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17


 リュックたちが召喚士の部屋に着いた時、すでにユウナはいなかったらしい。
 あの襲撃……グアドの狙いはユウナだったようだ。他の召喚士は無視して彼女だけが連れ去られたという。
 検索装置を使ってスピラ全土を探し回り、彼女の姿を見つけたのはベベルだった。
 マカラーニャで殺したはずのシーモア=グアドが、父親と同じく異界から迷い出てきて死人と化したのだ。
 そしてユウナと結婚式を挙げようとしているところだった。
 つまり、ホームを襲った首謀者はあの男だということか。

 飛空艇は一心不乱に北東のベベルを目指している。
 まだ心が落ち着いたわけではないけれど、闘志だけは燃えていた。
 数時間後、飛空艇内部に警告音が響き渡る。敵襲の合図だ。
 とはいってもこれは空飛ぶ船。いったい何者がどうやって襲ってきたのかと思っていたら……。

「うわ、でか!」
「何アレ〜!?」
 窓の外には巨大なドラゴンが飛空艇と並んで飛んでいる。ズーの十倍くらいはありそうだ。
「エボン守護龍エフレイエ。聖ベベル宮を守る最強の聖獣よ」
 半ば青褪めているルールーの説明に、平気な顔をしてアーロンが続ける。
「最大級の歓迎だ」
「んじゃ、ベベルは近いってことか!」
 嬉しそうなティーダの言葉に思わず笑ってしまう。何事も前向きに捉えるのはいいことだ。
 あれがベベルを守るため、私たちを阻むために放たれた魔物だというなら、倒すまで。

『リュック! 聞こえるか! これからあのデカブツと一戦交える。おめえらは甲板に出てあんにゃろうを迎え撃て! いいな!!』
「ま〜た勝手に決めちゃって」
 スピーカーから聞こえてきた族長の言葉にリュックがため息を吐いた。
「高い船賃だな」
「前哨戦には相応しいでしょう」
「おっ、ユクティやる気ッスね!」
 今の私ならベベルにいるすべての生物を血祭りにあげるのも厭わないと思う。
 しかし八つ当たりはいけない。倒すべき敵は限られている。
 きっと私が理不尽なことをしそうになったら、厳しい視線を私に向けているワッカが止めてくれるはずだ。

 甲板に出るためリフトに向かうと、リンが待ち構えていた。
「ハッチを開けろ。打って出る」
「敵は強大です。ご準備は抜かりなく」
 そう言って彼はいくつかの商品を指し示した。ワッカが瞠目している。
「金取るってか!? 俺たちがやられたらお前も死ぬんだぞ!」
「皆様の勝利を確信しておりますので」
「よく言うよなぁ」
「リンはこういうやつですから」

 いつでも店の利益についてしか考えていないリンのことはともかくとして、敵が強大だというのは事実だ。
「敵の能力や弱点は分かりますか」
 かつてベベルに訪れたことがある人ならばとルールーたちを見つめる。
「さあ……、そういうことは公表されないからね」
「ベベルの守護龍と戦おうなんて誰も考えるわけねえだろ」
「それもそうですね」
 あの龍は一応、エボンの民を守るために存在している。他ならぬエボンの民が自分たちの守護龍の倒し方を知っているはずもない。

 しかし助言がないわけでもなかった。元はエボンの僧兵だったアーロンがふと思い出したように窓の外を見る。
「やつの特技は、ベベルに近づく魔物を空から一掃する毒のブレスだ。倒し方は分からんが毒には注意しておけ」
「分かりました」
 白魔法を持つユウナがいないので毒はなかなか深刻だ。
 そしてまた、空中戦ならば互いに遠隔攻撃が中心になると思われる。
「では毒消しとフェニックスの尾、あと……石化手榴弾を大量にください」
 アルベド謹製の回復薬を大量に持ち込みたいところだけれど、それはできる限りホームから逃げ延びた仲間たちにまわしてやりたかった。

