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🔖CONFIDENCE



 アリスターはすぐにジョリーとダベスを連れてダンカンのところに戻って来た。
 見る限り、ジョリーは騎士らしく紳士的だけどダベスは不満たらたらでだらしない感じ。
「それで結局、入団の儀式を受けるのは俺たち二人だけかよ?」
「ああ」
 そこを不満に思うのは仕方ないね。ダベスたちはもう一人新兵が来るという前提で長いこと待たされてたわけだし。

 素知らぬ顔を決め込んでるダンカンの代わりにアリスターとジョリーがフォローに入る。
「有能で従順な人間ってのはそうそう見つかるものじゃないさ」
「にもかかわらず俺たちが選ばれたことを誇りに思おう」
「へいへい、さすがはいい子ちゃんの騎士様。……そっちの姉ちゃんは新兵じゃねえのか?」
 ダベスに指差されて思わず振り返ったけれど私の後ろには誰もいない。姉ちゃんって私か。
 私は新兵候補じゃない。でもそうなると、どういう理由をつけて彼らのそばにいたらいいんだろう?

 思わずダンカンを見上げたら彼は平然と答えた。
「彼女は新兵候補ではなく、アリスターの補佐役だ」
「へっ?」
「え?」
 なにそれ聞いてないよって唖然とする私を見てアリスターも困惑している。
「……本人も驚いてるみたいだけど?」
 うん、初耳です。ケイランには雑用係って言ったのに。

 しかもダンカンじゃなくてアリスターの補佐ってところが引っかかる。
 いやもちろんアリスターの補佐が嫌なわけじゃないけど、ダンカンが自分の死を決めてかかってるみたいなんだもの。

 私たちの視線を集めつつダンカンは無表情で続けた。
「洗礼の儀は受けないが、いずれ外部との連絡役に就ける予定でいる。そのつもりで育ててくれ」
「あ、分かったそういうことね」
「うーん。俺はよく分からないけど分かったよ」
 後の家宰バレルみたいなパイプ役候補生。それなら新兵じゃなくたって私も内輪の話に加われる。
 咄嗟に嘘つける辺り根っから善良ってわけじゃないよね、この人。さすがグレイ・ウォーデンのまとめ役っていうかなんていうか。

 とりあえず表向き私の素性が決まったので、アリスターが改めてジョリーとダベスを紹介してくれた。
「彼はレッドクリフの騎士ジョリー、それからこっちはデネリムの……えー……男、ダベスだ」
「詳しくて分かりやすい紹介どーも」
「よろしく頼む」
「人間で女で補佐役候補のユリです、よろしく」
 妙に和気藹々とした雰囲気なのが何とも言えない。だって周りは嫌な緊張感に満ちてるのに、無理して笑ってるみたいだ。

「儀式を始める前にやってもらうことがある。このアリスターと共にコーカリ荒野へ行き、東の遺跡に隠された古の協定書を回収してくれ」
 ダンカンの言葉を聞いてダベスはあからさまに不貞腐れた顔をする。すぐ儀式が始まると思ってたらしいジョリーも不満そうだった。
「まだ試験をやるっていうのか? しかし……」
「腕試しだよ。ダークスポーンと戦う予行演習にもなる」
「洗礼の儀について疑問があれば道中アリスターに聞くように。……ユリ、お前も同行するんだ」
「はいはーい」
 それより私はダンカンが「協定書を取って来い」としか言わなかったのが気になるなあ。

 小瓶はアリスターが持ってるんだろうか。でも改まって「ダークスポーンの血を集めて来い」とは言わなかった。
 もし私がジョリーとダベスをうまく逃がすことができたら、ダンカンは怒るんだろうか?
 ともあれ、まずは揃ってコーカリ荒野に向かうことにする。
 アリスターによると、順調に事が済めば戦闘が開始される明日の夜にはキャンプに帰って来られるらしい。

 キャンプを囲む頑丈な柵の隙間に荒野への入り口がある。そしてその横にはこじんまりとした犬舎があった。
「あああっ!」
「えっ、何だ?」
 突然の大声に慌てるアリスターの隣で私も大いに慌ててしまった。
 犬のこと忘れてたよ。

