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🔖M9



 ブラックジャックは魔大陸の周りを飛びながらインペリアル・エアフォースの相手をしている。なかなか接近戦には持ち込めないから、魔石があって本当に助かった。
 とはいえ相手は帝国軍、魔法対策をしてある機体も紛れ込んでいて侮れない。そういうやつらには兄貴の機械で応戦した。
 魔大陸に乗り込んでいったティナたちは無事だろうか。空軍がこっちに集中してる分、向こうは手薄だったらいいんだが。
 俺は俺で、さっきからユリとガウが船縁に立って敵の相手をしてるのを見てるとうっかり落ちやしないかって気が気じゃなかった。

「剣で相手してたらキリがないなぁ……」
 そう言うなりユリは剣を口にくわえてブラックジャックの船縁から飛び出した。
「ユリ!」
 そのまま落っこちるかと思いきや、近くにいた敵の飛行兵器にしがみついてよじ登る。
 パイロットを空中へ放り出すと機体を乗っ取って、ミサイルで周りの敵機を撃墜し始めた。
「いいなー、ユリ! リルムもやろっと!」
「がう! おれもいくぞー!」
 リルムとガウが後に続き、カイエンが青褪めた顔で「拙者は遠慮するでござる」と身震いしている。
「まったく、無茶苦茶だぜ」
 ユリは飛び道具を持ってないし、魔力もそう高くないから焦れったくなったのかもしれない。
 それにしても……見てる方の身にもなってくれよ。冷や汗かいちまった。

 リルムはスケッチで敵機を描いてそれに乗り込むことにしたようだ。そしてガウは、操縦方法が分からないんで操縦桿をぶっ壊しては次々に乗り換えている。
 まあ、見た目の危なっかしさはともかく殲滅速度が上がってありがたくはあるか。
 ストラゴスが魔大陸突入組でよかった。ここにいて敵のド真ん中に突っ込んでいくリルムの姿なんか見たら気絶していたかもしれない。

 ユリたちがブラックジャックの前を掃討してくれるので俺は後方に移って、追撃してくるやつらに真空波で対処する。
 そこへセリスが回復にやって来た。
「マッシュ、ユリとは……仲直りできたの?」
 っと、それは戦いながらする話なのか? セリスの顔つきを見る限り、かなり思いきって話を切り出したみたいだ。俺がユリから離れるタイミングを見計らってたのか。
「保留中ってところかな」
 あいつはバルガスの仇を討つために俺との決闘を望んでる。
 もし“仲直り”できるのが俺とユリどちらかが死ぬ時だとしたら、気まずいままでいる方がずっとマシだった。

 初めてブラックジャックに乗り込んで魔導研究所を目指していた時のことだけれど、と前置きしてセリスは続けた。
「ごめんなさい。ユリとは幼馴染みとしか聞いていなかったから、てっきりただの喧嘩だと思ってたの。そんなに深刻な事情があるなんて知らなくて……」
 ああ、例の香水をくれた時のことか。律儀なやつだな。
「謝ることないって。セリスに悪気がなかったのは分かってるよ」
 実際、ただの喧嘩だったらあれで仲直りできたのかもしれないしな。

 敵の魔法攻撃を剣で防ぎながら、セリスは俺に向かって微笑みかけた。
「ユリ、あの香水を使ってるみたいよ」
「へ?」
「時々ローズマリーの香りがするの」
 そいつは気づかなかった。なんせ香りが分かるほど近づいてないし……。
 ユリのやつ、どういう心境の変化だろう? このところモンスターと戦う機会がなかったからつけてみたのかな?

 凄まじい音がして振り向くと、ユリと兄貴が連続攻撃で敵機を爆破したところだった。
 ゴミみたいに落ちていく機体を見ながら、あの一つ一つに人間が乗っていることを強いて考えないようにする。
 突入組がガストラとケフカにとどめをさせば本当に戦争は終わる。人間同士で殺し合うことも、幻獣を犠牲にすることもなくなるだろう。
 ……そしてその時は、俺とユリの決着の時だ。

 俺の横で撃墜された敵機を見下ろしていたセリスが呟く。
「帝国に嫌気がさしてリターナーに身を寄せて、これでようやく“守るための力”を振るえると思ってた。でも違うわね。どんな言い訳をしても力は力。望みを叶える裏で必ず誰かが犠牲になっている」
「確かに力は争いを呼ぶものだ。だが、争いを治めるのもやっぱり力だろう」
 要は使い手次第じゃないかと言えばセリスは「マッシュらしい言葉ね」と笑った。……うーん、褒められてるのかな。

