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 ミヘン街道の中ほどで、囮を積んだ荷車を護衛するルッツたちを見つけた。
 駆け寄って声をかけると二人が同時に振り返る。
「メル! まだこんなとこにいたのか?」
「え〜、それはこっちの台詞なんですけど」
 そろそろ街道を抜けてる頃かと思ってたよ。
 荷車を引くチョコボは余裕綽々でゆったりと歩みを進めている。
 この感じだと、司令部に着いたら休憩する間もなく作戦開始になりそうだ。
 ちゃんと間に合うんだろうか。っていうか、べつの意味でもちょっと急ぎたい。

 キーリカ襲撃やルカでの魔物騒動なんかのことを話し合いながら街道を進む。
 旅行公司の手前でガッタが立ち止まり、振り返った。
「あれ、ワッカたちじゃないか」
 ほら見ろ、追いつかれた。
「おーい!」
 手を振らなくていいよ……。

 なんかもう後ろ姿を見られてるから手遅れのような気はするけど、一応ルッツの影に隠れてみる。
 ルッツとガッタはしばし立ち止まり、ユウナたちが追いついてくるのを待った。
「よお、試合見たぜ! 俺感動しちゃったよ」
「いい試合ができてよかったな、ワッカ」
「おう……」
 祝福の言葉に照れていたワッカだけれども、すぐにルッツの後ろで小さくなっていた私を見つけて引きずり出した。
「おい、メル」
「うええ」
「お前ね、『うええ』とは何だ、失礼なやつだな」
 ひとを動物みたいに首根っこ掴んで引っ張り出すのは失礼じゃないの?
「ったく、挨拶くらいさせろよな。ルカで探したんだぞ?」
「あー、ごめんごめん」
 挨拶だけで済むなら顔を合わせてもよかったんだけどさ。

 ワッカはともかく、ルールーは今にも「なぜビサイドに帰らないのか」と聞きたそうな顔をしている。
 いやだなあ、めんどくさいなあ、と思っていたら、一行の向こうから三騎のチョコボが走ってくるのが見えた。
 街道警備の人たちかな。

 まっすぐ私たちの方に突進してきたチョコボ組は、ルッツの前で停止した。
 勝ち気そうな若い女の子が見下ろしてくる。
「なにサボってるんですか?」
 悪気はないんだろうけど、上から目線で言われるとカチンと来るなあ。
「いや、俺たちはただ、召喚士様の御一行に挨拶を……」
「ガッタ」
 余計な口答えしなくていいよ、と肘でつつく。話が長くなるだけだ。

 一人は名前を知っている。チョコボ騎兵隊のルチル隊長だ。
「余裕があるのは結構なことだが、作戦は一刻を争う。分かるな?」
「はっ! 肝に命じます」
 ルッツが敬礼で応じて、私とガッタもそれに続く。
「よろしく頼む」
 従順な態度に満足したようで、三騎は走り去っていった。
「な? 素直に頭下げとく方がいいこともあるんだって」
「なるほど」
「処世術っすね」
 でもルチル隊長でよかった。
 もっと面倒な人だと、合流の遅さを咎められて長い文句を聞かされるところだった。

 改めて、ルッツがユウナたちに向き直る。
「ユウナちゃん。俺たちは寺院を破門された身だが、あんたの旅はいつでも応援してるよ」
「俺も、その気持ちは変わらないからな!」
「ありがとう、ルッツさん、ガッタ君。でも、できるならこのまま村に帰って……」
 そこから先を言わせまいと、ガッタはルッツの背中を押した。
「さあ先輩、急ぎましょう!」
「そうですね、先輩! またルチル隊長に怒られますよ!」
「分かった、分かったって」
 荷車が思いのほか先行してしまっている。離れてチョコボイーターに襲われでもしたらいけない。

 このまま有耶無耶にして別れてしまえ〜、とガッタたちに続こうとしたところで、ワッカが私の腕を掴んだ。
「ちょい待て。なんでお前まで行くんだよ」
「や、せっかくここまで来たから観光ついでに幻光河くらいまで行こうかな〜と思って」
「観光って、お前なあ」
 私の言葉にルッツとガッタが眉をひそめて振り返る。
「メル……」
「お前、まだワッカに言ってなかったのか?」
 ガッタお願い、空気読んでください。

 いいってもう、こんなところで口論したって意味がないのに。
 意味なんてないのに、ユウナが口を開いた。
「メル、討伐隊の作戦に参加するの?」
「はあっ!?」
 嗚呼。ルールーを警戒してたけどそっちから来たか。
「な、何考えてんだよ! ……それで今までついてきてたのか!?」
「いや、ついてきてたんじゃないんだけどね。行く方向が同じだっただけで」
 案の定、ワッカは憤慨している。
 やっぱりという顔をしつつルールーも怒ってるみたいだ。

「どうして私たちに言ってくれなかったの?」
「だって絶対反対するじゃん」
「当ったり前だろーが!」
 ほら反対したー。
「ユウナが召喚士やめて、ワッカとルールーもガードやめて、今からビサイドに帰るって言うなら私も一緒に帰るよ」
「んなこと、できるわけないだろ」
「だよね。じゃあ私を止める権利もない」
「俺たちの旅と、お前がやってることは違うだろ!」
「違わないよ」
 俯いていた顔をあげ、まっすぐにワッカと目を合わせる。
「メル」
「違わない」
 根負けしたワッカが目を逸らした。

「なんでお前が……おかしいだろ。今までそんなこと考えもしなかったくせに」
「考えなかったわけじゃないよ」
 ユウナが召喚士になることを嫌がっていた手前、ガードになろうとは思わなかったけれど。
 他の方法で彼女に旅をやめさせたかった。
「討伐隊に入ろうと思ったのは……」
 そう、チャップと同じ理由だ。

 ルールーがガードになった時。
 ワッカがガードになった時。
 ユウナが、召喚士になると言い出した時。
 誰かがシンを倒してくれたら召喚士はもう旅をしなくても良くなるのに、って。
 そして私がその誰かになってしまえばいいんだって、思った。

 始めはギンネム様の旅が失敗に終わったから、悪いけどちょっと安心してたんだ。
 ルールーも二度は旅しないだろうと思ってた。
 私はオーラカのサポートがしたいと考えてルカで働くことにした。
 その気持ちが変わったのは、チャップが討伐隊に入った理由を聞いたからだ。

 ナギ節の間も召喚士は旅をする。
 いつシンが復活しても、被害が出る前にすぐ倒せるように。
 その通り、ブラスカ様のナギ節が訪れてもルールーはギンネム様の旅について行ってしまった。
 そしてチャップが死んだあとにもワッカとルールーは召喚士ズーク様のガードになった。
 だから究極召喚を使わずにシンを倒す方法を探さなくちゃいけない。
 召喚士が、ユウナが犠牲にならなくてもいいように。
 そしてワッカやルールーが、その旅について行かないように。

 チャップの言葉に影響されて討伐隊に入ったなんて言ったら、また悲しませてしまうから言わない。
「死にに行くわけじゃないんだし。ちゃんと話するのは作戦が終わってからでいいよね」
「メル!」
 腕を振り払って一人で荷車を追いかける。
 ルッツとガッタが慌ててついてきた。
 ユウナたちは旅行公司で休んでいくだろう。だから、作戦の邪魔はされないはずだ。




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