×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
Eye Opener


 城の中にいたら砂にダイブする姿は見ることができないし、外に出たってフィガロの砂漠もコーリンゲンの砂漠も見た目には変わらないからあんまり凄さを実感できない。
 顔を洗って荷物をまとめてエドガーが手綱を握るチョコボの後ろに乗せてもらって、私たちが充分に距離をとったところで砂煙をあげながら城が動き始める。
 エドガーはこれを私に見せてくれるためにカイエンたちを待たずに出発するって言ったのかもしれない。
 機関室でわけ分かんない複雑な動きをしてる機械群を見るのも面白かったけれど、フィガロ城が砂漠に沈んでいく姿はそれ以上に興奮した。

 やっぱりフィガロ城っていったらこれだよ。
 画面の外で見聞きするのとは轟音も振動も迫力が段違いだ。ここまで届く砂煙をしこたま浴びてしまったけれど、それさえも楽しかった。

 フィガロ砂漠の北にあって帝国に靡いてない町からナルシェに援軍が送られるらしい。サウスフィガロ以外にも町があったんだと不思議に思う。
 その軍が到着してナルシェが自力で帝国を追い払えるようになったら、カイエンとガウもフィガロ城を使ってこっちの大陸に渡ってくる予定だ。
 私たちは二人を待たずに、先に行ってティナを探してるロックたちを追いかける。

 なにげにチョコボ騎乗も初体験なんだけど……、一日乗ってるだけでわりと股関節が痛くなる。でもレディじゃなくたってそんなことエドガーには言い出せない。
 お尻もかなり痛いけど、言い出せない。
 モンスターを避けて爆走できるからロックたちを追えるんだし、どっちみち降りるのは無理だもんね……。

 順調にいけば四日くらいでジドールに着くらしい。
 ロックたちは途中の村に寄ってチョコボを乗り換えながら走ってるはずだとエドガーは言う。
 じゃあジドールは無理でも最悪オペラ座で追いつけるね、と私が言ったら、なぜかエドガーは困ったような顔で頷いた。

 身軽さ優先でテントは持ってきてないから、夜になると焚き火を起こしてチョコボに背中を預けて眠る。こうすればモンスターの接近にもすぐに気づいて目が覚めるらしい。
 私は無理だけど。チョコボが身動ぎしたくらいじゃ起きられないよ。
「エドガーはちゃんと眠れてるの?」
「もちろん。昼間レディを守る役目を果たすためにも、休息はきちんと取らなければね」
「うーん」
 この人が嘘ついてても私には見抜けない。でも、ちゃんと寝てないと思うんだ。だって私は今朝、チョコボからずり落ちて地面で熟睡してたんだもん。
 ご丁寧に肩までマントにくるまってたから寒くなかった。それをかけてくれたのはエドガーしかあり得ない。

 だけど仮にエドガーが寝てないとしても、ここで「私だけ熟睡するのは心苦しい」なんて変に遠慮して寝不足になったら余計に足を引っ張ってしまう。
 今はとにかく急いで仲間と合流するしかないんだ。なんか、歯がゆいなぁ。

 二日目の夜、焚き火を見つめながらふとロックたちはどこにいるんだろうと考える。コーリンゲンで情報を得てゾゾに行ってるか、それとも既にオペラ座を目指してるのか。
「私たちは直接オペラ座に向かった方がいいかも」
「なぜオペラ座に?」
「ロックたちがどの程度まで進んでるか、分かんないし。入れ違いになるよりは先回りになってもオペラ座で待っとく方がいいかなって」
 エドガーはなんとなく頼りない顔をしていた。どうしたんだろう。

「そうではなく、ティナがゾゾにいるのになぜオペラ座に行くことになるのかを知りたいんだが」
「え? あそっか。言うの忘れてたもんね」
 エドガーたちは次にどんなイベントが待ってるのか知らないんだ、って当たり前のことをうっかり忘れてしまう。
「私、このゲームプレイしたことある……って意味通じないか……えっと、私のいた世界に、この世界の出来事が物語として存在してるのね?」
 苦笑いと愛想笑いと哀れみを混ぜたような顔を向けられて微妙な気持ちになった。
「頭おかしいやつだと思ってるでしょ」
「いや、そんなことは」
 絶対そんなことある。それが当然だとも思う。

 屋根から滑り落ちてナルシェに着地して、あれから何日経ったっけ? 私は今もまだここにいる。夢だとしても妄想だとしても、現実だとしても、ここにいるんだ。
 それが事実なんだから仕方ない。

「ティナがナルシェに行くのがオープニング。で、魔大陸浮上とか世界崩壊とかいろいろあってケフカを倒すのがエンディング」
「……世界崩壊?」
「そう。中盤でケフカが三闘神の力を暴走させて、っていうか時系列順にシナリオ全部言った方がいい?」
「できれば文字に書き起こしながら聞かせてほしいな。頭が混乱してきたよ」
 手帳と万年筆を渡された。……うっ、書きにくい! 羽ペンじゃないだけマシだけど!

