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2-02


 ユクティの知人がいるのは幻光河の北側だとかで、俺たちと同じシパーフに乗って対岸まで行くことになった。
 淋しくなると思ってたんでそれは嬉しい。しかし、待ち合わせの相手ってのはどんなやつなんだと疑問に思う。

 その連れがユクティの家から来てんなら、武器すら持ってなかったユクティをルカまで迎えに来てやってもよかったんじゃないのか。
 一緒に過ごしたのはミヘン街道からここまで短い間だが、ユクティはどう見ても戦い慣れてない様子だった。
 アルベドの店で急遽買った剣もまったく使いこなせてない。
 こんな頼りなくて危なっかしいやつを一人旅させてんのはちょっとどうなんだって気もする。
 まあ、俺がとやかく言うことじゃないんだけどよ。

 シパーフに揺られている間、ユクティは最初こそのんびり寛いでたんだが、段々と顔色が悪くなっていった。
 河底に沈んだ町について俺たちが話してる間もずっと俯いて眉をひそめていた。
 ほとんど揺れないシパーフで酔うことなんて滅多にないんだが、ユクティならあり得るかもしれないと思ってしまう。
 大丈夫かと声をかけようとした瞬間、シパーフが動きを止めた。
「何か変だ〜ぞ?」
 岩にでも引っかかったのかと水中を覗き込むが、何も見えない。

「座っていろ!」
「は、はい」
 アーロンさんの声につられて振り返ると、思わず立ち上がったらしいユウナが再び腰をおろそうとしているところだった。
 音もなく河の中から飛び出してきた人影がユウナを抱え、かと思うとそのままあいつを水中に引きずり込んだ。
「アルベドだ!!」
 呆気にとられる間もなくユクティが河に飛び込み、俺とティーダも慌てて後を追った。

 さっきまで気分が悪そうにしてたのは何だったのかと思うくらい、水中でユクティは元気だった。
 というか泳ぎがめちゃくちゃ速え。アルベド・サイクスのやつら並みだ。
 ユウナを閉じ込めて連れ去ろうとしている機械を包囲すると、ユクティは俺たちにアームを攻撃するよう指示した。
 そして自分は背後に回り込んで剣を突き刺し、手早く機械を破壊していく。
 河底で動かなくなったアルベドを尻目にさっさとユウナを助け出して、シパーフによじ登る。
 ……まさか戦闘面でユクティがいて助かったと思うことになるとはな。

 それにしてもアルベドのやつら……ルカでの一件は終わったと思ってたのに、まだユウナを狙ってんのか。
 でなきゃユウナだけじゃなく召喚士全員が狙いか、それとも見境なく誰でも襲ってんのか。
 もし標的が決まってないとしたら対岸でユクティと別れるのがますます不安になる。
 陸で狙われたらやばいんじゃないのか。
 水からあがった後ユクティは、また落ち込んだような顔をして俯いてしまった。

 いろいろあったがなんとか無事に対岸まで辿り着く。
 トラブルがあっても運賃の払い戻しはないんだよな。ちっとくらい割引いてくれてもいいだろうに。
 まあ、アルベドは俺たちを狙ってきたのかもしれないからハイペロに責任はないんだが。

 ユウナが濡れた服を着替えている間に、ユクティは知人とやらとの再会を済ませていた。
 相手は男だと勝手に思ってたら、ユクティを迎えに来たのはユウナより年下のリュックって女の子だった。
 にしてもルカから出発して幻光河で待ち合わせってことは、ユクティの家はどこなんだ?
 もしベベルか、ここより北の方から来てんならもうちょっと先まで一緒に行けるんじゃないか? なんて未練がましいことを考えちまう。
 べつに、野宿の時に作ってくれた飯が美味かったからとかそういうわけじゃねえ。
 ただ連れと再会したらユクティも安心だろうと思ってたのに、その相手がずっと年下の子供となると……何にも安心できねえんだよな。
 危なっかしいユクティと子供のリュックが二人旅してても、全ッ然、安心できねえ!

 とうのユクティとリュックは今、うちの女どもに囲まれて何やら話し合いをしている。
 リュックはティーダの恩人でもあるって話だから、その辺りについて聞かれてるんだろうか。
「……なに話してんだろーな」
 なんとなく疎外感に腹を立てて呟くと、横にいたティーダがのんびりと言った。
「ユクティとリュックも一緒に行けたらいいのになぁ」
「……」

 ジョゼで言った「ガードになってくれりゃありがたい」ってのは俺の正直な気持ちだ。
 ユクティは確かに戦闘面で頼りないが、飯はうまいし、どうも放っておけねえし、俺がそうしたい……ってのはともかくとして。
 寺院で見せてくれた特技だってユウナの旅の助けになるだろう。ガードに相応しくないとは思わない。
「そういやお前、ユクティに教えてもらったか?」
「へ? なにを?」
「水ん中の幻光虫を操っていやしの水に変える方法」
「なんだそりゃ。知らないッスよ」
 聞いたこともないって感じのティーダにちょっと驚いてしまった。

「ユクティ、そんなことできんだ? すげーな」
「おう……」
 すごいのは確かだけど、釈然としねえ。俺ができなかったんでまた別のやつに一から教えんのが面倒になったのか?
 ジョゼ寺院でユウナが無理してたから、負担を減らすために回復手段を増やした方がいいって話だった。
 だからてっきり、俺が駄目なら器用なティーダに教えてやってるものと思ってたんだが。
 俺しか知らないのか。……いや、喜ぶとこじゃないっての。

