×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
セピア色の記憶


 おかしい。どうしてナルシェは八月も半ばの今まだ猛吹雪に覆われてるんだろう。
 視界は悪いし足元は不安定だし、先月様子を見に来た時より酷くなってる。
「さ、さむい……」
「こりゃさすがに異常だな。いくらナルシェでもそろそろ雪が溶けてるはずなんだが」
 コートを羽織ってるとはいえ平気な顔で辺りを見回してるマッシュも結構、異常だと思うんだけど。
「ねえ寒くないの?」
「寒いよ」
「ぜんぜん寒そうに見えない……」
「暑さ寒さなんて、気合い入れて大丈夫だと思えば大丈夫なもんだ」
 なにその筋肉で考えたみたいな理論。でも心頭滅却すれば火もまた涼し、なんて言うくらいだから逆もあるのかな。
 私がマッシュと同じ境地に達するのはさすがに無理だと思うけれど。気合い入れたって物理的に寒いものは寒い。

 吹きつける雪を避けるようにマッシュに抱き着いてみる。
 レテ川ではぐれて、このナルシェで再会した時のことを思い出した。
 私はもうあんな風に不安でいっぱいになったりしない。必ず帰ってくるという彼の言葉を信じる。
 マッシュの力強い鼓動も私を抱き締めてくれる熱も、絶対に失わないって信じられる。あの頃よりずっと強く結ばれてる自信があるから。
「はー、あったまる。マッシュって体温高いよね」
「サクラは表面積が小さいからすぐ寒がるんじゃないのか?」
「表面積って……表現方法がなんかヒドイ」
 とにかく、マッシュにくっついてたら吹雪の中でも暖かい。むしろ寒さを理由に堂々と抱き着いたりできるのが嬉しかった。
「ぎゅっとして〜」
「はいはい、町の探索が終わってからな」
 なのにマッシュは冷たく私を引っぺがしてしまった。……けち。

 そもそもナルシェに戻ってきたのは、この大陸の東側を探索するためだ。
 本来ならレテ川に沿って南東にくだっていけばドマ王国のある東大陸に行けるはずだった。しかし今は山が裂け陸地も途切れてしまっている。
 サウスフィガロから船を出してもらうとして、まずはどこまで陸が続いているのかを確かめておかないといけない。
 でもナルシェにテレポートしてきた瞬間それどころじゃなくなったんだ。
 町が無人なのは分かってるし、さっさと通りすぎてしまう予定だったのに……この異常気象が私たちの足を止めた。
 こんな冷気に覆われてるのはナルシェだけだから、三闘神がエネルギーを吸い上げてるのとは関係ないと思う。
 東大陸に渡る道を探すのは後にして、まずは吹雪の原因究明を優先する。

 家々は閉めきられていて蒸気も出ていない。暖かく優しげな町の風景はその名残も失われていた。
 まるっきりゴーストタウンという感じのナルシェにはもうモンスターの姿しか見当たらない。
「考えられる原因は氷漬けの幻獣かな」
「氷の中にいたのがシヴァみたいな幻獣なら、暴走して吹雪を起こしてるってのもあり得るか」
 町を抜けて渓谷に入り、雪原に向かう。その途中で雪を舞いあげながら走り回っている変なものを見つけた。
「えっ」
「な、なんだありゃ!?」
 モンスター……というか、小型のドラゴン? 小型とはいってもマッシュ三人分くらいの大きさがあるけれど。

 みぞれのように透き通った白っぽい体は、雪景色の中で見失ってしまいそうだ。
 そのドラゴンは雪の中に顔を突っ込んだり転げ回ったりして遊んでいるようだった。
 すごく楽しそうではある。
「でも邪魔だね……」
 ちょうど氷漬けの幻獣が安置されてる崖への道を塞いでるんだ。気づかれずに通り抜けるのは無理だろう。
「まさかあれも裁きの光から湧いて出てきたモンスターじゃないだろうな」
「あのクラスがうじゃうじゃ湧いてきたら本当に困る」
 やってることは雪にはしゃぐ子犬みたいだけれど、そこらの雑魚モンスターではあり得ないオーラを放っていた。
 よく見るとドラゴンは常に冷気を放っているんだ。白い靄がまとわりついてるせいで余計に姿が見えにくい。
 氷属性……この寒さの原因はあいつだと思う。つまり天候を操るほどの力を持ってるってこと。

