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🔖憤怒



 海で拾ったモンク僧に鍵を持たせたお陰で、セシルたちはすぐに城までやって来た。
 準備はできている。あとはさっさと終わらせるだけだ。

 ベイガンたちとの戦いを終えたセシルが玉座の間に転がり込む。
「おお、戻ったかセシルよ。逞しくなったなァ? 負の力を御しきれず、パラディンに逃げるとは情けない限りだが」
 さすがは兄弟、闇の影響に弱いところまでそっくりってわけだ。それでいて自分を失う寸前に力を振り絞り抗ってみせるところもな。

 敬愛していた王の姿に動揺を見せつつも、セシルは剣を抜き放った。
「陛下……いや、ゴルベーザに屈した者よ。お前の暴虐もここまでだ!」
 無意味な負け戦だってのにわざわざ真正面から向き合うなんぞ、めんどくせえ。
 俺はスカルミリョーネのように無様な真似はしない。引き際を見誤ってユリに助けられるなんてことはな。

 セシルの横にはモンク僧と、試練の山で加わった賢者にミシディアの双子がついている。……ん? 飛空艇技師の爺がいねえな。
 雑魚はまとめて片づけるのもいいかと思ったんだが、仕方ない。
「試練を乗り越えた褒美に教えてやろう。俺はゴルベーザ四天王、水のカイナッツォ」
 玉座から立ち上がり、変身術を解く。見知った姿が変貌してゆくのをセシルは食い入るように見つめた。

「貴様……貴様が陛下を……!」
「そうだ。俺が成り代わっていたんだ。お前はさっぱり気づかなかったがなァ!」
「くっ……」
 なかなかいい表情をする。セシルの中には未だ闇が燻っていた。いずれまた暗黒の道へと堕ちるかもしれん。

「奴は最後まで『この国は渡さん』と吐かしていたぜ? よかったじゃないかセシル、お前に暴虐を振るえと命じていたのは、大事な大事な陛下じゃなかったのさ。なんせ奴はとっくの昔にくたばってたんだからなァ。クカカカカ!」
「貴様ァァッ!!」
「おっとぉ」
 やれやれ、最近の若い奴はキレやすくていけねえ。

 透明化の魔法を発動し、奴らの背後にまわる。殺気立って俺の姿を探すセシルの腕に双子の片割れが縋り、賢者と共に叱りつけた。
「セシルさん!」
「冷静になるんじゃ、それではパラディンの力を発揮できぬぞ!」
 そうだそうだ。落ち着いて聖剣の力をうまく引き出せれば俺の姿も見えるかもしれんがな。
 この魔法は視覚どころか聴覚や嗅覚まで欺ける。気配さえ察知できないのに、やみくもに探したって見つからんのだ。

「どこだ、カイナッツォ!」
「てめえの後ろだよ」
 俺がそう言うとセシルは振り向き様に剣を振るう。が、当然そこに俺はいない。
「馬鹿か、お前は。正直に言うわけねえだろうが」
「ふ、ふざけるな! 出てきて僕と戦え!!」
 正々堂々と、ってか。生憎と俺の信条じゃねえんだなァ。聖剣使いのパラディンに馬鹿力のモンク、魔道士三人も相手に馬鹿真面目に戦う理由があるかよ。
「どうせこの国は用済みだからくれてやる。俺はさっさと土のクリスタルを奪いに行かせてもらうぜ」
 ……なんてな。ゾットに帰るだけだが、こう言っときゃ奴らはトロイアを目指すだろう。

 どうやらシドが牢を脱出したようだ。気配が近づいている。すぐに合流するだろう。
 怒り狂っているセシルを残して俺はさっさと玉座の間を後にした。

 城外へ続く廊下にデモンズウォールの呪いをかける。奴らが出ようとすればドアは閉まり、テレポも封じられ両側からじわじわと壁が迫ってくる手筈だ。
 さて、どうやって逃れるか見物だな。
 攻撃魔法は封じてないから壁をぶち壊せば出られるが、下手すりゃ城が崩れちまうかもしれん。
 “悪逆非道のバロン王国”にはそれも相応しかろう。

