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🔖不穏



 この名無しの男、どう見てもカインさんです。
 長く世俗を離れて人見知りが激しくなってしまったのか「言うな!」と目で訴えられたのでセオドアには黙っておくけれど。
 それにしても、いくら危ないところを助けてもらったからって名前も教えない怪しい男を簡単に仲間にするのは如何なものか。
 セオドアの無防備さがちょっと心配だ。

 しばらく歩いてミシディアに到着した。セオドアたちは祈りの館に向かい、私はエーテルを買い漁る。もう魔力がすっからかんだ。
 回復してしまえばテレポで三人揃ってバロンへ行けるのだけれど、デビルロードを開いてもらえるならそれでいいだろう。
 きっと、テレポで連れていくのはセオドアのためによくない。彼は未だ試練の途中なんだ。
 仮に私がテレポを唱えても反対しないだろうけれど、生真面目なセオドアはあとから「自力で任務を完遂できなかった」と気に病むかもしれない。
 あくまでも私はサポート要員として、彼が歩いていく手助けをしようと思う。

 魔力を完全回復して祈りの館に向かうと、ちょうど中からセオドアたちが出てくるところだった。背後に二人の魔道士とポロムを連れている。
「まあ、ユリさん? あなたがいるなら応援はいらなかったかしら」
 うん? ああ、セオドアとカインさん……もとい謎の男の二人連れだと思って護衛に魔道士たちをつけてくれるつもりだったのか。
 さすがはポロム、ミシディア生まれミシディア育ちとは思えない性格の良さ。

「私が遠目に見た時バロンは魔物だらけだったので、応援はありがたいです。こっちへの報告要員も必要になるでしょうし」
「そう……そうね。では二人とも、お願いします」
「心得ました」
 魔道士二人に頷くと、ポロムはセオドアに向き直る。ちょっと見ない間にすっかりお姉さんキャラになって。
「気をつけて。セシルさんやローザさんによろしくね」
 両親の名を聞いてセオドアは力強く頷いた。今ばかりは反抗期もなりを潜めている。

 反抗期といえば、ポロムとパロムも数年前にグレかかっていたっけ。今はどうなんだろう? ポロムを見た限りは落ちついてるみたいだけれど。
 でも彼女も内心を取り繕うのがうまいから無理してそうだなぁ、なんて思いながら、デビルロードに向かおうとするセオドアについて行く。
「あら? あなた、どこかで……」
「人違いだ」
 微妙に疑われている謎の男さんも急いで後を追ってきた。

 月の民の遺産であるデビルロードには試練の山と同じようにモンスターが集まってくる。とはいえ私の魔力も戻っているしミシディアの魔道士もいるので、危険はない。
「セオドア君、強くなりましたね」
「ユリさんは会うたびにそう言ってませんか?」
「だって本当にどんどん大きくなっていくので、圧倒されてしまって」
 ついこの間までおしめをつけてた赤ん坊が今や一人でアンデッドをばっさばっさ斬りまくってるなんて。成長期ってすごい。
 そんな彼ですら劣等感を抱いてしまうのだからセシルとローザはまったく罪作りな無敵超人だ。

 他人から見ると「比べる必要なんかない」と思うくらいセオドアは優秀だけれど、親というものは子供にとって無条件で越えられない壁に感じられるのか。
 せめてグレやすい環境だったら内に溜まったモヤモヤを反抗期で発散できたのに、セシルもローザもセオドアに甘いから反抗しにくいだろうし。
 もしかしたらカインさんも、そんな親を恨みたくても恨めないセオドアの葛藤に共感して、彼について行くことにしたのかもしれない。

 そういえばカインさん、ずっと剣を使っているのはなぜなんだろう。あのターバンやらマントやらも彼の戦い方の邪魔になる気がする。
 屋内だから槍より剣の方が使いやすいのかな。でも外でも剣を使ってたっけ。
 そんな風にぼんやり考え事して戦闘をサボっていたら、私を咎めるように魔道士たちが呟いた。
「……魔物の数が多すぎますね」
「しかも常より凶暴化しているようです」
 なぜそこで私を睨むのでしょうか。今回の騒動は私が魔物を煽ってるわけじゃないですよ。

