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 エフレイエに襲われこそしないものの、やっぱり聖ベベル宮は私たちを歓迎してくれなかった。
「反逆者ユウナ!」
 門衛がこちらの姿を見留めて駆け寄ってくる。もちろん、歓迎の空気はない。
「ちっ。面倒なことになりそうだぜ」
「新手を呼ばれる前に倒さないと、ね」
「よくもおめおめと姿を見せたな! エボンの名のもとに成敗してやる!」
「だってさ。どうする?」
「売られたケンカは買うよ〜!」
 うーん。本当に力ずくになっちゃうのかな?
 マイカ様に辿り着くまで押し通るのは、ちょっと厳しいと思う。

 お互い武器を抜いて臨戦態勢になっていたところ、間一髪で奥から誰かが出てきて門衛を制止した。
「待ちなさ〜い!」
 あの子は……旅の途中で何度か顔を合わせた気がする。名前はなんだっけ、確か巡回僧をしてるんだよ。
「監督官殿!」
 監督官殿? 修行僧がベベル門衛の統轄だなんて、言ってはなんだけど人手不足が深刻みたいだ。

 そんなちょっと場違いな彼女だけれども、私たちにとっては救いの主だった。
「あなたたち、ユウナ様になんてことするんですか! ユウナ様が反逆者だというのは、アルベド族が流したデマです」
「はああ? なにそれ!」
「マイカ総老師が、そう仰っていました」
 彼女……そうそう、シェリンダの指示を受けて門衛が渋々と引き下がる。
 誤解でユウナに剣を向けて罪悪感がないとは。あとで上級僧官に怒られちゃえ!

 とりあえず武器をおさめたところで改めてリュックが怒る。
「さっきの話、どういうことさ〜!」
「あの、本当は私にもよく分からないんです。寺院全体が、どたばた混乱していて……私も昨日いきなり呼ばれて、門衛の監督を命じられたんです」
「人手不足のようだな」
 あ、アーロンさん、それ本人に面と向かって言うことじゃないです……。
「はい。はっきり言って、寺院はかなり混乱してます! もう酷いんです! 僧官も皆で責任を押しつけ合うばかりで……。ああ、エボンはどうなってしまうのでしょう」
 あなたもさ、愚痴より今のは怒っていいところだよ。

 仕方ないこととはいえ、寺院がこうなった原因は一応、私たちにある。
「あの……」
 困惑しきりのシェリンダにユウナが声をかける。責任を感じているのかもしれない。
「あ、すみません! 他の人が慌てているなら、私がしっかりしないと、ですよね。ユウナ様も頑張ってらっしゃるんです、私だって弱音は吐けません!」
 うん……純朴そうな彼女があんまり寺院中枢のごたごたに巻き込まれないといいな。
「それよっかさ、マイカ総老師に会いたいんだけど……できる?」
「大丈夫だと思います。裁判の間でお待ちくださ〜い!」
 本当にやることが多くて忙しいのだろう、シェリンダは走り去りながらそう言い残した。

 それにしても……。
「なぜ裁判の間なのか」
「あの様子だ。他に案内できる空き部屋すらないのかもしれん」
「うー」
 やだなぁ。マイカ様の寝室にでも通された方がマシだよ。
 ……いや、それも嫌だなぁ。

 シェリンダがいなくなったものの、肝心なことを聞けなかったリュックがまだ憤慨している。
「ていうか、アルベドの流したデマってなにさ!」
「気にするな。マイカもユウナに頼るしかないのだろう」
 ユウナは反逆者じゃなかった、なんてあっさり言えるわけもない。
 だから彼女は攫ったアルベド族の起こした騒動に巻き込まれただけ、とでも主張してるのかな。
「は〜……そゆことか」
「虫が良いにも程があるわね」
 まあ、シンを倒して帰ってきたらユウナが本当のことを知らしめればいいんだけど。
「んじゃ、説教してやるッスよ!」
「うん。行こう!」


 はりきって駆けていくユウナたち三人を見送りつつ、横目でワッカを見遣る。
「説教ね……」
「んだよ、その目は?」
 説教はね、嫌だね。特にこのベベルの通路を歩いてると思い出しちゃう。
「おいメル、中でなんかあってもこないだみたいな真似は、」
「わーーーーかってるってば! ほら行こうよ!」
 ほんっとしつこいんだから、もう!

 意外にも、待たされることなくマイカ様は裁判の間に現れた。
 今度は被告人席に立たなくて済むのでホッとする。ただ、マイカ様の態度は冷淡だ。
「今さら何を知ろうと言うのだ。早くシンを倒すがよい。ユウナレスカに相見え、究極召喚を授かったのであろう」
「あー、ユウナレスカには会ったけどさ」
「私たちで倒しました」
「何と!?」
 そりゃビックリするよね。
「召喚士とガードが究極召喚の犠牲になることは二度とない」

 わなわなと震えていたマイカ様だけれど、言葉の意味がしっかり脳に到達したところで噴火した。
「千年の理を消し去ったというのか、この大たわけ者どもが! 何をしたか、分かっておるのか!? シンを倒す唯一の方法であったものを……!」
 バッカモーン! って感じだね。
「唯一、なんて決めつけんなよ。新しい方法、考えてんだ」
「そのような方法などありはせぬわ!」
「でもマイカ様、探したんですか? 五十年の在位中にどれだけのことが分かったんですか? 千年の理をそれっぽっちで理解しきれるとでも?」
「うぬ……」

