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🔖尻尾



 バロン城から撤退し、私とカイナッツォさんは地底にやって来た。セシルの代わりに幻獣の洞窟を攻略してネズミのしっぽを入手するためだ。
 このダンジョンはダメージ床もさることながら雑魚敵がコンフュを多用してきたりと嫌らしい構成になっている。
 正直あまり近づきたい場所ではないけれど、セシルの方もローザ奪還のために磁力の洞窟で頑張っているはずだから、これは一種のご褒美だ。

 魔物にとって聖剣というのは確かに脅威らしい。
 カイナッツォさんいわく、伝説の剣であの嫌さなのだからゼムス討伐にエクスカリバーはもってこいとのこと。
 とはいえエクスカリバーへの道程は攻略方法を知らないセシルが自力で辿り着けるものではない。
 そこで私が代わりにアダマンタイトを入手し、カインさんからセシルに渡してもらうことにしたのだ。

 まずは洞窟内の攻略。罠対策にレビテトをかけて敵にはサイレスを唱えてから全体攻撃……と思っていたら、カイナッツォさんがつなみを連発して一掃してしまった。
 入り口から先、見渡す限りモンスターの姿はない。あとはレビテトをかけて奥まで進むだけだ。
「ずるくないですか」
「面倒がなくていいだろ」
「そ、そうですけど……」
 せっかく気合いを入れたのは何だったのか。虚しい。

 私はRPGによくある「モンスターを狩ってレベル上げ」が、弱い相手を虐殺しているようで苦手なのだけれど、これはこれでどうかと思う。
 あまりに呆気なくて達成感も何もあったもんじゃない。
 まあ無用な戦いを避けられて助かるのも事実ではある。

 しかしつなみの被害だけは気にかかるところだった。
「幻獣の町は大丈夫でしょうか」
「幻獣王がまともなら大丈夫だろうよ」
 リヴァイアサン……海竜の王様ならつなみくらい対処できるかな。そういえば向こうだって船上にあるセシル一行を容赦なく沈めてくださったのだし。
 ある意味、自業自得? いや因果応報というやつかもしれない。敵に放ったつなみは自分に帰ってくるのだ。

 いったい誰が置いたのか謎だけれど、しっぽは洞窟奥の宝箱に安置されていた。
 高そうなクッションの上にちょっと干からびてミイラ化しつつある物体が乗っかっている。あまり触りたくない感じだ。
「ネズミのしっぽって、本当にネズミのしっぽなんですね」
 外見がしっぽに似ているだけで実は鉱石や植物なのではと思っていたら、普通にしっぽだ。

 カイナッツォさんが胡散臭そうに見つめる。
「こんなもんで本当にアダマンタイトと交換できるのかよ」
「世の中にはいろいろなマニアがいますから」
 このしっぽは珍味でもあるというし、コレクションするにもマシな部類じゃないだろうか。私のいた世界にはもっと意味の分からないマニアもいた。
 常人にはちょっと理解できないけれど、それが趣味ってものなのだ。

「じゃあカイナッツォさん、取ってください」
「あ? なんで俺が。お前が持ってけよ」
「……」
 触りたくない、ネズミのしっぽ……。

 結局、宝箱ごと持っていくことにした。誰だか知らないけれど箱に入れておいてくれた人に感謝だ。
 一旦地上に戻ってアダマン島へとテレポする。こう転移魔法を繰り返すとさすがに疲れてくるけれど、カイナッツォさんが手伝ってくれるので安心だった。
 いかに人外魔境の域に達しているとはいえゴルベーザさんも人間、無尽蔵に魔法が使えるわけじゃない。
 できればもうちょっと魔力の底上げをしておきたいとは思うのだけれど、ソーマのしずくは集めるのが大変だし。

 手間隙かけて自分で作るか、バルバリシアさん経由でトーディウィッチに分けてもらうか。
 どっちにしろあれを飲むと私は酔っ払ってしまうから、忙しい今は飲んでる暇がなかったりする。
 しばらく戦闘がない隙を見計らって、がぶ飲みするしかない。
 でも魔力を上げるために酒浸りで二日酔い、というのもなんだかみっともなくて、悩ましいところだ。

 世界の辺境に位置するアダマン島では二人の小人が採掘作業に励んでいる。
 驚かせないようカイナッツォさんには洞窟の外で待っていてもらった。
「こんにちは。こんなところで人を見かけるとは奇遇ですね」
「あら、こんにちは。私はお父さんと世界を冒険してるの。あなたも?」
「はい。洞窟を見かけたんで入ってみたんですが」
 小人さんの片方は女の子、いや女の人? だったようだ。見た目ではよく分からない。

