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09


 ユウナが正式に召喚士になっちまって吹っ切れたのか、このところ暗かったチャップの表情が変わっていた。
「晴れてよかったな」
「ああ」
 豆粒みたいに小さくなってたビサイド島はもう完全に見えなくなった。
 リキ号は順調にキーリカを目指している。とりあえず、今のところは。
 これでシンさえ出なけりゃ絶好の航海日和だ。

 大会のことやらなんやら話していたら、さっきまで航海士と遊んでたティーダがこっちに寄ってきた。
「で、この船どこに向かってんの?」
 ああ、そういやまだ何にも話してなかった。
「ポルト=キーリカだ。そこで寺院に参ってから、船を乗り換えてルカに行く」
「ふんふん」
 今の段階でティーダの目的地はそこだ。でもそっから先も一緒に行くことになる、とは俺の口から言えねえけど。

 ユウナは今回もガードになってくれってティーダに頼むと思う。
 しかし自分の願望なんて普段は口に出さないあいつがどうしていきなりあんなこと言い出したんだろう。
 やっぱ、ティーダがジェクト様の息子だからか? ブラスカ様との数少ない繋がりだもんなあ。
 でも最初に「あの人は誰?」って俺に聞いてきた時、ユウナはそんなこと知らなかったはずだ。
 あれか。一目惚れ……ってやつなのか?

 俺がそんなことを考え込んでたら、チャップが代わりにティーダの相手をしている。
「大召喚士オハランド様はキーリカ出身の元ブリッツ選手なんだ。だから必勝祈願に訪れる選手も多い」
「へ〜。ブリッツの聖地ってやつか」
「オーラカの必勝祈願もするから、ティーダも一緒に行こう」
「了解ッス!」
 ……こいつらが話してんの見るのは変な感じがするぜ。

 初めて会った時も感じたことではあるが、こうして並んでるのを見るとしみじみ思う。
「お前ら、なんか似てるよな」
 顔立ちっつーか仕種っつーか、どこがと聞かれたら困るが全体的な印象が似てるんだ。
「そっかな?」
 そうやって顔を見合わせるタイミングまでピッタリ揃ってんだから笑うぜ。
「ワッカとチャップは似てないッスね」
「それ、よく言われる。兄貴は年寄り臭いからなあ」
 悪かったな、年寄り臭くて。

 ジェクト様とティーダもあんま似てなかった。一口に親子だの兄弟だの言っても全然違う。不思議なもんだ。
「ちなみに、こいつ普段は『兄ちゃん』って言うくせに人前だと『兄貴』って言うんだぜ」
「あー、カッコつけたいお年頃ってやつ?」
 調子づいてるチャップの癖をバラしたら、右足にものすごい痛みが走った。

「ってえ!!」
「ごめんなー、兄貴の足に虫がいたもんだから」
「お、お前なあ!」
「仲良いッスね」
 仲良かったら弟が兄貴の足を折れるほど思いっきり踏んだりしねえんだよ。
 試合前だってーのになんてことすんだ、まったく。

 アホなことして遊ぶ俺たちをよそに、近くで船員が話してる声にティーダが耳をそばだてた。
 どうもユウナの話題っぽいな。
 大召喚士様の御息女、とか思ってんなら、そいつの乗ってる船のワイヤーをシンに引っかけたりしないでほしいもんだ。

「ユウナの親って、有名なのか?」
 船員の方を向いたままティーダが聞いて、俺がなんか言う前にチャップが答えた。
「大召喚士ブラスカ様。十年前にシンを倒した人だよ。寺院で御聖像を見ただろ?」
「あ〜〜……どれのことか分かんないけど」
「キーリカ寺院に着いたら教えてやるよ。どれがブラスカ様で、どれがオハランド様なのか」
 そうだよなあ。僧官様もまさか知らないとは思わねえだろうし、説明してないよな。
 俺だってうっかりするとティーダが何を知ってて何を知らないのか、ごちゃごちゃになっちまう。

