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28


 生き残りのアルベド族と召喚士を連れ、私たちは地下貯水槽のような場所に移動した。
 そこに浮かんでいた巨大な船に乗り込む。……飛空艇、だそうだ。
 信じられなかったけれど、全員が乗り込んだところでシドさんが指示を出すと、船は離水して垂直に上昇していく。
 ヘリコプターみたいなプロペラなんてついてなかったし、ジェットで飛んでる様子もない。
 何だこれは。

 前面に広がる窓だかモニターだか分からないガラス越しに、眼下のホームが見える。
 本当に、空を飛んでる……。
「ユジマ……ワエ、ユアフボ」
 シドさんが静かに告げると、操縦席に座っていたモヒカンさんが俯いた。
「……キアサハミモハ」
 彼は何かの操作をしながら歌を口ずさむ。これ……祈りの歌だ。
 やがて付近にいた他のアルベド族も唱和し、鎮魂の歌がコックピットに響く。

「な、何が始まるんだ?」
「ホームを……爆破するんだよ」
「おう。禁じられた機械、ってやつでな」
 操縦席のモニターに、エネルギーチャージの様子が表示されている。
 90……100%……そして、シドさんは彼らのホームを指差した。
「マッキャ!」
 音は聞こえなかった。ただ、ホームが木端微塵に砕け散る様子だけが視界に映る。
「ガハハハハ! チエミラップニガゲ!!」
 ……ヤケクソなのかなぁ。

 豪快に笑い飛ばすシドさん以外のアルベド族は、リュックも含めて皆俯き、落ち込んでいる。
 リュックのお兄さんは操縦席で泣いていた。
「ハルハ! チアミオミミソヨマハ、ヤサユルエザ、ミミッセソヨガ」
 機械のいいところは、また作ればいいってところ。
 その心意気は素晴らしいと思うけれど……、あそこで喪ったものは、機械だけじゃないよね。
「ま、まあその……あれだ、そんな落ち込まねえでよ。ドカンと一発、景気づけの花火ってことで……なあ?」
「ぜんっぜん景気よくないよ! サイアクー!!」
 しばらくの間、沈痛な空気が続いた。

 飛空艇はホームの跡から遠ざかり、サヌビア砂漠上空を飛んでいる。
 その雄大な景色を眺めながら、ティーダがシドさんに尋ねる。
「ユウナの居場所、どうやって探すんだ?」
「そりゃこれから考えんだよ。今スフィア波検索装置で調べてっから安心しな!」
「なにそれ?」
「千年前の機械だ。仕組みなんて知らねえから、俺に聞くんじゃねえぞ!」
 あっさり断言したシドさんに皆は目を剥いた。
「何も分からずに使ってるの!?」
「おう! コイツがどういう仕組みで飛んでるかも知らねえな!」
 怖いんですけど……。

 いきなり空中分解でもしたらと不安になって、スフィア波検索装置とやらを覗き込む。
 そこに映っていたのは海や山の精巧なジオラマ……じゃなくて、これって?
「ええぇ!? これ世界地図じゃないですか!」
 こうして見るとスピラって日本より小さい気がするんだけど、その衝撃はとりあえず脇に置いておこう。
 私の隣に立ってティーダもそれを覗き込んだ。
「スピラってこんな感じなのか。でも、それがどうしたんだ?」
「いやいやいやいや」
 だってこれどう見てもリアルタイムで取得された映像だ。
 千年前、この飛空艇ができた当時の地図じゃない、“現在のスピラ”の中継なんだよ。

「三角マークが私たちの現在位置だよね。大きく光ってるのは位置関係からすると……もしかして寺院?」
 南端の小さな島はビサイドで、そのちょっと北がキーリカ。
 スピラには正確な地図ってものがない。でも、大体の方角や距離で考えても間違いない。
 詳細不明の印もあるけれど、すべての寺院の位置は光点と一致している。
 つまり、これはいわゆる……あれだ。グーグルアース!

「祈り子様のエネルギーを感知して寺院の場所を示してるのかも。で、飛空艇の位置もリアルタイムで反映されてる……つまりスフィア波検索装置ってのは、GPSだよ」
「あー。でもそれでユウナの居場所が分かるのか? あいつ端末とか持ってないじゃん」
「祈り子様ほどじゃないけど、小さいマークが各地にある。これ、召喚士なんじゃないかな……シドさん、どうにかして映像を拡大できませんか?」
「やってみりゃできるだろうよ」
 シドさんがアルベド語でアニキさんに指示を出す。
 てきとーにボタン押せばどれかが当たりだ、とか言ってるように聞こえたんだけど気のせいだよね?

