×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
愉快なともだち


 ジョゼ海岸から飛空艇でルカに向かう。
 そっからは船を乗り継いで、キーリカとビサイドの寺院に行ったらユウナの祈り子参りも終わりだ。
 なんだけど、なんか重要なこと忘れてる気がするんだよな。なんだっけ?
 うーん……。まあ、いっか。
 ビサイドに着くまでに思い出せなかったら、ユウナかメルかルールーにでも相談してみよう。

 海岸からルカまでは歩いたらめちゃくちゃ遠いけど、飛空艇に乗ったら三時間くらい。
 俺が暇してたら、メルが寄ってきて俺の髪をじっと見つめて呟いた。
「ティーダ髪伸びたよね。かなりプリンになってるよ」
「マジ? 最悪ッス……」
 思わず頭のてっぺんを押さえたけど、どうなってんのか自分では見えない。

 そろそろ染めようと思ってたタイミングでスピラに来ちゃったんだよな。
 前もって言っててくれたら、いろいろ準備とかできたのにさ。
 親父もアーロンも勝手すぎんだよ、ほんと。

「なあ、スピラってカラーないのか?」
 あるわけないよなー、と思いつつ聞いてみたら、メルの答えは意外だった。
「ルカに行けば売ってるけど、漂白剤なしのガチオーガニックだから金髪は無理っすよ」
「そっかぁ……」
 あるにはあるんだ。オーガニックってもザナルカンドのそれとはまた違うんだろうな。
 本当に自然素材しか入ってないやつ。スピラって、髪染めてる人ほとんど見ないし。

 メルは俺の髪をてっぺんに寄せてプリンを隠そうとしてる。
 パイナップルみたいになるからやめてほしいッス。
「ん〜、アルベド族なら持ってるかも。リンさんに聞いてみたら?」
「なんか、ぼったくられそうな気がする」
 あの人から買い物すんの、苦手なんだ。うまいこと言いくるめられて余計なもん買っちゃうしさ。
 でもメルは違う意見らしかった。
「じゃあ私が交渉してきてあげるよ。あの人から値切り成功すると楽しいんだ〜」
「き、危険な趣味ッスね……」

 目指せ半額! とか叫びながら走ってったメルの背中を見送って、やっぱいいよなと思う。
 スピラに来てから俺の周りにいるのは皆いい人ばっかだけど、メルの存在はありがたい。
 頭プリンになってるとか、他の人は誰も気にしてくれないもんな。
 なんて考えながら振り向いたら、いい人代表でファッションに無関心代表でもあるワッカが立ってた。

「うっわ! ビックリした! なんだよワッカ」
 なんでそんな物陰に潜むみたいにしてんの?
「ザナルカンドじゃ髪を染めると頭がプリンになんのか?」
「へっ? ……いやいやいや、それ、魔物のプリンじゃないから!」
「冗談だっての」
 イラついたように頭を掻きつつメルが消えてったドアを睨んで、いきなりガクッと肩を落とす。
 挙動不審ッスね。

「ワッカ、最近なんか調子悪いのか?」
「はっ!? べ、べつに何ともねえぞ?」
「声裏返ってるって」
 いつからとか覚えてないけど、ここんところ様子がおかしいのは薄々感じてた。
 バトルの時はさすがに集中してるけど、寺院にいる時とか飛空艇に戻った時は変だよな、ワッカ。
 ……今の反応見る限り、メル絡みってことか。

 ため息吐きつつワッカが通路に座り込んだから、俺も隣に胡座をかく。
「お前ってモテそうだよなぁ」
「まあね。ザナルカンドじゃ有名人ッスから! 俺のサイン目当てに女の子が列を作るくらいだから!」
 こっちでそんなこと自慢しても虚しいけどさ。でも、そういう記憶ぜんぶ消えちゃうと悲しいし。
 馬鹿みたいな雑談でもいいから、覚えといてほしいなって思う。

