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🔖仲間



 クリスタルが再生した魔物との戦いを終えた仲間たちが再び合流した。
 ユリさんは敵の強さに合わせて僕らを振り分けてくれたみたいだけれど、見た限りエッジさんのところが一番大変だったようだ。皆すごく疲れた顔をしてる。
「ツキノワ、大丈夫?」
「もう……このあと神が出ても悪魔が出ても怖くない気がします」
「僕らのところにも堕落した女神や悪魔が出てきたよ」
「ええっ!? ……やっぱりどこも大変だったんだ」
 でもこっちは母さんもいるし白魔法が充分に使えたから、守りの面で安心感があった。ユリさんのサポートがあったとはいえツキノワたちの精神的な負担は大きかったのだろうなと思う。

 本当に、異世界のあんな化け物たちを二十体もクリスタルから再生させて……この奥で待ち受ける敵の目的は何なのだろう。

 この月に到着してから、どれくらい深く潜ってきたのかも分からない。
 ギルバート王の話では先ほど青き星のダムシアンとひそひ草が繋がったそうだ。つまり、それだけこの月が青き星に近づいているということ。
 もう時間がない。焦る僕たちの前に、ついに敵が姿を現した。
「お前は……!」
 父さんの心を奪い、バロンの軍事力を利用して世界を苦しめた張本人。皆が武器を手に警戒態勢をとる。にもかかわらず彼女は平然と僕たちを見回して告げた。

「予想よりは歩みを進めたようだ。しかし、ここから先は貴様らに無縁の世界。消えてもらおう」
 謎の少女が手を振りかざすと、彼女の背後から巨大なドラゴンが出現する。リディアさんが悲痛な声をあげた。
「幻獣神さま……!」
 これが、幻獣神バハムート! キングベヒーモスやテツキョジンにも劣らない威圧感に押し潰されそうになる。その場から逃げ出さないだけでも精一杯だ。

 僕らを見下ろす冷徹な瞳に正気の色はなかった。かつて力を認めたはずのリディアさんや父さんたちに一瞥もくれず、その体内に殺意を滾らせる。
「ゴミを消し去れ、バハムート」
「わあすごい雑魚っぽい台詞」
 この状況でも気の抜けることを言えるユリさんに、ゴルベーザさんが何か文句を言ってるのが視界の端にちらりと見えた。

 すべてを消し去る灼熱の咆哮を受け、僕らもありったけの白魔法で抵抗する。こっちにだって神をも恐れぬ魔物がついてるんだ、簡単に負けはしない。
 ただ、メガフレアの熱に耐えることはできてもバハムートを正気に戻す手立てがなかった。
「幻獣神さま、リディアです……思い出してください!」
 リディアさんの必死の呼びかけも届いてはいないようだ。もう手遅れなのか? いや……他の幻獣たちも取り戻せたんだ。バハムートだってきっと……!

 なおも巨体に立ち向かうリディアさんの横にユリさんが立ち、自分の魔力を彼女に分け与えた。
 莫大な魔力を得たリディアさんが術を唱えて、バハムートの前に立ちはだかるように幻獣王妃アスラが姿を現す。
「お気を確かに、幻獣神様! この月は幻獣神様の月ではありませぬ!」

 アスラの言葉もやはりまだバハムートには届かない。リディアさんに向けて放たれたメガフレアを六本の腕が切り裂いた。
「私の声が聞こえぬのか……!」
「まだよ、諦めないわ!」
 さらにユリさんの魔力を借りて、リディアさんは同時に幻獣王リヴァイアサンを召喚する。
「支配が解けぬとあらば已むを得ん! 幻獣神様!」
 襲いかかる大津波とバハムートの咆哮が相殺される。凄まじい熱波が辺りを蹂躙して、僕たちは耐えきれずに吹き飛ばされた。