 この飛空艇は想像以上にハイテクだ。戦慄する私をよそにティーダは呑気に感心している。
「メル、頼りになるッスね!」
「ていうか怖くないの? GPSがあるんだよ、つまりあの空の向こうに幾千年前の衛星が飛んでるってことだよ。古代のスピラは宇宙に進出してたんだよ! これ飛空艇ってか本来はスペースシャトルなんじゃないの!?」
 言われてモニターに映る空を見つめたティーダは、振り向いてガッツポーズをした。
「ロマンだな!」
「そーじゃなくってえ!」
 のんびりしてる場合じゃないってば!

 古めかしい計器なんて一切ない未来的なデザインのグラスコックピット。
 操縦桿もなくて、モニターとキーボードみたいなものだけで全体を制御している。
 たぶん光ケーブルか何かでアクチュエータと通信して……フライ・バイ・ライトってやつだ。
 機械技術が絶えて久しい今のスピラにあっていいもんじゃないよ。
 たとえばミヘン・セッションの電磁砲なんかは起動させなきゃどうってことないけれど。

「航空機の操縦免許どころか、テレビのリモコンすら触ったことない機械の素人が操縦してるスペースシャトル並の何かに乗ってるんだよ、私たち……怖すぎる!」
「そりゃ怖いけどさ、俺たちヴァルファーレにだって乗っただろ。あっちのが怖くなかったか?」
「召喚獣は意思疏通できるけど機械とはできないでしょーが! 私の頭ん中、今まで見た航空機事故のニュースでいっぱいだよー!」

 ゼイゼイと息を荒げる私を見つめ、ティーダは困ったように頭を掻いた。
「ザナルカンドじゃ航空機の事故なんて、そうあるもんじゃなかったけどな。機械がちょっと壊れても、スフィアの自己修復でなんとかなるだろ?」
「自己修復って、……ああそっか、ここには魔法があるんだった」
 そして、おそらくこの船を動かしてるのは電気機器だけではない。
 大部分に幻光虫が介入している。スピラを構成する魔法の物質……。
 ここにあるのは科学だけで進歩してきた文明ではないんだ。
 私の……いや、前世で見た“地球”とは、根本的に異なる世界。

「しっかりしろよ、メルはスピラ生まれのスピラ育ちだろ!」
「うん。ごめん、ちょっと……頭ぐるぐるしてた」
 前世の知識が溢れ出して頭を乗っ取ろうとする。あれは“私の記憶”だと錯覚を起こすんだ。
 最近は前世の誰かと私は別人だって割り切れるようになってたのに、この時代錯誤なハイテク機器に触れて混乱した。

 ここはスピラ。私はメル。前世の記憶に騙されちゃダメ。
「スピラの“機械”は地球の機械とは違ってるんだもんね」
 ……それが分かんなくて、子供の時はもっと大変だったなぁ。

「トタギ! ユウナオミザキョダカアッサ!」
 唐突にアニキさんが叫び、ユウナの名前に反応して全員がそちらを向いた。
「ゴヨガ!?」
「ミヤフユヌ!」
 空を映していたモニターが衛星から見たマップに切り替わる。
 カメラはぐんぐん陸地に近づいていく。
 聖ベベル宮が見えてきた。大勢の人が集まってるみたいだ。
 そして演説の壇上に……。

「ユウナ!」
「シーモア老師……!?」
 二人とも婚礼の衣装を纏っている。ユウナは抵抗しているようだけれど、周りを僧兵に取り囲まれていた。
「おっさん早く行ってくれ!」
「分かってんのか小僧、ベベルはエボンの総本山だ。防衛網はハンパじゃねえ!」
「何だよ、ビビってんのか? そこにユウナがいる。だったら助けに行く。そんだけッスよ!」
 こういう時のティーダは、本当にかっこいいな。

 ティーダを見て快活に笑うとシドさんはアニキさんに指示を飛ばした。
「キンノベベルガ! ゲンホルベズッソザヘ!!」
 空を飛んでるとはいえ数時間はかかるだろう。それでも、今日の内にはユウナを助けられるはずだ。

 気にかかるのはシーモア老師のことだった。
 マカラーニャで彼は間違いなく息絶えていたのに。
 つまり彼は既に、死人になっているということだ。
 異界送りをされなかったのだろうか? トワメル様がそんなことを許すはずもない。
 では、送られたにもかかわらず留まったのだろうか? ジスカル様のように……。
 彼が現世に残した並々ならない執着を私たちに断ち切れるのか、すごく不安だった。




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