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15


 早くシパーフに乗りたいと急かすティーダを宥めつつ、ひとまずは飯だ。
 幻光河を渡り始めちまうと補給できねえから準備は入念にしとかないとな。
 それにしても、ティーダはともかくユウナまではしゃいでんのが謎だった。
 あいつは十年前ビサイドに来る時にもシパーフに乗ったことあるはずだが。

 露店で買った携帯食をかじりながらメルもユウナたちの様子を微笑ましそうに見ている。
「河渡るだけであんなテンション上がるんだから安いもんだよね」
「そうだな」
 ま、ユウナも大人しそうに見えて内心やんちゃなとこあっから、でかい乗り物にはしゃいでるのかもしれねえ。

「そういうお前は落ち着いてんなあ」
「ふっ。私は大人だもん。そんな変わった乗り物とかでいちいちはしゃぎませんよ」
「河に落ちるのが怖いから苦手なんだろ?」
「……」
 図星だな。

 不貞腐れたメルが今後の予定を聞いてくる。
 確か、この辺はリュックが加わるくらいしか大した事件もなかったはずだ。
 もうじきシーモア老師が関わってくる、嵐の前の静けさってとこか。

「北岸に着いたらグアドサラムに行く。んで、異界に寄ってから雷平原だ」
「おー、グアドサラム寄るんだ? ズーク様と来た時はスルーしたから楽しみだなぁ」
「楽しんでる余裕なんかねえよ。シーモア老師に呼ばれるんだからな」
「ありゃ。じゃあユウナの結婚関係の話?」
「おう……」
 そこで結婚を申し込まれることになる。ユウナの旅がおかしな方向に行っちまったのはあそこからだ。

 邸で食事も出してもらえるけどよ、のんびり食ってる気分にゃならねえんだよな。
 だから結局は雷平原の旅行公司まで気が休まらないままだ。
 あーでも、今思い出したがメルとリュックは呑気に飯食ってたっけな、シーモア老師の邸で。

「ワッカはユウナが結婚するの反対なんだ」
「当たり前だろ。いや、相手が違ってりゃ結婚自体はべつにいいけどよ」
「なんでシーモア様だとダメなの?」
「……おい。あの人が何しようとしてるか、前にも言ったよな?」
 なんでもくそもあるか。ユウナに究極召喚使わせて自分がシンになろうなんて考えてるやつに、ユウナを渡せるわけないだろ。

 しかしメルは平然と言ってのける。
「でもエボン=ジュは私たちが倒すんだし、そしたらシーモア様はシンになれない。それなら仲間になってもらう方が良くない?」
「へ……」
 シーモア老師が仲間に? 冗談じゃねえぞ。
 そりゃ確かに、俺たちの旅が成功したら老師の目論見は潰せるけどよ。
 あの人と一緒にザナルカンドなんか行けるか。説得したって裏で何を企まれるやら分かんねえし、怖すぎんぜ。

 三年前、寺院の実情や教えの真実を教えてもメルはあまり驚かなかった。
 こいつは俺と違って都合のいいとこだけ見て信奉してたわけじゃねえ。
 だからエボンの教えが自分の理想と食い違ってもいきなり手のひらを返したりしない。
 それはたぶん、いいことだ。だが心配でもある。

「あのな、俺たちは……マカラーニャ寺院で老師と戦うんだよ」
「え?」
 寺院への敬意がそうそう変わらないもんだとしても、シーモア老師に関しては別だ。
「冗談でしょ? だって老師様だよ?」
「俺だって避けられるもんなら避けてえよ。そっから反逆者として追われるはめになるしな。でも、向こうが襲ってくるんだ、どうしようもねえ」
 ついでに言うなら老師は死人になって何度も襲ってくる。ちゃんと警戒しといてくれないと困るんだよ。

