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Green Fields


 自分の身に何が起きてるのか、これからどうするのが正しいのか。主人公たちにくっついて行くことになったけど、これでいいのか確信は持てない。
 今はとにかく、なるようになるってマッシュの言葉を胸に刻んでおくことにする。
 ほんとにいつか家に帰れるのかな、それはいつになるのかな。なんて考えたってどうせ結論は出ないんだから。
 まずはティナを見つけて帰れるかどうか試して、ダメだったらその時はその時だ。

 ティナを探しに行くメンバーはロックとセリスとエドガーとマッシュ。カイエンとガウはナルシェでバナン様のお守りをしなきゃいけないらしい。
 全員揃ってから改めて挨拶をした時に私も留守番組の方がいいのではという話が出たけれど、まだ不安定なナルシェに置いてくのは微妙ってことで捜索隊に加わった。
 やっぱり怪しいよね、私。

 エドガーが事情を話したら、ロックもカイエンもガウも私をすんなり受け入れてくれた。
 不審人物である私に対して優しいのに、カイエンはセリスと目を合わせもしなくて、ナルシェの人たちもセリスやロックをあまり快く思ってない感じが不思議だった。
 なんか……変だなぁ。知ってるゲームの世界なのに時々ちょっと違って見える。

 それはともかく、四人いたらシャドウを雇えないんじゃなかったっけ、と思ってたらエドガーはフィガロ城で一旦離脱する予定だと聞かされた。
「帝国がすぐに引き返してくるとは思えないが、念のためナルシェに援軍を派遣しておかないとね」
「なるほどー……」
 よく分かんないけど、その手配のためにエドガーは足止めを食らうらしい。

 脳みそが寝ぼけてる私にも分かりやすいようにエドガーが噛み砕いて説明してくれたところによると、つまり。
 リターナーの求心力、フィガロの機械技術と兵力、そしてナルシェの資源を合わせて帝国に立ち向かおうってのがこの同盟の目的だ。
 今回はナルシェが仲間に加わってくれるよう説得しに行くという、ごく初期の段階だった。
 そこに帝国が攻めてきたものだから、まだ兵士がいなくて急遽エドガーたちが直接戦場に出るはめになったわけだけれど。

 最初の予定通りエドガーは同盟国となったナルシェに援軍を送る。それが到着するまでカイエンたちがナルシェを守る。その間にロックたちがティナを探す。
「つまり、めっちゃ人手が足りない」
「端的に言うと、そうなるね」
 そりゃあ猫の手ならぬ私の手も借りたくなる気持ちは分かる。ティナ捜索にナルシェ防衛、本当はどっちも手が足りてない。
 もしもケフカが軍をまとめて素早くリベンジしに来たら、今のナルシェは負けちゃうんだ。そりゃあ、カイエンとガウだけじゃいくらなんでも無理だよね……。
 気にしてなかったけどここのナルシェってかなり危うい綱渡りの状態にあったんだ。

 私はシナリオに沿ってゲームを進めるだけで、その裏にある国や人の“事情”なんてあんまり考えたことがなかった。
 そういう筋書きだからティナを探しに行く、戦闘メンバーがオーバーしてるから二手に別れる、そんな“ゲームのシステム”として納得してた。
 でも実際に目の当たりにして見えてくるのは人間の“思惑”だ。誰にでも感情があって、そこから起こされる行動がストーリーを作ってる。

 カイエンがセリスを拒絶するのもそう。成り行きでリターナーに加わったナルシェの人たちが乗り気じゃない顔なのもそう。
 このイベントでこの人が仲間になる、って単純にはいかなくて、心の中にまだモヤモヤしたものを抱えてる。
 私が出会ったのはゲームのキャラクターじゃなく現実としてそこに立ってる人間なんだって、不意に気づかされる。

 相変わらず男前な顔で隣を歩いてる人を見上げてみた。
 ドット絵だと小さくて可愛いのに、実物のエドガーはでっかい。マッシュなんか更にごっついし、セリスやガウでさえ私より背が高いんだもん。
 イメージと違う。そういう些細なところで“変な感じ”がするんだよね。

 現実といえば、この旅もそうだった。
 ナルシェを出て雪景色が消えたあと、少しずつ木々が姿をあらわして今は緑の野原を歩いてる。聞き慣れたあの曲が聞こえないのだけ淋しい。

 当然のこととして、ナルシェからゾゾに行こうと思ったら何日も自分の足で歩いてかなきゃいけないんだ。
 たとえ私がティナの居場所を知ってたとしても、ゲームみたいに一時間とかからず再会なんてのは不可能なのだった。

「……エドガーって、王様なんだよね? でも王様ってそんな出歩かないでしょ? よく体力持つよね」
 私はもうわりと足が棒になってる。冒険家のロックに修行僧のマッシュ、軍人のセリスはともかくとして、エドガーが平気そうなのは謎だ。
 こういう時って城から迎えが来たり、リターナーが車を出してくれたりするもんじゃないのかなぁ。と呟いたところでなぜかエドガーは私の手を握って顔を近づけてくる。
「レディに辛い思いをさせるのは私も心苦しいよ。チョコボを借りられればよかったんだが、砂漠に連れて行ける鳥がナルシェにはいないんだ」
「あっ、いや、愚痴のつもりじゃないんだけど」
 べつに王様の権限に便乗しようって魂胆があるわけでは。

 ていうか、そうだよ。フィガロ城って砂漠の真ん中にあるんだよね。今でもヘトヘトなのに砂漠横断って、大丈夫なのか私。
 それ以前にエドガーはなんでそんな顔近いの?
「せめて城についたら心尽くしのもてなしをさせてもらうと約束しよう。何ならサクラには私の部屋で個人的にくつろいでもらっても」
「あ! モンスター発見! はいエドガー戦闘体勢に入って!」
 ほんと油断できないな! いや、モンスターじゃなくてエドガーの話。

 ティナやセリスやリルムにフィガロ城の人、帝国の人、あとどっかの酒場のお姉さんもエドガーもといジェフに口説かれたって話があったっけ。
 見てる分には平気なのに、実際エドガーが目の前にいて私に同じことされると腰が引けてしまう。
 ナンパキャラなのは知ってるけど、それは私に向けられるはずのない、画面の中の出来事だったんだもん。
 大体あいつ、私がそういうの慣れてないの分かってて面白がってる気がする。ティナにもセリスにも不発だったから密かに落ち込んでたのかもしれない。
 ……標的にならないように、フィガロに着くまでマッシュにくっついとこう。




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