 複雑な気分でユクティの方を見つめた。なんか揉めてんな。声は聞こえないが、ユクティとリュックが言い争ってるみたいだ。
「つーか、ワッカってユクティとよく話してんだな」
「よくって程でもねえけどよ」
「俺なんか全然ッスよ? キマリみたいに無愛想ってわけじゃないけど、あっちからは話しかけてくれないし、わりと一人でいる方が落ち着くみたいだし」
 それは意外な言葉だった。思わずユクティから目を逸らしてティーダを見る。

「ユウナとルールーも、ユクティと二人ではほとんど話したことないってさ」
「そ、そうなのか……?」
 会話が苦手とか一人が好きとかそんな感じはしなかったぞ。
 今まで普通に話してたというか、他のやつに言えないような本音も聞いてもらってた。むしろ話しやすいやつだ、なんて思ってたんだ。
 いつも俺からユクティに話しかけてたっけか? それとも向こうが声をかけてきたのか? あんま意識してなくて覚えてねえ。
 もし嫌がってたんだとしたら、悪いことしちまったな……。

 落ち込むべきなのかどうかも分からず、またしても複雑な気分だ。あいつ、よく分かんねえやつだなぁ。
「ま、ワッカって面倒見いいし、ユクティも懐いてんのかもな」
「懐くって、野性動物じゃねえんだからよ」
「結構そんな感じじゃないか? こっちの様子窺いつつ、警戒中っていうか」
 言われてみりゃミヘン街道で最初に会った時はそんな感じだった気もする。
「俺と同じように、ユクティもワッカには感謝してんだよ、きっと」
「だからよ……照れるから真顔でそゆこと言うなっての」

 女が四人も集まってるせいか話し合いは長かった。
「お、戻ってきたッスよ」
 どういう相談だったのか、ユウナは覚悟を決めたって顔でアーロンさんを見上げる。
「リュックとユクティを私のガードにしたいんです」
 驚いてユクティの方を見たら、彼女は真剣な目をしてアーロンさんの返事を待っていた。
 ……そうなりゃいいと思ってたのに、なんか妙な感じだ。
 まあ、ユウナがそれを言い出すかもしれないってのは充分に想像できたことではある。

「顔を上げろ」
 リュックが戸惑いながら顔を上げると、アーロンさんはその目を見つめた。
「やはりな」
「だ、駄目?」
 何だ、顔で決めんのか? それとも目か? あれか、腹括った目をしてるかどうか、とかそんなことかもな。
「覚悟はいいのか」
「ったりまえです!」
「ユクティもだな?」
「はい」
 結局、ユクティとリュックもここから正式にガードとして旅に加わることになった。

 始めはユウナに俺とルーとキマリだけの予定だった。
 そこに成り行きでティーダがついて来て、その知り合いだったアーロンさんが加わって、更にユクティとリュック。
「う〜ん……さすがに大所帯すぎっか?」
 仲間は多いに越したことはない。とはいえ限度もあるだろう。
 ここまで増えると道中でチョコボや宿を利用するのがほとんど不可能になっちまう。
 財布を管理してる俺としてはいろいろ考えることも多かった。

 ふと視線を感じて振り向いたら、ユクティが捨てられた小動物みたいな顔して俺を見つめている。
 いやいやいや、反対してるわけじゃねえっての。
 一緒に行くのは賛成だ。ただ旅費をどうするか考えてるだけなんだ。

「なあワッカ、リュックはいい子だよ。俺も世話になったし」
 それは見りゃ分かる。ティーダの恩人だってのも大事なことだよな。
 なんであの二人がユウナのガードになるって話になったのかは分からんが、一緒にあいつを守ってくれるやつが増えるのはいいことだ。
「まあ、賑やかになっていいかもな」
「そうそう。じゃ、あたしは賑やか担当ってことで!」
 多少野宿が増えても、この明るさでフォローになるだろう。ユウナも嬉しそうだしな。

 だが、賑やかって言葉が悪かったのか大人しい性格のユクティが困惑している。
「わ、私は何を担当すれば……」
 べつに何も担当しなくたって、いるだけでいいんだって。
「気にすんな。ユクティが来てくれんのは助かるぜ。今までも世話になったしよ」
 でもなるべく料理当番をやってくれれば嬉しい。俺とルーは一応食えるものを作れるって程度の腕前だし、他のやつらは……あれだからな。
「えーっ? あたしと扱いが違う〜!」
「仕方ないッスよ。リュックはお笑い担当だし」
「賑やか担当だってばっ!」

 なんとか納得したらしいユクティがホッとしたような笑顔を見せる。
 これっきりになるもんだと思ってたから、まだ一緒に旅ができんのは単純に嬉しい。
「ワッカ、顔、ニヤついてるッス」
「う……マ、マジか?」
 慌てて顔を押さえたら、確かに緩んでるような気もする。
「うっそ〜!」
 が、ティーダは自分こそニヤニヤした笑みを貼りつけて森の方へと逃げていった。……あの野郎。ガキかってんだよ、ったく。

 俺とティーダのやり取りを眺めてユクティは笑っていた。
 最初におどおどした顔を見てたせいか、妙にあの笑顔が気になる。
 ジョゼで水筒片手にうんうん唸ってた俺を眺めてた時と、今。ユクティが楽しそうに笑ったのはその二回くらいだ。
 愛想が悪いわけじゃねえし、人間嫌いってわけでもなさそうなんだが、ユクティはどこかぎこちない。
 なんつーか、笑い慣れてない、そのやり方を忘れてるって感じなんだ。
 ああいうのには覚えがある。俺も……一年前は同じだった。笑い方が分からなくなって、笑ったらチャップに悪いような気がしていた。
 だから気になるのかもしれない。ユクティに、もうちょっと笑ってほしいと思うんだ。




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