 今この世界に溢れかえっているのは、月の波動を受けた野生モンスターが少しと、大多数はバブイルに現れた少女と同じく意思を持たない人形たち。
 私が仲間と呼び得る魔物は前者だけだ。
 後者はスカルミリョーネさん流に言うと単なる“動く屍”であって、私の仲間ではない。自分の意思も持たない非生物だ。
 遭遇した相手をすべて破壊するようインプットされた迎撃機械など魔物と呼ぶのも烏滸がましい。
 ムカついたので通路一帯をモンスターごと焼き払ったらセオドアに引かれた。

 デビルロードをさくっと通り抜け、バロンの城下町に到着した。
 あれだけのモンスターに襲撃されたというのに町は無傷で人々の暮らしにも変わりはない様子だ。
 そこら辺の人を掴まえて聞いたところ魔物の大群はセシルが退けたのだとか。
「おかしいですね。メテオでも唱えるかバハムートを召喚しなきゃいけないくらいの数が飛来してたはずだけど」
「父さんに話を聞きましょう!」
 逸るセオドアを抑えつつバロン城に行くことにした。どうも嫌な感じがする。城の気配がなんだか違っていた。

 城に着くと、まるで未だ襲撃が続いているかのように門は固く閉ざされている。王子が帰還したというのに門番も無反応だった。
「僕だ。セオドアだ。門を開けてくれ」
「何人たりとも通してはならぬとの御命令です」
「どうしたんだ。一体何が?」
「何人たりとも通してはならぬとの御命令です」
「ここを開けろ!」
「何人たりとも通してはならぬとの御命令です」
 これは駄目そう。愕然とするセオドアの腕を謎の男が掴み、時間の無駄だと町へ引き返した。

 精神魔法で探ったところ、テレポで無理やり中に入ることはできそうだった。でも何かが侵入を阻んでいる気配も感じる。誰が結界を張っているのか。
 セシルの安否も分からない以上、強行突破は控えたい。とりあえずは謎の男の提案で水路から城へ入ることになった。
「鍵をもらってきました……シドは何日も帰ってきてないそうです」
「娘さんは何と?」
「……何も。また飛空艇の改造に夢中になってるんだろう、って」
 町の人々は城の異変に気づいていない。魔法で思考を誤魔化されているようだ。
「ますます嫌な感じですね」

 月の帰還って、まさかゼムス復活なんてオチじゃないだろうな。今度はセシルが操られて、とか……。
 様子のおかしい門番といい、精神魔法に長けた存在の影がちらつくのが気になった。

 水路を進みながらセオドアの表情は暗い。魔道士たちは私語をほとんど口にしないし、カインさんもほぼ無言で空気が重いので空気は最悪だ。
 パーティメンバーのバランスが悪いと思う。エッジさんみたいなキャラクターに加わってほしいです。
「セオドア君、あの二人なら大丈夫ですよ。私が保証します」
「……」
 不安げに顔を上げたセオドアは年相応に幼く見えた。

「相手が弱ってちゃ反抗期の甲斐がないですもんね。顔を合わせたら叱ってあげましょう」
 息子が任務を果たして帰ってきたのになぜ父さんは国を守れてないんだってね。
「……はい!」
 強張った顔はほぐれないもののセオドアはしっかりと頷いた。でも僕は反抗期なんかじゃないですと不貞腐れる。
 そうだね。反抗期を迎えるには素直ないい子すぎるんだろう。それで余計に鬱憤を抱え込んでしまう。
 まあ、父親を越えるのは息子の役目だ。セシルはその時を待っているだろう。どんな危機に遭っているとしても、きっと家族が助けに来てくれるから。


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