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きらきら光る瞳


 いつものパトロール中、ベベル側の平原に見慣れないチョコボの姿を発見して飛んでいく。
 やっぱり、リンさんのところの子ではない。
 旅人を乗せたベベルのレンタルチョコボだ。

 騎手が飛んでくる私に気づいて手を振った。彼の前に小さな女の子も乗っている。
 突風を当てないよう少し離れたところでバハムートを降り、彼らのもとに駆け寄った。
「ブラスカさん!」
「やあ、カルマ」
 私がここに来てから一年、ブラスカさんは宣言通り、本当にしょっちゅう遊びに来てくれた。
 今日の連れは奥方ではなくユウナ。
 久しぶりに見た彼女は随分と大きくなっており、確かな時の流れを感じて嬉しかった。

「ユウナ、彼は父さんの友達だよ」
 前に会ったのは、まだ彼女に物心ついていない頃だった。
 それでも私はもっと昔からユウナを知っている。
 彼女は初めて会った時と同じように、不思議そうな顔をして私を見上げた。
「こんにちは。私はカルマというんだ。よろしくね」
「ユウナです……、よろしくおねがいします」
 少しだけブラスカさんの足に身を隠しながらはにかむ。
 このナギ平原で、成長したユウナと挨拶を交わしているなんて。なんだか感動的だ。

 彼女は期待に満ちた瞳で、そわそわしながら私を見つめていた。
 なんとなく言いたいことに察しをつける。
「召喚獣を見たい?」
 私がそう尋ねると、ユウナは嬉しそうに目を輝かせてこくんと頷いた。
 さっきは近くで見られなかったからね。

 本当はもう舞を省略しても呼べるのだけれど、せっかくなので正式に召喚術を執り行う。
 やがて空の彼方から飛来したバハムートは、心なしかいつもより誇らしげに着地した。
 これくらいの幼子なら怖がってもおかしくないのだけれど、ユウナは心から嬉しそうにはしゃいでいる。
「わああ! かっこいい!!」
「聖ベベル宮にいらっしゃる祈り子様から頂いた、バハムートだよ」
「あの、お歌をうたってる祈り子さま?」
「そうそう」
 彼女を連れて寺院を参拝しているのかと思い、ブラスカさんをちらりと窺う。
 彼は何とも言えない表情で笑って肩を竦めた。

 聖ベベル宮はエボンの総本山。悲しいことに、アルベド族は当然のごとく排斥される。
 僧官として勤めていたブラスカさんもアルベド女性を娶ったことで上層部に嫌われてしまった。
 出世の道が絶たれたあとは徐々に居場所を奪われ、遂には寺院から追い出され……。
 事情が知れ渡っているから、町でも肩身の狭い思いを強いられている。

 ユウナは……同世代の友達、いるのかな。
 子供っていうのは無邪気で純粋ゆえに残酷なものだ。
 大人に「一緒に遊んではいけない」と言われればそういうものだと納得してしまう。
 私にも同世代の友達はいなかった。
 ……ただ、ブラスカさんのような年上の友人なら、ちゃんといる。
 ベベル宮の中にも真っ当な精神を持つ人は存在する。
 彼らとユウナを触れ合わせるために、ブラスカさんは娘を寺院へ連れて行くんだろうか。

「ユウナ、バハムートに乗って飛んでみる?」
「いいの!?」
「もちろん。お手をどうぞ、お嬢さん」
 バハムートが膝をつき、その巨大な手を彼女に差し出した。
 ユウナは恐る恐るブラスカさんの方を見て、彼が笑顔で頷くと大喜びでバハムートの手に飛び乗る。
 離れたところから様子を窺う魔物を咆哮で威圧し、ユウナをそっと支えながらバハムートは飛翔した。

「ユウナはいい子だなぁ」
「カルマにそう言ってもらえると嬉しいよ」
 私が生まれてくるのがもう少し遅かったら、彼女の友達になってあげられたのに。
 いや、今でも友達にはなれるけれど、やっぱり同じ年頃の友達は欲しいものだ。
 それでも彼女は屈託なく笑える、純真ないい子に育っている。
 ブラスカさん夫妻の育て方が素晴らしいんだろう。

「何も悪いことなんかしてないんだ。これからも、堂々と寺院へ行けばいいと思います」
 ユウナはこんなにもまっすぐ育っている。
 穿った見方をするあなたがたこそ間違っているんだと教えてやればいい。
 私がそう言うと、ブラスカさんは静かに微笑んだ。

 ユウナはすっかりバハムートに懐いて、歓声をあげながらあちこち飛び回っている。
 私は他の祈り子様と交信をせず、バハムートとだけ絆を結んでいる。
 だからこそ魔力をやりくりして数時間は召喚を保つことができるんだ。
 それにしても、「魔力は大丈夫なのか、ユウナが落ちたりしないか」とブラスカさんは一切尋ねない。
 当然のように信頼されているのかと思うとなんだか照れ臭かった。