 ゴルベーザさんの背が高すぎて必死に見上げているのが気の毒なので、しゃがんでみたけれどあまり変わらなかった。
「お父さんが変な鉱石を見つけたのよ。すごく頑丈で、聖なる力を秘めてるんですって。ずっとここに籠りっぱなしで嫌になっちゃうわ」
 それにしても小さい……。そういえば近くに小人の村があったっけ。いや、小人とブタとカエルの村だったかな。

「その鉱石を分けてもらうことはできますか?」
「うーん、私は構わないけど、うちのお父さん頑固だから」
 彼女がちらりと目をやった方ではお父さんと思われる小人が一心不乱に鉱石を削り出している。こちらのやり取りには気づいていないようだ。
 私が不審者だったらどうするんだ。娘さんが危ないじゃないか。

 アダマンタイトは伝説上の石だ。鉱山内に強大な魔力が充満している。でもそれを感じ取れない者には価値が理解できないのだ。
 こんな鉱山からはさっさと立ち去りたいらしい娘さんが、私にそっと耳打ちをしてくる。
「あなた、何か珍しい“しっぽ”を持ってない?」
「しっぽですか」
「そう、動物のしっぽ。お父さんはあれに目がないのよ。鉱石と交換してくれるかもしれないわ」
「交渉してみます」

 やりようによってはこの親子は大金持ちだ。いくらマニアとはいえ、たかがネズミのしっぽと本当に交換してもらえるのか少し不安だったけれど。
「あのー」
「なんだ、あっちへ行け! ワシは忙しい!」
「そうですか。しっぽを持ってきたんですが」
「何!?」
 鬼気迫る形相で振り向いた小人のお父さんの目が、私の持つ宝箱を見てキラキラと輝いた。あ、余裕で交換してもらえそう。

「こ、これは探し求めていたネズミのしっぽではないか! しかも極上の熟成具合だ!!」
「その大きな塊と交換でいかがでしょう」
「よかろう、しっぽがもらえるならお前さんにワシが見つけた金属をくれてやる!」
「ありがとうございます」
 満面の笑みで鉱石を渡してくれるお父さんに、ちょっと罪悪感。

 このアダマンタイトを売り捌けばネズミのしっぽなんか山ほど買えそうな気がする。それともしっぽは余程高価なんだろうか?
 熟成具合とか言っていたので、年代物のワインみたいな扱いなのかもしれない。
 もしかして幻獣の洞窟に宝箱を置いたのもどこかのしっぽマニアだったりして。……気づかなかったことにしよう。

「またしっぽを見つけてくれたら、もっといいものをやらんでもないぞ?」
「心に留めておきます」
 アダマンアーマーはどうしようかな。月に行ってからのことになるのでセシルにも私にもしっぽを探してる暇はなさそうだけれど。
 同じプリン系の誼でパープルババロアがピンクのしっぽを持っていないだろうか……。
 まあその辺りは後で考えるとして、上機嫌のお父さんに一礼してその場をあとにする。

 しっぽはしっぽで大切にしまっておきつつ彼は採掘を止めない。そんな父の姿に娘さんが苦笑していた。
 それでも大好物を手に入れて父親が喜んでいるのが自分でも嬉しいのだろう、私にお礼を言って見送ってくれた。
 いい娘さんだなぁ。小人の村はきっといいところに違いない。
 なんといってもストーリーに関係ないところが素敵だ。襲撃しなくて済む。

 アダマンタイトは、鈍色の大きな石だった。名前からしてダイヤモンドの原石的なものだろうか。
 洞窟の外で待っていたカイナッツォさんがつまらなそうに愚痴る。
「最初からあのチビを殺して奪っときゃよかったんじゃねえのか」
「強盗殺人はいけません」
「今更だなァ」
「これはセシルの代理で行ってるので、悪いことはダメです」
 勇者が悪を挫くための剣を『殺してでも うばいとる』のはどうかと思うのだ。

「それじゃ、ゾットの塔に帰りましょう」
 セシルはもうクリスタルを入手しただろうか。
 塔での戦闘が始まる前にモンスターたちをバブイルに移すため、カイナッツォさんとスカルミリョーネさんに連続転移魔法をお願いしなくてはいけない。
 それを察してカイナッツォさんが長く大きなため息を吐いた。
 ……そういえば自由行動が全然できてない。すみません、もうちょっとだけ辛抱してください。


🔖


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