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汀で見た夢


 高熱を出してベッドから起き上がることができなかった。真昼の砂上に裸で寝転がっているような、皮膚をじりじり焼かれているかのごとき苦痛に苛まれて眠れもしない。だが俺にとってはそれも日常の一部だ。
 生まれた時からずっと、いつ死んでもおかしくないと言われていた。いっそ死んだ方がマシだと願った日もある。だが、声も知らない母さんがその命に代えて俺と兄貴をこの世に送り出してくれたのだと、それを思うと死にきれなかった。
 どうせ死ぬならば共に手を取り合って世界に踏み出した兄のために。せっかく生まれて何も為せず消えていくのは嫌なんだ。そんな負けん気だけで生きながらえていた。
 鍛練に明け暮れて体力を作り、やっと人並みに暮らせるようになっても兄貴が普通にできることを死ぬ気で取り組まなければマトモにこなせず、双子のくせに何度も足を引っ張って有望なエドガーの歩みを妨げた。
 そんな役立たずの俺でさえ親父が死んだ途端に王子として担ぎ上げられ、兄貴を押し退けて王位につけようという動きが起きる。いつ死ぬかも分からない俺をご立派な椅子に座らせておけば、じきに権力を自分のものにできると誰かさんは考えたんだろう。
 俺はずっと誰にも必要とされないモノだった。それがいつの間にか、居てはならない人間にまでなっていたんだ。ただ生きているだけで兄の命を脅かしていた。
 他人の心など想いもしないやつらに嫌気が差して、俺には家族だけがいればいいと強く思う。兄貴が幸せならそれだけでよかった。城を出て、国なんか欲しいやつにくれてやってただ親子三人で暮らせたら親父だって死なずに済んだのに。
 でも兄貴は違っていた。俺が病弱だったばかりに幼い頃から玉座を継ぐ義務を負わされていたエドガーは、国を捨てることなど考えもしなかった。自分勝手で浅はかなのは俺も同じだ。兄貴を巻き込んで自分の願望を正当化しようとしていただけなんだってようやく気づいた。
 だから俺は、逃げるのはやめにして強くなることを望んだ。もっと強く、どんなに離れていても兄貴を守れるくらい、フィガロごと支えてやれるくらいに、強くなって――。

 夢を見ていた気がする。ガキの頃の夢だった。体中がずたぼろになっているせいだろうか。昔は熱と痛みを着て暮らしてるようなもんだったからな。
「……う……いっ、てぇ……」
 とりあえず生きてるみたいだ。バレンの滝を落ちてる最中に空飛ぶ魚みたいなモンスターに襲われた時は焦ったが、あいつを足蹴にして落下の勢いを殺せたので助かったとも言える。
「うお、服が破れてら」
 水の勢いに耐えられなかったのか? 服だけで済んだことに感謝だな。しかし残ってたポーションや携帯食料は全部どっかへなくしてしまった。ミズキが言ってた「また荷物を落とすかもしれない場所」ってのはここのことだったのか。
 ああくそ、財布もないや。モブリズに着いたらタダで船を借りなけりゃならないがそんな美味しい話は転がってないよなあ、なんて一人で頭を捻っていたら、どこからか視線を感じた。慌てて立ち上がって辺りを見回すと、岩陰から妙な子供が俺をじっと見つめている。
 服の成れの果てとしか言えないようなボロ布を体に巻きつけ、細い手足を折り曲げて屈んでいる少年は一見すると獣のようだ。
「君は……?」
 声をかけたら、警戒心もあらわに歯を剥いて駆け去ってしまった。
「変なやつ……おっと! そうだ、カイエンは無事か!?」
 かなり下流まで来ているようで川の流れは緩やかだ。水の中を歩いて付近を探し回ったら、ちょっと離れた岩場にカイエンが引っかかっていた。鎧が壊れてあちこち擦り傷を作った他はなんとか無事みたいだ。
 それにしても、つい先日も似たようなことがあった気がするんだが、水難の相でも出ているのか俺は。いや二度もこんな目に遭って助かったなら逆に幸運だと思うべきか?