 ティーダは親父さんに反発してたんだったか。最後に見たのが……あんな場面だったせいで、それも今まで忘れてた。
「大変だよな、親が有名だと」
「俺は両親のこと知らないからよく分かんないけど」
「あ……ごめん」
「いや、いいよ」
 知らなきゃ好きも嫌いもない。だから俺やチャップにはティーダの気持ちは分からねえ。
 でもユウナはそういうところでこいつと通じ合ったんだろう。

 嫌ってなくても、親が偉大すぎると子供は重荷に感じるもんなのか。
 ……そんでも俺は、嫌いになれるほど親のことを覚えてるのが羨ましい。

 俺がじっと見つめてたんで、ティーダはなにやらばつが悪そうに頭を掻いた。
「ユウナを好きになるな、だろ。覚えてるって」
 べつにそれを念押すつもりで見てたわけじゃねえんだが。
 つーかなんも聞かれてないのに言い訳すんのは身に覚えがあるってか?
「なんだ、兄貴にそんなこと言われたのか。ほんっと余計なお世話だな」
「うっせえ。老婆心ってやつだ」
「メルだってそういうところを気にしてんだよ」
「なっ、」
 今あいつは関係ねえだろと反論する間もなく、チャップは「ルーのとこ行ってくる」と逃げていった。

「仲良いのか悪いのか、どっち?」
「俺が知るかよ。あいつの反抗期は一生終わんねえ気がするぜ」
 構いすぎるなってメルにもルールーにも、ついでに僧官長にもしょっちゅう言われてっけどよ。
 俺としては普通に接してるだけだ。これ以上どうすりゃいいのかよく分かんねえ。

 ワケの分からん捨て台詞のせいでティーダの意識もメルの方に向いちまったらしい。
「ユウナがダメなら、メルはいいの?」
「もっとダメに決まってんだろブッ飛ばすぞ」
「怖っ! 冗談だって。やっぱメルって、ワッカの恋人なんだ」
 恋人……ってのはどうも実感が薄いぜ。でもたぶんそれで合ってるはずだ。
「一応、結婚の約束もしてるしな」
「結婚!? ワッカはともかく、メルってそんな歳?」
 俺はともかくって何だよ、失礼な。

「もう十八だからなぁ。そろそろメルも周りから言われ始める頃だろ」
 まあ俺やルッツやルールーのがよっぽどせっつかれてるけどよ。
 そういやチャップのやつ、自分がベンチに入るって今回もまだルーに結婚申し込まねえつもりなのか。
「十八って、俺と一つしか変わらないじゃん。もう結婚とかすんの?」
「ザナルカンドじゃ違うのか?」
 メルの前世も結婚の時期はもっと遅いとか言ってたはずだが、シンのいない世界の特徴なのかもなあ。

 ってなこと思ってたらなぜかティーダがムッとして俺を見上げてきた。
「な、何だよ」
「信じてないんだろ」
「んあ?」
「ザナルカンドから来たとかさ。しかもメルにもバラしてたろ」
 ユウナにも言っちまったぞ。聞かれたからな。
「いやその、あいつらは平気だって」
「でもワッカは信じてないんだろ?」
 信じてないわけじゃない。なんせ俺はこいつのザナルカンドが何なのか知ってるからな。

 だが前回の俺は確かに「こりゃかなり深刻な症状だな」としか思ってなかった。
 いつから変わったんだっけか。
 信じてたものが信じられなくなった代わりに、信じられなかったものにも目を向けてみるようになった。
 旅の終わりにはティーダのザナルカンドもどっかに実在してるんだろうって、俺も信じてたんだ。

「一人の男が蝶になった夢を見る。目覚めると人間の男に戻っていたが、果たしてこれは蝶が“人間になった夢”を見ているだけではないのか」
「は? なにそれ」
「前にメルから聞いた話だ」
「て、哲学……ッスか?」
「そんな難しい話じゃねえよ。現実の在り方なんてのは見る方向によって違う曖昧なもんだ、ってことらしい」
「うん……ん?」

