×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
僕だけのものにしたい


 日課のパトロールを終え、最後に崖下の洞窟を見回ってから地上に戻る。
 ちょうど吊り橋を渡ろうとしている人影が見えた。
 私に気づいてヒトならざる青い髪の男性が振り返る。
 二年前のギンネムとルールーとは違う様子だ。
 彼は間違いなく召喚士のようだが……連れがいなかった。

「ガードも連れずに、一人で何をしに行くんだ?」
「それはあなたも同じではないですか。このようなところで何を?」
 剣呑な口調で問われ、その敵意に思わず身構える。
「この地を守るのが私の仕事だ」
「……ああ、異界送りの。送儀士と呼ぶのでしたか」
 それが分かっても彼の敵意は薄れなかった。
 究極召喚を求めに行く召喚士は大抵が穏やかだ。それは既に己の死を受け入れているから。
 目の前に立つ彼の瞳は……怒りに満ちていた。
「シーモア=グアドと申します。究極召喚に相応しき力は得ておりますれば、御山に足を踏み入れる権利はあるかと」

 グアド? 髪の色は確かに。しかし彼の顔つきはヒト族のそれだ。
 シーモア=グアド。少し前にそんな名の男がマカラーニャの僧官長補佐に就任したという報せがあったぞ。
 ああそうだ、グアド族でありながらエボンの老師の地位を戴いた、ジスカル=クアドの息子だ。
 なぜそのような地位にある方がザナルカンドに向かうのか。
 ……というか、彼を妨げるのは難しい気がするな。
 召喚士を北に行かせないという私の目論見が寺院にバレてしまう。

 こちらが迷っている隙に彼は錫杖を振りかざし、見たことのない召喚獣を呼び出した。
「え、ちょ、ちょっと……」
 なんだその禍々しい召喚獣は。どこの寺院の祈り子様だ?
「込み入った事情がありまして。私のことは寺院に知らせずにおいていただきたい」
 さもなくば……というわけか。
 力ずくで止めたって構わないが、問答無用でというほど私も野蛮ではない。
「寺院に知らせると都合が悪いのは私も同じだ。その事情を聞かせてもらいたい」

 シーモアは値踏みするように私を眺めた。しかし召喚獣をさげる様子はない。
 こちらの事情を打ち明けなければ駄目かな。
「私は召喚士をザナルカンドに行かせたくないんだ。あなたが究極召喚を求めるつもりなら全力で止める。そうでないなら、話し合おう」
「ほう……」
「それに、あなたがザナルカンドに行っても意味はないぞ」
「ガードがおらぬ故に?」
 ……ん?
「祈り子として捧げるガードも連れず、一人でユウナレスカに会ったところで意味はない。そう言いたいのですね」

 呆然とする私に微笑み、シーモアは召喚獣を送還した。なぜか知らないが彼の敵意は消えたようだ。
「十五年前に私が下山した時、あなたはいませんでしたね」
「その頃は、まだ従召喚士だった」
 下山した時……。
 私がここに来る前に彼はもうザナルカンドに行って帰ってきたということか。
 では今の召喚獣は彼のガードだった者、究極召喚獣なのか?
 大体、十五年前って……いくつで旅をしたっていうんだ、彼は。

「あなたこそ、なぜ究極召喚のことを知っているのですか?」
「私はブラスカさんのナギ節の後、ザナルカンドに行ったんだ」
「……なるほど」
 生きてここにいるということは、彼はシンと戦わなかったんだ。
 どうして今頃またザナルカンドに行こうとするのか。

 僧官長補佐といえば次期僧官長の地位は保証されたも同然だ。
 おそらく寺院は彼が究極召喚を得ていることを知らないのだろう。
 ザナルカンドに到達しながら旅を止めた召喚士など、知られれば生半可な冷遇では済まない。
 他にもシーモア=グアドの話を聞いたことがあるはずだが、私は今、必死にそれを思い出そうとしている。