 旅の間にもどれだけの嘘偽りとまやかしに出会ったことか。
 私たちは何も知らない。考えることさえしてこなかった。
 真実を知ってるなんて決めつけたら道は見つからない。
「スピラの救いは失われた。もはや破滅は免れぬ。エボン=ジュが創りし死の螺旋に落ちてゆくのみよ。……わしはスピラの終焉を見とうない」
「尻尾を巻いて異界に逃げるか」

 嘆き俯くマイカ様に、ユウナが力強く声をかけた。
「スピラを終わりにはしません。マイカ様、エボン=ジュとは一体?」
「死せる魂……幻光虫を寄せ集め、鎧に変えて纏うもの。その鎧こそシンに他ならぬ。シンはエボン=ジュを守る鎧に過ぎぬ。その鎧を打ち破る究極召喚を、お前たちが消し去ったのだ!」
 憤慨するマイカ様の体から幻光虫が零れ始めた。
「誰も倒せぬ」
 以前、自身が死人であると知らしめた時とは違って、幻光虫は止めどなく溢れた。
 そしてマイカ様の姿はそのまま消えてしまった。

「ふざけやがって! 好き勝手ほざいて結局逃げんのかよ」
「どっちみち大した情報は持ってなかったみたいだね」
「でもさ、要はそのエボン=ジュってのを倒せばいいんだろ?」
 シンは鎧。それを倒すための究極召喚。
 鎧っていうくらいだからシンは外郭で、内部にエボン=ジュがいるんだろう。コアみたいなものかな。
 歌を聞かせて大人しくなった隙になんとかしてシンの中に入る。作戦の根っこは変わってない。

 名残の幻光虫も消えたところで扉が開き、シェリンダが顔を出した。
「あの、マイカ総老師は……?」
「まだ来ないぞ。いつまで待たせる気だ」
「お年を召しておられますから、御手洗いにでも寄ってらっしゃるのでは?」
「変ですねえ。私、探してきます!」
 ごめんねー、たぶん永遠に見つからないよ。

 こっからどうしようかと相談しているところで、ティーダが壁を見つめて呟いた。
「お前……」
 何だ?
 ユウナも同じところを見つめて頷いている。
「……はい」
 怖いんだけど。
「誰と話してんだ?」
「ん、何でもない」
 嘘つけー、どう見ても何かあったじゃん。

 その何かがいたらしいところを見つめながら、ユウナが呟く。
「祈り子様に、会いに行ってきます」
 そう言うなりユウナとティーダは二人でベベルの奥へと走っていった。
「……なるほどな」
 得心したのはアーロンさんだけ。うーん……祈り子様の声でも聞こえたのかな?

 そっか。祈り子様は、ユウナレスカ様と同じ千年前に生きてた人たちだもんね。エボン=ジュのこともきっと知ってる。
 改めて各地の寺院を巡って話を聞くのがいいかもしれない。
 エボン=ジュが何なのか、どうやって倒すのかを知るために。

 私たちはシンのいない世界を知らない。
 いつかを夢見ながらも、シンが復活するのは当たり前のことだったんだ。
 だからマイカ様たちが“シンも世界の理”と断じてしまっても、あまり強くは言えなかった。
「でも考えてみたら、シンが生まれてたった千年なんだ」
「たった千年、ってお前……千年だぞ、千年!」
 だってそうでしょう、たかだか十世紀のことだよ。

 宇宙誕生の起源が約138億年前。地球が生まれたのは約46億年前。
 人類誕生は、新石器時代からとして一万年前くらいかな?
「たかが千年ぽっちシンに支配されてたからって、そんなの“世界”の歴史のごく僅かな一頁。シンのいない時代の方が、ずっとずっと長かったんだ」
 案外、簡単に倒せちゃうかも。
 世界をシンが生まれるより前の姿に戻す。それだけのことなんだ。

 ユウナたちが帰ってきて、祈り子様たちにエボン=ジュのことを聞きに行こうと話がついた頃。
 真面目にマイカ様を探してくれていたらしいシェリンダが困り顔で戻ってきた。
「あの……ごめんなさい。総老師がどこにもいらっしゃらないんです」
「それ、もういいんだ」
「またの機会にしますね」
「はあ、そうですか……?」
 あっと思いついたようにリュックが声をあげる。
「それより、歌のこと頼もうよ!」
「ああ、そうそう!」

 シンを眠らせるほどの歌。スピラ全土で、あらゆる人間が力を合わせなくては響かない。
「えっとね。できるだけ、大勢に伝えてほしいんだ。『空飛ぶ船が祈りの歌をうたう。それが聞こえたら、みんなも一緒に歌ってください』って」
「ベベルからビサイドまで……スピラ中に伝えてくれ!」
 そのために寺院の影響力が必要だ。

「空飛ぶ船が祈りの歌をうたう。それが聞こえたら、みんなも一緒に歌ってください……ですね」
「それでシンを倒せるかもしれないんだ。召喚士を、死なせずに」
 ティーダの言葉にハッと顔をあげ、シェリンダは嬉しそうにユウナを見つめた。
「ほんとですか? ユウナ様?」
「はい!」
「すごいです! 任せてください、必ずスピラ中に伝えます!!」

 あの人が元巡回僧でラッキーだった。多方面への伝手もあるだろう。
 昨日いきなり呼ばれた、って言ってたっけ。会えてよかったよね。こっちに運が向いてきたって感じだ。
 振り向けば、皆の表情も明るかった。結末にあるのは死と犠牲ではなく、生と希望だから。
 ……ここからの旅はきっと、今までと違うものになる。




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