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🔖スパークリング・ジェントルメン
殺気を感じたような気がして反射的にバリアを展開した瞬間、足元から火柱が噴き上がり全身が炎で包まれた。
敵襲かと思う間もなくバリアが蒸発していくのを感じ、慌てて水を呼び出し続ける。
ようやくそれが収まったところ、悪びれもせず現れたのはルビカンテの野郎だ。
「てめえ、なんてことしてくれやがる」
「やはり水属性を持つものには私の炎も効果が薄いようだな」
「だからって限度があるだろーが!」
いくら俺が火に強いとはいっても咄嗟に水のバリアを張ってなけりゃ死んでたかもしれん。
というか今のは完全に焼きにかかってただろ。嫌がらせか? 喧嘩売ってんのか?
とりあえず一発ブリザガをぶつけてから何のつもりだったのかと問い詰めると、ルビカンテは真顔でワケの分からんことを言い出した。
「魔法防御力を上げるのもいいが、炎への耐性をつけさせた方が手っ取り早そうだな」
「はあ?」
また共闘の話かよ。セシルたちに感化されたらしいコイツは一時“協力して戦う”のにハマっていたが、それについては話が終わってるはずだ。
属性に強く依存してる俺たちが同時に戦っても互いにダメージを受けるばかりだからな。
コイツの火燕流はスカルミリョーネを燃やすし、アイツの魔法は俺のバリアを消すし、俺のつなみはルビカンテの炎を消すくらいの威力がある。
あとバルバリシアには協調性を求めるだけ無駄だ。
しかし幸いにもというか、ルビカンテが言うのは俺たち四天王の弱点克服のことではなかったようだ。
「私に抱かれる時に魔力を抑えさせるのが申し訳ないとユリが言うのでな」
「何やってんだお前ら」
抱かれる時? 抱かれるって文字通りの意味か? さすがの俺もちょっとビックリしちまったぜ。
確かにユリが人間の姿になってから不審な様子を見せるようにはなってたが、もうそこまでいってんのか?
ルビカンテはともかく、ユリの方はまだまだ人間の女としての感覚が抜けていない。そう簡単に魔物と寝る気にはならなそうだが。
第一、そんな話になってるわりにはユリの態度に変化がない。奴のことだからルビカンテにちょっかい出されれば動揺や照れを隠せないだろう。
じゃあ抱かれる時って何なんだよ……、謎だ。
ともかく、要はゴルベーザ様の肉体を失って魔法耐性の下がったユリがその水属性で以て“どれくらいの炎に耐えられるか”を試したかったらしい。
んなことに俺を巻き込むんじゃねえともう一発ブリザガを叩き込んでおいた。
「それで、いい案はないか? ユリは服で魔法防御力を上げている。お前なら人間の装備品にも詳しいだろう」
なんか近頃は前以上に頑丈になってる気がするんだが、ルビカンテのヤツ氷魔法の一発や二発じゃ怯みもしねえ。
ただでさえ暑苦しいのにどうしてこう元気が有り余ってるんだ。
「……そうだなァ。属性に耐性をつけるなら守りの指輪、魔法防御力を上げたいならクリスタルリングってところじゃねえの?」
「人間用のアクセサリか」
魔物を鍛えるなら死なない程度に毎日攻撃魔法をブチ込んでおけばそれなりに耐性も上がっていくが、とりあえずは装備で賄うのもいいだろう。
人間のアクセサリは、限定的だがそこそこ高い効果を発揮するものが多い。守りの指輪なら元々の属性耐性を更に引き上げられるはずだ。
どっちもセシルたちが持ってたが、戦いが終わった今となっては手放している可能性が高い。なんせ各国とも復興のために金が必要な時だからな。
俺がそう言うなりルビカンテの姿が消え、一瞬でまた戻ってきた。
「これのことか」
「どっから持ってきやがった」
窃盗疑惑はさておき、ルビカンテは早速ユリを呼んでアクセサリを装備させることにしたようだ。
「指輪と腕輪ですか?」
「火耐性と魔法防御力を上げるものだ」
火だけじゃなく黒魔法の三属性への耐性をまんべんなく上げるものなんだが。相変わらず自分のことしか見えてねえな。
で、ユリに渡さずに跪いて手ずから嵌めてやる必要はあるのかねぇ。若干引かれてんぞ。
二つのアクセサリをつけてユリの周囲に薄い魔法の皮膜が張られた。
そしてルビカンテがユリを横抱きにして持ち上げる。抱くってそういう意味かよ。まあそんなこったろうとは思ったが。
「どうだ?」
「ちょっと熱いです……」
「ならば、やはり魔法防御力を上げる訓練も必要だな」
ルビカンテは魔力を抑えず人間が触れれば死ねる炎を解放している。
ユリは属性耐性と魔法防御力のおかげで死なないが、微量のダメージは食らっているようだ。
しかしユリの顔が赤いのは炎の熱のせいだけでもないと思うがなァ。
もう実験は終わったので降ろしてほしいと言うのをさらっと無視してルビカンテはユリを抱きかかえ続けた。
こりゃあれだな。ゴルベーザ時代にもやってた“動物に変身させて思う存分さわり倒す”って行為の延長か。
人間形態でやられてるユリは堪ったもんじゃねえだろうな。
「で、でもこれ、指輪と腕輪だから他の動物に変身したら装備できないと思うんですが」
「だからそのままの姿でいいと言ってるだろう?」
訂正する。延長ではなく進化形だった。
どうやら動物に触れたいからユリに協力させているんじゃなく、単純にユリをさわり倒したいだけらしい。
コイツもしかしてユリに惚れたのか? あり得ないことでもねえな。
人間の弱さに嫌気がさして魔物になった奴ってのはすぐ性質が変わって人間だった頃の感覚なんて失くしちまう。
だが根源的な欲求や感情ってのだけは残るもんだ。
ゴルベーザ様って器を脱して“雌”になったユリを見て、敬意と忠誠が恋慕と欲情に入れ替わったんだろう。
……で、俺はいつまでこれを眺めてなきゃならないんだ?
ユリが助けを求めるように必死の視線を送ってくるが、もう面倒だから立ち去ってもいいよな。
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