「ワッカは、つーかオーラカの皆は恋愛慣れしてなさそうだよな。こっちのスポーツマンってそうなのか?」
「俺に聞かれてもな。ザナルカンドと比べようがねえだろ」
「そりゃまあそっか」
 やっぱ、ブリッツボールにも寺院とか教えとかが絡んでるからか。
 真面目だし遊んでないし、俺のイメージするような“スポーツマン”とはかけ離れてるんだよな。
 ワッカなんてむしろ寺院の僧官サマみたいだ。頭固いし。それが悪いってわけじゃなく。
 そこいくとゴワーズのやつらは嫌な意味で馴染み深い性格だった。

「んで、いきなり何? あ、女の子デートに誘う方法が知りたいとか?」
「そんなもん興味ねえよ」
 いや、興味持てよ。ワッカだって特定の一名様にモテまくってんだし、デートくらい誘ってやればいいのに。
 ワッカもルールーも、ユウナも、シンを倒す使命のことばっかで今を楽しむって気持ちに欠けてるよなぁ。
 ……のんびりやってたらシンが何もかも壊してくからって、焦っちゃうのも分かるけど。
 もっと自分のこと考えりゃいいのに。笑ってられない世界なら守ったって甲斐がないだろ。

「前に……ユウナのことは好きになるなって言ったけどよ」
「……あー」
 もしかして、究極召喚がなくなったからもういいぞって言うつもりかと気まずくなる。
 でも俺……。
「メルのことも好きになるなよ」
 うん、でも俺消えちゃうし……はい?
「え?」
「もしかしてもう遅いのか? お前がそうなのか? でもなぁ……まあお前なら……いや……そもそも俺はそこまで口出していいのか!?」
「あー、ワッカ? とりあえず落ち着こ?」

 なるほどね。「お前モテそうだな」ってとこから聞きたいのはこれだったってわけッスか。
「お前、メルと付き合ってんのか?」
「んなわけないだろ」
「なんでだよ! あいつの何が不満なんだ!?」
 いやなんで俺が怒られてんの?
「そりゃ、いい子だし可愛いけどさ。メルはないって。そもそも向こうが俺のこと眼中にないし」
「そ、そっか……?」
 俺がメルに興味なくて怒るのは兄貴の顔だし、メルが俺に興味なくてホッとすんのはまた別の顔。

 うーん。
 前にルールーに「女の子の気持ちを勘違いすんな」って言われてから、ああワッカはこっちだったかと思ってたんだけど。
「もしかして、自覚ない感じ?」
「あぁ? 何が」
「メル……ご愁傷さまッス……」
 この朴念仁、メルの気持ちどころか自分の気持ちも把握できてないっぽい。
 ブリッツのことならいい勘が働くのに、なんでだろーな。俺もあんま人のこと言えないけど。

「なんか、スピラって誰かが死ぬとかそんなんばっかで、俺そういうの苦手でさ。ビサイドに流れ着いた時、嬉しかったッスよ。明るいし、ブリッツボールはあるし、飯も食えたし」
「おう……」
「メルって、いいやつだよな。いつだって明日を楽しむために生きてるって感じ。……あいつならシンがいても自力で幸せになれそうで、話してて明るい気持ちになる」
「……」
「って、今のへこむ流れじゃないッスよ!?」

 俺がメルのいいとこを話してたら、なぜかワッカは落ち込んだ。
「いや、ちっと嫌なこと思い出してよ……気にすんな」
「ふーん」
 どこが引っかかったのか気になるけど、付き合いも長いからいろいろあったんだろ。
 いちいち聞き出してたらキリないよな。

「まあ、だからさ。メルのことは好きだよ。ワッカとおんなじように、感謝もしてるし、大事な……友達ってやつ」
 あーあ、なんかこういうの照れるから嫌なんだよなぁ。
「友達か……」
 ボソッと呟いたワッカはメルのことを考えてるのかもしれない。
 強気でガンガンいくタイプじゃないけど、ここまでくよくよしてんのも珍しいよな。
「メルとなんかあった?」
「!! な、なんもねーよ!?」
「分かりやすすぎッスよ」