 目が覚めたら夢みたいな話でも、見てる間は紛れもなく現実なんだ。
 はたから見りゃ蝶の夢でもティーダは確かにザナルカンドで生まれて育って、今までちゃんと生きてきた。

「信じる信じないはともかく、それがお前にとっての現実だってのは、分かってるつもりだ」
「……そっか」
「でも俺たち以外には言うなよ。変な目で見られるし、最悪それだけじゃ済まねえからな」
「うっす」

 いまひとつ腑に落ちない顔のティーダだが、俺はそれより後ろからメルが忍び寄ってくるのが気になっていた。
 忠告してやる間もなくメルの手刀がティーダの脳天に直撃する。
「てぇぇい!」
「いった! な、何すんだよ!?」
 見事に決まったなあ。チャップといいメルといい、なんでこう人間相手には強いんだ?

「ティーダのせいであらぬ疑いをかけられた」
「えっ?」
「双眼鏡貸してって頼んだら『君あいつの仲間だろ。投げるからダメだ』って怒られた!」
「あー、ごめんごめん」
「困るんですよねえ、お行儀の悪い人がいると私まで同類だって思われちゃって」
「ごめんなさい、すんません! ……ワッカ、任せた」
「おい」
 俺に押しつけて逃げんじゃねえよ。

 憤慨してティーダを追っかけようとするメルの首根っこを掴んで引き留める。
「ったく、落ち着きのねえやつらだ」
「ワッカは落ち着きすぎだけどね。たまには若者らしくテンション上げないと!」
「どうせ年寄りじみてるよ。悪かったな」
 船乗ってから同じこと言われすぎじゃないのか、俺。
 頭ん中には年寄りになるまでの記憶があるんだ。年寄り臭いのは仕方ねえだろ。
 ……元からだってのはともかくとして。

 メルは未練がましく航海士の方を見てるが、向こうは無視して仕事に励んでいる。
 そろそろキーリカが見えてくるだろうか。
「なあメル、お前は船室に籠ってちゃどうだ」
「……なにそれ。理由によっては怒るよ」
 既にちょっと怒ってんじゃねーか。じきにシンが来るのはこいつも分かってるはずだが。
「シンが出たら危ないって言うなら、そんなの私だけじゃないでしょ」
「それより海に落ちねえか心配なんだよ、俺は」
「あ、あー……それは、うぅ……」
 料理の方はマシになってきたけど泳ぎに関しては特訓もしてねえし、相変わらずのカナヅチだからなあ。

 戦いに参加するのは平気だが、海に落ちるのは怖いらしくメルがそわそわし始めた。
「わ、私もしかして落ちるの?」
「お前は落ちねえけどティーダが落ちる」
 だからずっとメルを見てるわけにはいかない。俺が潜ってる間のことが気にかかるんだ。
「大丈夫。ちゃんと足引っ張らないように注意する!」
「そういう問題じゃなくてだな」
 べつにメルが足手まといだとかは思ってねえ。単に心配なだけだ。

 つっても船室に居れば安全ってわけでもねえんだけどよ。
 船ごとシンに引きずり回されて揺れまくるし、下手すっと痣だらけになるかもしれん。
 目の届くところにいた方がむしろ安心できるか。
「……ま、いいや。今回は黒魔法使えっからお前も戦えるもんな」
「そうそう! 私もがっつり戦うよ。ってか前は黒魔法使えなかったの?」
「前回は白魔法しか覚えてなかったぜ」
「へ〜」
 今回はユウナが回復を一手に担わなきゃなんねえが、殲滅力が高けりゃ回復魔法の出番も減るから同じようなもんか。

 なんで料理の特訓が黒魔法の練習に変わったのかは謎だが、今のメルはルーほどじゃないにせよ結構な腕だ。
 それはいいことだと思ったが、メルには違うところが引っかかったらしい。
「ねえ……今のってつまり、前回の私は戦いで役に立たなかったってことだよね」
「へ?」
 今回は黒魔法があるから戦える。前回は白魔法を覚えてた。……しまった。戦力外だって言ったも同然じゃねえか。