 しばらく塔の上から様子を見ていると城の一部が揺れ始め、僅かな間を置いておさまった。
 賢者がついてたんじゃあ、すぐに対処されちまったか。それにしては壁を壊すような音もしなかったが。
 セシルたちは数十分もしてからようやく出てきた。せっかく戦わずに済ませてやったのに何をちんたらやっていたのやら。

 消沈した様子のセシルとモンクに、賢者とシド。
 双子の魔道士がいない。賢者を潰しておきたかったが失敗したぜ。ガキが二人消えたところで意味はねえな。
 隠していた飛空艇を取りに行くのだろう、セシルたちは竜騎士団の本部へ向かって駆けていった。その姿が見えなくなるのを確認して先程の廊下へ転移する。
「お疲れさまです、カイナッツォさん」
「おう……」
 なぜかユリがいた。スカルミリョーネのように途中で逃がすつもりで来たのか? 俺はまともに戦う気はないと言ってあっただろ。

 ユリの横ではあの双子が石と化して壁を食い止めていた。自分でブレイクをかけたようだ。
 くだらん自己犠牲を発揮するくらいならあのデカブツのモンク僧でも石化させておけばよかったのになァ。
 他人を傷つけることに躊躇する、人間様の美徳ってやつか。

 この展開も承知の上だったらしくユリに動揺は見られない。
「これ、あとで生きてることが分かるんですけど、どうやって治療するんでしょうね」
「あー。ブレイクを唱えてる状態で固まってるんなら、精神支配の応用で呪文を止めさせればエスナが効くようになるんじゃねえか?」
 適当にそう言うと、ユリは早速双子の精神を探っていた。

「なるほど……“石化する意思”を変えてやれば治癒できるんですね」
 ミシディアの長老辺りならそのうち元に戻す方法を見つけるだろう。できなきゃコイツらは無駄死にだ。
「とはいえ生身に戻った途端にまた壁が動き出すんだけどな」
「じゃあデモンズウォールの呪いは解いておきます」
「あ、てめぇ何すんだよ!」
「ミシディアから無用な恨みは買いたくないので」
 ……確かに奴らは執念深くて面倒だ。クリスタルの件はともかく、この魔道士どもの死まで恨まれたら鬱陶しい。

「チッ。どうせコイツらには生かす価値も殺す価値もねえからいいけどよ」
「未来ある若者にそんな言い方しちゃダメですよ」
「その未来ある若者はミシディアで育てられるんだぞ?」
「……いや、ああいう大人になるとは限らないですし!」
 でも迷っただろ、今。

 ユリはセシルの様子を見ていたようだ。怒りに惑わされてパラディンの力を使いこなせていないことを心配していた。
 しかし問題はない。パラディンなんぞ力も魔力も暗黒騎士より弱いが、聖なる剣が使えるってだけで充分に利点がある。
「そのうちパラディンらしくなるだろ。何よりあの剣があるしな」
「聖剣ですもんね。しかも“伝説の剣”だし」
 正直言って聖剣を扱えるのがパラディン唯一の強味なんだよなあ。俺も苦手だが、闇に属する魔物には最強最悪の武器だ。

 伝説の剣と言えば、とユリが手を打った。
「ミシディアの伝承のことなんですが」
「ああ? 竜の口より生まれし……ってヤツか。お前の話から察するに、青き星が育ったら月の民を迎えに来いって意味なんだろ?」
「……あ、そういう意味だったんですね。天高く舞い上がり、は魔導船のこと……なるほど」
 って分かってたんじゃねえのかよ。ほんと、ユリの記憶はあてにしていいのか悪いのか微妙だな。

