×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
11


 着々と準備が進む中、ひとまず手を止めて集まるようにと伝令が来る。
「シーモア=グアド老師、御来臨!」
 わざわざルカからこの作戦を見届けにいらしたようだ。
 老師の思わぬ激励に、隊員のみならずアルベド族の士気も上がる。
「スピラの各地より集いし勇敢なる討伐隊諸君。己の選んだ道を信じ、存分に戦うがよい。君たちの勇戦、エボンの老師このシーモアが、しかと見届けよう」
 己の選んだ道を信じ、か……。いいことを言うよね。
 エボン教の偉い人ってのは皆どっかしら遠い存在だけど、あのシーモア老師には親しみが感じられる。

 討伐隊の面々だって、好き好んで教えを捨てたわけじゃない。
 むしろ入隊した今でもエボンを信仰している人がほとんどだ。
 ただ、自分の信じた道を進むために已むなく、教えに反する機械をも受け入れたというだけの話。
 エボンの老師であるシーモア様がこの作戦を支持してくれるのは、すごく嬉しいことだった。

 演説を聞き終えて自分の持ち場に戻る。
 私の役目はバリスタによる援護射撃だ。
 切り札であるアルベド族の機械砲台が充填されるまで、チョコボ騎兵隊がシンを引きつけてくれる。
 ……その援護をするわけだ。
 簡単に言うと、裏方・オブ・裏方って感じのお仕事である。
 まあこのバリスタも機械兵器だし、一応は前線の主力部隊の一部なんだけどね。

 シンの出現ポイントとされる地点を確認し、照準を合わせて、最終確認。
 騎兵隊や砲台部隊は大変だけど、私のところはそんなに念入りな準備なんてないんだよね。
 ちょっと暇を持て余してたら、ルッツが戻ってきた。顔が腫れている。
「おわ、なに頬っぺたどうしたの、大丈夫?」
「そこでワッカたちに会ってな……」
 ん? 通行止めされてるはずなのに司令部に来たのかな。
 街道を封鎖してるのは融通のきかない新人君だから、召喚士でも例外ではなかったはずだけど。

 でも、ワッカに会ったからってそれだけで顔が腫れるのはおかしい。
「……チャップのこと、話したんだ?」
「ああ」
「そっか」
 誠実すぎて、損な性格だ。ルッツはこの前ルーにもぶん殴られてたのに。
 というかルーに殴られるためにビサイドに一時帰宅したような雰囲気だった。
 チャップだって自分で道を選んだだけ。死んでしまったのは……ルッツのせいじゃない。誰のせいでもない。

 それにしても、このタイミングで「お前の弟を討伐隊に誘ったのは俺だ」なんて、死亡フラグ染みてて縁起が悪いな。
「変な覚悟とか決めないでよね」
 確かに大きな作戦ではあるけれど、捨て身の特攻ってわけじゃない。
 死ぬかもしれないと思って戦ってほしくはない。
「作戦の成功は信じてるさ。ただ、いつだってこれが最後かもしれないとは思ってるよ」
 ルッツの瞳は闘志と生気が満ちていたので安堵する。
 二度と言う機会がないかもしれないから告白しといた、ってわけではないようだ。

「私もあとで殴られるのかなぁ」
「あいつがメルを殴るわけないだろ。……お前を誘ったのも俺かって詰め寄られたよ」
「おお。さすがワッカ、単純だ」
 私にだって私なりの思いや事情があってここにいるんだけどね。
 なんでもかんでも「誰かに言われたから」でやるわけないじゃない。
 ワッカにとってまだ私は、自分の考えなんてない子供なのかもしれない。

 そろそろ作戦開始だろうか。
「バリスタの操作は確認した?」
「大丈夫だ」
「これ、ここで外すと携帯型になるんだよ。知ってた?」
「お、おい、壊すなよ」
「一回バラすと仕組みが分かりやすい。向こうの電磁投射砲よりかなり前時代的な兵器だよね」
 その分だけ融通がきくとも言う。

 アルベド族は海底から古代の機械をサルベージし、修理して使っている。
 でも海に沈んでいるのは百年前も千年前もそれより前もごちゃ混ぜの遺産の墓場だ。
 だから電磁砲と弩砲を一緒に使うなんてよく分からない事態になる。
 現代人にとってはどっちも“古代の兵器”なんだけど、レールガンが出てきた頃にはとっくにバリスタなんて廃れてただろうにね。
 スピラは一度文明が発達して近未来的な世界になったあとに滅びて後退しているから、時代考証がめちゃくちゃで変な感じだ。

