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🔖T-08



 朝になって、バレンの滝ってところに着いた。そこでシャドウが「俺の案内はここまでだ」と言い出した。
「ここを降りた先にモブリズの村がある。これより南には帝国の手も伸びていないはずだ」
「いろいろありがとな、シャドウ」
「ご助力、感謝いたす」
「また縁があったら会おうぜ!」
 マスクで分かんないけど、シャドウはちょっと笑ったみたいに見えた。
 あんまりしゃべんないやつだったけど、ここまでずっと一緒だったのに、いなくなると淋しいよな。

 シャドウが去ったあと俺たちはバレンの滝を覗き込んだ。
「高いでござるな……」
「なんだよ、ビビってんの?」
「そ、そんなことはないでござる! ドマの侍たるもの、如何なる時も臆することなく、」
「この時期ならオピニンクスって魔物が滝登りをする頃だ。そいつらを足場にしつつなんとか降りるしかないな」
 カイエンをさらっと無視してマッシュが言う。足場があるならどうにかなるだろ。
「迷ってても仕方ない。善は急げッス!」
 俺が崖から飛び出すと、マッシュとカイエンもすぐに追って来た。

 そっから先はさすがに、呑気に話してる余裕はなかった。
 たぶんこいつがオピニンクスだと思われる魔物が水の中からピョコピョコ顔を出す。
 ちょっと可哀想だなと思いながらそいつらを踏みつけて少しずつ滝を降りていく。
 もうじき陸地だ、と油断した時のことだった。
 オピニンクスの親玉みたいなでっかい魔物が滝壺からものすごい勢いで登ってきて、水流で俺たちを吹っ飛ばした。


 一瞬か、数秒か、もっと長くか。ちょっと気を失ってたみたいだ。
 気がつくと俺は水の流れが緩やかなところに浮かんでいた。
 近くを流されていくマッシュたちを見つけて岸に引っ張りあげる。

 先に目覚めたのはマッシュだった。
「どうも水とは縁が悪いな、俺たち」
「ッスね」
 川や海に落ちるなってユリの警告、無駄になっちゃったな。
「でもまあ無事でいるんだし、」
「待て、なんかいるぞ!」
 マッシュに言われて慌てて口を噤む。岩陰から変な子供が俺たちのことを睨みつけていた。
「何者だ?」
「おまえら、よそもの! 獣ヶ原、でていけ!!」
 会話の余地もなく、そいつはどっかに走り去ってしまった。

 カイエンもすぐに目を覚ましたんで次の予定を立てる。
「さっきの子供が“獣ヶ原”って言ってたな」
「ならば北東の方角にモブリズの村があるはずでござる」
「よし、まずはそこを目指すとしよう」
 ちゃんとした情報が得られそうな村とか街が近くにあると安心だよな。
 誰もいない廃墟の寺院とか、変なオッサンが一人で住んでる一軒家に流れ着くのは懲り懲りッス。

 獣ヶ原ってのはこの世界中の魔物がみんな集まってくる不思議な場所らしい。
 見たこともない魔物ばっかで結構危ない目に遭ったけど、なんとかモブリズの村に辿り着いた。
 ビサイドを思い出させるような、小さくて長閑な村だ。
 村の人は俺たちがバレンの滝を越えてきたって聞いて驚いてた。
 ここ何日か増水してて普通の人は南下して来られないようになってたんだ。
 ちょっと前にも怪我した兵士さんが崖の下で見つかって保護されたとか。もし滝の途中で足を踏み外してたら、俺たちも同じようになってたんだな。

 その兵士さんにも会ってみた。包帯まみれで、怪我はかなり酷い様子だ。
 ケアルがあったら治してやれるのにって歯痒かった。
 元々は帝国に徴集されて軍に加わった兵士だったけど、ドマを攻撃するのが嫌で逃げ出してきたんだって。
 そん時、帝国兵にボコボコにされて、ただでさえ弱った体でバレンの滝を越えようとしてこの有り様だ、って笑ってた。

 お客が珍しいからって俺たちは大歓迎された。
 着替えや食糧、寝るところもタダで提供してくれて、もらいっぱなしじゃ悪いから少し村の手伝いをしていくことにする。
 マッシュは屋根の雨漏りを直したり、俺は漁を手伝ったり、カイエンは、兵士さんの代わりに手紙を書いてやってるみたいだ。
 こっからずっと南西にあるマランダってところに恋人がいて彼の帰りを待ってるらしい。
 そういうの聞くとすごく羨ましかった。
 俺はたぶんスピラでは死んだことになってる。二年も経ったら、ユウナに恋人がいたっておかしくないよな……。

 なんてちょっと落ち込みながら歩いてると、物陰に意外な姿を見つけた。
「ユリ!? なんでここに……」
「静かに。マッシュたちにバレるとまずい」
「なんで?」
「どうやってここに来たか説明できないから」
 そんなのべつに、俺たちと同じルートで先に来てたって誤魔化せると思うんだけど。
 ってことは一緒にナルシェに行くわけじゃないのか。