 伝説の剣は、セシルがパラディンになった時に授けられたものらしい。明らかに異質なエネルギーを秘めていた。
「なんで試練の山にあんな剣が眠ってたんだ? 月の遺産ならバブイルかゾットにありそうなもんだろ」
「祠の光はセシルのお父さんなので、元は彼の持ち物だったんでしょう。伝承と照らし合わせれば彼が“来るべき日”に月の民を迎えに行く役目を負ってたのかも」
「えらい爆弾発言だな、オイ」

 月の民は青き星を第二の故郷にすべく人類の成長を待ちながら眠りについているという。
 そうだな。考えてみればゴルベーザ様とセシルがここにいるんだから、他にも降りて来た月の民がいたわけだ。
 で、そいつはセシルの父親で試練の山にいてパラディンの試練を授ける役割を負っていた、と。
 ……反則くせえ話だと思ったが、ユリもちょうどそう考えていたらしい。
「試験官が父親ってちょっとずるいですよね。しかも試練を通った理由が兄であるゴルベーザを倒すため。そもそも月の民以外はパラディンにしてもらえないのでは?」
「あり得るな。もしそうならルビカンテはとんだ徒労だったわけだ」
「……なんでそこにルビカンテさんが出てくるんですか」
 思わず言ってからユリの怪訝そうな顔に気づく。コイツは知らないんだったか。

 さて、次はトロイアのクリスタルだが、磁力の洞窟は攻略が面倒なんでセシルに取りに行かせてローザと交換することになっている。
 つまりしばらく暇ができたわけだが、ユリは俺を休ませるつもりなどないらしい。

「一緒に幻獣の洞窟に来てください。伝説の剣を強化するアイテムが欲しいんです」
「あれをまだ強化するってのかよ。んなこたぁセシル本人にやらせとけ」
 パラディンになる時に聖剣を授けられたならそのアイテムとやらも“物語”の流れで手に入るようになってんだろう。
 と言うとユリは「エクスカリバーは隠しアイテムだ」と食い下がる。

「幻獣の洞窟で“ネズミのしっぽ”を手に入れるとアダマンタイトと交換できて、それを伝説の剣と一緒にドワーフの鍛冶屋に預けると強化されて返ってくるシステムです」
「めんどくせえな!」
 ゴルベーザ様から世界を守ろうとしてるって時にセシルがわざわざそんなことを試してみるとは思えない。十中八九、気づかんだろう。
 じゃあ俺たちが補助しなきゃならんってことだ。

 ……いやしかし、なんで俺たちが“主人公”のために奔走しなきゃならねえんだ。
「その剣はどうしても必要なのか?」
「エクスカリバーの攻撃力は伝説の剣の三倍です」
「……」
 逆に言うと、それを持ってなけりゃ三分の一に落ちた攻撃力でゼムス様に立ち向かわなきゃならないってことだな。

「月ではもっと強い剣も手に入りますけど、あれはダークバハムートが守ってるし」
「そんなことはよく覚えてんだな」
「レアアイテム集めは私も従姉に手伝わされてたので……ピンクのしっぽとか……」
「あー、よく分からんがご苦労さん」
 万が一にもセシルがゼムス様に負けたら今までやってきたことが水の泡になる。すこぶる面倒だが、手伝ってやるしかなさそうだ。

 とはいえ敵の手助けばかりするのも癪に障る。俺はユリにささやかな復讐をしておくことにした。
「ところでな、コイツら意識はあるからこの会話も聞こえてると思うぜ」
「……え?」
 しばらく固まっていたユリが双子の石像を慌てて見やる。

「も、もっと早く教えてくださいよ! いろいろ言っちゃったじゃないですか!」
「聞かれてもないことは言わねえよなァ」
「わざとらしいな!」
 どうせコイツらが復活するのは終盤だというし、別に構わんだろうよ。そう笑えばユリは頭を抱えてため息を吐いた。


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