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🔖トール・ストーリー



 まだ私の家族が健在だった頃、親父の弟分だったやつがいる。
 たぶん本当の兄弟ではないし本名も知らないけれど、私たち若者組はおじさんとかおっさんとか呼んでいた。

 おっさんが「そっちはヤバイ」と言えば必ず凶暴なモンスターの群れがいて、おっさんが「これは掘り出しモンだ」と言った品は必ず数日後に高値で売れる。そういう人物だ。
 べつに戦闘能力が優れてるとか、鋭い鑑定眼を持ってるわけじゃない。単に異様なほど勘が働くやつだった。
 その勘を頼りに日の当たる場所で商売をするつもりなど、おっさんにはなかったけれど。

 私は彼の言葉を心に刻んでいる。
『人間が最も美しく輝く時、それは争いにおいてのみなのだ』
 じきに争いに満ちた世の中がやって来るだろう。その日を見据えて、わしはコロシアムを作るぞ!
 そう言っておっさんは私たちのもとを飛び出していった。


 サウスフィガロでマッシュたちと別れて再び船に乗った私は、大陸の北にある竜の首を目指した。
 おっさんはそこでコロシアムの建設作業を続けている。といっても本人は体力のない普通のおっさんだから土木工事なんかできないし、同類の変人を雇ってという話だけれど。
 始めは何もない荒れ地だった。人が来ないので凶悪なモンスターが増え、余計に人が来なくなる僻地だった。そこに今はコロシアムの土台が腰を据えている。
 ゆっくりと着実に、おっさんの野望が姿を現しつつある。

 未だ“頭のおかしな男が変なものを作っている”といった具合ではあるものの、この噂は少しずつ広がっている。
 無事に工事が完了して争いに満ちた世の中が訪れた時には、すでに世界中の無法者がコロシアムの存在を知っているはずだ。
 似たような“勘”を持っている私はおっさんの先見の明ってやつを信頼していた。そして今回の戦争は帝国が勝つと確信している。
 リターナーが勝ったって、争いに満ちた世の中は来ないだろうから。

「ねーおっさん、しばらく私を雇ってよ。力仕事以外なら何でもするからさ〜」
「ここには力仕事しかないんじゃ! お前なんぞ役に立たんわ」
 ああ、それはごもっとも。今現在おっさんが必要としてるのは物言わぬ筋肉なのだった。まだ私の出る幕じゃない。
 いっそのことマッシュをリターナーから引き抜いて連れて来ればよかったかな。

 しかし、金は貸さんがコロシアム完成後なら仕事があるぞとおっさんは言う。
「強力な武具を見つけたら持って来い。景品に使えそうなら買い取ってやる」
 いや私も今は先立つものが必要なわけで、何ヶ月後になるかも分からんコロシアムの完成まで待ってられないんですよ。
 とはいえ後々の就職先を確保しておけるのはありがたいな。


 コロシアムってのはそもそも三闘神の降臨以前にあったという闘技場のことだ。おっさんは血沸き肉躍るそのお祭り騒ぎを現代に蘇らせようとしている。
 まず、強者たちは伝説級の剣や鎧を持参してコロシアムを訪れ、その武具を担保としておっさんに預けることになる。
 そして武具のランクに応じて登録されている様々な相手と戦うんだ。
 勝てば敵の強さに応じたアイテムを獲得できる。負ければ賭けたアイテムを没収される。まさに争いのための争いって感じ。

 本来のコロシアムとは違うシステムだ。でもおっさんの勘を持ってすれば元手要らずでたっぷり儲けられることだろう。
 尤も当人は金より争う人々を眺めること自体が好きらしいけれど。

 私はそこまで腕に覚えもないので、実際にコロシアムの運営が始まっても参加登録はしない。
 ただ景品補充の手助けくらいはしてやるつもりだ。泥棒稼業を続けながらでも請け負えるし。
「強力な武具か。戦争が激化したら需要も供給も増えそう」
「そしてワシの老後も安泰じゃ。荒くれものは力に惹きつけられるからなあ。ひっひっひっ!」
「悪者の笑い方すんな」
 どんな世の中でも生き抜く意思があれば生きていけるもんだよね。おっさんを見てるとつくづく思う。


 本気で雇ってもらえると考えていたわけでもないので早々に竜の首を去ることにする。
 久しぶりに家族の顔を見たくなったのはマッシュの影響だったかもしれない。あいつが、帰る家がどうのこうの言うから。
 私にとって重要なのは家ではなく人間だった。拠点となる場所がなくても大事な人がどっかで強かに生きていてくれれば安心するんだ。
 うっかり野垂れ死ぬようなやつでもないけれど、おっさんの相変わらずな姿を実際にこの目で見るとやっぱりホッとした。