 俺が何も答えてないのにメルは勝手に納得している。
「やっぱそうかぁ」
「いや、役に立ってないってことは、なかったぞ?」
「どうせフォロー下手なんだから黙っててよ」
「うぐ……」
 くそ、余計なこと口走っちまったぜ。

「と、とにかく、万が一落ちてもいいようにオーラカの誰かの近くにいるんだぞ」
「はーい」
 不貞腐れつつもメルは俺の腕にしがみついてきた。
 いや……まあ、泳げるやつの近くにいりゃいいんだから、俺でもいいけどよ。

 海面が気になる俺の横でメルは舳先の方を見つめている。
 何を話してんのか、ユウナとティーダがじゃれあっていた。
「二人とも楽しそうだね」
「ユウナを好きになるな、つってんのに」
「忠告したって好きになる時はなっちゃうよ」
「……そりゃそうだ」
 感情なんて、ままならねえもんだよな。

 ザナルカンドでユウナレスカ様に会うまでユウナは自分の命がもうじきなくなると思ったままだ。
 そんな旅の中で、どうしても好きだってやつに出会えたのはすげえ幸運なんだろう。
 分かってるんだけどなあ。

「ユウナはな、結婚しなかったんだ」
「えっ?」
「正確に言うと一度シーモア老師と結婚してるが、それは数に入れないとして、だ」
「……えっ? シーモア老師って、あのシーモア様? ジスカル様のご子息?」
「そうだ。でもそれはユウナの意思じゃねえ。無理やり結婚させられたんだ」
「……えぇ? さっぱり状況が分からないよ」
「ややこしい事情なんだよ。とりあえずシーモア老師には注意しとけ」
「う、うん」

 もしユウナが「旅なんかやめてティーダと結婚する!」とでも言い出したら。
 シンは倒せねえけど、そんならそれでもいいと思う。ティーダが消えちまうこともねえしな。
 でも……あいつは絶対、そんなこと言わないんだ。
 それにシンを倒さなきゃ、好きなやつと一緒になってもいつ引き裂かれるかと不安な毎日を送ることになる。
 ユウナがシンを倒すと決めてる以上、やっぱ俺は、全部がうまくいくまであいつらの恋を応援できねえ。

「で、ユウナが結婚しなかったって……やっぱりティーダのことがあるから?」
「たぶんな」
 あいつが忘れられないのか、なんて面と向かって聞いたことはない。
 ユウナは一見すると、乗り越えてたようだった。
 普通に泣いたり笑ったりしながら生きて、何年か後には別のやつと恋もした。
 周りで見てる俺たちはこのまま結婚すんのかと思ったりもした。
 だが、年老いてもユウナは結局、一人だった。

 乗り越えるとか、忘れるとか、次の恋を見つけるとか、そういうんじゃないみたいだった。
 一生のうちに何人かいた恋人のこともユウナは本気で好きだったはずだ。
「誰を好きになっても、それが本気の恋でも、どっかでなんかが足りねえんだろうな」
「……うん。分かる気はする」
 結婚して家族ができても、俺の中でチャップがいなくなった穴は埋まらなかった。それと同じだ。
 欠けちまったもんは取り返せない。欠けたまま生きていくしかないんだ。
 ユウナにとってあいつは、恋愛だけじゃ代えられないくらいの存在だった。

 ため息を吐き、メルが俺を窺うように見上げる。
「好きになるな、じゃなくて、いっそのこと二人をくっつけちゃえば?」
「う〜ん……」
 未練があったら消えないかも、って? でもそれじゃ死人みたいなもんだろ。
 まあティーダの場合、死んでないんだからなんて呼ぶべきかは分からんが。

 どうしたらあいつを助けられるんだろうなぁ。
「なんか思いつくか? 俺は全然ダメだ」
「あんまり良くない方法だけど一つは思いついた」
「マジかよ」
 あっさり言われて驚いた。が、メルは浮かない顔だ。

