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21


 冷気が骨身に染みます……。
 森の切れ目でそれぞれ防寒着を装備して、雪原に出る。
 当たり前なのだろうけれど、結局ドナ様の姿はなかった。
 単にはぐれただけならよかったのになぁ。
 あのガードさんに残せる手がかりもなく、旅行公司を通りすぎる。
 そこにシーモア様の迎えが来ていた。

「ユウナ様。こんなにも早くお返事を頂けるとは……、まったくもって予想外でおりました」
 え、なんでユウナが返事を決めたこと、知ってるの?
「何も告げず留守にしたこと、シーモア様に成り代わりましてお詫び申し上げます」
「それはいいんです。あの……私、結婚しても旅を続けたいんです。シーモア老師は、お許しくださるでしょうか」
「それはもう、シーモア様もそのおつもりでいらっしゃいます」
 ユウナの言葉にトワメル様が笑顔で頷くもんだから、ガッカリしてしまう。シーモア様が「女性は家庭の主」派ならよかったのにな。

 迎えに来たってことはトワメル様たちも一緒に寺院へ行くのかと思ったら、そういうわけではないらしい。
「さて……、グアドのしきたりがございましてな。皆様はもう少しだけ、こちらでお待ちくだされ。ほどなく迎えを寄越しますゆえ」
「はーい」
 一応は新郎新婦になるわけだから、二人きりの時間も必要かもね。
 戸惑ったようにユウナがこちらを見つめてくる。意外にも、声をかけたのはアーロン様だった。
「ガードはいつでも召喚士の味方だ。好きなようにやってみろ」
「はい!」

 元気を出して歩き始めたユウナの背中を見送りつつ、アーロン様がぽつりと呟いた。
「悪かったな。お前の台詞だったか」
 ティーダに言ってるのか。でもまあ、本人もあまり気にしてないみたいだし。
「ユウナ!」
 彼は先を行くユウナに手を振ると、澄み渡るような音で指笛を鳴らした。
「了解っす!」
 うーん、よく分かんないけど二人だけの符号があるらしい。

「ああ〜っ!?」
 突然、リュックが悲鳴をあげる。ややあってユウナの行く手を塞ぐように雪煙が舞い上がった。
 四台のスノーモービルが彼女らを取り囲む。
「アルベドのやつらか!」
 慌てて駆け寄り、ユウナを庇うように立ちはだかる。
「ここは任せろ」
「かたじけない」
 一礼してトワメル様が脱出しようとしたものの、ユウナは一人で戻って来てしまった。
「ユウナ様!」
 ま、ガードに任せて一人で逃げられるような子じゃないもんね。みんなで手早く片づけよっか。

 スノーモービルはアーロン様とキマリがさっくり蹴散らした。
 しかし丘の上から新手の大型兵器が現れる。
 モヒカン頭のアルベド族が何か叫んでいるけれど、よく聞き取れない。
 ただリュックの名を呼んでるっぽいのが気になった。
「リュック、通訳!」
「魔法と召喚獣を封印しちゃうって!」
「タッヒヤネ!」
 あ、今のは考えなくてもなんとなく分かる。やっちまえ、だ。

 砲台を備えた戦車に魔法なしで立ち向かうのは厳しい。
 ティーダたちが囮になりつつ私とリュックとワッカで後方に回り込む。
「あの小型のやつを落っことして!」
「あれが魔法を封じてるんだね」
「ほ、ほんとかよ」
「いいからボール投げてよ、ワッカ。私は武器持ってないし」
「だから早く買っとけって言ったろ!」
 そんな暇なかったでしょーが。

 ワッカのブリッツボールとリュックの手榴弾で魔法吸収装置を撃墜する。
 あとはユウナがイクシオンを召喚して、ルールーの黒魔法を連続でぶつけて軽く往なした。
 ふぅ……。
 楽勝じゃん、見かけ倒しなマシンだね! 私は何もしてないけど。
 まあ、向こうにはこっちを殺すつもりがないみたいだし、それで助かった部分もあるだろう。