 遠慮なく大量の手榴弾を買い込む私を見てリュックが青褪める。
「ユクティ、お金大丈夫なの?」
「料金は族長に請求してください」
 討伐作戦の責任者だし、出撃を命じたのは彼なのだから費用を負担するのは当たり前だ。
 後から高すぎると文句を言っても知ったことじゃない。
「毎度ありがとうございます」
 日頃から族長と折り合いの悪いリンは無駄に嬉しそうな笑顔を見せて、商品を太っ腹に譲ってくれた。

 一方で落ち込んでいるのは父親に多額の請求がいく未来を想像してしまったリュックだ。
「あたしのお小遣いが減らされちゃうよ〜」
「大丈夫、欲しいものがあったら私が買ってあげます」
「ユクティ! 大好き……!!」
 なんてことをやっていたらワッカに怒られる。
「おい、さっさと行くぞ!」
 そうだ、遊んでる場合じゃないんだ。早くあのエフレイエとやらを撃ち落としてユウナを救い出さなければ。

 甲板に出ると、艦内の窓から見るよりエフレイエの巨大さが強く実感される。
「で、でっかいね……」
「狙いやすくてありがたいことです」
「ユクティって、意外と好戦的よね」
 呆れたようなルールーの声を背に、ライフルグレネードを取りつけて準備をする。
「リュックは調合に専念してください」
「りょーかいっ!」
 これだけ距離があると投擲では届かないから彼女は支援係だ。
 戦力として有用なのは私の小銃擲弾とワッカの戦闘用ボール、ルールーの黒魔法にキマリの竜剣くらいだろう。

 前衛であるアーロンとティーダがエフレイエの行動に注意を払い、無線機を使って族長に指示を出し、敵との距離を保つ。
 時おり飛来する光弾はアーロンの太刀が防いでくれた。毒のブレスはリュックが用意した回復薬で対処する。
 お陰で後衛も攻撃に専念できる。リュックが作り直したカラミティボムをひたすらエフレイエの体に撃ち込んでいく。
 やはり各自で役割を分担できるだけの人数が揃っているとありがたい。
 エフレイエは強敵だったのかもしれないけれど、数の暴力で難なく撃墜することができた。

『ベベルが見えたぞ!!』
 無線機から族長の声が聞こえると同時、雲を抜けて眼下にベベルの町が広がった。
 呑気に着陸して正面突破を試みている暇はない。飛空艇の横腹からワイヤーフックが撃ち込まれた。
『ワイヤーを伝って乗り込め! ぶちかましてこい!!』
 まさかこんなアクロバティックな手段で突入するとは思っていなかったのだろう、ワッカたちは呆気にとられている。
「おいおいおい、大丈夫かよ!?」
「この甲板と同じです。詳しい説明は省きますけどスフィアの効果で吸着力があるので落ちません」

 不安そうなワッカをよそに先陣を切ったのはリュックだ。颯爽とワイヤーを滑り、ユウナの待つベベルを目指す。
「ヒーロー登場、って感じだな!」
 負けじとティーダが飛び出し、アーロンが続く。いまひとつ気が乗らない顔をしていたルールーはキマリが抱えていった。
「……ワッカも抱っこしてあげましょうか?」
「いらねえよ!!」
 怒りながらも腹を括って足を踏み出した彼のあとを追い、私もワイヤーに飛び乗った。 

「ユウナ!」
 花嫁衣装を纏った彼女が驚愕に目を見開いて私たちを見つめる。
 しかしすぐに我を取り戻したユウナは、騒ぎに乗じて隠し持っていた錫杖を構え、異界送りを始めた。
「偽りの花嫁を演じてまで私を送りたいと? 強情な方だ……。それでこそ我が花嫁に相応しい」
 行く手を阻む僧兵どもを薙ぎながら私たちは彼女を目指して一心に駆けた。