 そして書き始めてから気づいた。
「日本語でいいのかな……これ、読める?」
 私が指し示した文章をエドガーはすらすら読んでみせた。
「ゾゾの町でティナと再会、幻獣ラムウに話を聞いて魔導研究所に渡る」
「読めるんだ。やっぱ日本語なのかぁ」
 考えてみたら、会話通じてるもんね。きっと日本製のゲームだから日本語なんだ。

 もう終わったイベントも書く必要があるのかと思いつつ、オープニングから順番にストーリーを書き連ねていく。
 オペラ座、ブラックジャック、ベクタ潜入、セリスとの別れ、封魔壁、会食イベントに、サマサの村、魔大陸浮上……。
 崩壊後のフリーイベントは順番がバラバラだからまとめるのが難しい。でも書いてるうちに忘れてた細かいところも少しずつ思い出した。
 一応全員を仲間にしてガレキの塔に突入し、ケフカを倒したところまで書き終えてからエドガーに手帳を返す。

 半信半疑って顔でリストを読んでたエドガーは、ある部分で目を止めた。
「ガストラはこの“魔大陸”とやらで死ぬのか? これ以降、名前が出てこないようだが」
「う……うん。ケフカが裏切って、ていうか本性を現して? 空から突き落とされちゃうんだよ」
 簡単に言っちゃったけど、人が死ぬシーンだよね、これ。相手が犬……じゃなくて悪役の皇帝とはいえ殺人の場面なんだ。
 その後の展開も、真面目に考えるほど気が重くなる。

 エンディングまで読み終えて、深刻な顔つきのエドガーが私を見つめた。
「これから先、この話は誰にもするな。君は自分の利用価値を理解してない」
「へ!? 利用価値って……戦えないし体力ないし特別な知識もないし、特殊能力があるわけでもない私が?」
「知識がないだと? 君は、……リターナーやガストラが多くの血を流しても手に入れたい情報を握っているんだ」
 このリストにあるのは世界の秘密。うまく使えば未来を思いのままに操ることもできるとエドガーは言う。

 まあ、そう……かもしれないけど、そんな怒った顔される筋合いはないと思うよ!
「だって、聞かれたから答えたのに」
「無防備に何でも打ち明けるものではない」
「でもエドガーに言ったから忠告してもらえたんだし、ってことは打ち明けてよかったでしょ?」
 開き直ってそう言ったら、エドガーは頭を抱えて突っ伏した。なにその反応。
 相手がガストラやケフカだったらさすがに私もこんなこと打ち明けないよ。エドガーだから気楽に話しただけだ。

 ため息を吐いて気を取り直したエドガーが、改めてリストに目を通す。
「ティナを助けるため魔石を求めてベクタに潜入、か。オペラ座と聞いた時は突拍子がないと思ったけれど、こうして順を追って教えられれば納得できる」
 確かに、オペラ座に行くことになるとだけ言っても意味不明だったかも。
 まず“ベクタに渡る船がない”って問題があって、じゃあ“飛空艇を借りる”そのためにセッツァーが来るという“オペラ座に行く”のが正確な筋書きだ。

「セッツァーというのは、見ず知らずの相手に飛空艇を貸してくれるほど親切な男なのか」
 親切……そういうんじゃないと思う。まず親切な人は女優を誘拐したりしない。
「セリスの度胸にほだされるっていうか、ギャンブラーの血が騒ぐ感じ。あのコインでセリスが勝負を仕掛けるの。『私が勝ったらあなたは私たちに協力する。負けたら私はあなたの女になる』って」
「あのコイン?」
「マッシュとの賭けに使ったやつだよ。両表のコイン」
 知らないわけがないのに、エドガーはめちゃくちゃ驚いた顔でリストを凝視した。
「どうしてあのコインをセリスが持ってるんだ?」
「え、さあ。エドガーが貸してあげたんじゃないの?」

 ハッと我に返ったようにエドガーは剣と一緒にベルトにつけてたポーチの中から一枚のコインを取り出した。
 裏も表も同じ模様、王冠を被った男女が彫り込まれている、あの運命のコイン。
「すまないが、休んでる暇はなくなった。急ごう」
「う、うん……そのようで」
 コインがここにある。セリスは持ってない。ということは、みんながブラックジャックに乗り込む前に何がなんでも合流しないといけない。

 休んでいたチョコボを起こして鞍をつけ、先に乗ったエドガーが私を引っ張りあげる。
 仲間を心配する真剣な眼差しは軽口叩いてる時と全然違う。たぶん、女の子に対する下心じゃなくて自分のまっすぐな気持ちがあらわれてるから。
「エドガーって、レディとか言ってない時の方が男前だね」
 私がそう言ったらなぜかエドガーはガクッと肩を落とした。
「……喜んでいいか戸惑うな、それは」
 どうして? せっかく誉めたんだから喜べばいいと思うよ。




|

back|menu|index