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 いよいよシンとの最終決戦だ。ナギ平原に向かって突っ走る飛空艇の中で皆それぞれに時間を過ごしていた。
 ルーとユウナは魔力を浪費しないよう部屋で瞑想し、キマリは愛槍の手入れをしている。
 ティーダとアーロンさんは剣の稽古。でもって、メルとリュックは台所で料理の練習中だ。
 いや、お前らだけ呑気すぎるだろ。数時間後にはシンと戦うんだぞ、ちっとは緊張感を持て!
 と思いつつ、それを見てる俺も人のことは言えねえんだよな。

 料理が苦手なら特訓すればいい。
 そう言ったものの、メルの腕前を実際に味わったリュックは、まずメルに自分の手料理を食わせることから始めた。
 いきなり作らせるのは無謀だってのを理解したんだ。

「メルには情熱がなさすぎるんだよね。めんどくさい気持ちが溢れてるっていうか、美味しいものを作ろうと思ってないんだよ」
「だってお金出せば美味しいもの食べられるんだから無駄な努力しなくても」
「あーーやだやだ! いざって時に困るのはメルなんだよ!? お金は食べられないんだからね!」
 まあ、それはリュックがアルベド族で気軽にヒトの店に入れないからこその想いでもあるんだろうな。

 旅慣れてるリュックは料理に限らず身の回りのことは自分でやる。
 メルも相当しっかり者だと思ってたんだが、どっちが年上だか分からないような二人を見てると思う。
「俺はメルに過保護すぎたのか」
「えっ、今さら!?」
「ワッカが過保護じゃなかったらこの世に過保護なんて言葉は存在しないよ」
 そこまで言わんでもいいだろ。

 ずっと親代わりの兄代わりで、メルを対等な大人として扱ったことはない。
 メル本人にそう指摘されてから、改めて考えたことがある。
 俺としては厳しくやってきたつもりだった。過保護な自覚はなかった。
 俺がメルを甘やかしてたとしたら、それは兄としての気持ちじゃなかったんだ。

 メルはガキの頃から俺に特別懐いて、口癖のように「ワッカのお嫁さんになる」と言っていた。
 そりゃ悪い気はしねえし、こいつが隣にいるのは当たり前になってたから俺もそのつもりでいた。
 だが、メルはその時まだ本当にガキだった。
 俺に惚れてたんじゃなく単に近所の兄貴分に懐いてただけだ。
 だから適当に流して、大事にしつつも妹みたいなもんだと思うようにしていた。
 その気持ちが大人になって変わっちまう時、メルが離れていっても勘違いしないように。

 じゃあ、なんでこいつがルカで働くって言い出した時あんなに嫌だったんだ?
 カフェだのスタジアムの受付だので働くのに反対したのは、本当に家族として心配だったからか?
 保護者気取りで説教しつつ肝心なところで甘やかしてメルを子供扱いしてたのは、たぶん……。
 俺は、メルを手放したくなかっただけなんだ。
 大人になって俺から離れるくらいなら、一人前になんかなってほしくなかった。
 メルの心が離れてもそばにいられるように兄と妹の立場を固めたかった。

 まったく馬鹿みてえだよな。そんな遠回りするよりさっさと告白でもしときゃよかったんだ。
 三年前、メルが島を出ると言ったあの時に、独り立ちなんて早いとか言わず「俺の嫁になれ」ってよ。
 そうすりゃメルはビサイドを出たりしなかっただろうし、俺もいろいろ落ち込むことはなかった。
 チャップだって……余計なこと考えずにルーに結婚を申し込んでたかもしれない。

「はあぁぁ……」
「なにワッカ、でっかいため息吐いて」
「いや、もっと早くお前が立派な大人だって認めてりゃよかったと思ってな」
「……大丈夫? 熱でもあるんじゃない」
 大丈夫じゃねーよ。ビサイドに帰って、メルと結婚するって報告すんのを考えたら気が重いぜ。
 僧官長なんか絶対「今頃か?」って言うに決まってるよなぁ。

