×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
47


 ナギ平原には寺院があった。崖下の祈り子像のことじゃなく、ちゃんとした寺院だ。
 かつてはナギ平原の中心地だったというレミアム寺院。
 旅の途中で何度か出会った召喚士ベルゲミーネが、そこを守っていた。
 死人となっても異界に行くことなく、若い召喚士の成長に、力を貸すために。

 こうして見ると、人間ってのはいろんなことを考えて、それぞれにいろんな道を歩んでるものなんだ。
 生者も死者も抱えた想いは無数にある。
 いいやつもいれば、嫌なやつもいる。
 俺はそんな簡単なことさえ分かってなかったんだよな……。

 ユウナはベルゲミーネと最後の修行を終えて、この世を去ろうとしている彼女のために異界送りを舞う。
 それが終わったら祈り子様との対話に入るだろう。
 俺たちは寺院の入り口でユウナの用が終わるのを待っている。
 ……なんか、さっきからやたらと野生のチョコボが彷徨いてるな。

 忘れられた祈り子の洞窟を出て以来、メルとリュックは顔突き合わせてずっと話し込んでいた。
 訝しげに二人を見つつルーが聞いてくる。
「メルは何してるの?」
「ああ、なんか料理の特訓するんだってよ」
 初心者でも作りやすい料理ってのをリュックが教え、それをメルが書き留めているところだ。
「……え?」
 あいつの腕前を知ってるのでルーはますます怪訝な顔つきになった。
「ま、あいつもやる気さえ出せば器用なやつだしな。すぐまともなもん作れるようになるだろ」

 まだやる気に満ちているとまではいかないが、メルはわりと楽しそうだ。
 それを見ながらルーは満更でもない顔をする。
「やりたいと思ってやるなら、いいことよね」
「だろ?」
「花嫁修行でもする気になったのかしら」
「……って、なんでお前もそんな話になるんだよ」
 いや待てよ、そういや前にメル自身、花嫁修行で永久就職だとかなんとか言ってなかったっけか。
 あれはトーナメントの時のことだ。
 スタジアムのフロント係を辞めて討伐隊に入ったってことを俺に隠すための嘘だと思ってたが……。

 リュックも料理ができなきゃ結婚する時に困るとか言ってたな。
 料理くらいできなくたって支障はないと思うんだが、問題はメルがその言葉でやる気を出したってことだ。
 ってことは、あいつ……もしかして、具体的にそれを考えてる相手がいるのか?
 その野郎のために料理くらいできるようになっておこう、ってつもりなのか!?
 なんつーか、複雑な気分だぜ。メルもそんな年頃なのか……? まだ早いだろうよ。

 いきなりの疑惑に唸る俺を眺めて、ルーは呆れたようにため息を吐いた。
 べつに反対ってわけじゃねえぞ?
 ただ、あれだ、考えもしなかったからビックリしただけだ。
「……ねえ。シンを倒して、旅が終わったら……どうするの?」
「どうするって?」
「ビサイドに帰って何をするのかってこと。あんただって、また結婚をせっつかれるわよ」
「う……」
 そうだな。ガードになると決めてからは静かだったが、まあまたいろいろ言われるだろう。
 メルより先に、俺もそろそろ身を固める歳だ。
「さて、どうすっかなぁ。まだ考えてねえや」

 ザナルカンドに着いてユウナが究極召喚を手に入れて、シンを倒した後。
 そっから先には何もなかった。考えたくなかったんだろうな。
 だが今は、シンを倒した後にも俺たちの日常は続いている。
「何すりゃいいのか、何も分かんねえけど、先のことを考える余裕があるってのはいいもんだな」
「そうね……。シンを倒して、ユウナと一緒に、ビサイドに帰る……それを想像する日が来るなんて」
 そんなことを想像できる日が来るなんて、思いもしなかったんだ。

「それで、話を戻すけど。メルもそろそろ結婚を考える歳よね」
「う!? そ、そうか?」
 できればその話には戻してほしくなかったぜ……。
 あんまりいろいろ考えてるとつい口出ししちまう気がするんだ。
 で、俺はたぶん結婚に反対してメルに「ワッカには関係ないでしょ!」と怒られる。
 うーむ、簡単に想像がつくな……。

 メルがなんでいきなり料理の特訓を始めようなんて考えたのか、その理由は分からない。
 単にリュックに言われたから従ってるわけじゃないだろう。
 今まで面倒くさい興味がないと放ったらかしてたんだ。あいつは誰かに言われたくらいでコロッと考えを変えたりはしない。
 シンを倒した後、結婚を考えてる、だから料理くらい覚えておきたい……やっぱ、そういうこと、なのか?

「あの子はずっと究極召喚以外の方法を考えてたじゃない。旅が終わったらってこと、私たちよりもっと想像してたと思うわ」
「だ、だから?」
「ビサイドに帰ったら結婚するつもりなんじゃないか、って言ってるの」
 それはちっとばかし、衝撃の大きすぎる言葉だった。

 思えば今までユウナのことにかかりきりで、あいつの将来について真面目に考えてやる余裕もなかったのは悪かった。
 確かにルーの言う通り、メルはずっと究極召喚以外の方法を探してたんだ。
 つまり、ユウナが死なない未来のことを。
 シンを倒した後、一緒に生きていくってことを。
 ユウナについてだけじゃなく、自分の将来についてもとっくに考えてたんだとしたら。
 旅が終わったら……あいつはどうするつもりなんだ。

 メルは相変わらず楽しそうにリュックから料理の基礎を教わっている。
 たまになぜか赤面して怒ってるが。
 お前それ、誰のために覚えようとしてんだ?
「本人に聞いてみたら?」
「なんで俺が……」
「気にならないならいいけど」
「そ、そんならルーが聞きゃいいだろ」
「私はべつに、気にならないもの。メルが誰と結婚しようと、彼女が自分で選んだ相手ならね」
 お、俺だってなぁ……あいつが自分で選んだ道なら、反対なんかするわけねえだろーが!




|

back|menu|index