 諦めて引き返そうかと悩む私の隣でマッシュにそんなつもりはないみたいだった。
「よし、倒しちまうか!」
「ええっ? 待ってよ絶対あれヤバイやつだって。一人じゃ無理だよ」
 もちろん私は数に入らない。魔法や剣も一応は使えるけれど一般人レベルだもの、あんなのに太刀打ちできるわけがない。
「俺があいつの懐に飛び込んで、サクラがケアルを唱え続ければいけるんじゃないか?」
「駄目です」
 私のケアルは魔力を消費しないけど効果が低いんだ。戦闘が終わってからじっくり傷を癒すならともかく、戦いながら回復し続けるのは向いてない。
「住民はいないんだし、仲間と合流してから来るしかないよ」
「うーん。でも敵を目の前にして放っていくのもなあ……」
「戦略的撤退ってやつです!」

 不満たらたらのマッシュを引きずりながら町の方へと踵を返した。
 あのドラゴンがいなくなったところで町に溢れるモンスターを駆逐できるわけでもないし、どっちみちケフカを倒すまでナルシェは復興できないんだ。
 強いて今、無茶してまで倒す理由はない。
 とはいえ氷漬けの幻獣がどうなってるのかも気にかかるので、雪原を迂回する道を探すことにした。
 炭坑から崖の方に通じているかもしれないとジュンさんの家に向かう。
 そこで吹雪の中、知った顔を見つけた。
「ロック!」
「マッシュに……サクラか! 無事だったんだな」
「そっちも元気そうでよかった」
 やっぱり一度確認した町でも諦めずに探しに来てみるものだね。

 立ち話もなんなのでジュンさんの家を借りて部屋の中で話すことにする。どうして鍵が開いてたのかは考えないでおこう。
「ロックはどうしてナルシェに来たの?」
「ああ、ちょっとな」
 困ったように目を逸らされて不思議に思っていたら、マッシュが横から口を挟む。
「住民がいなくなったから家探し……なんてわけじゃないよなあ?」
「俺はドロボウじゃなくてトレジャーハンターだ!」
「……否定しないんだ」
「いや、違うって! この辺の変わり様を見て、ナルシェがどうなってるのか気になったから確かめに来ただけだよ」
 なんでも彼は私たちが行こうとした東大陸で目覚めたらしい。
 それで筏を作ってこっちに渡ってきたところ、地形が全然違っているけれどナルシェの近くだと気づいて町を探してたそうだ。

 ロックから東の様子を聞いて手帳に書き留めていく。
 レテ川の下流域もバラバラに吹き飛ばされてしまって、ロックがいたところは大陸と呼べない小さな島になってしまっていたらしい。
 そしてその更に東には、元ドマ王国の領地だった村がいくつかあるだけの大陸がある。
 ドマ城に繋がる平原もバレンの滝もなくなっているので南側は詳細不明。
 獣ヶ原やモブリズの村は依然としてどの辺りにあるのか分からなかった。
 でも、ちょっとだけ地図の空白部分が埋まったからありがたい。

「ロック、雪原の方に行ってみたか?」
「ああ。ヤバそうなのがいたな」
「あいつを倒せばナルシェの吹雪もおさまるかもしれないんだ」
 未練がましくマッシュがそう言うけれどロックは肩を竦めるだけだった。
「このメンバーで挑むのは無茶だろ」
「だよね? ほらー!」
 気になるのは分かるけれど焦って怪我したら何にもならないんだ。
「じゃあサクラ、カイエンとリルムを呼んで来てくれよ」
「カイエンはともかく、リルムは駄目だよ。仕事中のはずだし」
 それにカイエンも町を離れて山に籠ってるって連絡をもらってるから、すぐには合流できないと思う。
「あのドラゴンを倒すなら、どっちにしても一度出直してちゃんと準備しないと」