 偏見を持たないのはいいことでも、そのせいで警戒心が薄れるのは避けなきゃいけない。
 ……なんてのは、ただの言い訳かもしれないが。
「生い立ちのこととかで同情してんのは分かる。でもなあ、はっきり言って俺は、お前が老師の肩持つのが気に入らねえぜ」
「何言ってんの、ヤキモチじゃあるまいし」
「妬いて悪いかよ」
「ふぇっ?」
 前回にしてもそうだ。老師のやったことが原因でグアド族の立場が危なくなった時、メルはそれでもまだ老師のフォローをしていた。
 敬意を持つにしても度が過ぎるってんだ。

 俺が嫉妬していると分かるとメルは急速に機嫌がよくなった。
「そ、そっかぁ。じゃあ仕方ないなあ、シーモア老師には気をつけるね!」
「……おう」
 でもなんか……ものすごくカッコ悪い気がするぜ。早まったか、俺……。

 飯も食い終わったし、あとはシパーフの搭乗順が回ってくるのを待つだけだ。
 ティーダとユウナは露店を冷やかして時間を潰していた。
 キマリがついてるから大丈夫だとは思うが、ぼったくられないか心配だ。

 それで言うならメルはもっと心配だった。
 さっきから買うふりして値下げ交渉しまくった挙げ句に結局は買わない、っつー危険な遊びをしている。
「お前、もういい加減やめとけ……」
「えー? 限界まで値切るの楽しいじゃん」
「そろそろマジで怒られるぞ」
 ぼったくってる方が悪いとはいえ周りの視線が痛いんだよ。

 幻光河南岸の店は土産物よりもミヘン街道を南下する旅人向けの武器や防具が充実している。メルが見てるのもそこら辺だった。
「そういや、前から思ってたんだけどよ、お前なんで魔道士用の防具使わねえんだ?」
「え?」
「なに目逸してんだよ」
「え?」
 ふと思って聞いただけなのに、疚しいことでもあるのか。

 剣も使えないわけじゃないが、メルは基本的に黒魔法でしか戦闘に参加しない。
 魔道士らしく防御が脆いから魔物に狙われたらかなり危ないのが現状だ。
「買ってやろうか?」
 せめて指輪くらいは、と思ったんだがなぜか突然ルールーが割り込んできた。
「メルに指輪を持たせちゃダメよ」
「へ? な、なんで」
 使うのが黒魔法でも白魔法でも、魔道士なら魔力で身を守る指輪は必須の防具だったはずだ。

「ズーク先生のガードになった時、メルにも指輪を買ったのよ」
「へえ。なんで今はそれ使ってねえんだ?」
「すぐに売り払ったから、もう持ってないわ」
 分かんねえな。ただでさえ運動苦手なメルだぞ、防具はあって困るもんじゃないだろうに。

 なんでか不機嫌なルーから指輪を借りて、メルが試しに着けてみせる。
「だからさ、まずこうやってシールドを展開させるでしょ?」
「ああ」
 言うなり魔力の盾が現れる。俺みたいなのには単なる指輪だが、魔力のあるやつにとっては軽くて使いやすい便利な防具だ。
「で、戦いが終わって、うっかり消し忘れたままフーッ……と一息ついた時に、こうなったわけ」
 戦闘体勢を解いて汗を拭う仕草をしてみせると、鋭利なシールドがメルの首筋を切りつけて血が流れた。

「分かった。お前は絶対それ使うな」
 とりあえずありったけのエクスポーションをメルの口に押し込んでおく。

「っても消し忘れたのは一回だけなんだから、いつまでも言わなくたっていいのに」
「あんたね、首から大出血して私と先生がどれだけ焦ったと思ってるのよ」
「でもあの時は巡回の僧官様が回復してくれたんだし……」
「運が良かっただけ。もし巡回僧が通りかかってなかったらどうするつもりだったの?」
「で、でも」
「でももだってもない!」

 ズーク先生の旅についてかなくてよかったって、初めて思ったぜ。その場にいたら気絶してたかもしんねえ。
 つーか、今見ただけでも倒れそうになったぞ。説明すんのにマジで切らなくてもいいってんだよ。
 なんでメルはこう、普段は細やかな気遣いもできるのに変なところで大雑把なんだ?
 防具で怪我するやつなんか見たことねえよ……。