 崩れ落ちそうになるリディアさんをユリさんが支えている。僕らも立て直さないと、彼女たちを守らないと……。
 なんとか立ち上がり、メガフレアとタイダルウェーブのの余波で傷ついた仲間たちを回復していく。こちらの無力を嘲笑うように、あの少女がバハムートに命じた。
「とどめだ」
「……」
「どうした?」
 しかし幻獣神はその言葉に従おうとはしなかった。竜眼が、僕らの月と同じ銀色の輝きを取り戻している。

 突然バハムートは傍らの少女を吹き飛ばした。
「ば、馬鹿な!」
「我を支配下に置いたつもりか」
「何……?」
「我ら幻獣の求むるは力のみにあらず。真の光が宿っているか、最後の審判は、この幻獣神バハムートが下す!」
 慌ててリフレクを唱えようとするも虚しく、少女は咆哮に掻き消されて散っていった。

 リディアさんと、幻獣との絆が光を取り戻させたのか、それともバハムートは最初から僕らを試していただけなのか……。なんにせよ、皆が無事でよかった。
「幻獣神さま!」
「愛しき姫よ、我ら幻獣はいつでもそなたと共にある」
 安堵の涙を浮かべたリディアさんに向かって優しげな光を照らし、幻獣神バハムートは幻界へと還っていった。

 その横でユリさんがヒソヒソと幻獣王夫妻に話している声は、幸いにもバハムートには聞こえなかったみたいだ。
「あれ操られてたのを強引になかったことにしてません?」
「幻獣神様にはわりとそういうところがあるんじゃ」
「戻ってきてくださればそれでよいのですよ」
 この人たちは、まったく……緊張感が無さすぎて呆れてしまうのが正直なところ。でも今までの道程で恐怖に竦まずに歩み続けて来られたのは、やっぱり彼女のお陰なんだろうな。

「やっとリディアも完全復活ね!」
「でもこれで終わりって呆気なくないか?」
 はしゃぐルカさんをよそにパロムさんは少女が消えた辺りを見つめて首を傾げている。確かに、ここまで好き勝手してきた敵がこれで諦めたとは思えない。
「まだ終わっとらんぞい。この月を止めねばな!」
 シドの言葉に頷き、僕らは更に月の深部を目指して歩き始めた。謎の少女は倒れたのに、まだ終わってはいない。
 誰が……いや、何がこの月を動かしているんだろう?

 しばらく降りていくと、どこか機械的な印象の建物が現れた。門を潜って奥へ進むとそこには、……そこには、倒したと思っていた少女が大勢、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「な、何だこれは……?」
「敵対の意思はないようだが」
 確かに襲ってくる様子はない。というよりも、僕らの存在を認識していないようだった。まるで人形だ。いや、カルコとブリーナの方がずっと人間味がある。

「われはマイナス」
「われらの意思は一つ」
「われらは更なる進化を遂げねばならぬ」
「われらは最も進化した生命」
「われらの次なる使命は……」
「次に回収すべきクリスタルは……」
「ワレワレハウチュウジンダ」
「おいユリ、混ざってんじゃねーよ」
 話しかけても返事はなく、彼女たちはただひたすら同じ言葉を壊れたように繰り返すばかりだった。

 部屋の奥へと進めば、ますます異様な光景が広がっていた。規則正しく並べられたカプセルの中に少女たちが眠っていたのだ。
「謎の少女の量産工場ですか」
「こ、こいつらが目覚めたら、我らの星は……」
 幻獣神までも支配して数々の魔物をクリスタルから再生させた、あの少女。ここにいるのが全部起き出して青き星に攻め寄せたらと思うとゾッとする。
 幸いにも彼女らは大人しく眠りについている。今のところ起きる様子はなかった。……今のところは。

 出口を探して歩いていると、リディアさんが鈍い光を放つカプセルを見つけた。中にいる少女は他の者たちよりも少し幼いみたいだ。リディアさんがカプセルを覗き込むと少女が目を開いた。
「お前は誰だ?」
「えっ? わ、私はリディアよ」
 リディア、と無感情に繰り返し、その子供はカプセルから出てきた。緊張が走る僕らを気に留めるでもなく彼女はリディアさんを見上げて立っている。

