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15


 幻光河の北岸も南岸も風景はあんまり変わらない。
 あえて違いを挙げるとするなら、ルカに通じる賑やかな南岸よりグアドサラム側である北岸の方が厳かな雰囲気がある。
 もっと端的に言うと北岸の方が寂れている。

 歩いてるうちに乾くと言ってきかない男二人は放っといて、幻光河に落ちたユウナを着替えさせることにした。
 その間に辺りを散策していたティーダが、なにやら岸辺に倒れていた女の子と話し込んでいる。
 行き倒れをナンパしてるんだろうか?
 ユウナが着替えを終えたので合流する。

「んで、どなた様?」
「どーも、リュックでーす!」
「ユウナたちには話したよな。ビサイドに着く前に俺が……えーと」
「あ……」
「ああ……」
 スピラに連れてこられたばかりのティーダを拾ってくれた、アルベド族。
 事情を察して私たちは思わずワッカの方を見た。
「ん?」
 気づいてないから誤魔化しちゃえばいいや。

「シンに襲われる前に、お世話になったんだっけ?」
「そりゃお前、恩人じゃないか。会えてよかったなぁ。まったく、エボンの賜物だ。……で、倒れてたみたいだけど、怪我ないか?」
「それはもう、お陰さまで〜」
 ……あれ? 岸で倒れてたアルベド族? ってことはさっき襲ってきたのは……。

 私の不穏な気配を察して、ユウナが前に歩み出る。
「あ、あの、ちょっと話したいんだけど」
「おお、話せよ」
「女子だけで話し合いで〜す! 男子は待っててください!」
「そうね、そうしましょう」
 ルールーは女子なのかなぁ? という心の声が聞こえたはずもないのに、ルーはめちゃくちゃいい笑顔で振り向いた。
「メルも来なくていいわよ」
 な、なぜ怒ってるの……!? やっぱり聞こえたのかな。
「お前、なんか余計なこと考えたろ」
「考えるのは自由でしょ!」
 うん、ルーは女子だよね。立派な女子ですよー! ……聞こえたかな。

 話し合いは手短に終わった。戻ってきたユウナはアーロン様を見上げる。
「リュックを、私のガードにしたいんですけど……」
 また増やすの? ドナ様の言葉に同意する気はないけど、あまり増えると旅費が嵩むのが心配だ。

 すでに御意見番となっているアーロン様は、リュックさんの前に立って顔を上げさせた。
「目を開けろ」
「……はい」
 渋々と片目を開けたリュックの瞳に、アルベド特有のうずまき模様。
「やはりな」
「だ……駄目?」
 アーロン様はアルベド嫌いなんだろうか。ブラスカ様のガードをやっててそんなことはないと思う。
「覚悟はいいのか」
「ったりまえです!」
「ユウナが望むなら、好きにしろ」
「私は、是非お願いしたい」
 ってわけで、召喚士様御一行にまた一人ガードが加わった。
 旅の途中で仲間が増えていく。なんだか桃太郎みたいだな。

 さっさと歩き出したアーロン様をよそに、ワッカは何やら不満げだ。
 彼女がアルベド族だってのは気づいてないはずなんだけど。
「リュックはさ、いい子だよ。俺も世話になったし」
「信頼できる人はたくさんいた方がいいんでしょ?」
「……そうだな。賑やかになっていいかもな!」
「じゃ、あたしは賑やか担当ってことで!」
 跳ねるように駆け出したリュックにワッカも緊張を解いて笑う。ユウナたちも歩き出した。
 で、今度はなぜかティーダが、ポカンとして立ち止まってしまった。

 心配事もないわけではない。
 リュックはおそらく先程ユウナを襲った張本人、あるいはその仲間だ。
 本気でユウナのガードになる気があるんだろうか?
 ふりだけで旅に同行して、隙を見てまたユウナを誘拐するつもりだったら困る。

「……でもまあ、気をつけておけばいいか」
 私の呟きを聞きつけてティーダがハッとした顔を見せる。
「あ、メルも分かっちゃったのか?」
「リュックがアルベドだってこと? それともさっきユウナを攫おうとしたこと?」
「両方ッス……」
「鈍くなきゃ気づくよ。でもどうせ私はガードじゃないし、反対する権利ないからね」
「え? メルってまだガードじゃなかったのか」
「違うよ。試練にも同行してないっしょ」
 だからまあ、なんやかんや理由つけても一緒に行けるのはベベルまでかなぁ。
 何にせよ、ユウナが決めたことに他人が良いも悪いも言う権利はないのだ。

 いつまでも突っ立ってたら容赦なく置いて行かれそうなので、私とティーダも皆の後を追った。
「あのさ、聞いてもいいか?」
「はいはいどうぞー」
「リュックがアルベド族だってこと、なんで気づかなかったんだろう」
 だから気づいたって言ってんのに、って私じゃなくてワッカのことか。
「だってワッカは目玉がぐるぐる模様な人を嫌ってるわけじゃないもの」
「そりゃそうなんだけどさ」

 ワッカのアルベド嫌いは、彼らが教えに従わないことに起因している。
 重要なのはそれなんだ。彼らが“アルベドだから”嫌いなのではなく、“機械を使うから”嫌いなのだ。
 アルベドでなくたって、禁じられた機械を使うような人には怒りを見せる。……それが私であっても。
 逆に金属アレルギーの機械嫌いなアルベド族でもいれば、普通に仲良くなれるかもしれない。
 そんな人に会う機会があれば、だけどね。

