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 うっかり乗ってしまった幽霊列車から脱出しようとしている時、同行者に元列車強盗が混じってるってのは、どうなんだろう。
 心強い仲間がいてありがたく思うべきか? それとも「こんな時に泥棒が一緒なんて」と不安がるべきなのか。
 ロックがいてくれたら同じ泥棒の視点でミズキが信用できるやつかどうか判断してもらえたのにな。

 まあ、強盗という部分に目を瞑れば何度も列車に乗ったことがあるミズキの案内が心強いと言えなくもない。
 魔列車を止めるために何をすればいいか、それをやるためにどこへ行けばいいか、彼女はよく分かっているようだ。
 あと、弄っちゃいけないスイッチやなんかも分かってるみたいだ。さっき勝手に仕掛けを触ったら凄まじく怒られたからな。


 列車内の探索をミズキとシャドウに任せて俺は好きなように車両の中を観察していた。
 外から見ると無骨で雄々しい“鉄の塊”って感じだったのに内装は正反対の印象だ。
 高級感のある椅子が並び、通路には赤い絨毯が敷いてある。サウスフィガロにある礼拝堂みたいに神聖で厳粛な空気さえ感じられた。
 なんか、ばあやの説教を思い出しちまうぜ。

 ガキの頃の記憶がいろいろと蘇っていたところで、視線を感じて振り返る。ミズキが不審そうに俺を見つめていた。
「何だ?」
「列車に乗ったくらいで年甲斐もなく何をはしゃいでんの? とか思ってませんけど」
「思ってるだろ、それ」
 べつにはしゃいでるわけじゃないって。……いや、ちょっとだけ、はしゃいでたか。

 仕方ないだろ、こうして偶然ドマに来なけりゃ俺は列車なんか見る機会すらなかったんだ。そりゃあ少しは浮かれちまうさ。
 兄貴が一緒だったら俺よりもっと喜んだろうになあ。

 こんな風にでっかい列車が砂漠を走ってたら楽しそうだ。フィガロにも作れないもんかな?
 鉄道が開通したら町との間に人の往来も増えるし、砂漠のド真ん中にある城でも少しは賑やかになるかもしれない。
 でも……車を走らせるのには線路がいるんだよな。砂漠に鉄の道なんか敷いたら城が浮上する時の邪魔になっちまうか。
 せっかく兄貴好みの巨大な機械だってのに残念だ。


 カイエンは機械が苦手らしく、決して何も触ろうとしないわりに落ち着かない様子で辺りをキョロキョロしている。
 気づかず仕掛けに触っちまうのが怖いんだろう。そんなカイエンを観察してたら、彼は不意に振り向いた。
「マッシュ殿、なにやら不穏な気配が……!?」
「へっ?」
「う、後ろでござる!!」
 言われて視線を追うと、なぜか目が据わった乗客がじわじわとこっちに近づいて来る。
『にが……さん……』
 魔列車は死者を霊界に運ぶ……ってことは、その乗客は幽霊だよな? つまりあいつらは……。

「ミズキ、シャドウ、逃げるぞ!」
 俺の声を聞くなりミズキは返事もせず即座に車両の扉を蹴破ってデッキに出た。に、逃げ足がめちゃくちゃ早いな。
 しかし俺たちが追っかけると、彼女は前方車両への通路で固まっていた。
「おい、とにかく機関室の方へ逃げようぜ?」
「……こっちも無理」
 どういうことだとミズキの向こうに視線をやれば、車両を埋め尽くすほどの悪霊が俺たちを取り囲んでいた。
 マジかよ。

『逃がさん……』
『逃がすな……』
『逃がすな……』

 前も後ろも車両の中にも悪霊の群れ。ひとまず屋根に登って緊急避難する。悪霊どもは一時こっちの姿を見失ったようだが、すぐ梯子を見つけてしまった。
 まったく、今まで静かだったのになんで追っかけて来るんだ、と考えて思い出したのは死神に追われているというシャドウの言葉だった。
「まさか、俺たちを殺して霊界に連れてこうってつもりか?」
「やはり無賃乗車はまずかったでござるな……」
「運賃代わりに命を払えってわけですかね」
 このままじゃ本当に死者の仲間入りをしちまうぜ。

 とりあえず梯子を外して落としたが、相手は悪霊だ。いずれどうやってか屋根まで登ってくるだろう。
「外に出られたんだし、いっそのこと飛び降りるか?」
 下を見れば魔列車はチョコボとは比べ物にならない猛スピードで疾走している。下手すりゃ大怪我だが、シャドウとカイエンの身体能力なら大丈夫だと思う。
 ミズキも……元列車強盗だったら走ってる列車から飛び降りたことくらいあるよな、きっと。

