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13


 日が沈んでいく。ジョゼ寺院は人でごった返していた。
 ミヘン・セッションの死傷者が運び込まれているんだ。
 ルカに行く人もいるけれど、寺院に来るのは……助かる見込みのない人と死体が多い。
 治療はルカでも施せる。でも死体は寺院に運ばなければどうしようもない。
 ここなら召喚士の来訪が期待できるから、異界送りが必要な人はこっちに連れて来られるんだ。

 ユウナはまず祈り子様と対面し、そのあとは休憩もせずに異界送りと怪我人の治療に奔走した。
 治療なら私も手伝えるので、始めは彼女の仕事を半分受け持とうと思ってた。
 でもケアルを唱えまくってるうちに思い直し、やっぱり治療もユウナに手伝ってもらうことにした。
 異界送り……死体の処理ばかりさせるのは気が引けたんだ。ユウナの心が擦りきれてしまう。
 ケアルで治すことができて、言葉でお礼を言ってくれる軽傷者とも接するべきなんじゃないかって。
 結局、夜半過ぎても寺院にはどんどん人が訪れ、ユウナは夜明けまで眠ることができなかった。

 さっき寝床に入ったばかりだけれど、そろそろ朝陽がのぼる時間。
 ユウナを起こさないように身支度をして寺院を出ると、ワッカがいた。
「よぉ、早いな。ちゃんと眠れたか?」
「まあまあ。ワッカこそ早いね」
「俺より怪我人を寝かせた方がいいだろうからなぁ」
 海岸からの列は疎らながらもまだ続いている。
 昨日はユウナの前に一人、後に一人、べつの召喚士が祈り子様と対面しに来た。
 彼らも治療と異界送りを手伝ってくれた。
 あんな風に他の召喚士が訪れるので、ここはなんとかなるだろう。
 ユウナたちはもう、出発しなければならない。

 空は今日もやや曇り気味。昨日のことを忘れるなと言ってるみたいだ。
「メル、こっからどうすんだ? ビサイドに帰るか?」
 また討伐隊に合流すると言えばワッカはどうするだろう。
 自分のことを棚にあげて、性懲りもなく止めるに違いない。
 でも、もはや私もそんな気がなくなっていた。

 アルベドが持ち込んだ兵器の威力なら、シンを瞬殺できないまでも傷は負わせられると期待したのに。
 なんか違う気がした。
 シンは機械を完全に封じていた。あの巨体には機械への対処法が備わってるんだ。
 まるでそれがどういうものか熟知しているみたいに、電磁砲の一撃さえも消し飛ばした。
「どうしようかなぁ」
 また違う方法を考えなくちゃいけない。

 階段の手すりに背中を預けて、寺院を振り返る。そろそろ他の皆も起きてくるだろうか。
 私が呆けて答えないでいると、ワッカは意外なことを言い出した。
「帰らないならガードになりゃいい。ガードの人数は信頼できる人の数、だろ? ユウナだって喜ぶし……」
「うーん。絶対やだ」
「ぜ、絶対ってお前なあ」
 そんなことするくらいならビサイドに帰った方がマシ……ってほどではないけれど。
 出家してベベルにでも行ってエボンとシンについて学ぶ方がまだしも建設的だ。

 ガードの役目は、究極召喚を得るまで召喚士を守り、無事にシンのもとへ送り届けること。
 ユウナの意思を尊重したいとは思っても、そこまで積極的に旅の支援をしたいとは思わない。
 尤も、ワッカとルールーがユウナのガードをやってくれていることには感謝している。
 二人がついててくれるからこそ、私は一行に加わらず別の道を探る余裕があるのだから。

 そういえば結局ティーダは正式にユウナのガードになったらしい。
 しかもいつの間にかアーロン様も一行に加わっていたんだ。
 よくよく思い出せば確かにミヘン街道でも姿を見た気がする。
 ユウナには結構たくさんのガードがついてて、そこに加えてあの伝説のガード様だ。
「戦力的に充分でしょ。私じゃ足しにならないし。……ていうか、ビサイドに帰れっては言わないんだ」
「目を離してる方が危なっかしいだろ、お前の場合はよ」
 それは、隠れてこそこそやってたから反論はできないなぁ。

「まあ、私がいなきゃ淋しいってワッカが言うならついてってあげてもいいけど」
「じゃあ、淋しい」
「じゃあって何だよ!」
 ムッとして睨みつけると、予想外に真剣な顔をしていて戸惑った。
「一緒に来いよ。心配なんだ」
「……」
 この人は、そういう言葉が私に対して効果覿面だって分かってて言ってるとしたら恐ろしいな。
 ワッカのことだから無自覚なんだろうけど。

 ミヘン・セッションで何らかの成果が得られたら、引き続き討伐隊に所属してシンを倒す方法を探すつもりだった。
 でも機械は駄目だった。そして今は、行き先を見失っている状態だ。
 結局、シンについて知りたいなら召喚士について行くのが手っ取り早いのかもしれない。
 それにティーダとアーロン様の会話も気になっているし。

 というわけで、幻光河までユウナたちにくっついてくるはめに。
 観光がてら幻光河まで……適当に誤魔化しただけの言葉だったのに、真実となってしまった。
 ティーダは初めて見るシパーフにかなりはしゃいでいて微笑ましい。
 仏頂面で寡黙なアーロン様も、なんとなく穏やかな顔つきになっていた。

 ありがたいことに待ち時間もなく乗り場に入る。
 待機しているシパーフを見上げながら、アーロン様が呟いた。
「十年前に、ジェクトもここで初めてシパーフを見た。驚いたあいつはいきなりシパーフに斬りかかってな」
「な、なんで!?」
「酔っていた。魔物だと思ったらしい」
「しょーがねえなあ……」
 ダメ親父の恥ずかしい話を聞かされる息子の図。やっぱり微笑ましい。
「俺たちの有り金を全部出して詫びを入れた。以来ジェクトは、酒をやめた」
「ジェクト様って可愛い人だったんですね」
「今のエピソードのどこが可愛いッスか!?」
 軽度の駄目さは女心をくすぐるものなのです。

 ブラスカ様はもういない。ジェクト様も行方不明だ。
 それでも、こうして彼らのことを覚えている人がいて、その足跡はスピラに残っている。
「あ、あのシパーフ、足のところに古傷がある……」
「どうやら、あの時のシパーフもまだ現役のようだな」
 そうかー。あの子がジェクト様に斬られたのかー。
 なんか、妙な気分だ。そこで暴れてるジェクト様の姿が容易に想像できそう。

 アーロン様も似たような幻影を見たらしい。そしてそれは彼に苦い気分を味わわせた。
「十年経っても、スピラは何も変わらん。尤も……ここは変わることを拒否している世界だ。そう簡単には変わらんだろうがな」
 十年前にブラスカ様と共に旅をしたガード。
 かつて仕えた召喚士がもたらしたナギ節の終わりを実感するのは、どんな気持ちだろう。
「……変わらないものがあるからこそ、変わることを恐れずにいられるんじゃないかな」
 ブラスカ様は帰らないのにシンは甦った。こんなやり方では誰も幸せになれない。
 ユウナの足跡をまだ思い出に変えてしまわないために、変わらないものを守るためにこそ、私は新しい道を探したい。




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