 けれど……寸前で、厚い壁に阻まれる。
「やめよ! この者らの命が惜しくはないのか」
 四方からいくつもの銃口が向けられる。一部の射手は距離がありすぎるため、すべてを一掃するのは難しい。
 無理に押し通れば……こちらも誰かの命が危うくなるだろう。
「そちの選択が仲間の命運を決める。受け入れるか、見捨てるか、どちらを選ぶのだ?」

 シーモアを送ろうとしていたユウナは私たちを人質にとられる形で足を止めてしまった。
「それでいい」
 縫いつけられたように動けない私たちをよそに式が進行してゆく。
 酷薄な笑みを浮かべたシーモアがユウナの唇に口づけを落とした瞬間、憎悪が滾った。
 シーモアは怒りに震える私たちを冷たく見据え、僧兵に命じる。
「殺せ」

 救出任務に団体戦は向いていない。これでは守るべきものを無駄に増やしてしまっただけだ。
 逃げるだけか殺すだけなら簡単なのに、ユウナもワッカたちも死なせずにというのは不可能に思われた。
 小太りの男が僧兵に指示を出す。包囲の輪が狭まった。
「悪いな。エボンの秩序のためだ」
「教えに反する武器のようだが?」
「時と場合によるのだよ」
 こいつに人質の価値があるだろうか。せめてシーモアか、ヨー=マイカに近づけたなら、その命を楯に兵を退けられるのに。
 ……まったくもってエボンの語るアルベドらしい、卑劣なやり方で。

「やめて!」
 兵士どもが銃爪を引く寸前、ユウナの悲鳴が響いた。シーモアの腕を振り払った彼女は鐘楼の縁に立つ。
「武器を捨ててください。でないと、私……」
「やめなさい。落ちて助かる高さではない」
 ……そうか。その手もある。ユウナを人質にする、という手も。
 シーモアの望みはユウナの身柄だ。私たちを殺すよりも彼女を生かす方が優先される。
 小太りの男は苛立たしげに舌打ちをし、周りを取り囲んでいた兵士に銃を下げさせた。

「お願い、早く逃げて!」
「一緒にだろ!」
「大丈夫……、私も逃げるから」
 ユウナがじっとこちらを見つめる。その唇が音もなく動いた。「信じて」と……。
 ティーダが頷くのを見届け、彼女は鐘楼から身を投げた。

「リュック」
「うん」
 わざと音を立てて小銃を構えると、ユウナに注意を向けていた僧兵たちは慌てて私を振り返った。
「みんな……目、瞑って」
 リュックが小声で告げ、一瞬後に閃光弾が辺りを強烈に照らし出す。
 ほとんどの僧兵は目を押さえて踞り、何人かは銃を取り落として悶絶していた。
 この隙に囲いを突破してベベル内部を目指す。ユウナはきっと祈り子の間に向かったはずだ。

 長い階段を駆け降りてゆく仲間の背中を見送る。
 全員がベベル宮の中へと通じる扉をくぐったところで、私がついて来ていないことに気づいたワッカがこちらを振り向いた。
「ユクティ!? お前なにやっ、」
 彼の言葉を聞き終える間もなく、余らせていたグレネードを扉の上部にぶっ放す。
 建物の一部が崩れ、残骸が入り口を塞いだ。……もう、見納めかな。でも仕方ない。
 中にどれほどの兵がいるかは分からないけれど、少なくともこの場からすぐに追っ手が行くことはないだろう。

 踵を返して、今度は未だ壇上にある男へと銃口を向ける。
「シーモア!」
 今ひとたび死ぬがいい。
 異界送りに抗うのなら次は甦れないほど苛烈に、魂まで消し飛ばしてやる。
 何度でも、永遠に消え去るまで、何度だって殺してやる。
 やつの周りを固めていた僧兵が一斉に銃を向けてくる。しかし私の方が早い。
 驚愕に目を見開いたヨー=マイカを巻き込み、シーモアの体が爆炎に吹き飛ばされた。
 それを見届けた瞬間、燃え上がるような鋭い痛みが全身を貫き、私も意識を失った。




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