 案の定、地面を覗き込むミズキの顔に恐れの色はない。だが「飛び降りるのは賛成できない」と彼女は言った。
「外にいるのに方角が分かんないのが引っかかる。ここはたぶん“この世”じゃないんだ。霊界に行くための道、異次元空間っての?」
「黄泉路ですな」
「そう、それそれ」
 言われてみりゃ猛スピードで走ってるはずなのに風もないし、月も星もないのにやたらと明るくて妙な感じはしていた。
 異次元空間ねえ。列車から離れたところで“現実世界”には帰れないわけか。さっきのプラットホームが黄泉路の入り口だったとしたら、帰るには次の駅で降りるしかなさそうだ。

 俺たちが立っている屋根の縁に無数の手がかけられている。
 たとえ悪霊相手でも気合いで戦えそうな気はするんだが、あの数が相手じゃあな。囲まれると打つ手がない。
 万事休すか、ってところでシャドウが口を開いた。
「ここに至るまでカーブはなく、この先にもない。列車は常に一定の速度を保っている」
 ん? 何の話をしてるんだ。

 困惑する俺とカイエンをよそに、ミズキはシャドウの言わんとしていることが分かったらしい。
「幽霊列車だからって脱線しない保証はないっすよ」
「なら他に方法があるのか?」
「……ないでーす」
 そう言うなりミズキは屋根から飛び降りて後ろの車両に向かった。
「おらぁ幽霊ども! お前らの座席はどこだ!? 金目のモノ寄越せ〜!」
 どうやら悪霊を誘き寄せてるみたいだ。脅し文句が最低だが。

 死んでいても強盗の被害に遭うのは嫌なのか、屋根に群がっていた悪霊は俺たちを無視してミズキを追っていった。
「今のうちに向こうの車両に跳び移るぞ」
「え、あ、うん」
 先にどういう作戦なのか説明してほしいな。


 指示にしたがってひとつ前の車両に移動する。そしてシャドウは車両の連結部分にあるハンドルを指差した。
「こいつを回せば後方車両を切り離せる」
「……へえ、そうなのか」
 元列車強盗のミズキならともかくなんでそんなことを知ってるんだ、と思いつつ俺もカイエンもなんとなく口を噤んだ。
 シャドウってもしかして……いや、まあ、いいか。

 本来なら走行中にやる作業じゃないし、足場もない場所で力一杯ハンドルを回すのは大変だ。
 それに、これって急に走行速度が落ちたら俺は車体に挟まれて死ぬんじゃないのか? ミズキが嫌がってたのも納得だぜ。

 なんとかしてハンドルを回すと連結器が一つ外れた。途端に後ろの車両が離れ始めて危うく落ちそうになる。
「あれっ、もう一つは外さなくていいのか」
「そっちは予備だ。重みで勝手に切れるだろう。時代錯誤の旧式列車で助かったな」
 なるほど、ハンドルを回すまでもなく後ろの車両に引っ張られて連結器は今にもちぎられそうだ。
「ミズキ! 早く戻ってこい!!」
 悪霊を引きつけていたミズキが走ってくる。離れゆく車両から跳んだ彼女の腕を掴まえて引き上げたところで、凄まじい音を立てて連結器が壊れた。

 置き去りにされた悪霊どもが、遠ざかりながらもじっとこちらを見つめている。あいつら、どうなっちまうんだろう。
 後ろの車両がほぼ半分なくなったってのに魔列車は揺れもせず速度も変わらないのも不気味だ。
「なんか、改めてこれが幽霊列車だってこと実感すんね」
「……そうだな」
 さっさとおさらばしたいもんだ。


 帝国軍のキャンプから逃げる時はどさくさで連れてきてしまったが、ミズキは何気に役立つよな。
 俺が安心して背中を預けられるほどの強さはないが、危険に対する咄嗟の動きはなかなかのもんだ。戦うのも逃げるのも決断が早い。
 どんな状況でも生きていくための力が備わってるんだ。まるで……ダンカン師匠みたいに。

 コルツを離れてから女ってものを見る目が変わってきたという自覚がある。昔ほど苦手だと感じない。
 ただ、ティナにしろミズキにしろ普通の女と言っていいのかは疑問だが。
 今のところ煩わしいと思うことが何もなくて、どっちかといえば言葉を交わして居心地がいいと感じるのが不思議だった。


「問題です。目の前にあるのは一体どんな車両でしょ〜か。はい、シャドウさん!」
 どんな車両ってどういう意味だろう。
 話を振られたシャドウだが、ミズキの存在ごと無視してインターセプターと共に先へ進んでしまった。
 代わりに答えたのはカイエンだ。
「七両目……もしかすると、食堂車でござるか?」
「何!?」
「お、さすがドマ人。たぶん正解だよ」
「よし、行くぞ!」
 ちょうど腹が減ってたんだ。さっさとおさらばしたいとは言ったが、飯が出るなら話は変わってくるぜ!




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