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25


 目を開けると真っ青な空の下でリュックが私の顔を覗き込んでいた。
「メル! よかったぁ!」
「……リュックリュックこんにちは……」
「えええ!? 意味分かんない言葉を遺して死なないでよ〜!」
 死んでないよ、失礼だな。
 マカラーニャ湖底とは寒暖と明暗の落差が激しすぎてウッとなっただけです。

 よっこいせと起こした体から砂が零れ落ちる。
 灼熱の日差し、視界いっぱいに広がる黄色い海……。
「ここは……サヌビア砂漠?」
「し、知ってるんだ?」
「名前だけは」
 西の果てに砂漠が広がるばかりの島がある、ということだけ。
 シンに運ばれて来てしまったんだろうけれど、これは厄介だ。
「大陸に戻れるのかな」
 この辺境に人は住んでおらず、当然ながら町も港もないので船がない。

 なんだかもぞもぞしていたリュックは、大きくため息を吐いて拳を握り締めた。
「あのね、この島……ビーカネルっていうんだけど。ここに、あたしたちのホームがあるんだ」
「アルベド族の?」
 彼らは漂泊民だと思ってた。こんなところに本拠地があったんだ。
「だから、ホームに船もあるし、ちゃんとベベルにも行けるから、大丈夫」
「そっか」
 じゃあよかった。

 私が目覚めた場所は、何かの残骸で日陰になっていた。
 もしかすると先に目覚めたリュックが運んでくれたのかもしれない。
「皆はどうしたんだろう」
「近くにはいなかったよ」
「むー。こういう時は最初の場所を動かないのが鉄則だけど、誰かが探さなきゃ合流できないよね」
「でもでも、マキナ……見張りの機械が走り回ってるから、あんまり歩き回ると危ないかも……」
 それはますます困りました。
 湖底に落ちた時は全員同じ場所で気がついたけど、そうそう幸運は続かないか。

 とりあえず、ティーダとアーロン様とキマリ辺りは絶対にその場から動いてしまうだろう。
 三人に仲間を探してもらうとして、私たちはここでしばらく待機、ということにした。

「アルベドのホームがあるなら、ガードはともかくユウナはたぶん大丈夫だね」
「え?」
「シンが来たらアルベドも気づくでしょ。そこに召喚士がいたら誘拐してくれるかなって」
「あ、それはそうだね。ていうかメル、誘拐のこと知ってたんだ……」
 今に限っては攫われた方がユウナの安全は守られる。問題はユウナ以外のメンバーだ。
 ガードも一緒に攫ってくれるなら私たちもホームに直行できるんだけどな。
 早めに、無事に、全員が合流できるように願うしかない。

「ところで、ワッカもそのホームに連れてって大丈夫なの?」
「あ〜……あたしたちの方は全然いいんだけどね」
 リュックの扱いに関しては善処すると言ってくれた。でもそんなに簡単には変われないと思う。
 いきなりアルベド族のホームに行って、喧嘩にならないといいのだけれど。
 ……向こうの本拠地なんだし、いつもの調子で始めたらまたワッカが危ない目に遭う。

「なんか、ごめんね」
「ふぇ?」
「私が謝るのも変だけど、たぶんワッカもまだ余裕ないと思うし、だから……前払いも含めて謝っとく。マカラーニャで、ワッカが酷いこと言ってごめん。ホームでなんかあったらごめん」
「そ、そんなの……いいよ、もう」
 いざとなったらワッカは、変なこと言わないように気絶させてから引きずっていくことにしよう。

 湖の底に落ちてシンに揺られて砂漠に放置されて、でも幸いなことに手荷物は持ったまま、財布も無事だ。
 水筒を引っ張り出してリュックに水分を補給してもらう。
 この砂漠をさ迷ってるであろう仲間のうち、ルーとキマリとティーダとアーロン様は水筒を持っていない。
 アーロン様は、お酒は持ってるみたいだけど。
 ちょっと心配だな。

