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🔖面倒
残る地上のクリスタルはトロイアに安置されている土のクリスタルだけだ。
随分と先に進んだ気がするけれど、セシルが未だパラディンになっていないことを考えると、まだ序盤もいいところなんだとガックリきてしまう。
とりあえず手元にあるクリスタルのエネルギーを使って封印されていたバブイルの塔を抉じ開けた。
次元エレベーターの起動こそできないものの、地底には行けるようになったのでルビカンテさんが主導して攻略を進めている。
「そちらの進捗はどうですか?」
「二つのクリスタルは在処が分かった。しかしドワーフがよく守っている」
ファブールで暴れられず不満そうにしていたルビカンテさんだけれど、望み通りの強敵を見つけて機嫌は直ったようだ。
私たちが地底に降りて闇のクリスタルを探し始めると、ドワーフの反応は早かった。すぐに戦車隊を編成して攻め寄せてきたのだ。
クリスタルを奉っているだけの地上世界に比べると、ドワーフたちはそのエネルギーの塊をきちんと隠して守ろうとしている。
転移もできるようになったことだし、飛空艇を地底に送り込もうかな。それで戦車に対抗できるだろう。
地底は溶岩だらけで木製の飛空艇は航行が困難かもしれないけれど、火を操るルビカンテさんがいれば問題はないはずだ。
再度地底に向かったルビカンテさんを見送り、空からこっそりセシルの行動を見張っているバルバリシアさんを呼び出した。
私がローザを攫ってからセシル一行は船でバロンを目指していたらしい。理由はよく分からない。
もしかして「追ってこい」と言ったから馬鹿正直にバロン城でゴルベーザと会うつもりだったんだろうか?
いや……先手を打って土のクリスタルを守ろうという結論に達してほしかったんだけどな……。いきなり敵の本拠地に乗り込んでどうするんだ。
それはともかく先日、セシルを乗せた船が海上で幻獣リヴァイアサンに襲われたそうだ。
リヴァイアサンの目的はリディアだけだったらしく、海に投げ出されたセシルをカイナッツォさんが配下を使ってミシディア付近に運んでくれた。
やっとパラディンになるための試練を受けられる。追試など食らわないよう祈るばかりだ。セシルには早くここへ来てほしい。
「で、彼はどうしてますか?」
「ミシディアの魔道士どもに責め立てられていたわ。罵倒に加えてトードやポーキーをかけられたり毒を盛られたりと散々よ」
「八つ当たりじゃないですか。しかも陰湿」
そもそもミシディア住民を苦しめたのはセシルじゃなく私の連続魔法サイトロなのだけれど、それは置いておくとして。
クリスタルを守れなかったのは自分たちの責任なのに、セシルが弱者になった途端に嫌がらせに走るなんて性格悪いと思う。
まるでカイナッツォさんのようだ。
執念深そうだからミシディアの人たちはなるべく敵にまわさないでおこう。
村で散々な目に遭いつつもセシルはミシディアの長老に会いに行った。バロンを目指していたのならデビルロードを開いてもらおうとしたのかもしれない。
その後、セシルは二人の子供を引き連れて祈りの館から出てきたという。
「子供……あの双子の魔道士ですね。カイナッツォさんが石にしてしまう二人」
「カイナッツォは石化の魔法など使えないわよ?」
「そうでしたっけ。あ、そうか、あれは自分の意思で石化してるんでした」
カイナッツォさんは執念深くも死んだあとに城の壁を動かしてセシルたちを押し潰そうとする。それを止めるために双子が犠牲になるんだった。
石化の回復アイテムである金の針を使っても「自分の意思で石化してるから効果がない」みたいなメッセージが出て。懐かしい。
自分の意思で石になるって、もしかしてダジャレだろうか?