 試合には全然参加できてないけど、俺はオーラカの現役エースだ。
 だからOBの相談にだって乗ってやろーじゃん。
 それにまあ……ワッカにはいろいろ世話になったしさ。恩返し、しときたいよなぁ。
「話してみたら?」
 ワッカが挙動不審になったのはいつからだっけ。
 たぶんメルに聞いたら分かりそうだけど、あいつに聞くのはまずいよな。

 話してる最中に戻ってくるのが不安なのか、メルの入っていった扉を見つつ考え込む。
 やがてワッカは口を開いた。
「我らがエースに聞きたいんだけどよ、あいつって、その……女として、どうなんだ?」
「そりゃ、いい女なんじゃない? メルってモテるだろ?」
 即答したらワッカは項垂れた。や、へこみすぎだから。

 前世の記憶のせいなのか、それともルカで働いてたせいなのか、メルって垢抜けてるよな。
 抑圧に慣れてるスピラの人たちとは、ちょっと違う。
「明るくて優しくてノリよくて、話してて楽しいし、顔も可愛いし、意外と胸でかいしスタイルいいし」
「って、どこを見てんだよ!」
「いいだろ、見るくらい。ワッカの彼女じゃないんだし?」
「うぅっ……!」
 そこまでいってて自覚ないって、逆にすごいよワッカ。

「ってかさ、逆に聞きたいんだけど。ワッカはメルのことどう見てるわけ?」
「妹みてえなやつ相手に疚しいこと考えるわけねーだろ!!」
「疚しいこと考えないの、なんて聞いてないんだけど」
「んがっ」
「そーかそーか、疚しいこと考えてんのか〜」
 顔真っ赤にしてんのが面白くてからかってたら、調子に乗りすぎて思いきり睨まれた。
「あいつに言うなよ。言ったらブリッツボールにすっからな」
「意味分かんないけど怖ぇッス!」

 ビサイドで初めて会った時から、二人が仲いいのは分かってた。
 いかにも幼馴染みって感じだったけど、サイクスのやつらに対するキレっぷりを見てメルの好きは違うのかもなって思ったんだ。
 確信したのはいつだっけ。マカラーニャで、ワッカとリュックが喧嘩した時かな。
 あの時のメルの顔は見ててかなり切なかった。
 でも、仲いいのとそういうこととは別だって。二人が恋人同士ってわけじゃないのも分かってた。

「今まで兄と妹って感じだったのにな。何きっかけで疚しいこと考えるようになったのか、興味あるッス」
「……」
「メルに告白されたとか?」
 図星だったのか、ガンッと派手な音を立ててワッカは壁に頭をぶつけた。
 思いがけない衝撃に患部を押さえて悶えてる。
「え、大丈夫?」
「大丈夫じゃねーっす……あと、そんなわけ、ねえだろ」
「お、おう」
 まあそうだろうな。もし告白したならメルの態度もおかしくなるはずだし。

 なんかよく分かんないけど、ワッカの中で何かあってメルが急に“女の子”になりつつあるんだ。
「もうさ、ゴールまで突っ走っちゃえばいいじゃん」
「そのゴールが見えねえのが問題なんだっての」
「はー、そっからッスか!?」
 口煩くて厳しい兄貴のつもりでいるんだろうけど、ワッカ、でろっでろにメルに甘いのにな。
 あんなに「可愛くてしょーがないっ」て顔してるくせに、ほんとなんで自覚ないんだよ。

 混乱してんのも見てる分には面白い。でも、できれば俺が見てられるうちにどうにかなってほしい。
「頼むッスよ、キャプテン」
「わ、分かった。……って何をだよ?」
「メルのこと!」
 俺、そんなに……長くは待ってられないしさ。なんとかしてやってよ。
 当たり前みたいに俺の面倒見てやるって言ったワッカも、ザナルカンドのこと真面目に聞いてくれたメルも。
 感謝してるんだ。あんたたちが笑って生きてけるなら、俺なんも怖くない。
 大事な友達のためだから、な。何だってできるよ。




|

back|menu|index