 ちびちびと水を飲みながら、リュックが横目で私を窺ってくる。
「……メルって、エボン教徒なんだよね。アルベド嫌いじゃないの?」
「んー……」
 私には前世の記憶がある。だから人種差別には否定的だ。
 ただ、三年前にビサイドを出るまでは私もワッカと似たようなものだった。
 良くも悪くも田舎者なんだよ。知らないのに、好きも嫌いもない。
「ルカで働くようになって、アルベドもグアドもロンゾも大して変わんないなと思うようになったけどね」
「そうなんだ……」

 水を飲み終えたリュックが水筒を返してくれたので、私も少し水を飲んでおく。
 アルベド、ルカと話題にあがって思い出してしまった。
「リュックの前で言うのは申し訳ないけど、ルカでユウナを攫ったやつらとサイクスのメンバーのことは許さないよ」
「そ、それは……あたしも幻光河でユウナを攫おうとしちゃったんだよね」
「リュックは別にいいの。だってその後はガードになってくれたじゃん」
 それに、召喚士を攫う行為がどうこうって問題ではないんだから。
「あいつらユウナを人質にしてオーラカに『一回戦で敗けろ』って脅しかけてきたんだよ。そのうえレフリー買収してプールの中でワッカに強烈なファウル連発してきたし」

 バキッという音がして思わず下を見ると、私の手の中で水筒が無惨な姿になっていた。
「……」
「……」
「ホームに飲料水くらい売ってるよね?」
「う、うん」
 よかった。とりあえず、この水筒の残骸はそこらに投げて証拠隠滅しておこう。

 どうやらリュックはルカでの出来事を知らなかったらしい。
 ユウナを攫う計画は知っていたけれど、それはブリッツとは無関係であるはずだったんだ。
「そっかぁ。悪者扱いされるのが理不尽だー、って怒ってるのに、ひねくれて自分から悪者になってちゃ駄目だよね」
「本当にね」
 普通にしていればアルベド族は被害者なのに、彼らは自分で批難される謂れを作ってしまった。
「じゃあ、ワッカがアルベドを毛嫌いするのも、仕方ないね……」
「いや、ワッカのはそれが原因じゃないから。っていうかたぶん、自分がボコボコにされたのは気にしてないと思うよ」
 どっちかって言えば、カッコ悪いからあれはなかったことになってるんじゃないかな、ワッカの脳内では。

「ワッカの弟、討伐隊に入ってたんだけど去年亡くなったんだ。お兄ちゃんにもらった剣を村に置いてって、代わりに機械の武器を使って、シンにやられちゃった」
「そう、だったんだ……」
「アルベドの人からしたら完全な濡れ衣っていうか八つ当たりなんだけどさ。チャップ……弟が死んだのは教えに背いたせい、機械を使ったせいだとワッカは思ってる。何かのせいにしないと、悲しみで押し潰されそうだから」
 それにしても私はなんでリュックにこんな話をしてるんだっけ?
「えーと、だからワッカを悪く思わないで、ってのも勝手な話なんだけど……その……」
 なんか何を言っても弁解がましいっていうか、ただワッカを擁護したいだけに聞こえてしまうような。
「うん……。まあいいや。以上です」

 尻切れトンボで終わった言葉に反論するでもなく、リュックは私をじっと見つめていた。
「メルってワッカのこと大好きだよねえ」
「あ、はい。兄代わりの親代わりだからね」
「そうなんだ。でもそれだけなの?」
 ヤな予感。
「……」
「……」
 なんですかその期待に満ちた目は。

「……リュックって、恋人いる?」
「え? あ、あたしは〜〜、ほら、高嶺の花すぎてなかなか釣り合うオトコがいないっていうかな〜! フッフッフッ」
「……」
「……」
「……」
「いないよ?」
 いないんだ。

