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33


 一人ずつ別の被告人席に隔離され、法廷に並ぶ。
 武器は取り上げられることなく携行したままだった。
 もちろん、それを振るった途端に有無を言わさず殺されるなら持ってる意味もないけれど。
 裁定を行うのはマイカ総老師にシーモア老師、キノック老師……裁判長はケルク=ロンゾ老師。
 厳かに開廷の宣言が響く。

「召喚士ユウナ。汝はエボンの民を守る使命を帯びた身である。これに相違ないか」
「はい」
「ならば問う。汝はシーモア=グアド老師に危害を加え逃亡し、アルベド族と手を組み聖ベベル宮を騒がせた。これはエボンの秩序を乱す、許し難い反逆行為である。何故このような暴挙に及んだ。汝の意図を述べよ」

 ユウナは臆することなくケルク老師を見上げ、エボンの名のもとに自分自身の真実を告げた。
「真の反逆者はシーモア老師です。老師は父君、ジスカル様を、その手で……。私はジスカル様の遺言に従い、老師を止めようとしたまでです」
 意外なことに、ケルク老師は瞠目してシーモア老師を振り向いた。知らなかったんだ。
「何ですと! 今の言葉は真か」
「おや、初耳でしたか?」
 これで私たちに有利な流れになればと思うけれど、シーモア様の余裕を見る限り期待はできない。
 父殺しのキーワードに反応したのはケルク様だけだった。

「そればかりか、シーモア老師は……既に亡くなっています」
 婚礼の最中にユウナが異界送りを始めたので、気づく者は気づいたはずだ。
 改めてその事実を指摘したユウナを、ルールーが援護する。
「さまよう死者を送るのは召喚士の務め。ユウナは義務を果たしただけです」
 ケルク様の表情は変わらず、総老師はただ目を細めるだけだった。
「マイカ総老師、どうかシーモア老師を異界へお還しください!」

 ふ、と総老師の口からため息のように笑いが漏れる。
「死人は異界へ。そう申すか」
「総老師……」
 まさかと思うよりも早く、マイカ総老師の周りに幻光虫が溢れ出した。
 血の通う肉としてこの世に留まるには不安定な身体……。
「左様。わしも死人よ」
 ……総老師が偉人たる証、五十年もの在位は、それゆえに成されたことだったんだ。
 なんかズルいな。教えを説きながら私たちには何もかも黙ってたなんて。

 道理で、異界送りをされたのかどうかも不明な死人のシーモア老師が当たり前のようにそこにいるはずだ。
「マイカ総老師は賢明なる指導者。死してなおスピラに必要な人物」
「優れた死者による指導は、愚かな生者の支配に勝るのだ」
 ケルク様もキノック様も、死人の存在を肯定している。
 一体いつから“そう”だったのか。
 総老師の命が尽きて平気な顔をしているのに、シーモア様が死人だとて拘るはずもなかった。

「人は死ぬ。獣も死ぬ。草木も死ぬ。大地さえも、な。スピラを支配するのは死の力……逆らうだけ無駄というものよ」
 死人らしく無気力とも思える総老師の言葉にユウナは呆然としている。
 だけど死に抗わず諦めだけでやり過ごすのは、そんなの生きているって言えないじゃないか。
 なんだか無性に悲しくて、私は被告人席から身を乗り出すように叫んでいた。
「生がなければ死も訪れない。死人であろうと、そこに立っているのは生きた時間のあってこそでしょう。諦めず懸命に生きて……流転してこその命ではないですか!」
「しかしその巡りもいずれは終わる。生命は所詮空しい夢。生のあとに来る死こそが永遠……」
 シーモア様もマイカ様も、その声音はただひたすらに静かで、優しいけれど……冷たかった。

「ならば……シンは」
 振り絞るようにユウナが囁く。
「私は、父と同じ召喚士です。シンがもたらす死の螺旋を止めるべく旅を続けています。それも……それも無駄だと仰るのですか! シンに立ち向かってきた、たくさんの人たち……皆の戦いも、犠牲も、想いも! すべて無駄なんですか!?」
 顔をあげ、マイカ総老師を詰るように叫ぶユウナは、まるで親に裏切られた子供みたいな顔をしていた。
 きっと私たち皆がユウナと同じ顔をしていたと思う。

「無駄とは言わぬ。確かにシンは、倒すことができぬ。復活を防ぐ術はない。なれど戦う者の勇気は民に希望を与えておろう。召喚士の生も死も、決して無駄にはならん」
 そんなものは救いの言葉になり得ないとアーロン様が失笑する。
「無駄にはならんが、解決にもならん」
「如何にも……それがエボンの真実よ」

 そんなのってないよ。
 シンを倒すことはできない、復活を防ぐ術はない……だったら私たちは、何を耐えてきたんだ。
 死ぬために生きているっていうの?
 いつか訪れる死のために、まやかしの生を、自分を欺きながら生きているだけだとでも言うの?

「私の旅は……いつか変わる未来のため、その日に繋ぐ希望のために……。そう、だよね? メル……」
「ユウナ……!」
 召喚士の犠牲も、エボンの民の償いも、すべてはいつかシンのいない世界を見るために捧げられたもの。
 それがいつか必ず永遠のナギ節をもたらすと信じて今まで生きてきた。
 ……ユウナは、まやかしの希望を得るために召喚士の道を選んだんじゃない!

「スピラを支配するのが死の力だというなら、なぜシンは甦るんですか。総老師様! 死が永遠だというなら、その永遠でなぜシンのいない世界への鍵を探さないんですか!」
「変わらぬことこそエボンの真実。継続こそがエボンの真理。シンもまた、世界の理のうちよ」
 違う、そんなはずない、そう叫びたいのに心が胸の奥で引っかかって言葉が出てこない。

「変だよ……おかしいよ……」
 静まり返った法廷に、ユウナの小さな声だけが零れて消えてゆく。
「真実に異を唱える者。これ即ち反逆者也」
「マイカ様、待ってください! ユウナは……!」
「判決は降された。エボンの名のもとに、これにて最高法廷は閉廷する」
 総老師の後ろ姿を覆い隠すように扉は閉ざされ、私たちはその場から引きずり出された。




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