 目を覚ましたカイエンと共にモブリズを目指して荒野を歩く。今どの辺りにいるのか分からないからなんとなく東っぽい方角へ向かうという大雑把な考えだ。ミズキがいたら嫌味を言われたのは間違いない。
 あいつはどうしてるだろうか。また大きすぎる悩みを抱え込んで一人くよくよしてるんじゃないか、でなけりゃここが好きなゲームの世界だからって無防備をさらけ出して痛い目にあってないか、心配し始めるとキリがない。
 あんな手のかかるヤツから目を離すのは嫌だったが今度ばかりは別行動をするしかなかった。どう考えても、ミズキが無事にバレンの滝を越えられたとは思えない。
 あいつはシナリオとやらにばかり気を取られて現実の厳しさをすぐに忘れてしまう。俺たちが“死なない”と予め知っているのなら自分の安全こそを心配すべきなのに。無理して一緒に行動して、また……俺を庇って飛び出してきたりしたら困るんだよ。
 そんな余裕ないくせに他人の心を想いすぎてどうしようもないことで傷ついて、こっちが逆に不安になるくらい自分の存在を軽視している。やりたいことや欲しいものよりも他人のため世界のために何をすべきかと、義務や責任ばかり考えて孤独になって、まるで兄貴のようだ。……放っておけない。
 早くサウスフィガロへ行かなくては。

 当てずっぽうで歩いてたわりには昼過ぎにモブリズの村へと到着した。なんだかんだでうまくいくようにできてるんだと言われるとこの時ばかりは信じてしまう。
 俺もカイエンも服がボロボロだったんで驚かれたが、村の人たちが憐れに思って着替えをくれたうえに滝を越えてきたと話したら面白がって飯まで出してくれた。
 シャドウにも聞いた通り、この時期にしては珍しい大雨のせいでバレンの滝は水量が凄まじく、川もあちこち決壊して南北を繋ぐ道はすべて塞がっているらしい。俺たちが来る数日前に村の近くで倒れていたという若者が宿で寝込んでいたが、彼もバレンの断崖の下で大怪我を負っているところを村の女性が発見したそうだ。おそらく足を滑らせて崖から落ちたんだろう。
 今のモブリズは陸の孤島だ。お陰で帝国の目を逃れてもいる。しかし村の桟橋に繋がれているのは近海で漁をするための小舟ばかりで、残念ながらフィガロへ渡れるほどの船はこの村にないようだった。
 どうしたもんかと悩みつつ、宿に戻って飯の礼にカイエンと手分けして掃除やら屋根の修繕やらを済ませていたら、寝込んでいた青年が目を覚ました。
「よう、調子はどうだ? 飯を食うなら女将さんを呼んで来ようか」
「いえ……、旅の御方ですか」
「そうなんだ。来たはいいが帰れなくて困ってるよ」
 彼はどうやら頭を持ち上げるのも辛いようで、無理して挨拶しようとするのを慌てて止めた。酷い怪我だとは思っていたが、よくよく見ると剣による傷も多いのが分かる。帝国の負傷兵かもしれない。
「すみま、せん、机の上に手紙が……、取っていただけませんか」
「ああ、これか?」
 全身包帯まみれの彼は腕を動かすのも辛そうだ。ついでだから手紙を広げて読み終えるまで目の前で持っていてやった。盗み見るつもりはなかったんだが、その時ちらりと内容が目に入ってしまった。
 彼はマランダの兵士らしい。あの町では帝国が兵の徴集を行ったが、彼がドマ攻めに参加していたならここにいるはずがない。やはり脱走兵かな。
「返事を書くなら俺が代筆しようか?」
「いえ、そこまでしていただくわけには……」
「気にすることはない。どうせ暇だからさ」
 かなり遠慮していた彼は結局、小遣い程度の報酬を俺が受け取るということで納得してくれた。こんな些細な仕事で金をもらうのは気が引けるけど無一文の身だからありがたいのは確かだ。

