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🔖混沌



 ユリのコピーが現れた時は焦ったけど、意外にも一瞬で勝負がついたようであたしたちが離れてる間にコピーはいなくなっていた。
 なんと、ルビカンテが余裕で倒しちゃったらしい。ユリは魔物としても異常なほど強いのに、更にそれを越えるなんて。さすが四天王最強の男、ってところかな。
 経緯を聞きながらゴルベーザは顔を引き攣らせて「もう四天王は解散しよう、させてくれ」と言っていた。
 そりゃ、あんな桁違いに強いヤツらを率いるのも怖いよね。一般人のあたしたちとしては、あいつらにはずっとゴルベーザの部下でいてほしいけど。
 ユリとあの四人が野放しになったらそれこそ世界が滅びちゃうよ。

「でもさ、仮にも恋人の形した相手をよく倒せたよね?」
「あれがユリそのものではなかったから可能だった。彼女が私を殺せぬように、私も彼女を本気で殺すことはできない」
「へえ、一応そんな気持ちもあるんだ」
 やっぱりなんだかんだいって好き合ってるんだなあと微笑ましく思ってたら、ユリが口を挟んできて台無しになった。
「でもすぐに生き返らせることが分かってたらどうですか? 本物の私とでもガチバトルしますよね、きっと」
「それもそうだな。……お前の本体は封印に守られている。ならば今この場で戦うこともできるのでは……」
「べつに私を叩きのめすのは平気なんですよね、ルビカンテさんって」

 コピーとの戦いでも躊躇なく燃やしてたしと遠い目をするユリにゴルベーザが困惑の表情で問いかける。
「本当にこの戦闘狂でいいのか? 他にまともな男がいるだろうに」
 同感だけど上司としてその言い種はどうなんだ。確かにルビカンテは戦いに人生懸けてて好きな娘のことでも平気で燃やせちゃう戦闘マニアだけどさ。
 うん、やっぱりユリは他のもっとまともな人と恋をした方がいいんじゃないかな?
「いいんです。ルビカンテさんならいつも私のそばにいてくれるから」
「……」
 そんな条件なら満たしてくれる人はいくらでもいるよ、と私もゴルベーザも言えなかった。当人が幸せならいいよもう、どうでも。

 次元エレベーターに乗り込み、やっと敵の首領のところに行けるかと思いきやどこかの階で勝手に止まって、あたしたちはポイッと吐き出された。
「やはり敵を倒すまで先には進めぬか」
「ここは何回くらいバトルがあるんですか?」
「1〜6のボスが四体ずつ、計20回の戦闘がある」
「は?」
「……私に怒るな」
 よく分かんないけど、クリスタルが再生する強敵との戦いを20回も繰り返さないと、ここの主には会えないらしい。

「無視して進んじゃったら?」
「床を破れば進めるだろう。しかしクリスタルはなぜ魔物を再生させていると思う?」
 そりゃ、あたしたちと戦わせるため……って言おうと思ったけど、それは変だよね。
 敵が青き星を滅ぼしたいならこんなとこであたしたちの足止めしても仕方ない。再生した魔物に青き星を攻めさせる方が効率的だ。
 ただでさえ地上は今モンスターが増えて困ってるんだし……って。
「ここで再生した魔物を地上に送り込んでるの?」
「可能性はある」
「ああ、そういえば月の接近で溢れ始めた魔物はコピーっぽかったですよね」
 嘘でしょ。じゃあ全部のクリスタルを確認して、再生された魔物を倒さなきゃダメってことじゃないか。

 ユリはなにやら指折り数えて頷きながらあたしたち全員を見渡した。そしてパロムとポロム、レオノーラとカルコブリーナを呼んで「このフロアは任せます」と宣言する。
「どういうこと?」
「四天王を加えて5パーティ×5で全階層を同時攻略しましょう。ガンガン行こうぜ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「ガンガン行こうぜ!」
 無表情に同じ言葉を繰り返しながらユリは肉体強化の呪文を唱えると、床を殴って穴を開けた。その瞬間まわりにいた仲間たちが姿を消した。下の階に落ちたみたいだ。

「……えぇ?」
 残されたのはあたしとさっき名前を呼ばれた三人とカルコ&ブリーナだけ。
「おいおい、どうすんだよこれ」
「私たちだけで四体の敵を倒せばいいのかしら?」
「そ、そんなこと可能なのでしょうか」
「不可能でもやらないと、四天王クラスの敵が青き星に山ほど送り込まれることになりますよ」
「!?」
 皆と一緒に穴から落ちたと思ったユリがあたしの背後から顔を出してきてビックリした。
「あ、どうも。私は本体のコピーです」
 彼女はクリスタルの再生能力を真似てコピーを作り、戦闘を手伝ってくれるつもりらしい。なんかもう……何でもありなの?