 よくよく考えたら、こういう相談できる相手ってリュックしかいない気がする。
 ルーにはできないし、ユウナは鈍いし、キマリやアーロン様は論外だし、ティーダにも聞きにくい。
 同世代の女子であるリュックと二人きりの今こそ。
「もし、ものすごく大好きな人がいて、でもその人には自分じゃない人と結婚してほしくて、できれば友達付き合いを続けたい場合、どうすればいいと思いますか?」
 恋の相談をしてみようかな。

「えっと、もしかしてそれって、ワッカとルールーのこと?」
「(仮)で」
「あ、うん。メルはWさん(仮)が好きだけど、でもWさん(仮)にはLさん(仮)と結婚してほしい、ってこと?」
「そう」

 しばし無言で斜め上を見つめながら考えた末、リュックは上体を仰け反らせて驚いた。
「……えええ? なにそれ、なんで? 意味分かんないんですけど!」
「そんなに変かな」
「すっごく変だよ! なに、ワッカは好きだけど結婚相手としては嫌ってこと?」
「(仮)だってば」
「はいはいWさん(仮)ね。もう、めんどくさいなあ!」
 すみません。

 ワッカは好きだけど結婚するのは嫌? いや、べつにそんなことは全然ない。
 先日はルーにも指摘された通り、ちょっと一年前まではワッカのお嫁さんになりたいなぁと、思ってた……。
「結婚するのが嫌なわけじゃないんだけど」
「けど?」
「ルールーを他の男に渡したくないし」
 表情を見る限り、リュックはドン引きしていた。
「……メルって実はワッカじゃなくてルールーのことが好きなんじゃない?」
「そういう面もないとは言いません。どっちも大好きなんだよ」

 ルーとチャップが結婚してたら、私は今も変わらずワッカのお嫁さんになりたかったかもしれない。
 でも状況は変わってしまった。
 あの二人が一緒になってくれたら、昔みたいに戻れるのに。
「……不毛だよ〜」
「そうかなぁ?」
「ワッカ可哀想……変なことに巻き込まれて」
「それは私も思う」
 勝手にあれこれ求められて、一番の被害者はワッカだよねぇ。

「ってーかさ、ルールーってワッカのこと好きなの?」
「そりゃ幼馴染みだし。強いて言うなら、まだ恋愛ではないって感じかな」
「まだって、そうなるかどうかはメルが決めることじゃないじゃん」
「ううっ」
 斬りつけるような論破!

「でもリュックだって、あの二人お似合いだと思わない?」
「思わなくはないけど〜」
「ルーって、ワッカにだけ厳しいけど、それってワッカにいいやつであってほしいからだし?」
「そうかもしんないけど、本人たちにその気がないなら仕方ないじゃん!」
「うぅ……」
 ぶん殴るような論破!

「それにさ、ワッカはルールーのこと好きなわけ? もしワッカがメルのこと好きだったら、どうすんのさ。可哀想じゃん!」
「いや、ない、それはないよ」
「なんで?」
「じゃあリュックはお兄さんに恋できる?」
「げっ、気持ち悪いこと言わないでよ〜」
「そういうもんでしょ。私はワッカにとって妹みたいなもんだから、」
「恋愛になんかならない、って言うつもりならルールーとワッカでも同じことじゃないの?」
「うぬぬ……」
 弾丸のごとき論破!!

 はあ、なんか疲れた。リュックって結構、口が達者だなぁ。
「あたし、分かっちゃった〜」
「何が?」
「メル、告白すんのが怖いだけでしょ」
「……そうなのだろうか」
「絶対そうだよ!」
 うー、絶対なのか。

 確かに、もしワッカとルーが結婚した後なら「昔あなたのこと好きだったよ」って簡単に言えそう。
 それってつまり、二人に結婚してほしいけど自分がフラれるのも怖いってことだ。図星かぁ。
「あたしが代わりに言ってあげようか? メルはワッカのこと大好きらしいよって」
「やめてください死んでしまいます」
 そんなくらいなら、きっといつか、自分で言……えるように、頑張ってみるよ。




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