を離して初めて知る心もある。何も賭さず何もなくすことなくすべてを丸くおさめたいなんて虫のいい話じゃないか。でも、それでも……。
 私は、どうしたいんだ。ハッピーエンドを迎えるために今ある世界を見殺しにするのか、今まさに大切だと感じるものを守るため世界を不確定の未来へと投げ込むのか。どっちにしろ後悔は残るだろう。だから、好きにすればいい。




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