ついでにカイポで臥せっていたローザに従姉がダイエットフードを与えていたというすごくどうでもいいことまで思い出した。
なんにせよ、双子を引き連れているならセシルはもう試練の山へ向かうだろう。私も準備をしなくては。
今後しばらくはセシルを見張る必要もないので、バルバリシアさんには念のためセシルの仲間の安否を確認してもらうことにする。
そして私はスカルミリョーネさんのもとを訪ねた。
彼には対セシル戦のために英気を養ってもらっていた。……のだけれど、ローザの世話をしてるのであまり休めてないかもしれない。
今はちょうどご飯を持っていくところだったようだ。カインさんも一緒にいた。気になるなら自分で世話すればいいのに、顔を合わせにくいらしい。
「ローザの様子はどんな感じですか?」
「恙無く過ごしている。むしろ待遇が良すぎて不審がっているようだな」
スカルミリョーネさんの目が「なんで私が面倒を見なきゃいけないんだ」と訴えてきたけれど気づかなかったふりをする。
転移魔法で逃げられても困るので、ローザは魔封じの呪いをかけた部屋に閉じ込めている。実はそこは私及びゴルベーザさんの部屋なのだけれど。
なんといってもトイレ付の部屋がそこしかなかったのだ。なのでローザがいる間、私は主にバロン城で過ごしている。連絡が不便で困っている。
それからローザには一日おきで入浴の許可を出していた。本当は毎日許可してあげたいけれどそこまでの自由を与えるには面倒が多い。
部屋から出すためサイレスをかけ、部屋と風呂場の往復にはメーガス姉妹が付き添って監視する。
食事のこともあるし、気晴らしに本とかも読みたいだろうし、ローザのそばには常に誰かをつけておかなくてはいけないし、なかなか大変だ。
こういう事情もあって、セシルには本当にさっさとトロイアへ向かってクリスタルを手に入れてほしい。
ローザを解放するために。
というかローザを逃がして、私たちが彼女の世話から解放されるために。
その第一歩としてセシルがパラディンになるのを見届ける。
勝手に行動させてもいいけれど、やはり「クリスタルを守らねば!」という気概を持たせるにちょくちょく顔を出して邪魔しておくべきだろう。
「それじゃあスカルミリョーネさん、そろそろ試練の山へ行きましょう」
早速テレポの準備に入るスカルミリョーネさんの横で、カインさんが不満そうに言った。
「セシルと戦うなら俺が行く」
「えぇー……」
カインさんはどうやら「セシルが俺に負けるはずがない」「俺に倒されるような男にローザは渡せない」という複雑な感情を抱えているらしい。
「今回はちょっかい出すだけなので、真っ向から戦う必要はないんですよ」
「あいつを侮るな。暗黒騎士だからと油断しては四天王といえども……」
「大丈夫、スカルミリョーネさんはどうせ勝てませんから」
「……おい。なんて言い種だ」
「いや違うんです、スカルミリョーネさんが弱いという意味じゃなく、ここで勝つ必要はないってことです」
言葉選びを間違って焦りつつ、念を押す。
「ちゃんと途中で逃げてくれますよね?」
「分かっている。まだやることがあるのだからな……」
腑に落ちない顔をしつつもスカルミリョーネさんは試練の山へと転移していった。
残ったのはカインさんとローザのご飯。
「じゃあ、カインさんはそれをローザのところに持って行ってあげてください」
「え」
「私も念のため試練の山に行きます。カインさん、頑張ってくださいね」
略奪愛でも私は応援しますよと言ったら顔を赤ではなく青に染めてぶんぶんと首を振る。なぜだろう。今ってチャンスだと思うのだけれど。
事情を全部ローザに話して仲間になるよう説得してもいいと言ってある。セシルと離れているこの隙にローザを口説くこともできるはずだ。
そりゃあローザはすごく一途にセシルを想っているけれど、カインさんのことだって大切にしてくれているし。
好意を持たれているならそれを恋愛感情にすり替えるのは結構簡単なことだ。
でも、彼にはその気がないらしい。
「放っておいてくれ。この感情には……自分で片をつける」
「そうですか。まあ慌てず気楽に頑張ってください」
セシルを不幸にしたいわけではないけれど、カインさんだって充分いい男なんだから遠慮して身を引かなくてもいいのに。
そんなことを考えながら私もテレポを唱えた。
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