「指示を」
「え……と、そうね。ここで大人しくしていられるかしら」
「待っておればよいのか?」
「そう。いい子で留守番できる?」
「理解した」
 ……言われた通りに大人しく待っている。どうやらリディアさんを主だと思い込んだようだ。雛鳥のすりこみ……みたいなものだろうか。敵意がないなら構わないんだけど、妙な感じだ。
 あのマイナスと名乗る少女たちは単なる人形だった。彼女たちに命令をくだしていた存在を倒さないといけない。

 扉を見つけて少女が眠る部屋から脱出する。次のフロアは広間のようになっていて、数えきれないほどのクリスタルが台座に浮かんでいた。
 その中の一つにパロムさんとポロムさんが駆け寄った。
「これは……! 輝きは消えてるけど……」
「ミシディアの水のクリスタルだわ!」
 それを聞いて辺りを見回していたギルバートさんも気づく。
「あった! ダムシアンの火のクリスタルだ!」
 続いてアーシュラにレオノーラさん、ルカさんも奪われたクリスタルを探して駆ける。
「風のクリスタル! これも……輝きが消えてる……」
「ま、間違いありません、土のクリスタルです」
「見つけた! 闇のクリスタル、ちゃんと全部あるよ」

 どれもエネルギーを奪われたのか輝きを失っている。でも、まだ砕けていないから希望は持てるというゴルベーザさんの言葉を信じよう。
 一緒に青き星に帰って、祈りを捧げればきっとまた輝きを取り戻せるはずだ。

「これは……? 見たことのないクリスタルだな」
 父さんの言葉につられてユリさんがそのクリスタルを覗き込んだ。
 この部屋には僕らの星にあった八つとは違う、身覚えのないクリスタルが数えきれないほど並んでいる。
 上の階で戦った魔物たちみたいに、異世界から来たものなんだろうか? だとしたらこれらを集めた敵の親玉も異世界からやって来たということになる……。
 数々の世界を渡り歩いて、そのすべてでこんなことを繰り返してきたのだとしたら、許せない。

「あっ、マテリアっぽいのもありますよ」
 ユリさんが指差したのは丸い形の変わったクリスタルだった。まさか彼女の世界から奪われたものかとも思ったけれど、ゴルベーザさんもその“マテリア”を知ってるようだ。
「一応は元世界のデザインが反映されているのだな」
「なんで7以降のボスは再生されなかったんでしょうね」
「ドット絵で描き下ろすのが大変だったのだろう」
「そんな理由なんですか」
 いつものことだけど、この二人は基本的に何を言ってるのかよく分からない。

 ユリさんは青き星のものではないクリスタルを手に取り呟いた。
「……これを使って全作品のラスボスを再生したらこの月を破壊できるのでは」
「やめてくれ。私たちまで殺す気か」
 そういえば彼女は僕らが戦った魔物のことを知っていたんだっけ。だったらクリスタルを使って、もっと強い魔物を再生して敵と戦わせることもできる?
 いや、素の力で自分の複製を作り出せるくらいだからクリスタルさえ必要ないかもしれない。

 たとえば、そう……かつて父さんたちが戦ったゼロムスのように強大な存在のコピーを作ることだって、ユリさんにはできる……。
 そこまで考えて少し恐ろしくなる。ゴルベーザさんが「殺す気か」と言った意味がよく分かった。彼女は、やろうと思えば簡単に世界を滅ぼせるんだ。
 だけどユリさんはここにいる。大切な存在を守るために。彼らのそばで生きていくために。奪うことに躊躇を覚えず命を無下に扱う者とは絶対に違う、ユリさんは僕らの大切な仲間だ。
 逆に言えば彼女の恐ろしさはそれだけ頼り甲斐があるということ。
 あの眠る少女たちのことは不安だけれど、ユリさんがついていれば負けるはずがないと勇気が持てる。


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