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🔖会議



 ゼムスの目的が人間を滅ぼしてモンスターの楽園を築くことなら、あるいは協力したかもしれない。
 でもそうじゃない。ラスボスの目的は“すべてを憎む”ことだから、このままゼムスの描くシナリオに乗るわけにはいかなかった。

「ゲーム通りに進めるとゴルベーザ四天王は主人公に倒されることになります。私はそれを避けたい。こうして出会った人が死ぬのを黙って見過ごせません」
 ちらりとルビカンテさんの方を見る。感情の窺い知れない青い炎が目の中に躍る。
「……主人公との戦いから逃げましょう」

 ゼムスには従わない。四天王も見捨てない。
 ゴルベーザさんが使命を放棄して体ごと逃げなかったのは、彼らをゼムスの元に放り出したくなかったからじゃないのか。
 私を呼んだのは、ゼムスに逆らえない己の代わりに“仲間”を守らせるため。真実が分からない現状、私はそう考える。

 しかし、やはりルビカンテさんは逃げることに賛同してくれなかった。
「それがお前の結論ならば、私は従わない」
 炎のマントが翻り、彼はテレポートで消えてしまった。

 ゲームの敵キャラが主人公との戦いに勝つのは至難の業だ。だって、そもそもストーリーは主人公が勝つように作られているのだから。
 生き延びたければ逃げるしかない。でもそれをルビカンテさんに納得させられるだろうか?
 よく知らないけどたぶん「逃げるくらいなら死んだ方がマシだ」とか言いそうな人だ。

「ま、あいつのことは後で考えようぜ」
「でも……」
「本気で相容れぬつもりならばゴルベーザ様が去られた時点で離反している」
 カイナッツォさんとスカルミリョーネさんに宥められる。
「あの男は確かに全身筋肉でできているけれど多少なりとも脳みそが残ってればどうすべきかは自分で気づくわよ」
 バルバリシアさんもフォローしてくれた。……フォローですよね?

 仕方ない、ルビカンテさんの説得方法はあとで考えよう。
 今はとりあえず三人と今後の予定を相談することにした。

 ゴルベーザさんを呼び戻すにはゼムスの脅威を取り除くことが先決だ。
 ゼムス討伐。これはゲームをシナリオ通りに進めていれば主人公が勝手に果たしてくれる。
 けれどその主人公に四天王が殺されてしまうのを防がなくてはならない。

「先手を打ってその主人公ってやつを殺しちまうのはどうなんだよ」
 そこで「主人公を味方につけよう」とならない辺りが魔物だなあ、と思う。
 心なしか期待に満ちた視線を向けてくるカイナッツォさんに、お気の毒ですがと首を振る。
「私はシナリオを熟知してるわけじゃないので、主人公が動いてくれないとエンディングに辿り着けない可能性が高いです」
 実際、いくつかのクリスタルは主人公が手に入れたものを奪う形になるはずだ。

 正直に言って私が覚えてるのはおおまかな設定くらい。どのクリスタルがどこで手に入るのかさえ分からない。
 しかもゴルベーザは確か、ラストダンジョンでゼムスに挑んで負けている。主人公がいなければゼムスを倒せないのだ。
 敵の敵は味方……と言えれば楽なのだけれど。

「カイナッツォさんは、どこかの国に潜入してるんですよね?」
「おぉ。人間のふりにも慣れたんでなァ、やっとあの胸糞悪いバロン王とかいう野郎を殺してやったぜ」
 やっぱり。国の名前を聞いてもピンとこなかったけれど、後々入手する召喚獣オーディンが格好よかったのは覚えている。
「このゲームの主人公はバロンの暗黒騎士、セシルです」
「……冗談だろ?」
「あと彼、ゴルベーザさんの実弟です」
「……」
 私の言葉を聞いて三人とも神妙な顔になり、空気がどんよりしてしまった。

 王様を殺す前ならセシルと協力することもできたかもしれないけれど、今から関係を修復するのは難しい。手を組むなんて更に無理だ。
 でもあまり恨まれるとゴルベーザさんが戻ってきた時に可哀想なので、これからは人間を殺しすぎないように気をつけなくては。
 すでにゴルベーザの悪行は始まっている。
 あとは主人公と敵対しすぎず、なおかつ彼らがクリスタルを集め、ゼムスに辿り着けるように導くのだ。

