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戦え!


 チョコボって馬の代わりとはいうけど所詮は鳥じゃん、ダチョウみたいなもんだろ、乗れるのかよ大丈夫なのかよ、と思っていた。
 実際に乗ってみるとチョコボは意外と大きい。ばんえい馬のような幅広の背中にエドガーと私の二人もの大人を乗せても十分な安定感があった。重みで足がグキッとなったりすることはなさそうだ。
 むしろどちらかと言えば落下の衝撃で私の腰がヤバイ。あと二本足なだけあって走り始めるとチョコボの背中は凄まじく縦に揺れる。後ろからエドガーが支えてくれてはいるが気を抜くとすぐにも滑り落ちそうで怖かった。
 疾走するチョコボはフィガロ城の外壁を素早く回り込む。すると城門の近くで待機していたロックとティナが“走っているチョコボに飛び乗ってきた”……私は思わず自分の目を疑って瞼を擦った。神業かな?
「いいぞ、沈めろ!」
 充分な距離をとったところでエドガーは城を振り返り、大臣に向かって合図を送る。あの名台詞はさすがにここまで聞こえなくて残念だ。まあ、逃げ道を塞がれておろおろしているケフカたちにはしっかり聞こえていただろう。
 城中の扉と窓と通気孔が次々と閉めきられ、轟音をあげながら塔の形が変わっていく。黄金の海原にダイブするフィガロの勇姿、ブラボー!

 もうもうと砂煙が広がるのを尻目にひたすら駆ける。そういえば今作のチョコボって5と7に比べると印象が薄かったな、あの独特の画面のおかげで長く乗ってると3D酔いするから私はあんまり使わなかったんだ、というようなことを思い出していた。
 本当に酔う。画面酔いじゃなく普通に酔う。揺れすぎ! もう少しゆっくり走ってほしかったが追っ手もあることだし、そもそもこの揺れでうっかり口を開いたら舌を噛みそうだ。とにもかくにも揺れすぎ!
「やったか!?」
 沈みゆくフィガロ城を振り返り、やってないフラグ台詞を発するロックとエドガーはチョコボのスピードを少し緩めた。ティナもそれに倣って手綱を引いた。
「いや、追っ手が来る!」
 背後から二機の魔導アーマーが迫っていた。至近距離にいただろうに、よく潜行に巻き込まれなかったものだ。大人しく砂に埋もれてくれればいいのに。というか、ケフカはここまで徒歩で来たはずだがアーマーは別行動だったのか? わざと歩かせたのだとしたらすごい嫌われっぷりだなケフカ。
 乗り物酔いでぐらぐらしている私を険しい顔つきで振り向いて、エドガーは軽く私の肩を叩いた。ゆらさないで。
「ミズキ、手綱を頼む」
「はい?」
 有無を言わさず渡された手綱を必死で握り締めた。ど、どうすりゃいいんだ? 握ってるだけでいいのか? 下手に振ってスピードが変わったり止まったりしたら困るけど何もせずにいてどんどんあらぬ方向へ走っていかれても困る。
 乗馬すら未経験なのにとパニック状態の私に気づくこともなく、エドガーは鞍にくくりつけてある工具箱? のようなものからオートボウガンを取り出した。そんなもんぶら下げてるのに今の今まで気づかなかったよ。実はいつでも発てるように準備していたんだね。
 エドガーはチョコボの上で器用に向きを変え、私の背中にもたれかかるようにして追っ手に向かってボウガンを射った。って走りながら戦うのかよ!

