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07


 その後は何事もなく対岸に辿り着き、ユウナは濡れた服を着替えている。
 そもそも水中活動用の服を着ていたので濡れたところで何ともない私は、今のうちにリュックを探すことにした。
 幻光河沿いに歩いていると、森に続く小道のそばに誰かが倒れている。
 見ればダイビングスーツを纏った少女だったので慌てて駆け寄った。

 抱き起こそうとしたところで後ろから声をかけられる。
「し、死んでんのか?」
「え!?」
 振り向けば知らないうちにティーダがついて来ていた。
 どうしよう、彼がいたら助けられないとおろおろしてるうちにリュックが起き上がってしまう。
「はーっ、死ぬかと思った!」
 スーツを脱ぎ捨て、顔と……瞳が露になったところでティーダが仰天した。

「あの、ティーダ、彼女は……」
「あ!? リュック? リュックだよな! 無事だったのか〜、元気だった?」
 ……あれ?

「全っ然、元気じゃないよ!」
「顔色悪いな、なんかあったのか?」
「キミたちにやられたの!」
「あ、さっきの機械……あっ、ユクティ、えっと……」
 私も驚いて固まってしまった。アルベドに偏見がないとは思っていたけれどティーダはリュックのことを知っていたらしい。
 そのうえ、彼女がアルベド族であるという事実が“私にバレたらどうしよう”と焦っている。

 なんともおかしな状況だ。でも、これならティーダに隠す必要はない。
 リュックは遠慮なくアルベド語で私を責め立てる。
『ユクティも、ひどいよ! あたしが乗ってるって、知ってたくせにさ〜!』
『ごめん。でも仕方ないでしょ、ユウナを連れて行かせるわけにはいかなかったから』
『えぇ? だって……』
 私を見つめて呆気にとられていたティーダが割って入る。
「ユクティって、もしかしてアルベド族だったのか?」
「はい。黙っててすみません」

 私の方こそ、二人が知り合いだったなんて知らなくて焦ってしまった。
「前に言ったよね? バージ島で見つけた子。んで、アレをサルベージする時に手伝ってもらったんだよ」
「ああ……それがティーダだったんですね」
 シンの毒気にやられて頭がぐるぐるしていたという少年。ティーダのことだったんだ。
 なんていうか、世間って広いようで実は狭いんだ。いろんなところで誰かに繋がってる……。
 それに、ティーダの言動にも納得した。リュックが出会った当初、彼はザナルカンドから来たと言っていたそうだ。
 スピラの常識が抜け落ちているところからしても、彼を蝕む毒気はかなり深刻なんだろう。

 今後について打ち合わせをする暇もなく、着替えを済ませたユウナたちが追いついてきてしまった。
 リュックを見て、ワッカが首を傾げる。
「知り合いか?」
「えっと、まあ、そんな感じ」
「どーも! リュックでーす!」
 知り合いのアルベドだとも言えずティーダは頭を掻く。
「ほら、ユウナとルールーにはルカで話したよな。ビサイドに着く前に、俺が世話になった……」

 なんとなく事情を察したユウナとルールーも目を合わせて気まずそうにする。
 ワッカだけがよく分かっていないまま、ティーダとリュックの再会を喜んでくれた。
「そりゃお前、恩人だろ。会えてよかったよなぁ。まったく、エボンの賜物だ」
「そうそう。んでもって、ユクティの友達なんだってさ! だよな?」
「はい」
 これでリュックと一蓮托生になってしまった。アルベドだって……うっかりバレないようにしないと彼女まで非難を浴びる。

「じゃあ、ここで待ち合わせしてた相手か」
「……はい」
「そりゃまたすげえ偶然だな」
 本当に。リュックとティーダが顔見知りだと分かってたら、他にいろいろやりようがあったと思うのだけれど。

「で、リュック? 倒れてたみたいだけど、怪我はないのか?」
「ワッカ、ちょっと待って」
「ん? 何だよ」
 このまま無計画に会話を続けるのは危険と判断したのだろう、ルールーが制止する。
 そしてユウナも控え目に意見を差し挟んだ。
「あのね、ちょっと、話したいんだけど……」
「おお、話せよ」
「女子だけで話し合いで〜す! 男子は待っててください!」
「そうね、そうしましょう」
「ん? ああ?」
 私もリュックに腕を掴まれて引きずられ、男性陣からは離れたところで作戦会議を開く。

 あからさまに不審そうなワッカは、ティーダが誤魔化してくれているようだ。
 とにかくこちらはこちらで情報の共有をする。
 まず口を開いたのはユウナだ。リュックを見つめ、アルベド族であることを確認する。
「さっき襲ってきたのは、やっぱり君が……?」
「ごめん! でも、ユウナを傷つけるつもりはなかったんだよ〜!」
「……ユウナ、リュックは族長の娘です。あなたの従姉妹」
 それだけで彼女は、リュックがルカでの私と同じ目的を持っていることに気づいた。

 襲撃はあくまでもユウナの身柄を確保するためのことであり、敵意はない。
 むしろ彼女の命を守りたいゆえの行いだ。
 ユウナは改めて私とリュックのやったことを嗜めつつ、怒りはしなかった。

「ユクティもアルベド族だったのね」
 ルールーもユウナの母親のことは以前から知っていたようだ。
「黙ってて、すみません」
「無理もないわよ。……嫌な想いをしたでしょう? ごめんね」
「い、いえ!」
 たぶんワッカのアルベド嫌いについて言っているのだろう。でもそれは気にしていない。
 私はむしろ、彼に嫌な想いをさせることの方が……怖いんだ。