 スピラ最強の召喚獣が熊蜂のごとく飛び回っているため、魔物も恐れて近寄ってこない。
 私とブラスカさんは寛いで草原に腰をおろし、空の散歩を楽しむユウナを眺めていた。
「今日はどうしてナギ平原に?」
 ユウナを連れてきたのは初めてだ。
 遠出できる歳になったからだとしても、奥方が一人ベベルで留守番しているのかと思うと不思議だった。
「……ちょっとした気晴らしかな」
 なんとなく言葉を濁すのがらしくなくて、ブラスカさんをじっと見つめる。

 しばらく見つめ合った末に彼は根負けして目を逸らした。
「実は、妻が先日から出かけてるんだ」
「なるほど淋しいんですね」
 あるいは、元気すぎるユウナを持て余してナギ平原まで連れ出したというところか。
 問題が起きたわけではないようで、よかった。
 それにしても奥方は一人でどこへ出かけたんだろう。

「ユウナを彼女の伯父と会わせてやりたくてね」
「というと、奥方の兄君ですか」
 確かアルベド族のリーダーをやっている人だと聞いていた。
 各地に散り散りになって放浪していたアルベド族を集め、サヌビア砂漠にホームを建てて“故郷”を作ったのだとか。
 ブラスカさんはエボンの僧官には珍しくアルベドに好意的だった。
 そうして彼らのもとを訪ね、友好を結ぼうとするうちに奥方と恋に落ちた。
 ただ……その恋は、ベベルでもアルベド側でも歓迎されなかったけれど。

「奥方も、兄君と和解する気になったんですね」
「ああ。本当は私も行きたかったんだが、留守番を命じられてしまった」
「賢明な判断ですよ」
 ユウナの伯父君がどんな性格か私は知らないけれど、奥方の性格から考えても似たような人だと思う。
 つまり、すごく……芯の通った……気丈な人だ。
 彼女はブラスカさんとの結婚を認めなかった兄に烈火のごとく怒っていた。
 勘当を言い渡され、「こっちから願い下げだわ!」とブチキレてホームを出てきたのだと聞いている。

 和解は叶うと思う。でも、最初からブラスカさんが行ってしまうとたぶん拗れる。
 素直になれずにまた喧嘩してしまっては元も子もないのだから、まず一人で向かった彼女は正しい。
「きっと仲直りできますよ。『子はかすがい』って言うじゃないですか」
「カルマは時々、年寄りくさいなぁ」
「うぅ、寺院育ちなもので……」
 年齢がどうであれ私は一人前の大人だと自負している。
 でもまだ十二歳なんだ。爺くさい自覚はあるので、指摘されるとちょっと傷ついちゃう。

 ナギ平原の端から漆黒の影が猛スピードで私たちめがけて飛んでくる。
 正面から突風が叩きつけて私とブラスカさんはひっくり返った。
 地面を震わせてバハムートが着地すると、ユウナはその手のひらから悠々と飛び降りる。
「楽しかった?」
「うん!!」
 堪能してもらえたようで私も嬉しい。だけどできれば、着地は人のいないところで行ってほしいな。

 興奮冷めやらぬユウナは頬を紅潮させて、ブラスカさんに手渡された水筒を傾ける。
 歓声をあげすぎて喉が渇いたみたいだ。
 ぷはーっと飲み干すと、私とブラスカさんの間にちょこんと腰をおろす。

「ねえ、カルマは召喚士なの?」
「そうだよ。ベベルの祈り子様としか会ったことはないけれど」
「ザナルカンドには行かないの?」
「うん……私の使命はナギ平原にあるからね」
「ふぅん。落ちこぼれだから行けないの?」
「ユ、ユウナ!」

 慌ててブラスカさんが口を塞ぐものの、ユウナはキョトンとしている。
 そうだね。私たちの一族は他の召喚獣と接触する必要がないだけで、接触“できない”わけではないのだけれども。
 ザナルカンドに行かないのは落ちこぼれだからではない。
 ただ私は祈り子様も認める才能なしなので、私個人に関して言えばユウナの推察は正解だ。
「さすがはブラスカさんの娘……」
「どういう意味かな、カルマ?」
 だってたまに、さらっと傷口を抉るようなこと言うでしょう、ブラスカさんも。

 ああもう。こんなに愛しい子にどうして会わずにいられようか。
 アルベド族もまたエボンの僧官であるブラスカさんを拒絶し続けてきたけれど、これからはきっと違っている。
 ユウナがいるんだ。
 きっと奥方は兄君と仲直りして、ユウナはアルベドのホームに歓迎されるだろう。
 そこで同世代の友達もたくさんできて……。
 楽しすぎて、私のことなんか忘れてしまうかもしれないな。
 でも、それでいい。私はちゃんと覚えているから。
 彼女が笑って生きられるよう、ここからずっと祈っている。




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