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永遠のナギ節を記念して開催されたエキシビショントーナメント。
最初はユウナの名を冠したいと申し出があったけれど、残念ながらユウナ本人が丁重にお断りした。
横断幕を見るに、どうやら無難な「スピラ・エキシビション」に落ち着いたみたいだ。
名前を貸してたら少しはお金がもらえたのになー、なんて思う。
エースが帰ってこないので消沈していたオーラカのメンバーも、勝敗の関わらない試合を思う存分楽しんでいる。
ちなみに、メンバーが足りないのでまさかのアニキさんが今回だけオーラカに加わってくれた。
サイクスのやつらが怯えていたのでいい気味だと思う。
それにしても、地味にチーム存続が危うい状態なんだよね。
なんとかしてお金を稼がないといけないなぁ。
今はオーラカの試合も終わったので、私は港で一人ぼーっと海を見ている。
ユウナたちは一応全試合を見るつもりみたいだ。
それが終わったらとりあえずビサイドに帰って、しばらく……ゆっくりさせてあげよう。
「よっ!」
「わあぁっ!?」
いきなり後ろから抱き着かれ、つんのめって桟橋から落ちそうになった。
「ワッカ〜〜! 危ないな、もう!」
「ボーッとしてっからだろ」
荷物、海に落とさなくてよかった。せっかく買ったばかりだっていうのに。
大丈夫だとは思うけれど、一応鞄から取り出して確認してみる。
悪びれないワッカはそれを覗き込んできた。
「メル、なんかスフィア買ったのか?」
「これは自前で撮影したやつだよ」
再生すると現れたのはついさっき壇上にいたユウナの姿だ。
「撮ってたのかよ。怒られんぞ〜?」
「うーん。後で見せられたら恥ずかしがるだろうね」
怒ってでも元気を出してほしい時に見せてあげようかなと思う。
シアターで買ってきたのは別のスフィアだ。
「そっちはオーラカの試合か」
「ん。マイカ様の御逝去記念セールでお安く手に入りました」
「……なんか微妙だな、そりゃ」
在位五十年記念トーナメントの映像だからね。今が買い時だったんだ。
「ほら、ワッカがボコボコにされるところもちゃんと映ってる……ククク……」
「怖え笑い方すんな。お前まだ根に持ってんのかよ?」
「ったり前だよ。忘れるわけないでしょ」
これまでの旅のすべてが大切だから、どんなことだって忘れたりしない。
ああほら……特典映像に各チームを乗せた船が入港してくる様子もおさめられている。
チョーシ乗んなよゴワーズ! 他チームのファンの間で妙に流行ってるんだよね。
「んで……こっちはルカに寄った時の、ティーダが大活躍した試合」
ちょうど選手契約が切れてメンバーが足りず、出場辞退が危ぶまれているところだった。
あの時、飛空艇でスルーせずにルカから船に乗ることにしてよかった。
急遽参戦したティーダがばんばんシュートを決めまくって、チームの士気も上がりまくった。
それでオーラカは二度目の優勝を果たしたんだ。
シンを倒してガードの仕事も終わって、これからって時なのに。
ザナルカンド・エイブスのエース、まだ名前を残し足りないよね。
「あいつ、どこでスカウトしてきたんだって問い合わせがすげえんだよなぁ……」
「戻ってきたら他のチームに引き抜きされちゃうかもよ」
「それは困る。あいつはオーラカで選手登録してんだ」
「ザナルカンド・エイブスの選手って契約料はどれくらいなんだろ」
「……やっぱ、貯めとかないとまずいってか?」
好意に頼ってタダで在籍してもらうのは気が引けるよね。
ティーダが帰ってきたら、今度こそ本業ブリッツで、ザナルカンドでプレイしてた時以上の人気選手になって。
なんでオーラカにあんな選手が! って嫉妬されちゃったりなんかして。
あのリーダーシップはきっとのんびり屋のオーラカメンバーを引っ張ってくれるだろう。
ワッカはティーダの面倒見るのが楽しそうだった。
ルーはティーダにいろいろ教えるのが楽しそうだった。
ユウナは……。
ユウナだって、きっと……待ってる。
エボン=ジュが斃れると同時、大量の幻光虫となってシンは消えていった。
祈り子が夢見た、眠らない町ザナルカンドと一緒に……。
彼も、まるで泡沫のように儚く消えてしまったけれど。
「ティーダはちゃんとここにいたよね」
夢なんかじゃない。ちゃんと生きて、私たちと一緒に戦ったんだ。
スフィアにも映ってる。歓声を受けて生き生きとしてる、あの元気な笑顔。
私は今でも前世の記憶を夢に見る。
その世界がどこにあったのかは分からないけれど、私が覚えている限り、それは確かに存在しているんだ。
私たちが覚えている限り、彼らの人生は夢幻なんかじゃない。
「死んじまったわけじゃねえんだ。ある日ひょっこり帰ってくるだろ。ビサイドに流れ着いた時みたいによ」
慰める風でもなく、なんでもないようにワッカはそう言って私の頭を撫でた。
「ふへへ……」
「な、何だよ」
オーラカの選手名簿にティーダは載ったままだ。
ワッカは、抹消申請なんてしようとも思っていないらしい。うちのエースは休場中。
……当たり前のように、帰ってくると言ってくれる。
本当にね、もう。
「ワッカ」
「あん?」
「私はあなたが大好きです」
「……へっ?」
もし一人きりで取り残されてたら、信じて待つことはできなかった。
一緒に待ってる仲間がいるから、一緒に戦った仲間が証してくれるから、ティーダの帰る場所を守っていられる。
ユウナの旅について行ってよかった。
いろんなものを見て、いろんなことを知って……。
どうしても受け止めきれなかったユウナの覚悟も気持ちも、どっちも救うことができた。
自分の気持ちにも向き合えた。
……ワッカが一緒に来いって、言ってくれたお陰で。
「私、ワッカのお嫁さんになりたい」
まっすぐ見つめて久しぶりにそんなことを言ってみる。
ワッカはピシッと音がしそうな勢いで固まった。
「……お、お前なあ! もうちっと待てよ。ビサイドに帰ったら言おうと思ってたのに」
「先に言ったもん勝ちでーす」
「俺には『まだ言うな』つっといてそれかよ……」
だって、よく考えたら私まだ言ってなかったんだもの。
酔っ払って言ったのは無効として、こういうのはちゃんとしておかないとね。
ビサイドに帰ってすぐ報告したら爺様たちに慌てて結婚式をさせられちゃいそうだ。
できればユウナの心がもう少し落ち着いてから。
できることなら、ティーダが帰ってきてから。
でも、彼が戻る前に結婚しちゃって驚かせるのも面白いかもしれない。
そういうことを考えるのは、すごく楽しい。
シンがいなくなって、二度と召喚士やガードが歪な希望の犠牲になることはない。
失ったものは多いけれど、得たものはもっと多い。
悲しむよりも希望を抱いていこうと思う。これから先をどう生きていくのかは私たち次第なんだ。
きっと未来は、喜びに満ちている。
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