 じゃあ、これからどうしようかな。
 ジドールやアルブルグの豪邸は警備が厳重だし、狙うとしたらマランダ辺りか。
 あの町はそこそこ小金を溜め込んだ中流階級の人間が多いし、ベクタとも離れているから危険性はそんなに高くない。
 というわけでコロシアム予定地を去り、南へと足を向ける。

 砂漠にフィガロ城の影が見えないことに胸を撫で下ろしつつ、チョコボを借りるためコーリンゲン村に立ち寄った。
 えー、なんかすごいボロボロに破壊された家があるんだけど。
 まさか帝国はナルシェと同時進行で西方にも手を伸ばしているとか? ジドールが占領されたら困っちゃうな。金を稼ぐ場所が減ってしまう。
 そう考えるとおっさんには悪いけれど戦争もほどほどにしてほしい。

 軽く食事をとるため酒場に入る。そこで、真っ黒装束の男と犬を見つけてしまった。
「わ〜。アサシンのシャドウさんだぁ」
「……」
 歓迎されてない空気をあえて読まず、隣に腰かける。
「あのさ、ちょっと身の上話をするね」
 返事はなし。まあ勝手に語るので聞いてなくてもいい。
 私はもう確信を抱いているし、この話の反応で“クライド”の本音も分かるだろう。



「十年ちょっと前に私が世話になってた強盗団はね、私が加わった時には十数人いたけど、最初はリーダーと相棒の二人組だったんだって」
 当時のドマ鉄道は警備も甘くて、ジドール銀行に金を運ぶ時期を見計らえば少人数でも莫大な金を簡単に奪うことができた。
 でも稼ぎが100万ギルに達した頃からさすがに警戒されるようになって、事前調査や見張りやなんやと役割分担するために他のメンバーを加えることになった。

 覆面で表情が隠されているので聞いているのかどうかよく分からない。しかし耳を傾けている気配はあった。
「前にも言ったけど私は上の人らと会話もしたことないような新米だった。でも強盗団最後の仕事には関わってたよ。先発部隊が警備を蹴散らしたあとに合流する後詰めでね」
 あれは大きな仕事だった。うまくはまれば山分けしても一人につき100万ギル近く手にすることになっただろうに。
 だけど、いや、だからこそ、相手が悪かった。

 南の国境を走る鉄道……。いつものように、ドマ王国の金をジドール行きの船に乗せるため港へ向かう列車だと思っていた。
 銀行が襲撃を警戒する様子もあった。そこに金があることは誰もが確信していたんだ。
 金は、確かに積まれていた。でも他の物も乗っていた。入念に調査したのに気づけなかった。
 列車に乗っていたのはサムライではなくガストラ帝国のサージェントだった。
 その積み荷は、ドマから運ばれる金を隠れ蓑にした帝国の機械兵器だった。

「私は列車が速度を落とすのを待って飛び乗る手筈だった。でもターゲットは、想定外の速度で私の前を通りすぎていった。それから線路沿いに遡って……襲撃地点の少し手前で、瀕死のビリーを見つけたんだ」
 作戦は大失敗だった。マヌケどもを出し抜くつもりでいた“列車強盗団シャドウ”は帝国の精鋭兵を相手に壊滅的な打撃を受けた。
 列車に乗り込んでいたメンバーのうち、辛うじて生きていたのはビリーだけ。残りは列車の窓から無惨な姿で放り出されて線路脇で獣の餌になった。


 私がシャドウに加わったのは12歳の時、家族がバラバラになって以来その日暮らしで適当に食い繋いでいた時分だ。
 ほんの短い間だけれど、特にビリーにはいろんなことを教わったし、何より安定した収入を与えてくれたので感謝している。
 つまるところ、口に出すのは恥ずかしいけれど彼らは私にとって大切な仲間だったんだ。だから……。
「動けない仲間を放置して一人で逃げたクライドという男を、ずっと探してた」

 覆面の奥に深青の瞳が、シャドウはじっと私を見つめていた。
「そいつを見つけてどうする」
「決まってんでしょ。裏切りの報いを、」
 受けさせてやるのだと言い終える寸前、背中に何かがぶつかってきた。
「ユリ!!」
「ふんぎゃっ」
 ちょっと今すごく大事なところなのに誰だよチクショウと振り返る。
「何しやがっ、ガウ……!?」
 ナルシェに行ったはずだったの少年がどうしてここに。慌てて辺りを見渡したけれど幸いにもマッシュとカイエンの姿はなかった。

 ……なんでガウがコーリンゲンにいんの?


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