 ティーダは、やっぱり腑に落ちないって顔をしている。
「よく知らないのに、なんでそんな嫌いになれるんだ? 目の前で教えに反する機械を使ってるやつがいて、そいつを毛嫌いする、ってなら分かるけど」
 それはワッカが今まで“エボン教に迎合できるアルベド族”と会ったことがないからだ。
 人種で括っちゃいけない、アルベドにもいろんな人がいる……、そう思える土壌がないんだもの。
 アルベド族の側でも、ヒトと関わりたがらないからね。

「うーん、そだなー。ティーダはさ、ジェクト様の友達とかって好きだった?」
「へ?」
「こっちじゃなくて向こうのね。チームメイトとか飲み友達とか、仲良しで気の合う仲間がいたでしょ。その人たちのこと、どう思ってた?」
「あー、好きなわけないッス。あんな親父と気が合うんだったら、どうせ嫌なやつに決まって……」
「そういうことだよねー」
 一人一人を知らなくてもどうせ“みんな似たような性格”で、だから“嫌なやつに決まってる”ってわけだ。

 知らずワッカと同じ思考に嵌まっていたティーダが顔を引き攣らせる。
「……いや、なんか違くない?」
「違くないない。単純な話そういうことだよ」
「そ、そっかなぁ……」

 まあ、いい機会なんじゃないかな。
 リュックと仲良くなれたらアルベドに対する見方もちょっとは変わるかもしれないし。
 ユウナのこともあるから、いずれワッカにもアルベド族を受け入れてほしいとは思う。
 ほら、リュックみたいな娘もいるんだからアルベドだっていろいろでしょ。
 ……と言える関係になれれば嬉しいな。

「ってかさ、もしかしてメルもアルベド嫌いだったりするのか」
「うん? そりゃそーよ」
 当たり前に頷くとティーダはなぜか愕然とした。
 私も一応はエボン教徒だし、ほとんどワッカに育てられたようなものなんだけど。
 なんで驚くのかな。

「心配しなくても、アルベドが嫌いだからリュックも嫌い、ってことにはならないよ。でも逆に言うと、たとえリュックを好きになってもアルベド全体を好きになるわけじゃないけどね」
「でもワッカみたいに、教えに反してるから嫌いってわけじゃないんだろ?」
「ん。それは関係ないかな」
 私もミヘン・セッションに参加するくらいだ、彼らが機械を使うことはどうとも思わない。
 ただ私にも一部のアルベドを毛嫌いする理由があるという、それだけのこと。

「いまひとつそこら辺がよく分かんないんだよな〜」
「なんでアルベド族が目の敵にされてるのか、ってこと?」
「そうなんだよ。個人的な好き嫌いじゃなくて、アルベドは全部ムカつく、みたいなのがさ」
「そりゃ、彼らがエボンの社会秩序を乱す存在だからだよ。みんなルールを守って我慢して暮らしてるのに一部の人だけ平気でルールを破ってたらムカつくでしょ」
「メルもそうなのか?」
「私はルカで働いてたから、アルベド族と関わることもわりと多かったし……そういう人種的な偏見はなかったかな」
 私がアルベドを嫌うのはもっと他の、ティーダの言う“個人的な好き嫌い”が理由だ。

「ところで、君のザナルカンドにはそういう偏見なかったの? 外国人差別とかマイノリティへの弾圧とか」
「あんまピンとこないッスね」
「ふーん……不思議なところだね。聞いてる限り文明はかなり発展してるし、ってことは過去に戦争も起きてるはずだし、私のいた場所と似たような心性に育ってそうなもんなのに」
 戦争も知らない、差別も偏見もよく分かんない、そのくせ文明だけは発展していて……。
 彼の先祖たちは誰とも争わずにどうやって向上心を維持してきたんだろう?
 聞けば聞くほど、彼のザナルカンドは謎めいている。理想論だけ詰め込んだ夢物語って感じ。
 魅力的だけど……なんか、フワッとして頼りない。

 駄弁りながら歩いてたらますます皆と距離があいてしまった。
 でもワッカに聞かれていいような話じゃないから、好都合かな。
「じゃあさ、メルがアルベドを嫌う理由って何なんだ?」
 えーそれどうしても聞きたいんだ?
「アルベドっていうか、ワッカをボコボコにしたサイクスのやつらは嫌いだし、許せないよ。見つけたら縛りあげて半殺しにする」
「あ、ああ、それは……」
「そこに君の恩人やリュックの身内がいても私は躊躇しないから」
「……ハイ。それは俺も止めないって」

 私のアルベド嫌いが人種差別でなくて安心したらしい、ティーダはよかったと息を吐いた。
「嫌いって、それが原因だったんだな」
「他にないでしょ。大事な人を傷つけられてるのに『アルベド族は差別されてて可哀想だから何してもいいの』なんて思うわけないじゃん。あっちの事情なんて知ったことじゃないね」
「あれは俺も……ユウナを攫った事情は知らないけど、ついでみたいに『試合に敗けろ』ってのは卑怯だし、腹立つよな」
「だよね!?」
 ああもう、プールでリンチされてるワッカを思い出したらムカムカしてきた。
 チームのやつらとユウナを攫った実行犯、全員、気絶するまで殴る。

「でもなんでアルベド族はユウナを狙うんだろうなぁ」
「……さあ。リュックと一緒にいればそのうち分かるんじゃない? ま、大体の想像はつくけど」
 リュックがガードになるとか言い出したことからしても、きっと彼らなりにユウナを想っての行動だったんだろう。
 ユウナだけなら身内だからという理由もあり得たけれど、他の召喚士まで攫ってるのなら。
 ……それは召喚士の旅を止めさせたいからという理由以外にない。




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