 返事の内容から、マランダで徴集された彼がドマとの戦いを嫌って陣地を脱走したこと、追手の帝国兵に重傷を負わされたことを知った。手紙の相手は故郷にいる恋人だ。頼まれるまま「春には帰る」と書いてしまったが彼の具合を見る限りでは難しいだろう。
 簡潔な手紙を書き終えたところに屋根の修繕を終えたカイエンが戻ってきた。神妙な顔で俺の手元を覗き込んで何を言うかと思えば。
「マッシュ殿、意外にも綺麗な字でござるな」
「まあね。意外にも上等な教育を受けてたんだよ」
「い、いやその、意外は余計だったでござる!」
 別にいいけどさ。机にかじりついてるしか能のないヤツだと思われるよりはな。
 書き終えた手紙を伝書鳥に預けに行く。料金は彼にもらった1000ギルから出した。釣りの500ギルくらいなら使い走りの礼にも丁度よくなる。ついでにどこかの町から迎えを寄越してもらるよう連絡したいと頼んでみたが、船は帝国が根こそぎ押さえているので無理だと断られてしまった。
「そうさな、潜水服があれば蛇の道を通ってニケアへ行けるかもしれん」
「蛇の道?」
「海の中に道があるのさ。かなり激しい流れだが、バレンの滝を越えられるあんた方なら平気だろうよ」
 また水の中か……。潮流にうまく乗れれば泳がなくてもニケア近くまで流されるらしいが、海を渡るとなるとさすがに息が持たないよな。

 ところで、郵便屋には確かに立派な置き時計があった。まさかとは思いつつ人の見てない隙に調べてみると、上げ底の中にエリクサーが隠されていた。反応に困って思わずカイエンを振り返る。
「どう思うよ?」
「う、ううむ……傷薬を買う金もないことを思えば、喉から手が出るほど欲しいでござるが」
 あの負傷兵にもらった500ギルでは買えないよな。盗みはさすがに気が引ける、でも見てしまったら誘惑は断ち難い。
 なんとかして蛇の道を渡るにせよ獣ヶ原へ戻って他の手段を探すにせよ、多くの危険が待っているはずだ。エリクサーが一粒あれば凄まじい安心感がある。
「ん? なんでそんなところに薬が?」
「うわっ!」
 カイエンと二人でうんうん悩んでたら背後から声をかけられて仰天した。さっき蛇の道について教えてくれたおっさんが俺の頭の上から時計を覗き込んでいる。ま、まだ盗ってないぞ、と焦るってことは下心があるってことだな。
「誰かが隠して忘れたのかねぇ。欲しいなら持っていっていいよ」
「え!? いやいや、こんな高価なもんをもらうわけには、」
「こんな老人と子供ばかりの村より、あんたらの方が必要だろう」
 慌ててる間に、自分たちは伝書鳥で注文するポーションで事足りているからとエリクサーを受け取らされてしまった。……交通手段が断たれていてよかったと思ってしまう。こんな長閑な村に帝国のやつらが来た日には何もなくなるまで奪い尽くされちまうだろう。
 いずれ手が空いたら恩返しに来よう。俺とカイエンは密かにそう約束し合った。