 このフロアには四ヶ所ワープポイントが設置してあって、それぞれに四天王並の強力なモンスターがいるという。
 パロムとポロムは平気そうだけどあたしとレオノーラは涙目だ。
 心の準備もできないうちにユリがクリスタルに触れ、辺りに邪悪な気配が広がった。闇が形を成していく。

「大地の力を貪る土のカオス、リッチですね」
「不気味なヤツだな」
「な、なんだか、夢に出てきそうです……」
 このユリは戦闘力があまりないらしく、あたしたちに攻略法ってのを伝える役目を果たすのだとか。
 まずは助言に従ってポロムが皆にレビテトをかけると、その直後にリッチが地震を放ってきた。危ない、裂け目に落っこちるところだったよ……。

 強化魔法を受けたカルコブリーナが盾になり、パロムが炎の魔法を連発して、ポロムとレオノーラは白魔法で敵の邪悪な魂を浄化していく。
 確かにすごく強いけどただのアンデッドだ。そう思い込まなきゃ恐怖に負けそう。
 そしてユリが炎の力を付与してくれた武器であたしがトドメを刺す。リッチの体が崩れ落ちると周囲を満たしていた邪悪な気配も消えた。

「……た、倒せました、ね」
「あんな化け物がまだ三体いるっていうの!?」
「はい。なので急ぎましょう」
 ちょっと待ってよと言う間もなくあたしとレオノーラはユリに引き摺られて次のワープポイントへ向かう。
「土のクリスタルか。トロイアにあったのとは別物だな」
「あのリッチという魔物もスカルミリョーネとは違う異質な気配だったわ」
 なんで落ち着いてるのよパロムとポロムはー!

 次の敵のもとへ辿り着くと、今度はクリスタルが溶岩みたいな赤い光を放ち、辺りに熱気が立ち込める。またルビカンテのコピーじゃないでしょうね。
「ワガ、ネムリヲ……ジャマスルノハ……キサマラカ……?」
「こちらの六本腕の蛇女さんは火のカオス、マリリスさんです」
「ヒノチカラハ……ワタサヌ……。コノ……ホノオデ……ヤキツクシテクレル!」
「氷属性が弱点ですが反撃が手痛いのでポロムは回復、レオノーラさんは防御に徹し、ルカはパロムを正気に戻す係ね」
 ユリが口上の邪魔するから緊張感が殺がれる。でも怖いものは怖い。

 パロムがブリザガを放つたびにカウンターでサイレスが放たれて、ポロムはその治癒につきっきりだ。
 六本の腕から繰り出される斬撃に耐えるためレオノーラが必死でカルコブリーナに防御魔法を張り続ける。
 そして“正気に戻す係”って何なんだと思ってたら、マリリスの目が怪しく光った途端に混乱状態に陥ったパロムがあたしたちに魔法を暴発させてきた。仕方なく、ぶん殴る。この係イヤだな!

 まさしくカオスな光景を何度か繰り返し、最後の最後にマリリスが放った炎で全員丸焦げになったけどなんとか倒せた。
「ハァ……ハァ……む、無理です……もう……」
「ごめんパロム、思いっきり殴ったけど大丈夫?」
「はっ、上等だ。相手にとって不足はねーよ!」
「このクリスタルは一体、どこから来たのかしら……?」
「さあ次へ行きますよー」
 ユリの鬼教官ぶりは絶対にルビカンテの影響だ。あたし今になって初めてあいつに憎しみを感じたかもしれない。

 次のクリスタル。さっきの灼熱地獄とはうってかわって周囲の空気が冷えてくる。現れたのは……。
「カオスニ、ハムカウトハ……ミノホドシラズナ……、シヌガイイ!」
「水のカオス、クラーケン。見ての通りです」
「ど、どういうことですか!?」
 涙目で叫ぶレオノーラに完全同意だ。見ての通りって言われても、巨大なイカってことしか分からないよ!
 まったく宛にならないユリの助言だけどパロムはちゃんと理解できたらしく、早速サンダガを打ちまくり始めた。
「でかいナリしてるが、弱点はお見通しなんだよ!」
 本当だ。かなり効いてるみたい。イカって水属性なんだ? 地底のイカは土や溶岩の中で生きてるからよく分かんないや。