 スカルミリョーネさんがふと口を開く。
「我々はどこで死ぬんだ?」
 そう、四天王には大まかなシナリオの流れを知っておいてもらいたい。
「最初はスカルミリョーネさんです。セシルが聖騎士にクラスチェンジするためにどこかのダンジョン……山だったかな、そこへ向かった時に襲撃して、返り討ちに遭って殺されます」
 目の前にいる相手の死を予言者のように語るのは気分が悪いな。

 すかさず口を挟んできたのはさっきまで硬直していたカイナッツォさんだ。
 上司の弟と確執ができていたという衝撃からはもう立ち直ったらしい。
「お前、アンデッドのくせに暗黒騎士に返り討ちに遭ったのかよ。さすがだなァ、ええ?」
「この不愉快な馬鹿はいつ死ぬんだ?」
 ローブの下からギラリと覗く金色の瞳に憤怒が溢れていた。

「え、えっと、次がカイナッツォさんです。聖騎士になったセシルがバロンに戻った時、別のモンスターとの戦闘後、カイナッツォさんも殺されます」
 それを聞いてスカルミリョーネさんの機嫌が一気に持ち直した。反対に、カイナッツォさんから凄まじく冷たい殺気が放たれる。
「己の領域で迎え撃っておきながら敗れたのか。それも連戦で疲弊した相手に?」
「……」
「……」
 この二人、すごく仲が悪い。

 怪獣大戦争が勃発しそうな傍ら、慣れっこなのか我関せずの態度でバルバリシアさんが何やら思案に耽っている。
「聖騎士、ね……パラディンとかいったかしら? それならルビカンテが詳しいことを知っているわよ。あいつなら戦闘になる場所も分かるでしょう」
「じゃあ後で確認してみます」

 セシルがパラディンに転職するのは阻止する必要もない。ただ、場所が分かっていれば逃げるのも容易になる。
 でもルビカンテさんが教えてくれるかが問題だ。
 記憶が正しければ彼は、戦闘前に主人公たちを全回復してくれる奇特な敵キャラ。正々堂々を重んじるのは美徳だけれど、魔物としてはどうなんだろう。
 全力の戦闘を望む彼にとってやはり逃走は最大の屈辱なのか……。

 もしかしたら私の難敵はセシルでもゼムスでもなくルビカンテさんなのでは。
 なんて血迷い始めた私の肩をつつき、バルバリシアさんが「私の戦闘場所はどこなの?」と聞いてきた。
 なぜそんな嬉しそうに。
 魔物は基本的に戦いが好きなのかもしれない。

「えー、バルバリシアさんは塔で……、そう、この塔だったと思う。あれ? でもルビカンテさんとの戦いも塔だったかな。でもあれは違う世界での……いや、違う世界が出てくるのはこのゲームじゃないかも」
 中盤以降になると味方キャラが死んだり死んでなかったりでストーリーをはっきり覚えていない。

 そうだ、途中でゴルベーザがヒロインを誘拐するんだ。
 クリスタルと引き換えだとか言って、塔に囚われたヒロインを助け出したセシルたちが脱出しようとするのを阻むためにバルバリシアさんが襲ってくる……。
 え、でもどうしてセシルはこの塔に入って来られたんだろう?
 ゴルベーザが自分から招き入れた気がするんだけれど……。
 どうしよう、細かいところを全然思い出せない。

 頭の中がぐるぐるし始めた私を見つめ、三人は揃ってため息を吐いた。
「なるほど。その様子じゃあ確かにセシルを殺すのは不味そうだ」
「シナリオ通りにクリスタルを手に入れたくば、な」
「後手に回るふりをして、奴らに月への道を切り開かせるのが良さそうね」
「……すみません」

 ここに従姉がいれば台詞まで諳じられるくらいゲームをやり込んでいるのに。
 先んじてクリスタルを集め、セシルにすべてを打ち明けて、何の犠牲もなくゼムスを倒すことさえできたかもしれないのに。
 ゴルベーザさん、なんで私だったんですか……。あまりうまくやる自信がありません。


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