 不審そうなメルを見つめ、肩を落とす俺を見つめ、リュックはしばらく首を傾げたあとでポンと手を打った。
「フッフッフッ」
「な、なんだよリュック」
「あたし、ピンときちゃったなぁ〜」
「何が」
 俺に向き直ると、リュックはビシッと指をさした。
「ワッカ、メルに告白されたでしょ?」
「ぶほあっ!!」
 なぜか衝撃を受けたのはメルの方だった。

「おいメル、大丈夫かよ」
 噴き出した拍子に噎せたのか、激しく咳き込んでいるメルの背中を擦ってやる。
 お陰で俺は驚き損ねちまったじゃねえかよ。
「やっぱり。なーんか妙に空気が違うと思ったんだよねー」
 メルの反応で自分の勘が当たったと思ったのか、リュックは上機嫌だ。
 酔っ払って言った「大好き」は告白のうちに入んのか。本人に言うつもりがなかったなら論外だよな。

 大体マカラーニャで何したか知ったあとメルが言ったのは、よりにもよって「ビクスンと付き合う」だぞ。
 そういや、あの件に関してはいずれハッキリさせておかねえと駄目だな。
「告白なんかされてねえよ」
「……えっ? うそ!? あれぇ、おっかしいなぁ」
「俺はメルに告白したけどな」
 誰かさんと違って素面で、だ。
 意味を理解するのに数秒かかったようだが、一拍遅れてリュックは仰天した。
「な、なんだって〜!?」

 端から見て俺があからさまに過保護だったなら、俺がメルを好きだってのも今さらなんだろう。
 リュックはすぐに衝撃から立ち直った。
「ほらメル〜、あたしが言った通りじゃん!」
「え……なんだっけ」
「サヌビアで『ワッカがメルのこと好きだったらどうすんのさ』って、言ったでしょ」
「あぁ……いやでもこれは不慮の事故っていうかなんていうか」
 なんつー言い種だ、おい。まるで両想いだったのが嫌みたいだな。失礼なやつだぜ。

 というか、こいつらそんな話してたのかよ。
 メルが俺に惚れてんのは周知の事実だったのか。俺がさっさと気づいてりゃ済む話だったのか?
 そういやルーが「知らないのはあんただけよ」とか言ってたっけな。こういうことだったのか……。

「そっかそっか。やっぱりメルからは言えなかったんだ」
「ひとをヘタレみたいに言わないでくれません?」
「実際そうじゃん。好きって言うチャンスは何度もあったのにね〜、ベベルから逃げ出した時とかさ!」
「ううっ、もうやめてください」
 メルが本気で泣きそうになってるところ悪いが、リュックの言葉の方が気になった。
「何がチャンスだって?」
「あーっもう聞かなもがっ!」
 ちょっとうるさいんでメルの口は塞いでおくことにする。

「ほら、メルがベベルに残ろうとしたのをワッカがお説教してた時だよ。『お前がいなくなったら俺はもう駄目だ』って愛の告白もどきなこと言ったじゃん」
「あれかぁ?」
 メルが無茶したことは今も怒ってるけどな。
 お前がいなくなったらってのだって、し、下心なんか……なかったぞ?

「あれのどこがチャンスなんだよ」
「だってメルってば、勢い余って『ワッカのこと好きだから無茶くらいするよ』って言いかけてたのに、慌てて引っ込めちゃってさ〜」
 ……そうか? 正直かなり頭に血が昇ってたんで会話の内容なんか細かく覚えてねえや。
「告白してフラれんのが怖いとかも言ってたんだよ。もう、あたしが代わりに言ってやろうかって、どんなに迷ったことか!」
 いや、リュックの口から「メルが俺を好きらしい」とか言われても、俺はどう反応すりゃいいんだ。

 メルを見れば顔を真っ赤にして大人しく俺の腕におさまっている。
 暴れないってことは図星なのかと思ったが……。
「あー、ワッカ? 鼻と口、両方塞いじゃってるよ」
「おっ? わ、悪ぃ!!」
 慌てて手を離したらメルはぜえぜえと息を荒げた。
「い、いろんな意味で死ぬかと思った……」
 それは本当に、すまん。