 ユリたちはもうナルシェに着いたらしい。エドガーとバナンが、ナルシェの長老? ってのを説得してるところだって。
「干し肉は買った?」
「ああ。こっからの糧食にマッシュが買ってたよ」
「よかった。河岸で会った少年を仲間にするのを忘れないように。ナルシェは今のところ膠着状態だから、一週間くらいの猶予はある。早く戻って来てね」
 それだけ言うとユリの姿はパッと消えた。もしかして魔法? いや違うよな。ユリが魔法使えるなら、俺だってヘイストとか使えるはずだし。
 なんか、ケフカが使ってたのと同じような技って気がする。それでここに来たからマッシュたちにバレるとまずいのか。
 それにしてもさあ、もうちょっとなんか……ないの? 久しぶりに会えたのに淋しいんですけど。

 モブリズに一晩泊まって、ここにはナルシェの方まで行けるような船がないってことが分かった。
 こうなったら筏でも作るかって、とりあえず村の外に出る。
 獣ヶ原でまたあの子供に遭遇した。ユリが言ってたの、こいつのことだよな?
 髪はボサボサ、伸びっぱなしの爪、獣の皮を巻きつけただけの格好。ちょっとロンゾ族を思い出させる。
 モブリズ村にも子供がたくさんいたけど、その一人じゃなさそうだ。
 それに、河岸で見た時より気が立ってるみたいだった。

「ぐるる……」
「迷子か? この格好、孤児かもしれないな」
「腹が減っているのでござるか?」
 カイエンの言葉に返事するみたいに子供の腹が鳴った。
「ほら、干し肉でよかったら食えよ」
 マッシュが差し出した肉を不審そうに見ながら匂いを嗅いで、引ったくるように奪い取るとガツガツ食べ始めた。
「うまい。もっとくれ」
「もうない」
「じゃあ、さがしてこい」
「お前、態度でかいなあ」
 でも不思議と腹は立たないんだよな。性格どうこうじゃなくて言葉を知らないだけって感じだ。

「拙者はカイエン。こちらはマッシュ殿にティーダ殿でござる。おぬしの名は?」
 殿なんて呼ばれてちょっと照れる俺をよそに、子供は元気よく「ガウ!」と言った。
 それ、名前なのか?

 獣ヶ原で暮らしてるらしいガウをこのまま放って行くのは気が引けるとカイエンは言う。
「どうだろう、連れて行くというのは?」
「うーん。ナルシェも戦禍に巻き込まれそうだ、安全ってわけじゃないんだがな」
「いいんじゃない? こんなところに一人ぼっちでいるよりはさ」
「それもそうか……」
 ガウはじっとマッシュを見つめてる。
「俺たちと一緒に来るか?」
 そう聞かれた瞬間、弾かれたみたいに頷いた。こいつも一人でずっと淋しかったのかもな。

 シャドウが抜けて、代わりにガウが仲間になって、また四人連れに戻った。
 ガウはよくしゃべるし、しょっちゅうマッシュにじゃれついてる。
 賑やか担当ってとこッスね。
「ガウ、肉のおれいする! ピカピカのたからものやる!!」
 そう言われて連れて来られたのはモブリズ村の南にある三日月山ってところだった。

 コルツみたいに高い山じゃなくて、十分ちょいで山頂に辿り着く。
 そこに隠してあった“ピカピカのたからもの”は、
「ただのガラス玉でござる」
 ってカイエンにばっさり切って捨てられて、ガウが怒ってた。
「頭がすっぽり入るぜ」
 ガラス玉を被ったままのちょっとマヌケな格好でマッシュが言う。
「村で聞いたんだが、この大陸からニケアを繋ぐ“蛇の道”って海流があるらしい」
「その海流に乗って泳げばナルシェに行ける?」
「そいつに賭けるしかなさそうだな」
 川に滝に、海。ユリに気をつけろって言われてた水ん中を全制覇しちゃいそうだ。


 みんなでピカピカのヘルメットを被って、真下に蛇の道があるっていう崖から海に飛び込んだ。
 空気を逃がさないように、体勢を崩さないように海流に乗るのは結構難しい。
 マッシュとカイエンもそこそこ泳げるみたいだし、ガウも身体能力は抜群だ。
 俺も幻光虫のいないこの世界の水に慣れてきた。
 途中にあった海底洞窟で息継ぎしながら、しばらく泳いだところで流れが穏やかになる。
 そっから陸地に上がると離れたところに街っぽいものが見えた。あれはニケアだろうとマッシュが言う。
 船に乗ってサウスフィガロに行って、洞窟を越えたらナルシェはすぐだ。

「一週間くらい、かかるッスか?」
「どうかな。ニケアでうまく船に乗れればそんなにかからないと思うぜ」
「そっか」
 ユリが、一週間くらいの猶予はあるって言ったのが気になってた。
 猶予って何だよ。俺たちが間に合わないとなんかまずいことでもあんのかな。
 ユリはあの妙な機械でこれから起こることを知ってるのに、全然教えてくれないんだもんな。

 でも、それでいいのかもしれない。
 教えられたら考えてしまう。考えたら、進めなくなる。
 俺はこの世界で二年間、ちゃんと自分の意思で生きるんだ。そして物語が終わったらスピラに帰る。
 ……二年もあるんだ。ユウナたちに話してやれるような面白いことが、きっとたくさんできるよな。


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