「だったらよ、小手か腕輪でもつけといたらどうだ」
「装飾がついてるのは危ないからダメ」
「でもまともな効果ついてんのは装飾のあるやつばっかだろ」
「だから何もつけさせないのよ」
「……なるほど」
 そりゃルーが防具禁止にするわけだ。指輪買ってやるって話はなかったことにしよう。

 シパーフの順番が近づいてきた時、メルが他のやつに聞こえないよう小声で俺に耳打ちしてきた。
「ねえワッカ、怒らない?」
「あ? 内容聞かずに怒るかどうかも分かんねえよ」
「怒らないって約束してくれないなら言わない」
 そう言われて聞かずにいられると思ってんのか。
「……んじゃ、怒らねえから言ってみろ」
 なんか嫌な予感がするけど、ここでやめたら気になる。

「私、シーモア様と会ったことあるんだ。ズーク様と旅してる時にマカラーニャ寺院でちょっと話した。その時は彼がシーモア様だって知らなかったけど」
「へ……?」
 一瞬ヒヤッとしたが、考えてみりゃそれは無理もないことだった。
 あの方はずっと前からマカラーニャ寺院で僧官長補佐を務めてたんだ。顔合わせることもあるだろう。
 俺がズーク先生のガードやった時はどうだったか……寺院にいたのかもしれんが、覚えてねえな。

「まあ、べつにそれくらいは、」
「あとルカでも話した。サイクスとレフリーを告発するのに協力してもらったの」
「な、なんだと……?」
「ほら怒った〜〜」
 怒るに決まってんだろ! ただでさえ厄介な相手なのにどうして自分から関わりに行ってんだよ。
 ……というかさっき「老師に気をつけろ」って改めて言ったから打ち明けただけで、放っといたらずっと隠してるつもりだったのかよ。

「シーモア老師に注意しとけってのは、前から言ってあったよなぁ?」
「注意しつつ利用させてもらっただけだもん」
「そーゆーことじゃねえだろ!?」
「あの後でシーモア様の目的聞いて、そこまで危ない人だとは思ってなかったし、今は反省してるよ」

 頭痛がした。思わずその場にうずくまったら、メルは追い討ちをかけるようなことを言ってのける。
「ほんとはもう一つ隠してることあったけど、やっぱり怒ったから言わない」
「おい。んなこと言われたら気になるだろーが」
「だってワッカ約束破ったもん」
「つ、次は怒らねえって」
「やだ」
 何なんだよ。シーモア老師と個人的に知り合いになっちまった、ってのより酷い話なのか。

「ワッカだって、ルッツのこととかサイクスのこととか黙ってたもんね。だから私も秘密にする」
「それは悪かったって……今度からはちゃんと言う」
「私に言ったら都合悪くても?」
「ああ。お前に相談する。だから隠してること教えてくれ」
「本当に怒らない?」
「しつっけえな!」
「もう怒ってるし」
「お、怒らないっての」

 俺の隣にしゃがんで、メルがじっと見つめてくる。
「もし怒ったら、次からは大事なことも絶対に打ち明けないで全部ワッカには秘密にするからね」
 なんちゅーえげつない脅しだよ、おい。アルベド・サイクスより卑劣だぜ。
 聞くの怖くなってきたぞ? そこまで念を押すって、よっぽどのことじゃねえのか?

 うっかり心臓が止まらないように胸を押さえつつメルに向き直る。
 俺の心の準備ができたのを見計らって、メルは言った。
「実は一年前に召喚士になったんだ。ユウナができなかった時、代わりにやろうと思って」

 休憩を終えたシパーフが河に入っていくのをボーッと見ていた。
 水の音がしててよかった。それがなきゃ時が止まったかと思うところだ。
「怒った?」
「怒らねえよ。怒ってるわけじゃねえ。でもな……」
 でも、なんつったらいいんだろうな。情けねえ気分だ。メルがじゃなくて、それを今まで知らされなかった俺自身が、だ。

