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🔖迷子の忠誠



 光の粒子となってエッジの両親は消えた。その場に立ち尽くす俺たちのもとにルビカンテが現れる。
「ルゲイエめ、勝手な真似を!」
『ああ、やっぱり彼らをモンスターにしたのはルゲイエの独断だったみたいだな』
 リツの残念そうな呟きが「ルゲイエを殺す前に俺も魔物の肉体をもらえばよかった」と聞こえて戦慄する。
 出会った頃に比べれば彼の思考も読みやすくなっているから、その推測が俺の勘違いだとも思えず複雑な気分だ。
 地底に戻ってルゲイエの死を確認してきたらしいルビカンテは部下の身勝手な行いに憤っている。しかしそれ以上に憤怒を滾らせているのは、今しがた惨い形で両親を亡くしたエッジだ。
「ルビカンテ! てめえだけは許さねえ! 許さねえぞ!!」
「非礼は詫びよう。だが……私は正々堂々と戦いたいのだ。まずは冷静になれ」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえ!!」
 浮わついた言動を繰り返す輩だが、本気の怒りは燃え盛る業火のようだ。無秩序に斬りかかるエッジをあしらいながらルビカンテが目を細めた。
「お前のように勇気ある者は好きだ。しかし感情に振り回されていては、完全な強さなど手に入らん。永遠にな」
「その人間の怒りってモンを、見せてやるぜ!」
『ん? 若様の気配が変わったな。火属性だけじゃなかったか』
「ほう……怒りは人間を強くするか。だが私の炎のマントは、冷気すら受けつけぬぞ!」
 魔力のない俺には分からんが、エッジが秘めた能力を開花させたようだ。それでも一人で戦わせるわけにはいかん。

 俺とセシルが武器を構えて戦列に加わると、なぜかルビカンテが回復魔法をかけてくれた。
「さあ、全力でかかって来るがいい!」
『なんだあいつ、こっちを舐め腐ってるな』
「しかし冷気が効かんとなると打つ手がないぞ」
 槍や剣では炎に阻まれて近づくこともできない。マントを消し去ろうにも火勢が強すぎて氷魔法ですら掻き消してしまう。
 エッジの忍術とリディアの魔法で与えるダメージは微々たるものだ。ローザの矢ならば届くかもしれんが、彼女は俺たちの傷を癒すのに手一杯だった。
『炎には炎だ。いくら魔力が高くても燃焼するものがなければ火は燃えない。あいつの周りを炎で埋め尽くして酸素を奪え。……とりあえず、エーテルを片っ端からルビカンテに投げつけるんだ』
 言われるままにルゲイエの研究物資と思われるエーテルを拾ってはルビカンテに向かって投げつける。セシルやエッジだけでなく、ルビカンテまで呆気にとられて俺を見るので居た堪れない。
 本当にこれが効くのだろうな。敵に燃料を与えているようで釈然としないんだが。
『熱を加えれば奴の周囲が一気に燃え盛る。窒息消火ってやつさ。サンダーを打て!』
「リディア、雷魔法だ」
「わ、分かった!」
 戸惑いつつもリディアが呪文を唱え、熱を受けてエーテルが燃え上がる。ルビカンテの周囲を炎が覆うと同時、奴を守っていたすべての火が消えた。

「これは……!」
 すかさず新たな炎を呼び出して身を守ろうとするのを俺とセシルで阻み、体勢を立て直す前にエッジが素早く懐に飛び込んだ。
「終わりだッ、ルビカンテ!!」
 さすがに忍者だけあって目にも止まらぬ速さだ。スピードで上回るエッジの刀は、ルビカンテが炎を纏うよりも先にその身を抉った。深傷を負って崩れ落ちつつ、復活した炎がエッジを遠ざける。
「くそっ、まだやるのか!?」
「……いや、見事な連携だった。ゴルベーザ様も手を焼かれるわけだ」
 不敵な笑みを浮かべてルビカンテが立ち上がる。エッジの刀は確かに心臓を貫いたはずだが……、現にルビカンテは胸部から激しく血を流している。
『あれはたぶん、意地張ってるだけだよ』
「ここは負けを認めよう。だが、いつの日か必ず蘇る」
 死にかけているとは思えない余裕だ。意地で済むのか、これは?
「さらばだ、戦士たちよ!」
 緊張の解けない俺たちを尻目にルビカンテは苦しそうな表情の一つも見せないまま消滅した。敗北者になりたくないがため強がっていたのだとしたら、相当な意地っ張りだな。
『なんか、あそこまで自信満々で消えられると勝った気がしない』
 同感だ。こっちとしてはできれば二度と戦いたくないが、あいつもやはり蘇るのか。