 涙目で手綱に縋りつく私の横にティナがチョコボを寄せてくる。移れるものならそっちに乗りたいですよ。
 エドガーがボウガンを連射しているけれど魔導アーマーは止まらない。ただ背後から喧しい金属音が響いてくるので矢は当たっているようだ。貫通するほどの威力はないのか。攻撃手段のないロックが焦れったそうに叫ぶ。
「一旦降りて戦おう!」
「そうだな、ここまで来ればケフカもすぐには合流できないはずだ」
 エドガーの同意を得るや身を翻して飛び降りたロックは、ナイフを抜き様に敵の前へ突っ込んで行く。ティナがそのあとを追って剣を抜き、エドガーだけは降りずにチョコボの向きを変えた。そうか、鞍の上から撃たないと二人に当たっちゃうものな。
 弓は前にいる味方を避けて山なりに射てるけれどもボウガンはまっすぐ飛ぶので前の人に当たっちゃうのだ。
 魔導アーマーは二手に別れてティナの魔法とエドガーの射撃をそれぞれ牽制し始めた。ロックも私たちを庇って敵の攻撃の軌道を逸らすのに手一杯だからパイロットに接近できずにいる。あともうひとつターゲットがあれば、隙を作れる……かな。
「……ぬあああっ! やったろうやないか!」
「ミズキ!?」
 やけっぱちでチョコボから飛び降りた私は魔導アーマーに向かって突っ走る。ティナを攻撃しようとしていた機体が慌てて私に向き直り、すぐさま砲口に光が集まった。ビームだ。食らったら死ぬだろうか。死ぬよな。やばいな。
「ティナ、あいつにファイア!」
「分かった」
 私の眼前にビームが伸びてくるのと同時、間一髪ティナの魔法が発動した。真っ赤な血のような炎を吹き出して魔導アーマーは崩れ落ちた。私はといえば、無我夢中で飛び退いた結果なんとか無事だ。……というか、確かにちょっとビームが頭を掠めていった気がしたんだけど……火傷ひとつないのはどういうわけだ。まあ無事だったんだからいいけどさ。
 相方が突如炎上して動揺している残り一機にはロックが駆け寄って脚部に連撃を食らわせ、バランスを崩したところへエドガーの放ったボウガンの矢が降り注ぐと機体から煙が上がった。撃破完了。
 壊れた魔導アーマーからパイロットが這い出してくる。無理に殺す必要はないよな、と思ってしまう私が甘いのだろうか。さりげなくティナが乗るチョコボの後部に乗せてもらい、顔を引き攣らせているエドガーを無視して再び走り出した。

 あの二人がケフカについていた兵士だったなら、更なる追っ手はないはずだ。距離を充分に稼いでおけばもうチョコボを全力疾走させる必要もないだろう。
「ざまあないぜ。徒歩なら追いつかれることはないな」
「おい、ロック、今のは……」
「ん?」
「とりあえず、話は距離を稼いでからにしません?」
「……そうだね、ミズキ。分かった」
 お前も知ってたのか何なんだあれは説明しろと視線だけはとても雄弁だが、それでも一旦は空気を読んで黙ってくれるからエドガーは大人だ。
 それにしたって今まで散々自分たちで「魔導の力を持つ娘」なんて呼んでいたくせに、いざティナが魔法を使った途端びっくりするのはなぜなのかと不思議だった。
 魔導なんて何かの比喩表現に過ぎないと思っていたのかな。それとも、噂は単なる帝国のブラフでまさか本当のことだとは思わなかった、ってところだろうか。
 そもそもロックは既に何度もティナの魔法を見ていたのにその正体にさっぱり気づいていなかった。魔大戦が終わり魔法の滅びた世界……もしかすると異世界人である私の方が、彼らより魔法に詳しい部分もあるかもしれない。

 魔導アーマーの残骸が見えなくなった辺りでエドガーはチョコボの速度を落とし、ロックの隣に並んでひそひそ話を始めた。おいおい、感じ悪いぞ。
「ええーっ!? ま、魔法って、ま、ま、ま」
「しーっ! 声が大きい!」
 ……感じ悪いを通り越して、ちょっと馬鹿っぽいかな。
 思い出したのだけれどこのシーンは本来ならまだ戦闘中に行われるはずのものだった。攻撃の手を止めて「まままま」も「でれーっ」もじっと待っていてくれる敵さんたちの健気さに感動した記憶がある。
 実際のやつらはガチで殺しに来たが。あと「ブラボー、フィガロ!」を聞き逃してしまったのが地味にショックだ。フィガロ城はとっくに地面の下にいる。タイミングが悪かったのかなあ。でも命が懸かってるときにセリフの順番まで考慮していられないよ。
 ティナの背中にもたれつつ、くだらないことを考えている間に緊急まままま会議は終わったようで、エドガーが恐る恐るこちらに近づいてきた。
「ティナ……、聞きたいんだが、さ、さっきの炎って、な、何だったのかな?」
 私の目の前でティナの肩がびくりと震える。彼女にとっては魔法すなわち帝国の記憶。人を害する力を持っていることに罪悪感があるのだろう。
「……ごめんなさい、私……」
「いいんだ! 謝るのはこっちの方だよな。あんなに驚いたりしてごめんよ」
 文字通りチョコボごと割り込んできたロックにムッとしつつ、レディに対して礼を失していたとエドガーも謝った。素直なやつらだ。
「魔法なんて初めて見たので、驚いてしまった。でも……君は何者なんだ……?」
「いいじゃないか、エドガー。ティナは魔法が使える。俺達は使えない。それだけのことだろ」
「……そうだな。そして、その魔法のおかげで助かった。それは確かだ」
 緊張していたティナの背中から力が抜け、パッと頬を赤らめた男二人はしどろもどろに彼女から視線を逸らした。
「ありがとう、ロック、エドガー」
 ずるーい。ティナの笑顔、背後にいる私には見えてないんですけど。やっぱりエドガーのチョコボに乗ればよかったか。




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