 チャップが死ななかったらユウナは召喚士にならないかもしれない。
 たぶん影響はないと思うがそんな可能性もあると、こいつは随分前からそう言っていた。
 だから……か。もし万が一ユウナが召喚士にならなかった時のために、自分が“代わり”になったってのか。
 誰も誰かの代わりにはなれないんじゃなかったのかよ。
 でもメルは前回も、チャップが死んでから殊更に“俺の妹代わり”だと主張し始めたんだったな。

 なんだっていつも俺に黙って無茶苦茶するんだよ。心配でどうにかなっちまいそうだ。
「……お前、もう……ほんと頼むから、俺の知らねえとこで無茶すんなよ」
「しないとは言えない」
「おいメル」
「考えるより先に体が動いちゃうもん。好きな人のために無茶しないなんて不可能だよ」
「……」
「でも、何やっても絶対無事に帰ってくるから、信じてよ……」

 心配するなと言ったって俺ができないのと同じだ、と言われると口を噤むしかなかった。
 ああもう、思い込んだら突っ走る性格が一生治らないのは分かってるんだ。
 結局はそういうとこも含めて惚れちまったんだから仕方ねえ。
 これから先、何度だって心臓が張り裂けそうな思いさせられるだろうけど仕方ねえ。
 そんでもやっぱり、好きなんだよな。

 シパーフに乗ってからは何事もなく穏やかに進んだ。
 興味津々のティーダに川底の遺跡の話をしながら不意に思い出す。
 ……途中でユウナが攫われるって話、メルにしそびれたぞ。

「あー、メル?」
「ん? どしたの?」
「えっと……や、何でもねえ」
 もう乗っちまったらこっそりメルにだけ言うのは無理だ。
 こりゃ対岸に着いたらまた「隠してた!」って怒られそうだぜ。

 展開が変わってりゃいいのにって願いも虚しくシパーフが動きを止め、飛び出してきたアルベド族がユウナを水中に引きずり込んだ。
 メルの視線が突き刺さるのを感じつつ俺もそれを追って河に飛び込む。
 前回はただブッ壊しちまえばいいと思ってたから簡単だったが、リュックが乗ってると分かってたらやりづれえ。
 なんて思いながらティーダと二人、ユウナを捕まえてる機械を攻撃してたんだが。

 アルベドの機械が河面の近くまで浮上し、こっちに向かって爆弾を落としてきた時のことだ。
 なぜかメルまで飛び込んできた。
「!?」
 なにやってんだ、お前泳げねえだろ! と水ん中じゃ怒鳴ることもできやしねえ。
 シパーフの上から狙いを定めてたらしく、メルはちょうどユウナの近くにしがみついた。
 必死の形相で機械の部品に手を突っ込んで雷魔法を放つ。
 凄まじい閃光と共にリュックが乗っているはずの機械はバラバラになって、川底の遺跡に向かって沈んでいった。

 だ、大丈夫か、あれ。脱出できるか? つーか、リュックのやつ雷が苦手だったよな……失神してなきゃいいんだが。
 すまないとは思いつつも今はこっちのことが優先だ。
 ティーダにユウナを助けるよう促し、俺はメルを抱えて水面まで泳いだ。

「お前は、なんで後先考えずに飛び込んでくるんだよ!」
「爆弾投げつけられてんのに悠長なことやってるからでしょ!」
「だ、だからってなあ」
「あんなの上から見てる身にもなってよね!」
 だからって、溺れないように必死で俺にしがみついてるやつが飛び込んでくるのは無謀すぎるだろ。

 メルたちを連れて籠に戻ると、ルールーの小言がメルを待っていた。
「あんたね、泳げない人が助けに行ってどうするのよ」
 そーだそーだ、もっと言ってやれ。俺よりルールーの説教のがまだしも聞くからな。
 ……それはそれで情けねえけどよ。

「だから泳がなくていいようにあの機械の上に落ちたんじゃん」
「見てるこっちは心配するでしょう?」
「ふーん!」
「ちゃんと聞きなさい!」

 メルが不貞腐れてそっぽを向くと、慌ててユウナがフォローに入る。
「ごめんね。私が油断したから……」
「ユウナのせいじゃないよ。召喚士を誘拐しようなんてバカなこと考えるアルベドが悪いんだから」
 刺のある言葉にユウナがますますへこみ、そこに割って入ったのはティーダだった。
「ユウナも無事だったんだし、もういいだろ。誰が相手でも俺たちがしっかり守るだけッスよ」
「そうだね。狙ってくるのはアルベドくらいのもんだけどね」
「あう……」
 うーん。俺ならともかくメルを相手取ると分が悪いな。