「でもさー、メルも素直じゃないけどワッカの鈍さも相当だよね」
「それはしゃーねえだろ。こいつが自分は妹だって言ってんのに、勘違いしようがねえっての」
 俺が勝手に逃げ腰になってたのも認めるが、そもそもメルが好きだの嫁になりたいだの言わなくなったのが原因だぞ。
 もう俺はその対象じゃねえんだと思うなってのが無理な話だろ。

 メルが俺を好きなのは駄々漏れだったとリュックは言う。
 んなこたぁ俺も分かってる。だがそれは、家族としての愛情だと思ってたんだよ。
「ルールーとかユウナに対する好きと同じだと思ってたわけ? メルがあんな、ワッカに関することだけ暴走しちゃうのに、ホントに気づかなかったの?」
「俺だけじゃねえよ。ルーやユウナに何かあったって暴走するだろ、こいつは」

 それでもリュックは納得がいかないようだった。
「ふーん」
 ジトっとメルを睨んでいる。
「ふーん……」
 尋問するみたいな視線を向けられ、メルは頬を染めて俯いてしまった。
 ……あー……くそ。ちょっと可愛いじゃねえかよ。

「ねえメル、もしワッカが召喚士になってたらどうした?」
「へ? いや無理でしょ。絶対向いてないよ」
「だからもしもの話だってば。やっぱり究極召喚以外の方法を探して討伐隊に入ったりした?」
「それは……」
 もしもの話を想像するために、メルは俺の顔をじっと見つめた。
「それ、は……」
 もし俺が召喚士だったら。つまり俺が死ぬ道を選んだらってことだが……。
「げっ!? おい、なんで泣くんだよ!」
「うぅ〜〜想像できないし、したくない〜」

 目に涙を溜めて抱きついてきたメルに困惑しつつ頭を撫でてやる。
 ユウナが召喚士になると言った時は、メルは泣かなかった。俺やルーのように怒りもしなかった。
 先に打ち明けられてたってのもあるだろうが、ユウナの気持ちを尊重しつつ死なせない方法をその時から探してたんだ。
 ルーがギンネム様のガードになった時だって、表向きメルは冷静に見送った。
 でも俺がズーク先生のガードになった時は、ガキみたいに泣きじゃくって嫌だと駄々をこねたんだよな。

「冷静でいられないくらい好きだから暴走するんでしょ。全然違うよ。こんなに分かりやすいのにね〜、あーあ、聞かなきゃよかった」
「じゃあ聞くなよ……」
 しかし改めて考えると、なんつーか、すげえ照れるぜ。
「まあ、端から見りゃ分かりやすかったのかもしれねえ。要は俺も冷静に考えられなかったってこった」
「は〜〜!? ごちそうさま!!」
 なに怒ってんだよ。リュックが始めた話だろ。

 一頻り怒るとリュックはメルに対して姉のような気持ちが芽生えたらしい。
 やっぱどっちが年上だか分かりゃしねえな。
「でもさ、結局は両想いだったんだよね。よかったね、メル」
 俺の腕におさまってぐずぐず涙ぐんでたメルだが、なぜかリュックの言葉にキレた。
「両想いじゃない! 私の方が」
 が、途中で自分が何を言おうとしたかに気づいて顔を覆う。
「やっぱ今のはナシで!」
「メル……やっぱヘタレだよ……」
 そのわりに妙なとこで負けず嫌いなんだよなぁ。

 どっちの方が好きだとか、そこは張り合うところじゃねえし、できれば素直に言ってほしかったぞ。
 そうか、マカラーニャの森でもこんな感じだったわけか。
 じゃあきっと続きを言ったら言ったでまた口論になってたかもな。
 なんせ俺も思いのほか負けず嫌いだったらしい。
 こいつを好きだって気持ちで、負けてるとは思えねえからな。




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