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🔖真実



 巨人内部は大変なことになっていた。
 とにかく強い敵が山ほどいる。しかも機械ばかりなので説得して仲間にできない。
 もっと恐ろしいのは巨人の動きだ。少し歩くたびに体内では大地震が起こる。戦闘どころじゃない。
 制御システムへ向かう前に、まずは動きを止めなくては。

「道中の敵は無視して脚部を破壊してください。ベイガンさんはあまり揺れない腰の辺り担当で」
「お気遣いをありがとうございます……」
 真っ青な顔をしつつも気丈に微笑み、ベイガンさんが元バロン兵を引き連れて部位破壊に向かう。
「メーガス姉妹は両肩の間接に攻撃を」
「ユリ様!」
「我々に!」
「おまかせあれ!!」

 あちこちに蔓延る雑魚モンスターは四天王配下の物量作戦で片づけるとして、頭部も破壊したい。放っとくと目や口からビームを出しそうだ。
 人手が足りないので四天王を一人向かわせるしかないかと辺りを見回していたら、まさかのエブラーナ夫妻がそこにいた。

「エブラーナは間近だ。我々も国を守るために戦おう」
「頭部の破壊は私たちにお任せください」
「うぅ、正直ありがたいけど……」
 未だ力が安定していない彼らには荷が勝ちすぎる。増援をあげたいところだ。
「カインさん、すみませんが彼らを手伝ってください。頭部には強力な兵器が搭載されている可能性があります」
「任せろ」

 よし、あとは心臓部に直行して制御システムを破壊するだけだ。ゴルベーザさんの魔法と四天王が揃っていれば苦戦しても負けはしないだろう。
 そう思っていた時期が私にもありました。
 想定外にレーザーが痛い!

「何だぁ? 凄まじい勢いで回復しやがるぜ」
「魔法が通りにくいわね」
「どうやら本体がリフレクをかけているようだ」
「あの両脇の球体を先に倒した方がよさそうだな」
 ここはちゃんと考えて戦わないと全滅必至。しかもリメイクのたびに仕様が変わると従姉が嘆いていたのを思い出す。

 そう、確か……。
「防衛システムを先に叩かないと制御システムを回復される、しかしそれは孔明の罠」
「……つまり、どうしろというんだ?」
「これがSFC版なのかDS版なのかによって攻略法は変わります」
「私たちに理解できる言葉で言いなさい」
「簡単に言うと、よく分かりません」
 振り向いたバルバリシアさんとカイナッツォさんがとても怒っている。
「ひっぱたいていいわよね?」
「気持ちは分かるが後にしとけよ」
 理不尽じゃないですか。

 制御システムはリフレクを唱えるだけで無害。しかし回復力の高い防衛システムに守られているため手が出せない。
 ならばと先に防衛システムを倒そうとしても迎撃システムのレーザーが恐ろしい。
 そしてもし防衛・迎撃を先に倒してしまったら、制御システムが必殺の強攻撃を繰り出してきたうえに両システムを復活させてしまう。
「わーん、無理だよ! セシル早く来て!!」
「ゴルベーザ!?」
「おい、なんであいつらが戦ってんだ?」
 き、来たー! なんてタイミング、さすがヒーローはピンチに必ず駆けつけてくれる。これで勝てるぞ。

「ルビカンテさん、レーザーを引き受けられますか?」
「そうだな、いくつかは無効化できそうだ」
「お願いします。ローザ、防衛システムにスロウと仲間にヘイストを! まず迎撃システムを倒して次に制御システムを破壊します!」
 いきなりの共闘に躊躇うセシルたちを、同行の老人が諫めてくれる。
「お主らの疑問は後回しだ。ここは協力して戦おう。くれぐれも制御システムだけを残してはならんぞ」

 絶え間なく飛んでくるレーザーはルビカンテさんが無効化、消し損ねた分はセシルが盾で防ぐ。
 その隙にヘイストで強化されたスカルミリョーネさんやエッジたち前衛が迎撃システムを叩いた。
「リディアはバハムートの召喚に専念して、回復の手が足りなければシルフを」
「それは私が請け負うわ」
 なんとバルバリシアさんがシルフを召喚した。
 彼女は元人間の召喚士なんかじゃなくて生まれつき魔物のはずだけれど、四天王の出自って謎だ。

 ともかくこれで攻撃しながら回復できる。召喚に加えて私と老人のメテオ、そしてカイナッツォさんの魔法で制御システムを攻撃する。
 迎撃システムが崩壊したあとは早かった。ローザも弓で攻撃に加わり、十人がかりで制御システムと防衛システムを流れるように破壊する。
「……こんなのゼムス一人で作れるわけない。絶対、他の意図があって月の民が作ったんだ……」
 兜越しに睨みつけるとセシルの背後にいた老人が身を強張らせた。……青き星の破壊と侵略を企んだのは、本当にゼムスだけなの?