 水面を警戒しながら、メルの機嫌は治らない。なんで今回はこんな怒ってんだ、一体。
「ミヘン・セッションがあんな結果になった直後なのに平気でまた兵器を使うんだね、アルベド族は」
 前回は俺が悪態つきまくって空気を悪くしちまったんだが、メルにその代わりなんかしてほしくねえぞ。
 しかし籠の上が険悪な雰囲気になりかけたところでメルが口を開いた瞬間、
「平気で兵器」
「……え?」
 べつの意味で空気が凍りついた。

「え、今のシリアスな場面じゃなかったッスか?」
「うぅ……だって思いついちゃったんだもん……」
「そこ言わずに我慢できなかったんだ?」
「うっさいな!」
 ティーダに顔を覗き込まれ、顔を赤くしながらメルは頬を押さえて俯いた。
 まあ、つまり、あれだ。バカだな。でもこういうとこはバカでよかったぜ……。お陰でユウナも笑ってくれて、和やかな空気に戻った。

 俺とティーダの服は防水してあるから問題ないが、メルたちはこのままだと風邪引いちまう。
 ってわけで北岸に着くとまずは二人の着替えを済ませることになった。
 ティーダは一人で辺りを散策している。ここらでリュックが合流するんだっけか。

 メルの髪を拭いてやりながら森の方を探していると、横腹を小突かれた。
「ちゃんと言うって約束したのに」
「んあ? ……あ、いや、襲撃があるってのは言おうと思ってたんだぞ。忘れてたけどよ」
「ふ〜〜〜〜ん?」
「本当だっての!」
 確かにルッツのこととかは黙ってて悪かったが、今回のはマジで濡れ衣だ。
 今後の予定を聞かれた時に言うつもりだったんだって。
 ただメルが召喚士になってたとかいう爆弾発言のせいで吹っ飛んじまったんだ。

 と、ティーダが川縁に倒れてるやつに駆け寄った。あれか?
「何?」
「ほら、前に話したろ。アルベド族がガードになるってよ」
「あれがそうなの?」
 そいつはゆっくり起き上がると、潜水服を脱ぎ捨ててティーダと何か話している。
 遠目だから分かりにくいが、たぶんリュックで間違いない。

 俺がそっちをじっと見てたら、またメルに横腹を殴られた。さっきより力籠ってんのはなんでだ……。
「ってか、ここで倒れてるってさっき襲ってきたのはあの子ってことじゃん」
「あー……それに気づくとは、さすがだぜ」
「気づかない方がどうかしてると思う」
「どうかしてて悪かったな」
 俺は全然気づかなかったし、リュックがアルベドだってのも本人が言うまで分からなかった。ってのは、黙っとくか。

「まあ、こっからはリュックも大事な仲間の一員だ。さっきの件は水に流してくれよ」
 どうせ大した被害もなかったし、ユウナのガードをやるってリュックの決意は本物だしな。
 何より旅が終わってからもリュックにはいろんな面で世話になったんだ。
 年下なのにメルの姉貴分みたいなところがあった。
 だから俺としてはさっさと仲良くなってほしいわけだが……。

 なにやらティーダに怒っているリュックをぼんやり眺めつつ、メルがぽつりと呟いた。
「女の子だったんだね」
「ん?」
「リュックって男っぽい名前だから男の人だと思ってた」
「ああ、そういや確かに」
 リュックがビサイドに遊びに来るようになってすぐは、アルベドだって事実より名前のせいで変な目で見られることが多かったもんなぁ。
 まだ起きてないことを懐かしいってのも妙な感じだけどよ。

 それより……なんか、今日一番メルの機嫌が悪くなってる気がするのはなんでだ……?




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