 近づくと十本の触手に絡めとられて絞め殺されそうなので、あたしはカルコブリーナと一緒に盾の役割を果たすことにした。
 魔法を食らうたびにクラーケンは触手の先から消化液を打ってくる。ポロムとレオノーラに回復してもらいながらそれを武器で打ち落とすのだ。
 楽に弱点をつけるとはいえパロムの得意なブリザガが効かないから長期戦になった。すごく疲れた。まだあと一匹残ってるのかぁ……。

「あのカメほどしつこくはなかったな」
「ミシディアの他にも水のクリスタルがあったのね」
「一体いくつあるのよクリスタル!」
「凄まじい魔力だった……私たちの方はもう、限界だというのに……」
「愚痴ってないで最後の敵を殺りに行きますよ」
 ユリが厳しい。おのれ、ルビカンテめ〜!
 二人で手を握り合いつつ嘆くあたしとレオノーラだけど、パロムとポロムはまだまだ余裕でユリの後に続いている。やっぱり、かつてセシルさんと一緒に戦った人たちは一味違うわ。

 このフロア最後のクリスタルだ。ユリが触れた途端、あたしたちを取り囲むように暴風が吹き荒れる。
 風のカオス、四天王のバルバリシアみたいなヤツかなと思っていたら、風鳴りに交じって恐ろしい唸り声が響いた。
「ワガモトニ……タドリツイタカ……シカシ、キサマラノ……ウンメイハ……コレマデダ……!」
「風のカオス、ティアマット。弱点は特になく物理にも魔法にも手痛いカウンターがきますよ。頑張ってね」
「頑張ってネ、じゃねーよ!」
「どうしろというの!?」
 おお、パロムとポロムが初めてユリに怒った! もっと言ってやれと思うけど敵が出現してしまったのでそんなことやってる場合じゃない!

 幻獣神みたいな荘厳なドラゴンを相手に真正面から戦うんだ。震えが走りそうになる手を叱咤して武器を握り締める。
「ルカ、毒霧のカウンターが来るのでヒット&アウェイで」
「わ、分かった!」
 ん? ひっとあんだうぇーって何だ?
 とにかくヘイストをもらって、ティアマットの脇を駆け抜けざまに斬りつけてその場を離れる。たまに毒を食らっちゃうとすぐにポロムが回復してくれた。
 カルコブリーナは毒を気にせずに攻撃できるのであたしの盾代わりになってくれている。

 困るのは最大の火力を持つパロムの魔法を凄まじい竜巻で跳ね返してくることだ。一気に劣勢に追い込まれてしまう。
「な、なんてヤツだ……」
「すぐに回復を。ミールストームの直後に攻撃を食らうと危険です」
 といって魔法を打たずに倒せるはずもなく、ポロムとレオノーラが同時に回復魔法を唱えることでなんとか対処しながらパロムとあたしで体力を削っていく。

 ティアマットの巨大な体が傾く頃には、あたしたちは疲労で動けなくなっていた。瀕死の竜の目が輝いて、何か大技がくると思うのに逃げる体力がない。
「参れ黒竜!」
 咄嗟にユリが召喚したのは“ゴルベーザ”だった頃に連れていたドラゴンだった。漆黒の体がティアマットに巻きつき拘束する。
「ポロム、やれるな!」
「ええ!」
 その隙をついてパロムたちが唱えたのは最強の攻撃魔法、メテオ……ティアマットの巨体が隕石に押し潰されて消滅すると同時に、渦巻いていた風も落ち着いた。

「わ、私たち、生きてますよね……?」
「って、ユリはどこ!?」
 黒竜と一緒に彼女の姿も消えていた。慌てて辺りを見回すあたしとレオノーラをパロムが「落ち着け」と制止する。
「コピーに与えてた魔力を使い果たしたんだ。死んじゃいねーから安心しろ」
「先へ行った皆を追いかけましょう」
「そ、そっか」
「よかった……」
 うぅー、ちょっと休憩したいなんて言ってる場合じゃないよね。他の皆も戦ってるんだ。あたしたちの青き星のために、もう一頑張りだ!


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