 戦闘を終え、荒い息を整えながら最初に疑問を発したのはセシルだった。
「なぜ戦ってるんだ? 巨人を呼んだのはお前じゃないのか?」
「次元エレベーターを起動したら問答無用で出てきたんです。私の意思ではありません。こんなの野放しにしたら私の仲間まで滅びてしまう」
「仲間……魔物たちのことか」

 制御システムを破壊したので、じきに崩壊が始まるだろう。私は四天王を振り返り、各部位の破壊を行っていた皆を連れて脱出するようにお願いした。
「ゴルベーザ様……いや、ユリはどうするつもりだ」
「私はセシルたちに話があるので」
「分かった。では我々は先に月へ向かっている。ゼムスへの道を切り開いておくとしよう」
 あー、ベイガンさんは休ませてあげてほしいです、と言う間もなく四天王は巨人の各部に向かってしまった。

 さて、のんびりしてる場合ではないけれどセシルたちの頭は疑念と不審でいっぱいだ。話をしなければ。
 眠りにつかず青き星を見守っている唯一の月の民であり、ゴルベーザさんとセシルの伯父である老人に向き直る。
「えっと、お名前を教えていただきたいんですが」
 従姉がクラゲとかモップとか目玉焼きとしか呼ばないから本名を忘れた。
「私は月の民フースーヤ。お主、なぜその体にいるのだ」
「フースーヤさん。その前に“ゴルベーザ”の素性から説明すべきでしょう」
 重々しく頷き、フースーヤはセシルに語りかけた。

「お主の父、クルーヤには二人の息子がいたと言ったであろう。そのもう一人が」
「まさか!」
「それじゃあゴルベーザは、セシルの……」
「お兄さんなの?」
「マジかよ!」
 以前は、こうなる前に彼やクルーヤがゴルベーザさんを助けられなかったのかと苦く思う気持ちもあった。
 でもセシルに向ける愛情と悔恨の念を見ると、彼もできる限りのことはやろうとしたのだろう。したけれど、叶わなかったんだ。ならば責めはしない。

 セシルは自分とゴルベーザさんの関係を知った。次は私の番だ。
「あなたが戦っていた“私”は、ゴルベーザではない。私はユリ。異世界からやって来た人間です」
「異世界? 幻界のようなもの?」
 眉をひそめて尋ねるリディアに首を振り、「もっと遠いところだ」と答える。

「ゴルベーザさんは幼い弟をゼムスから守るために自分の精神を差し出した。やがて支配に抗いきれなくなった彼は、世界を破壊することを恐れ、ゼムスに対抗し得る存在を召喚した」
「それが、お主か」
「私はゼムスの存在と思惑を知っていた。だから“ゴルベーザ”の役を引き受けて戦うことにしたんです」
「クリスタルを集めていたのは、ゼムスを倒すためだと?」

 困惑していたセシルが私を睨み、叫ぶ。
「そんな……それなら、どうして……どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ! こんな風に皆を傷つける必要なんて!」
 それは敵対した方がスムーズに話を進められるからだ。

 べつに彼が傷つく必要はない。悪行を重ねていたのは彼の兄ではなく“ユリ”なのだから。
 そう告げようと口を開いたところで、割り込んできた人影が私を庇うように眼前に立った。
「ゼムスを倒すためにお前の力が必要なんだ、セシル」
「カイン!」
 彼が裏切ったと思っているエッジが刀を構え、それをローザが制する。

「カインさんは私が操って、」
「俺は操られてなどいなかった。自分の意思でユリとゴルベーザに協力していた。そのことの償いはするつもりだ。だが、聞いてくれ」
「ちょっとカインさん」
「お前は黙ってろ、ユリ」
 え、ええー。上司と部下の関係がなくなった途端に強気すぎる。
 まあでも付き合いの長いカインさんが話す方がセシルも落ち着いて聞けるだろうか。

「なあセシル、暗黒騎士だったお前のもとにコイツが現れて今の話を聞かせたとして、お前はゼムスと戦うためにクリスタルを集めたか?」
「それは……」
 無理だろう。私自身もっとうまくやれたのではと思うこともあるし、セシルに事情を打ち明けて協力すべきではと何度も迷った。
 でもそれでうまくいったはずだなんて、既に結果が出たから言える後知恵でしかない。

 私は何としてもセシルを月へ行かせなければならなかった。
 彼に恨まれたり、人間を殺したり、所詮それらは最優先して防ぐべきことじゃなかったんだ。
 悪に染まっても私には為すべきことがあった。にもかかわらずカインさんは私の無罪を勝手にアピールする。

「ユリはお前が兄を憎まなくていいようゴルベーザの役を買って出た」
「カインさん、あの」
「確かにクリスタルを奪うため悪事を働きはしたが、被害が少なくなるよう足掻いてもいた」
「そういうのは自分から言うことじゃないです、」
「ユリは世界を滅ぼすために力を欲していたんじゃない」
「……僕を、導くため……」
 もう勘弁してくださいよ。少なからず犠牲は出ているんだ、私の行いは許されるべきではないのに。

 地面が揺れ、外部で轟音が響くと同時に巨人の崩壊が始まった。
「話が長くなりましたね。フースーヤさん、共に月へ行きましょう。ゼムスを倒さなくては」
「うむ……。すまぬ。これは月の民の問題だというのに、お主を巻き込んでしまったようだ」
「承知の上で引き受けました。今さら放り出したりはしません」

 セシルは呆然と立ち尽くし、彼の仲間たちもなんて声をかけていいか計りかねている様子だ。
「私が多くの人間に害を為したのは事実です。でも、あなたのお兄さんはあなたを守ろうとした。彼を恨まないでください」
「……僕は……」
 私がセシルに背を向けると、フースーヤが慰めるように優しく語る。
「セシルよ、魔導船はお主に託そう。よく考えるがいい」
 よく考えて、そして私を恨めばいい。弟との争いの中にゴルベーザさんの意思がないことだけが重要だ。私の行為を正当化する必要なんてない。


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