 こうなったら筏でも作るしかないかと獣ヶ原へ出て木材を探すことにした。普通なら最短距離で抜けたい危険な荒野だが、今の俺たちにはエリクサーがあるんで安心して探索できる。
 村から南へ降ってうろうろしていたら川辺で見た子供がまた現れた。今朝よりも気が立っているようで、外見そのままの獣みたいな唸り声をあげてこっちを睨んでいる。
「がうー! ウウウ……がう! よそもの、けものがはら、でていけ!」
「お、落ち着かれよ」
「腹でも減ってるんじゃないか?」
 モブリズでもらった干し肉を一切れ差し出してやると、そいつはものすごく警戒しつつ顔を突き出して匂いを嗅いだ。途端に腹の音がぐーと鳴る。そりゃ見知らぬヤツの手からは食わないよなと思い直して投げてやろうとしたら、手を叩かれて肉を奪われた。可愛くない。
「妙な子供でござるな。拙者はカイエン、こちらはマッシュ殿」
 律儀というか何というか、カイエンはこの野生児にも礼儀正しく名乗ってお辞儀をした。少年はというとそんなカイエンを気に留めず干し肉をペロッと平らげ横柄な態度で近づいてくる。
「マッシュ、カイエン。もっと、くいもの、くれ!」
「もう無いよ」
「じゃあ、さがしてこい」
「なんで俺が探さなきゃいけないんだ」
 ボロ布一枚羽織っただけで服は着てないし言葉もたどたどしく、人間らしい生活をしてるとは思えない。孤児かもしれないな。
「お前、モブリズに行ったらどうだ?」
 あそこなら誰かしら面倒を見てくれるだろう。子供も結構いたから、今ならまだ人間の中に戻れ……って、こっそり干し肉を盗ろうとしてるし!
「おい!」
 慌てて鞄を押さえてそいつの手を捕まえようとしたら、ケラケラ笑いながら逃げ出した。遊んでるつもりらしい。
「やーい! のろま、のろまー!」
「うるせえな!」
 狼みたいに素早くて俺でも追いつけないくらいだ。そうじゃなきゃ獣ヶ原では生き残れないんだろうと思うと何やら胸が痛む。

「それはともかく、君は何者でござる?」
「ござる? ござる! ござる! ござる! ござる! ござる! ござる! ござる! ござる!」
 その独特の口調が琴線に触れてしまったようで、標的を変えた少年は子供らしい無礼さとしつこさでカイエンに絡んだ。カイエンも怒鳴り散らせばいいものを黙って俯いているので少年はますます図に乗って囃し立てる。
 なんていうか、本人は遊んでるだけで悪気はないんだろうけど……。
「おこった? カイエン! おこったのか? カイエン! おこったのか? カイエン! おこったのか?」
「お前ね、ちょっと来い」
 はしゃぐ子供を引きずってカイエンから遠ざけ、彼が大切な人を亡くして悲しんでいることを教える。ちゃんと理解できたとは思えないが、からかってはいけない相手だということだけは感じた様子で、少年はちょっとしおらしくなった。
「カイエン、ガウわるいやつ。おいら、わるいやつ」
 歳や背格好はカイエンの息子さんと同じくらいだろうか。殊勝に落ち込んでいるのを見るとこっちも悪い気がしてくる。カイエンは目を閉じて一度深呼吸し、次に目を開けた時にはおおらかに笑って、ガウというらしい少年の頭を撫でた。
「なに、いつまでもくよくよしておれぬ! お陰で元気になり申した。どうだろう、拙者たちと一緒に来ては?」
「おいおい、子供だぜ」
「しかし身寄りもないようでござる」
「うーん。まあ、見たところミズキよりは戦力になるだろうけどな」
 獣じみた身のこなしはさっき充分に思い知らされた。子供を戦争に連れて行くのは危険だけど、ここに置き去りにするのだって似たり寄ったりだろう。何よりガウ本人が期待に満ちた目で仲間になりたそうにこちらを見ている。
「……仕方ないなぁ」
「ガウ、いっしょにいく? なかま、なかま!」
「よろしくでござる、ガウ殿」
 俺は自分の家族というものを持たない。継承権争いなんてのはもう御免だから、一人で陰ながら兄貴を支えている方がいい。でも、なんだか分からないなりに跳び跳ねて喜ぶガウと、微笑ましげにそれを見守るカイエンを見ていたら、堪らなく切ない気持ちになった。