 しばし両親の仇討ちを果たした虚脱感に襲われていたエッジが気を取り直して振り返る。
「あいつが言ってたゴルベーザってのは何者だ?」
「ああ……、クリスタルを集め、月の遺産を狙う者だ」
「月には世界を破滅させる力が眠っているらしい。ゴルベーザはそれを手に入れようとしている」
「私たちで、ゴルベーザを止めるの!」
 ゴルベーザの目的が世界の破滅だとしても本当にリツはあいつの元へ行きたいのか? もしかすると、あの尋常ならざる魔力でベイガンを蘇らせてもらいたい、なんて思っているんじゃないのか。
 尋ねてみたいのだが、なかなか一人になる隙がなくリツと話をできずにいる。
「ゴルベーザが、すべての元凶か。だったら俺もそいつをぶちのめしてやらねえとな!」
 どうやらエッジはこの先も俺たちについてくるつもりらしい。エブラーナの民は若様を止めろと頼んできたんだが。国はいいのかとセシルが尋ねても「世界全部が危ねえってのにじっとしてられるか!」と言い切り、一人で帰ろうとはしない。
 あとはゴルベーザとの直接対決だ。ヤンに続いてシドまで失った今、戦力が増えるなら歓迎したいところではある。

 更に塔を登ってゆくと、他とは空気の違う荘厳な気配に満ちた部屋を見つけた。
「クリスタルルームだ!」
『……』
 リツが何か言いたそうにしている気配を感じたが、尋ねるよりも早くクリスタルの台座に突進したエッジの足元から不審な音が響く。
「ん?」
「今なにか……」
「スイッチみたいな音が……?」
 嫌な予感が走るのと同時、俺たちの足元の床が抜けた。
「んなあっ!?」
「落とし穴か!」
 ローザがリディアとセシルと自分にレビテトを唱え、俺は自力で着地したが、エッジは受け身をとれずに尻から落ちたようで悶絶している。
「いってえ!」
『今のでローザの優先順位が見えた』
「……うるさい」
「んな言い方しなくてもいいだろ! わざと罠に嵌まったんじゃねえよ!」
 うるさいというのは若様じゃなくリツに言ったんだが……、まあいい。エッジもうるさいのは確かだ。
「地底の方まで落ちたみたいだな」
 よりによってクリスタルの真正面に落とし穴を仕掛けてあるとは。……リツは絶対、気づいていながら黙っていたに違いない。

 また地上部まで塔を登っていくのは辛い。ローザたちも平静を装いつつ嫌そうな雰囲気を醸し出している。とはいえエンタープライズはエブラーナに置いてあるので、ここを脱出したところで地上には帰れないのだ。
「セシル、どうする?」
「造船所の匂いがするんだ。近くに敵の飛空艇があるかもしれない」
『あー、元同僚にもいたんだよなぁ、ベルトを新調しただけで新しい革の匂いを嗅ぎ分けてくる匂いマニア』
 いや、セシルはべつに匂いマニアではなく、単に飛空艇が好きで鉄と木と塗装の匂いに敏感なだけだ。あとは職業病だな。だからあまり引かないでやってほしい。
 ともかく他に手もないのでセシルの嗅覚を頼りに移動する。飛空艇とは言わずともテレポーターなりエレベーターなり地上への移動手段が見つかればいいんだが。

 ……と思ったら、本当に飛空艇が見つかった。ゴルベーザは赤い翼を改良するに飽き足らず新型の船まで造り上げていたらしい。疑心と羨望と興奮をない交ぜにした表情で観察しているセシルをよそに、エッジが早速乗り込んだ。
「この船の動かし方、知ってんのか」
「赤い翼のセシルだもの、当然でしょう?」
 なぜか自慢気なローザを気に留めるでもなく、エッジは操縦桿を握ってニヤリと笑う。
「じゃ、ちょうどいいや。こいつで脱出しようぜ!」
「敵の飛空艇に乗るの?」
「俺たちが使った方が、こいつだって嬉しいだろうよ!」
『俺が道具だったら正しい持ち主に使われるのが一番嬉しいけど』
 リツの正しい持ち主とは誰なんだろう。……ドラゴンならともかく俺は飛空艇の気持ちは分からんが、それよりもバブイルに隠されていた船だというのが不安だ。ローザも俺の懸念に同調している。
「罠じゃないかしら」
 先程はクリスタルルームに落とし穴を仕掛けていたんだ。落ちてきた先にある飛空艇が罠でないとは考えにくい。
「心配ねえよ。俺は気に入ったぜ。そうだな、名前はファルコン号でどうだ?」
「もう、呑気ね!」
 しかしまあ、歩いて塔を登るよりはこちらに賭けてみたい気持ちも強い。リツは一応、飛空艇に罠がないか探ってくれている。ゴルベーザへの忠誠が如何程であれ俺の中にいる限りは俺を助けようとしてくれるはずだ。
 おそらく俺はリツと敵対したくないのだろう。彼をもう一人の自分のように感じている。だから彼が主と定めたゴルベーザを倒すのに躊躇してしまう。そしてもし彼がまた向こうへ行こうとするなら、俺は……。
「問題なく動かせそうだ。脱出してみよう」
「そう来なくっちゃな! よし、ファルコン号、発進!」
 ……とにかく、考えるのは後回しだな。ドワーフ城に戻り、クリスタルを守る方法を考えなくては。


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