 外した弩をまた嵌め込む。私の行動をハラハラ見守っていたルッツがホッとため息を吐いた。
「お前って、機械にまったく抵抗がないよな」
「ん〜。便利なものは使えばいいじゃない?」
 さすがに複雑な兵器になるとさっぱりだけど、単純な機械なら触れば使い方は大体分かる。
 一応、千年前と似たレベルの文明人としての記憶があるからね。
「ワッカの反動でそんな柔軟になったかねえ」
「あはは、それはあるかも」
 ま、ワッカより柔軟なのは確かだ。

 作戦開始の合図が響く。ルッツも自分の持ち場へと去っていった。
「ルッツ、武運を祈る!」
「ああ、そっちもな」

 海岸に運び込まれたコケラが悲鳴をあげる。
 その声に応じるかのごとく、ジョゼ湾に黒い影が揺らめいた。
 騎兵隊が海岸線に向かって駆け、私たち後方部隊がそれを支援する。
 そして殺戮が始まった。

 私の故郷を破壊した時、先日ポルト=キーリカを破壊した時。
 シンはただ、その巨体をそっと陸に乗り上げただけだった。
 ただそれだけで無数の命が泡沫と消えてゆく。
 けれどミヘン・セッションで、シンの行動は違っていた。
 ジョゼ海岸に近づいてきたシンは砲台の一斉射撃を寄せつけず、重力波を放って海岸線を一掃した。
 覚えているのはアルベドの電磁砲台が崩れ去ったところまで。
 戯れに町や村を破壊するのとは明らかに違う。
 明確な怒りを持って、シンは兵士たちを排除した。
 ……兵器を、使ったから……?

 気がつけば視界は真っ暗。胸部に激痛が走り、右腕の感覚がない。
 とりあえず無事な左腕で探ってみたところ、眼球も右腕もなくしたわけではないみたいだ。
 折れたのか神経が死んでいるのか、ちょっと痺れてるだけなのか。
 痛すぎて判断できない。
 ケアルを唱えてしばらく休むと、少しずつ視界が戻ってきた。

 地形が完全に変わっていた。私はキノコ岩の隙間に落下していたようだ。
 這い上がって辺りを見渡せば、アルベドの砲台はすべて跡形もなく消えている。
 海岸に展開していた騎兵隊も惨憺たる有り様だ。
 ここから死体は見えないけれど、全滅、というしかない。
 全滅と壊滅って、どっちがマシなんだっけ……。

 崖が崩れて自分の持ち場がどっちだったかよく分からないけど、とにかく気力を振り絞って歩き出す。
 悪いことに雨まで降ってきた。シンの巻き上げた海水が降り注いでいるだけかもしれないけれど。
 崩れた岩のあちこちに無惨な死体が転がっていた。
 その中のひとつに、見覚えのありすぎる赤い髪が混じっていて、思わず膝をつく。
「ルッツ」
 ……下半身がちぎれてても、人間って意外とすぐには死なないものなんだなぁ……。

 頬に手をあてて呼びかける。
「ねえ、ルッツ」
 まだ息がある。でも息があるだけだ。
 濁った瞳が私を見つけることはなく、ルッツの視線はただただ虚空をさまよっていた。
「ルッツ、正面にいるよ」
「メル……か……?」
 辛うじて声は聞こえているようだ。それとも、幻覚を見てるだけなのかもしれない。

 腰から下には血溜まりが広がって、内臓が飛び出している。
 蘇生魔法を唱えれば延命はできるだろう。でも消し飛ばされた半身がまた生えてくるわけではない。
 これだけ大量に失血していては意識を保っていられるのもほんの数分。
 もう、駄目だ。

「言い残すことはある?」
 右手が痙攣するようにぴくりと跳ねた。その手を握ると、ルッツは微かに笑った。
「お前、濡れてる、ぞ……。か、風邪……引くなよ……」
 握り締めた指先に、微かに残っていた力が失われた。
「は……? なんだそれ……」
 ルッツの口からゴボゴボと不快な音が零れる。血が喉で滞って息ができないんだ。
 彼の胸当てを剥がして心臓のうえに短剣を突き立て、押し込んだ。ルッツはそのまま眠ってしまった。
「最期の言葉だってのに、しまらないな……」

 べつに勇敢なる聖戦や美しい栄光を期待してたわけじゃない。
 戦って死ぬ覚悟は、していた。
 でも……こんなものなのか。
 戦いなんかじゃない。戦いになんて、ならなかった。
 ただ呆気なく、すべてを奪われただけだ。




|

back|menu|index