「ジェクト様は究極召喚の祈り子になったんだよね?」
「ああ」
「で、究極召喚を授けてくれるのは死人になったユウナレスカ様?」
「そうだ」

 それがどうしたと見下ろしたら、メルはあらぬ方を見ながらとんでもないことを言い出した。
「ティーダが祈り子になっちゃえばエボン=ジュを倒した後でもユウナが召喚できると思う」
「いや……お前、それは……」
「分かってるよ。あんまり良くない方法って言ったじゃん」
 当たり前だ。この世に留まるために人間やめろってわけにゃいかねえだろ。
 大体、そりゃつまり究極召喚じゃねえか。使ったらユウナが死んじま……あれ? でもシーモア老師は究極召喚獣をしょっちゅう呼び出してたな。
 シンと戦うんでもなけりゃ究極召喚を使っても死なないのか?

 ティーダが消えちまったのは、あいつを召喚してたのがエボン=ジュだったからだ。
 でもシンを倒すために祈り子になった人間なんかは、エボン=ジュと繋がりのない独立した存在だ。
 そいつらは、本人に眠っちまう意思がなければエボン=ジュがいなくてもスピラに留まれるってことか。
 シーモア老師の母親みたいに……。

 だが祈り子になれば人間やめなきゃなんねえのはもちろん、ユウナが死んだあとまで祈り子像に囚われることになる。
 ティーダ本人もそんなやり方は望まないだろうとメルは言う。
「でも重要なのは、下策でも一つは選択肢があるってこと。きっと他にも方法が見つかるよ」
 そうだよな。現に俺は「祈り子になればいい」なんて思いつかなかった。
 つまり今まで考えもしなかったところから解決策が見つかるかもしれねえんだ。
「お前って、ほんとすげえな」
「ふへへ」
 メルが照れくさそうに頬を掻いた瞬間、視界がぶれた。

「おわっ!?」
 衝撃によろめいて、俺の腕に掴まってたメルの手が離れる。
 やべえ、話してる間にシンのことをコロッと忘れてた。
「おいメル、しっかり掴まっ……」
「にやああああ!!」
 言ったそばから転がってんじゃねえか!

 シンの体当たりで転がされ、そのまま波に攫われかけたメルの腕をギリギリで掴んだ。
 あ、危ねえ。気をつけろっつっといて俺の目の前で海に落ちたら笑えねえぜ。
「げほっ、み、水、鼻に入った……ってユウナは!?」
「大丈夫だ、キマリがついてる」
 運動神経の鈍いルールーもチャップが支えてるし、オーラカのやつらは……そこらで船縁に激突しまくってるが、まあなんとかなるだろう。

 遊び半分でリキ号にぶつかり、シンは悠々と泳ぎ去っていく。進路にはキーリカの港が見えていた。
 甲板に転がっていた船員たちが体勢を立て直してワイヤーフックの方へと駆け出す。
 メルは俺にしがみついたまま困惑の表情でそれを見守っている。
「え、ちょっと、何やって……」
「キーリカには俺たちの家族がいるんだ!」
「召喚士様、お許しを!」
 ユウナが頷くのを見て涙目になりながらメルが俺を見上げてきた。
「マジですか?」
 俺に聞いてもしゃーねえだろ。

「コケラが来るぞ、お前も準備しとけ」
「ほんとに大丈夫なのこれ?」
「大丈夫だ。……船の上は、な」
 その一言でキーリカの運命を思い出したんだろう。
「うあああもうッ!!」
 ヤケクソじみたメルの叫びと同時にワイヤーがシンめがけて飛び出していった。

 何度も見たいもんじゃねえよな。シンを倒さない限りあれは永遠に続くんだ。
 どんなにティーダを助けてやりたくても、あの光景を二度と繰り返さないことの方が大事だってのは、変えられない。
 シンを倒して、ユウナも死なせねえ、でもってティーダも助けたい?
 前回の俺が聞いたら「青臭いこと言ってんな」ってなもんだよなあ。
 でも……今度こそなんとかしてやりてえんだ。面倒見てやるって、約束したからな。




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