 煙をあげて崩れ落ちた戦車からモヒカンが転げ出てくる。無事でよかったね。
 なにやらリュックと早口で言い争っているのだけれど、リュックの言葉で諦めて退却することにしたようだ。
「ゴフハッセコ、キナメネアナハ!」
 なんか捨て台詞を吐いてった。
 えーちょっと待って、脳内翻訳が追いつかない。
 モヒカンが消えると今度こそユウナもグアドの人たちと一緒に寺院へ向かった。

「で……ここで待ってて大丈夫なのかな。向こうで新手が来たりしない?」
「ガンナーはブッ壊しちゃったし、すぐまた戻っては来られないからダイジョーブ!」
「そっか。じゃあいいや」
 大丈夫とは言いつつ、リュックの表情は少し暗い。今しがた同族と戦ったんだから無理もなかった。
「あーあ。ガードになったって言っちゃった。ま、仕方ないよね」
「敵対するってわけじゃないんだし、大丈夫だよ」
「うん……」
 ユウナの旅がなんとかなれば、いつでも仲直りはできるはずだ。

 さてそれじゃあ……と振り返り、ワッカの視線に気づいて硬直する。
「なんでアルベド族の言葉、知ってんだ?」
 やっぱまずいよね、これ。
「なあ?」
 ルーもティーダも気まずそうに俯いて返事をしない。し、仕方ないな。ここは私がフォローするしか!
「都会育ちなら今時それくらい分かるもんだよ、ね」
 私だってアルベド語辞書持ってるし、とリュックを見る。
 だけど彼女はもう覚悟を決めたようだった。
「あたし、アルベド族だから。あれ、あたしのアニキ」

 遂に言っちゃった。でも衝突が避けられないなら、ユウナがいない時でよかった。なんて思ってしまう私は我ながら小賢しいな。
「知ってたのか」
 らしくもないワッカの冷たい声だけが響く。戦闘中よりずっと空気が張り詰めていた。
「なんで黙ってた」
「あんた怒るでしょ」
 ルーの言葉にワッカは乱暴な仕草で頭を掻いた。
 そう、怒るに決まってる……だから言いたくなかった。怒ってるところなんか、見たくないもの。

「最悪だぜ……。反エボンのアルベド族と一緒だなんてよ」
「あたしたち、エボンに反対なんかしてないよ」
「お前ら禁じられた機械を平気で使ってんじゃねえか! 分かってんのか? シンが生まれたのは人間が機械に甘えたせいだろうがよ!」
「機械なんて関係ない! しょーこは? しょーこ見せてよ!」
「エボンの教えだ! 教訓もたくさんある!」
「答えになってない!!」
 おいおい、子供の喧嘩じゃないんだから……ちょっと、理性的になってよ二人とも。

 こういう瞬間は、たとえリュックが仲間に加わらなくてもいずれは起こったことだ。
 だから彼女は悪くない。悪くないんだけど。
「教え教えってさあ、もっと自分の頭で考えらんないの!?」
「じゃあお前らの考えとやらを教えてくれよ。な、どうしてシンは生まれたんだ?」
「それは……分かんないよ」
「けっ! エボンの教えを馬鹿にして結局それかよ」
「でも、教えに縛られてなんにも考えなかったら、いつまで経ってもこのままだよ! なんにも変わんないよ!」
「変わんなくてもいいんだよ!!」
 でも、やっぱり辛いなぁ。

 やりきれずに視線を逸らすと、アーロン様がそこら辺をうろうろしてるのに気づいた。
 アルベド族が乗り捨てていったスノーモービルを調べているようだ。
 あのう、こんなピリピリした空気の中でマイペースに何をやってるんですか。

 そんな伝説のガード様に気づくこともなく、ワッカとリュックは口論を続けている。
「シンが復活し続けてもいいの? もしかしたら、それ止められるかもしれないんだよ」
「どうやってだ? 俺たちが罪を償いきれば、シンは復活しないんだ」
「それこそ、どうやって償うのさ!」
「教えに従って暮らしてりゃ、いつかは償えるんだよ!」
「なんか、話になんないね……」
「だったら、機械でシンが倒せたのか?」