 彼は困惑する私を見つめ、薄気味の悪い笑みを浮かべた。
「あなたも召喚士ならば私の野望に協力してもらおうか。それもまた一興だ」
「は?」
「しかし私には先に成すべきことがある。通していただきましょう」
 何なんだ。この人、ちょっと危なそうだな……。
 ガードを連れていないことに気づいた時点で声をかけなければよかった。
 だが、もう話しかけてしまったから仕方ない。

「一応は私の事情を話したんだ、そちらの目的も話してほしい。……究極召喚を求めるのでなければ止めはしないから」
 人柄に不安はあるが、とにかく究極召喚の真実を知ったうえでシンを倒さずに戻ってきた人だ。
 もしかしたら協力……できる……かも、しれない。自信はないけれども。

 シーモアは霊峰ガガゼトを見上げ、目を細めた。
 情の薄そうな男という印象だったが、意外にもその視線には深い愛情が浮かんでいる。
「祈り子像をかの地に置いておきたくないのです」
「先ほどの……究極召喚の祈り子か」
 愛情というよりは執着だろうか。まあ、似たようなものだ。
 ガードとして旅を共にし、祈り子として捧げるくらいだ。大切な者だったに決まっている。
「究極召喚獣が次のシンになる。そのことは?」
「……」
「知ってるんだな」
 やはり、だからシンとの戦いを避けたんだ。

 錫杖代わりの槍を振り、バハムートを召喚する。
 私が敵意を示さなかったのでシーモアも身構えることなく、ただ不審そうに私を見つめた。
「そちらはヴァルファーレにでも乗ってくれ。何も律儀に歩いて山を越える必要はない」
「どういうおつもりで?」
「一人で祈り子像を運ぶのは大変だろう。手伝いたい」
 ユウナレスカ様が彼を好意的に迎えるとは思えない。
 彼も私と同じく、究極召喚には値しない者だったのだから。

「ヴァルファーレとは、どこの召喚獣でしたか」
「……」
 あれ……? 究極召喚を得たのに、寺院を巡り終えていないのか?
「えっと……まあいい。では私の後ろに乗ってくれ」
「分かりました」
 もしかしたら、すべての寺院で祈り子様と交信する必要なんてないのかもしれない。
 求められるのは絆と命、それだけか。

 雪の吹き荒ぶ霊峰を飛び越え、一気にエボン=ドームに到達する。
 手荒い歓迎でもあるかと思ったが、ユウナレスカ様は無反応だった。
「ナギ節ゆえにお目こぼしを頂けたのでしょうか」
「かもしれない。ジェクトさんが戻ってくるまでは、召喚士が役目を果たさなくても無関心なのかな」
「次のシンはジェクト様でしたか。ザナルカンドから来たという?」
「……その話、初耳だ」

 ジェクトさんもアーロンさんも今や大召喚士ブラスカ様を守って戦った伝説のガードとなっている。
 シーモアは、二人とも帰ってこなかったのでどちらがシンになったのかまでは分からなかったと言った。
「で、ザナルカンドから来たというのは?」
「詳しくは知りません。彼自身がそう言っていたそうですよ。ベベルを騒がせた罪で収監されていたところを、ブラスカ様がガードにして連れ出したのだとか」
 そんな経緯があったのか……。

 ザナルカンドから来た。それはもちろん、この遺跡のことではないだろう。
 七年前、アーロンさんが最期に言っていた。
 眠らない街ザナルカンド……ジェクトさんとの約束を果たしにそこへ行くのだと。
 そして祈り子様は、シンがそこで傷を癒すと言っていた。
 アーロンさんが旅立った場所……ジェクトさんはそこから来たのか?
 それは一体どこにあるんだ? シンとどんな関係が?

「まだ知らないことが多すぎるな……」
「ええ。さしあたっては、あなたの名前も知らないのですが」
「……」
 そういえば名乗ってなかったと顔をあげたら、シーモアはやけに迫力のある笑みを浮かべていた。
 お、怒ってるのか? 確かに向こうは名乗ってくれたのだから私の態度は無礼にあたる。
「申し訳ない。私はカルマだ」
「カルマ殿、以後よしなに」
「は、はい。よろしく」
 この人なんか、リンさんと似た底知れない凄味がある……怖い……。よろしくお願いしたくない。




|

back|menu|index