 気を取り直してリュックが私に向き直る。
「ていうかユクティはここで何やってんのさ。ルカでのこと聞いてあたし、めちゃめちゃ心配したんだよ!」
「すみません。族長、怒ってますか」
「そりゃ怒ってるよ〜。でもおばさんの方が、かなーり怒ってる」
「うぅ……帰りたくないです」
 ミヘン街道でユウナを追いかけた時点では、ここでリュックと合流して帰るつもりだった。
 今はもう考えが変わっている。母さんのことがなくてもまだホームには帰れない。

 たぶんリュックは今でもユウナを連れていく気でいるだろう。
『リュックは……、ユウナのために命を捨てられる?』
『え、えぇっ?』
『この人たち、ガードはみんな、ユウナを守るためなら死ぬ覚悟を決めている。だから彼女を止めないんだ』
 自分の気持ちを押しつけるのではなく、ユウナが命を懸けて選んだ道を尊重しているから。
『私もうユウナを攫うのは無理。強引に誘拐したってユウナは幸せになれない。族長のやり方は、間違ってる』

 完全に族長と対立する私の言葉に、リュックは眦を吊り上げた。
『じゃあユウナが死んでもいいっていうの!?』
『リュックは、ユウナの気持ちを踏みにじって平気?』
『そ、それは……あたしだって……嫌だけど、でも!』
 死んでもいいなんて、そんなわけない。誰だって本当はそんなこと考えていないんだ。
 無邪気にユウナのナギ節を望むエボンの民でさえ、叶うならばユウナと共に平穏な未来を迎えたいと思っているはずなんだ。
 彼女を死なせたくないという気持ちと彼女の意思を尊重したいという気持ちは、両立できないものではない。

 アルベド語での会話に戸惑っていたユウナとルールーを振り返る。
「もし許されるなら、私とリュックはユウナのガードになってもいいですか」
「ユクティ! 何言ってんの!?」
『一緒に行こう。ちゃんとユウナと話して、ユウナのこと知らなきゃ、勝手に守る権利なんてないんだ。それで、みんなと協力して他の方法を探そう』
 リュックはじっと足元の地面を睨みつけていた。
 私たちがユウナを狙う理由は、かつて家族としてホームに迎えるはずだった彼女への想い。
 ……そばにいたい、共に生きたいという気持ちなんだ。
 顔をあげたリュックはユウナに向き直ると、勢いよく頭をさげた。
「いきなり襲っちゃってごめんなさい! もうしないので、あたしも連れてってほしいです」

 突然のことに戸惑いつつ、ユウナは意見を求めるように傍らのルールーを見つめた。
「反対なんてしないわ。好きなようにやってみなさい」
 愛情と信頼に満ちた言葉に頷き、ユウナは私とリュックの瞳をまっすぐに見据える。
「私は、シンを倒します。それが私の夢……父さんにもらった大切な夢だから。……どんなことがあっても、手伝ってくれる?」
「うん。絶対、死なせない。でもって、ユウナの旅も手伝う!」
「手伝います。シンを倒してあなたを死なせない方法、探しながら」

 話は決まった。待ちかねていた男性陣のもとに戻り、ユウナは一行の保護者的立場にあるアーロンを見上げる。
「リュックとユクティを私のガードにしたいんです」
 無下に断られはしなかった。でも、すぐに受け入れられもしない。
「顔を上げろ」
 アーロンはリュックの瞳を覗き込んで厳めしく頷いた。
「やはりな」
「だ、駄目?」
 ジョゼ寺院では私の素性がバレないように気遣ってくれた。アルベドだから連れて行けない、とは言わないだろう。

 大召喚士ブラスカのガードもこなした彼だから、私やリュックがユウナを攫おうとしたことだけを問題としているのだと思う。
「覚悟はいいのか」
「ったりまえです!」
「ユクティもだな?」
「はい」
 旅の邪魔をせずユウナを支えるつもりがあるのなら。
 ユウナが望むならとアーロンは頷いてくれた。

 一方で、やや渋い顔をしているのはワッカだ。
「う〜ん……さすがに大所帯すぎっか?」
 それはあるかもしれない。召喚士のガードは一人か二人が基本だという。
 私たちが加わればユウナには七人のガードがつくことになる。
 多ければ多いほどいいのだろうけれど、旅費の面では少し心配だ。

 私もリュックも金銭的なサポートはできないし、戦力面でもすごく力になれるとは言えない。
 どうしようかと迷っていたところをフォローしてくれたのはティーダだった。
「でもさ、リュックはいい子だよ。俺も世話になったし」
 彼がそう言うとワッカもすんなり頷いてくれた。
「まあ、賑やかになっていいかもな」
「そうそう。じゃ、あたしは賑やか担当ってことで!」
 え……。

 リュックの人柄は確かに場を明るくする。ユウナが笑って旅をするための力になるだろう。
「わ、私は何を担当すれば……」
 この一行に私が加わるメリットってなんだろう? と悩んでいたら、とうのワッカが「気にするな」と言う。
「ユクティが来てくれんのは助かるぜ。今までも世話になったしよ」
「えーっ? あたしと扱いが違う〜!」
「仕方ないッスよ。リュックはお笑い担当だし」
「賑やか担当だってばっ!」

 ……そうだ。食事関係なら役立てるかな。
 この先は森が広がっているからいろいろなものが採集できる。私が材料を用意してリュックに調合してもらうことで、薬品も節約できる。
 まったくの役立たずにはならなくて済みそうで、ホッと胸を撫で下ろした。




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