 はあ、とデッカイため息が聞こえたと思ったらそれは私の吐いた息だった。
「ワッカ、もうやめてよ。それは私も聞いてるのキツい」
「……ちっ」
 確かに機械でシンは倒せなかった。ミヘン・セッションも一年前の作戦も大失敗に終わった。
 リュックの言うようにエボンの教えには何の根拠もないけれど、ワッカの言うようにアルベドの主張だって同じようなものだ。
 こんなとこで言い争っても疲れるだけで、意味はない。

 倒れていたスノーモービルを起こしてアーロン様が叫ぶ。
「リュック! これは動くのか?」
「う、うん」
 この空気から逃れられるならばとリュックはそっちに駆けていった。キマリも彼女の後に続く。
 私とルーは思わず安堵の息を吐いていた。けど、ワッカの吐き捨てた言葉がそれを打ち壊す。
「……あれに乗ろうってのか? まさかアーロンさんまでアルベドじゃないだろうな」
 もう、ワッカ、ちょっと黙ってて。

 ここまで静かに聞いてたティーダが口を開いた。
「変だよ、ワッカ」
「何が」
「リュックがアルベド族だって分かったら、急に怒るなんてさ。ここまで仲良くしてただろ」
「そりゃ、お前……知らなかったんだから仕方ないだろうが」
「知ったんだから、変われよ」
 分かんないかな。そう簡単に変われたら誰も辛い思いなんかしないんだよ。
「俺、スピラのことはよく知らないけど……アルベド族がどんな人たちで、何したのかは全然知らないけど、リュックはいい子だと思う。リュックはリュックだよ」

 反論が思い浮かばなかったのか、ワッカは助けを求めるようにルールーを振り返る。
「おい、ルー……」
「アルベド族を知るいい機会。そう考えてみない?」
「けっ!」
 どこからも助け船がないと知ると、ワッカは一人でさっさと歩き出してしまった。
 ……トワメル様はここで待ってろと仰ったんだけどね。

 ワッカの背中を見送り、ティーダは気まずそうにしている。
「なあメル、俺ってば言いすぎた?」
「いんや、妥当でしょう」
 充分に優しかったよ。ワッカにもリュックにも。
 ビサイドからここまで、ワッカにはいろいろお世話になってたから口出しするのは嫌だったろうと思う。
 でも誰かが何かを言わなきゃ終わらなかったから。
「割り込んでくれて、ありがとね」
「……おう」

 ティーダは一人でどんどん先へ進んでるワッカの後ろ姿に目を向ける。
 一応のフォローを入れようと思ったのか、追いかけようとするティーダをアーロン様が止めた。
「簡単に受け入れられることでもあるまい。放っておいてやれ」
「……なんか、ごめんね」
「あんたが謝ることないわ」
「そうだよ。リュックは賑やか担当でしょ、そんな顔しないでいいって」
 口々に慰められ、リュックも「へへへ」と小さく笑ってくれた。

 ワッカが先行っちゃったし、改めてグアド族の迎えを待つ空気でもないし。
「そんじゃ、行くッスか!」
「キミ、運転できんの〜?」
 放ったらかしてあったスノーモービルに跨がり、先陣を切ったのはキマリだった。
 バイクに乗るロンゾ族……激しくミスマッチです。
「キマリには負けられないッス!」
 そしてザナルカンド生まれのティーダも問題なく運転できる模様。

 えっと、キマリが一台使って、アーロン様とリュックがニケツで、ティーダとルールーもニケツでしょ。
 残ってるのはそこにひっくり返ってる一台。
 私が運転できるなら、ワッカを説得して追いかけることは可能だ。
 スノーモービルの運転は原付と似たようなものだって聞いたことがあるけど……。

 前方に伸びているのは巨大なクレバスを挟んだ細い小道。
 繊細な体重移動を行いつつ曲がりくねったデコボコ道を走らなければならない。
「うん、無理!」
 諦めて歩こう……。
 みんな平気で乗ってるけど、私は絶対ビビって落ちると思う。




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