 急いで犬舎に駆け込むと、素人目に見ても弱り果てたマバリが寝そべっている。
「ダークスポーンにやられたのか?」
「こいつはもう長くないな」
 ダベスの心ない言葉を聞き流しつつ、犬舎担当の兵士さんが私たちを見て悲しそうに眉を寄せる。
「うちの軍用犬じゃないが、戦場に紛れ込んで穢れを受けたらしいんだ。誰も寄せつけないんで手の施しようがない」
「私がやってみます? 男の人ほど警戒されないと思う」
「よければ試してくれ。ただし、気をつけて」

 まさか子供の頃に犬を飼ってた経験がこんな形で役立つとは……。
 怯えさせないようにマバリと目を合わせないで檻の中に入る。
 正面には立っちゃダメだ。隣に座り込んで足を放り出すと、一頻り匂いを嗅いでから私の顔を見上げてきた。
「撫でてもいい?」
 返事は分からないものの警戒してる気配もないので手の甲でゆっくりと体を撫でてやる。

 犬が落ち着いてきたのを見てアリスターが感心か呆れか微妙な意味合いの息を吐く。
「ユリ、フェレルデン人じゃないよな?」
「違うよ」
「ふーん……。顔立ちはともかく、そうやってるとまさにフェレルデンの犬使いって感じだぜ」
 ねえアリスター、それ確か外国人がフェレルデン人に使う皮肉の言葉だった気がするんだけど。
 私相手だからまだいいとしても失言癖は早めに治してほしいところだよ。

「あ、この子、首輪に消えかけの模様がある。月桂樹の葉っぱ」
「クーズランド家の紋章か? どうして公爵家の犬がここに……」
 それはたぶん一家が惨殺されて犬だけ辛うじて逃げて来たからだろう。
 ダンカンはクーズランドの末っ子を徴兵できなかったし、この犬だけがオスタガーに来たってことは彼らの運命も察せられる。
「ファーガス・クーズランドを探してたの?」
 鼻っ面を撫でるとマバリは情けない声できゅんきゅんと鳴いた。

 違う主人公を選んだ時には登場しないけれど、王宮に訪ねて来ないだけでファーガス兄さんはきっと無事だ。きっと……。
「大丈夫、ファーガスは帰って来るよ。だからちゃんと元気にならなきゃね」
 不安を和らげてマバリが目を閉じる。
 自分が預かってる軍用犬じゃないにせよ目の前で弱ってると堪えたんだろう、兵士さんも安堵の息を吐いていた。
「落ち着かせてくれて助かったよ。あとは薬を与えさえすればなんとかなるだろうが……」
「真ん中が黄色くて花弁が白い菊?」
「そうだ。よく知ってるな」

 眠りに落ちそうになっているマバリを驚かせないようにそっと立ち上がる。
「アリスター隊長、お願いがあるんだけどな〜」
「え? ああ、べつに、ついでに花を探すくらいはいいんじゃないか?」
「やったー、太っ腹!」
 これで荒野を脱してから犬が仲間になるはず。ロザリングに行くまでの道中も安心だ。
 アリスターはタンク役だしモリガンはスペルアタッカー、物理攻撃面でちょっとだけ不安があったんだよね。

 それじゃあ改めて荒野に出ようかと歩き始めた私の背後でダベスとジョリーがひそひそ話しているのが聞こえた。
「フェレルデン人じゃなくても重度の犬好きには違いねえな」
「マバリを嫌う人なんて滅多にいないだろう」
「あんたもかよ騎士様。なんだってフェレルデン人はこう犬が好きかねえ」
 それはフェレルデンが大体イギリスをモデルに設定されたからでは? ってのはここだけの話。

 それに私は特別に犬が好きなわけじゃない。猫だって鳥だってネズミだって好きだ。
 それにたぶん、ドラゴンも好きになりそうっていうのが目下の悩みなんだよね。
 退治するよりも仲良くなって育成したいなあ、ドラゴン。


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