「私、ティナたちを追うわ」
「一人で大丈夫かよ」
「帝国が育てた、この剣で……終止符を打ってくる」
 前方から少しずつ後退してきていたユリに手を振って、交代してくれとセリスが叫ぶ。ユリが飛行兵器から俺の真横に飛び降りた。
「行ってきます。ここは任せるわね」
「おう。気をつけろよ」
 向こうにはティナたちもいるとはいえ、少し心配だな。

 視線を感じて隣に目をやると、ユリがなんだか微妙な顔で俺を見上げていた。
「な、なんだ?」
「青い春……って言うには遅すぎるか」
「何をバカなことを言ってるんだよ。仲間なんだから心配するのは当然だろ」
「ふーん。で、セリスはどうしたの?」
「ガストラと決着をつけに行った」
 帝国はセリスの故郷だ。どうしても自分の目で最期を見届けなくちゃいけなかったんだろう。
 ユリはやるせなさそうにため息を吐いた。
「ここからは魔法にも気をつけて戦わなきゃいけないってことか」

 案外、普通に話せてるなと思いながら掃討を続ける。インペリアル・エアフォースは少しずつ数を減らしているようだった。
 もう一踏ん張りってところかと気合いを入れていたら、ユリから思わぬ言葉が飛んでくる。
「ティナとセリスどっちが好き?」
「はぁっ!? 何だその質問」
「べつに、聞いてみたかっただけ」
 聞いてみたかっただけって、戦闘中なんだぞ。そんな気軽に動揺させないでくれ。
「で、どっちの方が好き?」
「しつこいな。どっちも大事な仲間だよ!」

 大体だな、そんなこと聞かれるなら俺だって聞くぞ。
「ロックとセッツァー、どっちが好きなんだ?」
「ロック」
「え……即答かよ」
 確かに仲が良いとは思ってたが、何の躊躇いもなくロックが好きだと言えるほどだとは思わなかった。
 なんだろう、ものすごく複雑な気分だぜ。
「あのさ、ロックとセリスのことは……知ってるよな?」
「そういう意味で好きなわけじゃない。ロックには、死んだ恋人のことを乗り越えてセリスとくっついてほしいと思ってるよ」
 そ、そうか。よかった。ユリとセリスのどっちを応援すればいいのか迷うところだった。

「レイチェルのこと、聞いてたのか」
「死んだってことしか知らないけど。レイチェルっていうんだ。綺麗な名前……」
 じゃあ、コーリンゲンでのことは聞いてないみたいだな。俺の口から伝えていいことでもないから黙っておくが、ユリはロックの目的を知ったらどう思うんだろう。
 きっと責めはしないに違いない。
 ユリだって、ロックと同じだ。大切な人にもう一度会えるならどんな奇跡にでも縋りたいはずだった。

「なあ、お前はどういう意味で聞いたんだ?」
 ティナとセリス、どっちが好きかなんて。俺はべつに、二人に対する好意を区別なんかしてないぞ。
 ただ俺がユリに聞いたのは、もしかしたらロックかセッツァーのどちらかを異性として見てるんじゃないかと思ったからだ。
 ユリは、俺が好きなやつが誰なのか、気になるんだろうか?
「……父さんの奥義を、ちゃんと次代に継いでいってくれるのか気になっただけだよ」

 今までになく柔らかい表情でユリは言った。
「バルガスと二人で弟の結婚式に出るのが夢だった」
「まだ弟なのか俺は……」
「私に勝てたら兄さんって呼んであげてもいいけど?」
 フッと息が漏れる。ユリの顔が硬直していた。笑おうとして、失敗したみたいだった。
「……ごめん。やっぱり無理。兄さんとは呼べない」
「謝らなくていい」
 ユリにとってバルガスは特別だったんだ。他のやつを兄とは呼べないんだろう。だから俺のこともずっと弟呼ばわりだった。
 彼女の中でバルガスに並び立てる者なんて、いてはならないんだ。

 敵の攻勢が不意に止んだ時、ユリは弱々しく俺の手を掴んだ。
「マッシュ……」
 ずいぶんと久しぶりに名前を呼んでもらえた気がする。
「私はやっぱり、マッシュのことが好きだよ。今までのことを忘れるなんてできないよ。でも、それでも、許せない。どうしても許せないの」
「憎んでいいよ。仕方ないことだろ」
「簡単に言わないで……憎もうとして憎めるなら苦労しない」
 分かってる。俺だって、バルガスが死に値するような人間だったら、憎むのが簡単な相手だったら、こんなに苦しくなかったんだ。
 どちらからともなく続けた。同じことを考えていた。
 帝国との戦いが終わったら。
「この気持ちにも、決着をつけよう」


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