 そりゃあ私だって町のすぐそばをあんなドラゴンが彷徨いてるのは気になるし、どこかに移動してしまう前に倒したいとは思う。
 でも……、いくらマッシュが強いからって、私の前で無茶はさせない。
「カイエンとリルムに会ったのか?」
「ああ。ジドールの方にいるよ」
「ブラックジャックみたいに集まって待機できる場所があれば、いつでも合流できるんだけどね」
「なるほど。飛空艇は世界にあれ一台しか残ってなかったらしいからなぁ……」
 数年前まではブラックジャックの他にも飛空艇があったらしい。でもそれは事故で壊れてしまったんだとか。
 ブラックジャックさえ健在なら、みんなを探す手段も合流した仲間が集まる場所も瓦礫の塔に攻め込む方法も、いっぺんに解決するのになぁ。

 何かを考え込んでいたロックが不意に顔をあげる。
「モグに協力してもらおうか? あいつなら吹雪の中でも難なく戦える」
「ここにいるの?」
「炭坑の奥……住み処に戻ってるよ」
 そっか。裁きの光がナルシェ方面に飛んでいくのを見てたんだもんね。
 モグにとってはここが故郷なんだ。気になって帰ってきてたのかもしれない。
 でも続くロックの言葉に、私もマッシュも黙り込んでしまった。
「モーグリの住み処は、崩落に巻き込まれて……生き残ったのはモグだけだったんだ」
 
 炭坑の中はあちこち壁が崩れてかなり危険な雰囲気だった。これは……もう本当に、ナルシェは駄目かもしれない。
 ロックに案内されてモグのいる奥地へと足を進める。
 もとはたくさんのモーグリが住んでいたであろう洞窟に、彼は一人で立っていた。
「モグ……」
 振り向き様に私たちを見て、それでもモグは嬉しそうに手を振った。
「サクラたちも無事だったクポ!」
「町に出たところで会ったんだ。モグ、外のドラゴンを倒すのを手伝ってくれないか?」
 雪原の状況を話すとモグは快く頷いてくれた。
「それなら雪男も手伝うクポ! ちょっと乱暴だけど、あいつは頼りになるクポ!」
 ゆ、雪男? それってどっちかというとモンスター側の存在じゃないのかな。

 今度はモグの案内のもと雪男のウーマロとやらがいる洞窟にやってきた。
 雪男ってこんな感じなんだ。ものすごく野性的な見た目なのに、暮らしぶりは人間的だ。
 ウーマロは、御座を敷いて装飾品で飾りつけ、意外にも人間的な“部屋”に住んでいた。
「おれはおまえの親分クポ! おまえも仲間になるクポ!」
「ウー……親分の命令……。おれ、あんたたちの仲間! よろしく!」
「おう! よろしくな、ウーマロ」
 並んでみるとマッシュより大きい。筋肉で通じ合えたのか、ウーマロは機嫌がよさそうに咆哮を響かせた。
 私は戦力外だしロックも微妙だけれど、マッシュとモグとウーマロがいればドラゴンくらい簡単に倒せそうだ。

 早速三人と二匹で雪原に出る。ドラゴンは未だ雪遊びに興じていて、なんだかいきなり襲いかかって倒すのが悪い気もしてきた。
 でもドラゴンがこっちを向いた瞬間、同情心は消え失せる。
 底冷えのするような瞳には邪悪な意思が感じられた。少なくとも向こうには、仲良くするつもりなんてまったくないらしい。