 連れて行ってもらえるのがそんなに嬉しいのか、ガウは俺たちの手をぎゅっと握ってぴょんぴょん跳び跳ねた。
「ガウ、プレゼントする! ほしにくの、おれいする。ピカピカ、ピカピカ! ピカピカのたから!」
「宝って? そんなにピカピカしてるのか?」
「ござるはピカピカすきか」
「ござるは、あっちだ!」
 慌ててカイエンを指差したが俺たちを引っ張るのに夢中でガウは何も聞いちゃいない。
「みかづきやまのてっぺん、ピカピカ!」
「ふむ。ならばその三日月山とやらに行ってみるとしよう」
 隊長気取りで先頭に立ったガウはふんぞり返って南へと歩き出した。やれやれ、早くサウスフィガロへ行かなきゃならないってのに……たぶんミズキはこの展開も承知してるんだろうけど。だったらちょっとくらいは待っててくれるか。
 と、立ち止まって溜め息を吐いてた俺のもとにガウが後ろ向きに歩きながら戻ってきた。変な風に器用だな。
「ござる、はやくこい。おいてくぞ」
「だからござるは俺じゃないっての」

 幸いにも三日月山はモブリズからそう遠くなかった。ガウの縄張りらしく狂暴なモンスターもいないし、山頂まですぐの小さな山だ。
「で、ガウ殿、どこにあるのでござるか?」
「ガウ、わすれた!」
「おい〜……」
「仕方ないでござるな。探してみましょう」
 てっぺんのどこかに埋めたというので仕方なく三人で手分けして辺りを掘り返す。何やってんだろうと我に返ったら負けだと思う。
 なんとなく情けない気分を振り払いつつ地面を掘っていたら、後ろからガウに背中をつつかれた。言い出しっぺがもう飽きたのか、まったく。
「なんだよ。見つけたか?」
「ガウ!」
「うわあっ! ……あー! 俺の財布が!」
 後ろから脅かされて仰け反った拍子に財布を落としてしまった。更に運悪く岩にぶつかって崖っぷちへと転がっていく。慌てて伸ばした手も虚しく宙を掴み、手紙の礼にもらった500ギルがまるごと消えてしまった。取りに行くのは無理そうだ。
 悪戯が見事に成功したガウは腹を抱えて笑い転げた。
「お、お前ってやつは!」
「まあまあ、マッシュ殿。相手は幼子でござるよ」
「うが〜〜〜〜っ!」
 エリクサーをカイエンに預けててよかった。あれも落としてたら泣くに泣けない。今だって泣きたいけどさ。

 まだひっくり返って笑っていたガウだが、唐突にピョンと起き上がって地面の匂いを嗅ぎ始めた。そしてすごい勢いでその場を掘り始める。まるっきり犬だ。もうちょっと行儀よくさせなきゃいけないな。
「おたから! おたから!」
「おお、見つかったか?」
 ガウが誇らしげに掘り出してカイエンに渡したそれは、なんていうかどう見ても……。
「単なるガラス玉でござる」
 身も蓋もないことを言うカイエンから受け取ってそのガラス玉、もとい“おたから”を眺めてみる。
「えらく頑丈だな。それに頭がスッポリ入るぜ」
 かなり大きいので被ってみると首元までおさまってしまう。どこで拾ったのか知らないが、これはおそらく専用の服があるはずだな。何かを繋げるべき留め具がたくさんついている。
「モブリズの漁師が潜水服を持ってたんだ。こいつを取りつければ海を渡れるかもしれないぞ」
 何の因果かヘルメットは三つ。ってことは、最初からガウも“仲間”なんだろう。
「また水の中でござるか……」
「同感だが、そいつは言わない約束だぜ」
 げんなりしているカイエンをガウが不思議そうに眺めていた。……そうやって並んでると親子みたいだな。
 父親になるってのは、どんな気分なんだろう。親父が死んですぐの頃はよくそんなことを考えた。そしてカイエンと出会って思うようになったのは、愛しい我が子が自分よりも先に逝ってしまうなんて、一体、どれほど……。俺には一生、縁のない気持ちだ。
 身を切るよりも辛い悲しみのあとで、まだ誰かを想える。愛情ってやつはとてつもない力を秘めている。ミズキがバレンの滝を迂回しようとしなかったのはきっと、カイエンをこいつに会わせるためだったんだな。




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