 慌てて全員に補助魔法をかける。プロテスとシェルとリジェネと、あと何だっけ。
 私が補助に徹し、みんなは一斉にドラゴンに立ち向かった。
「吹雪がくるクポ!」
 やっぱりこの悪天候はあいつの仕業だったようで、ドラゴンが翼を広げて吠えると凄まじい勢いで雪が吹き荒ぶ。
 自然の力を操るモグが踊りで吹雪を静めたところで、図体のわりに身軽なドラゴンが跳ねた。
「そっちに行ったぜ!」
「よし、そのまま押さえててくれ!」
「ウガーー!!」
 ウーマロが怪力を発揮してドラゴンを押さえ込む。その隙にマッシュとロックが距離を詰めたけれど。
「うわっ、モグ! 今は雪崩はまず……」
「ロック!!」
 どうしよう……。白くてふかふかなモグとウーマロ、防寒着でモコモコのマッシュとロック。
 手に汗握る死闘が繰り広げられているはずなのに、じゃれあって遊んでるようにしか見えなかった。

 ドラゴンが倒れるとナルシェの吹雪もおさまった。これからようやく夏が来るだろう。
 氷漬けの幻獣は一応無事だったみたいだ。気温が上がって氷が溶けた頃にまた様子を見に来るのがいいかもしれない。
「さて、どうする? モグはともかくウーマロはコルツの小屋に来るよりナルシェで待ってる方がいいかな」
 マッシュがそう言ったら、モグはウーマロと顔を見合わせて頷いた。
「洞窟であんちゃんたちが迎えに来るのを待ってるクポ!」
 そっか……。そういえばブラックジャックにいる時も、モグはちょっと居心地悪そうだった。
 雪深い山奥に住んでるんだから外の世界は暮らしにくいよね。ましてウーマロは雪男なんだから。
 ケフカを倒しに行く準備が整ったら力を貸してくれるという彼らにお礼を言って、名残惜しみつつナルシェを出る。

「そういえば、ロックはニケアの場所分かる?」
 一人であちこち旅していたらしいロックに聞いてみる。でも彼もまだニケアを見つけていなかったようだ。
「ツェンが帝国に支配された時、ニケアが亡命先になってたんだ。だからツェンの伝書鳥ならニケアを探せるんじゃないか?」
「ツェンなら私のテレポートで行けるよ」
「じゃあ、鳥の後を追って船を走らせればいい」
 なるほど。近くの漁村も辛うじて生きてるから、船を出すことはできそうだ。
「大したもんだな」
「さすが腐っても冒険家」
「誰が腐ってるんだ、誰が!」
 だって私とマッシュじゃ、自分の足を使って探すくらいしか思いつかなかったもん。伝書鳥は使ってたのにね。

 当たり前のようにロックを連れて小屋に帰ろうとしたら、彼は「行くところがある」と言う。
「ベクタがなくなったなら帝国領で探したいものがあるんだ」
「前に言ってた甦りの秘宝か」
「ああ」
 昔死んだロックの恋人……。彼女の遺体はコーリンゲンの村に保存されているらしい。
 ロックは帝国軍に殺された恋人の仇を討つためにリターナーに加わった。
 そして彼女を生き返らせるために、ガストラが持つという秘宝を探していたんだ。
 この世界で死んだ人間を甦らせるというのは倫理的に誉められたことではないらしい。
 でも……魔石から一時的にでも死んだはずの幻獣に会えたりするし、そういう光景に慣れてるから、私はそんなに悪いことだと思えなかった。
 気になるのはセリスがロックに恋をしつつあるからだ。喪ったものに縋ることで、今もロックを想ってくれる人が傷つくのは、悲しい。

「本当に死んだ人を甦らせたいの?」
 どんなに好きだったのかなんて想像しようもないけれど、ロックは今を生きている。彼女はとっくに死んでいる。
 今さら生き返ったところで、二人とも辛いだけなんじゃないかとも思う。
 いつも明るいロックの瞳に影が射した。
「フェニックスの秘宝でレイチェルが甦るのか、本当にそれを望んでるのか、自分でも正直よく分からないんだ」
 分からないからこそ試したいのだと彼は言う。
「この迷いに決着をつけたい。レイチェルが生き返っても、駄目でも、答えが得られれば俺は前に進める」
「……そっか」
 逆に言えば答えを得られない限り彼は前に進めないということでもある。だったら私にはロックを止められない。

 三人でツェンの町にテレポートする。ロックはひとまず元帝国領で秘宝の情報を集めるつもりらしい。
「ところで、ティナには会わなかったか?」
「まだ会ってない。俺たちが見つけたのは今のところカイエンとリルムだけだ」
「そうか。ティナにはトランスがあるから、誰かと合流してると思ったんだけどな」
「先輩なの? セリスじゃなくて?」
「みんな心配だけど……こういう時、ティナが一番どうしてるか気になるよ」
「あー、確かにそうかも」
 強いけれど生活力がない。そういう意味ではリルムやセリスよりも先輩の方が心配だ。ちゃんとごはん食べてるだろうか。
 実のところナルシェに行ったのはティナに会えるかと期待した部分もあったんだとロックは言う。
 ロックがティナ先輩と初めて会ったのがナルシェだった。記憶喪失でさまよっていた彼女をロックが助けたんだ。
 ……亡くなった彼の恋人も、記憶喪失だったらしい。

 ティナに手を差し伸べたのも、セリスを助けたのも、レイチェルの代わりなんだろうか?
 喪った恋人にしてあげられなかったことを悔やんで、それだけなんだろうか?
「先輩が記憶喪失だったから守るって言ったの?」
「サクラ」
 窘めるようにマッシュが私の腕を引くけれど、やっぱりそれだけはどうしても気になる。
 レイチェルを想うロックの気持ちは尊重する。でも彼女に対する後悔を和らげるためだけに他の人を助けてるなら、私はセリスの恋を応援しない。
 そんなの、不毛だもん。
「先輩が記憶喪失じゃなかったら、助けなかったの?」

 しばらく呆気にとられていたロックは、やがて我に返るとあっさり答えた。
「ティナが記憶喪失じゃなかったら、俺の助けは要らなかったと思うぜ」
「えっ? あ……、それはまあ、そうだけど」
「そういう意味ではティナが記憶喪失だからこそ助けた、ってことになるな」
「うー……」
 私が聞きたいのはそういうことじゃない!
 というのはロックも分かってるようで、苦笑して続ける。

「記憶って、そいつの今までを積み重ねたものだろ。いい思い出も嫌な思い出も、全部集まってやっと自分自身になるんだ」
 忘れたいような出来事さえも自分を作り上げる一部分。
 たとえば恋人に怪我を負わせた後悔、記憶を失った彼女に拒絶された悲しみ、離れている間に彼女を亡くした苦痛。
 辛いだけのそんな記憶もロック・コールという人格を織り成す大切な思い出には違いない。
「今までの人生が欠けてしまうのは自分を見失うのと同じだ。そんなやつ、放っておけないだろ」
 レイチェルのことがなくたって、記憶を……自分をなくしている人を放ってはおけないとロックは言った。

 代わりにしてるわけじゃない。記憶をなくしたのが私でもマッシュでも、他の誰でも、ロックは「守ってやる」と言うのだろう。
「パイセン……」
「へ?」
「遂にロックも加わったか」
「な、何にだよ?」
 どういう結末を迎えるかは知りようがないけれど、セリスの恋は辛くて報われないものではなさそうだ。そのことに安堵する。
「よっし! 私たちは仲間探しがんばるから、ロック先輩は秘宝探しがんばってね!」
「え、うん。……なあマッシュ、なんでいきなり先輩呼びになったんだ?」
「尊敬を勝ち得たってことだよ」
「はあ……?」

 小さい頃から旅暮らしで一所に留まらずに生きてきたというロックだからこそ、なおさら“記憶”というものに執着があるのかもしれない。
 そこには生きてきた時間がぎっしり詰まってるんだ。
 私だってもしマッシュのことを忘れてしまったら、それはもう“私”ではない。
 心のほとんどを占めるくらい大切な存在に出会えたことが嬉しくてならなかった。




|

back|menu|index